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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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【ジャンガリアンハムスター篇②】

何の脈絡もなく、そして何の知識もないまま、管理人とジャンガリアンハムスター(♂)の共同生活はスタートした。
「まず…名前だな」

ケージを組み立てて、トレイの上にフリーペーパーとおが屑を敷き詰めた後で、まず思いついたことというのが名付けだった。これが意外に難しい。ショップのお兄ちゃんにぶっちゃけられてしまったが、ハムスターと称しているが相手はネズミなのだ。名前を呼んでも愛想を振り撒いてくるとは思えないし、第一、馬鹿にするわけではないが名前自体覚えそうにない。だが、名前無しで通すというのもちょっと不便だ。しかも他人に何を飼っているのか、まるわかりじゃないか。ここはやはり何かあった方がいい。

「何がいいかなあ…」

頭をひとなでして腕を組む。

犬にポチ、猫にタマ、といった安直な名前もいまひとつ芸がないし、かといって瀟洒な名前をつけるのも違和感が先立ってしまう。数あるネズミの中で抜群の知名度を誇るのはネズミーランドの例のなんとかマウスだが、マウス関係は色々まずい。

ならばジャンガリアンにちなんでジャイケル、あるいはジャイアソというのはどうだろう。いや、だめだ。どちらも版権元がうるさそうだ。では完全オリジナルならどうだろう。「夜闇の帝王」「絶対氷界の使者」など思いっきり中二臭くするのも手だが、これでは名前を付ける意味がない。連れて行く機会はないと思うが、万が一に骨折などして動物病院に連れて行かなければならなくなった時に公衆の面前で名前を呼ばれるとこっちが公開処刑されてしまう(ハムスターの骨折は稀にあるケースだそうだ)。

「うむむむ…」

なるほど。名付けに凝って(やや偏った)趣向凝らすことでDQNネームが出来上がるわけだが、何となくそんなスパイラルに飲み込まれつつある。しかし、特別な名前を考えようとする気持ちも何となく分からないこともない。

がさがさゴソゴソとさっきからハム○郎の箱の中から催促するように音が聞こえてくる。しゃべるわけではないが、いい加減にしろよ、と言われているような気がした。

窓を全開にして扇風機と換気扇を回しているが築20年を超えるややくたびれたコーポの中は蒸し風呂状態だ。いつまでも暑苦しい箱の中にいれておくわけには行かない。名前をどうするか悩むのはこちらの勝手な都合であって、当のハムスターには名前があろうとなかろうと不都合はないのだから、狭い箱の中でいつまでも待たされたのではたまったものではあるまい。

人間でもそうだが、名前を付けられる当人の置き去り感は異常だ。

「じゃ、じゃあ今日からハム夫ということで」

実に安直だがともかくあっさりと相棒の名前が決定する。達成感はこれっぽっちもないが、根拠もなく安心だ。それではさっそく引っ越し作業に移るとしよう。既に日は暮れて夕食時に差し掛かっている。

管理人はおもむろにハム夫が入っているハム○郎の箱に手を伸ばした。あれだけ見事な寝入りっぷりを披露していたのだから、箱を開けるやいなや、いきなり飛び出して逃走を図るとも思えないのだが、自宅の中になんでも齧るハムスターを解き放つわけには行かない。

箱をケージの中に入れ、細心の注意でゆっくりと蓋を開ける。すると、「ギギギギギギ!!」

硬い石と石を擦り合わせたような音が箱の奥から突然発せられる。

「う、うわ!」

管理人は思わず驚いてハム夫がいる箱をおが屑の上に取り落としてしまった。な、なんなんだ、いったい今のは。辺りを見回しても何があるわけでもない。音は明らかにはこの中からしたのだから、ハム夫が発した音?いや声?と考えるのが妥当だ。

試しにもう一度恐る恐る手を箱に伸ばす。

「ギギギギギ!!」

さっきよりやや短かったが、やはり、同じ音が聞こえてくる。もしかして、

「い、威嚇?」

この時、管理人はげっ歯類が威嚇することを初めて知った。しかも愛くるしい見た目からは想像出来ない無骨な音だ。ネズミ系なら「チュー!」とかいうのかと思えばものすごく無機質だ。ちょっと扱いにくい。そして噛まれそうで怖い。

この後、何度となく箱の中からハム夫を取り出そうとしたが、そのたびに「ギギギ」と言われる始末だ。もう無理やり引っ張り出すメリットがまるでない。もしストレスで死んでしまったら非常に悲しいではないか。

しかたがない…

管理人は「ギギギ」と激しい抗議を受けつつも箱をとりあえずケージの隅の方に置いた。えさ入れに乾燥トウモロコシや穀物類、そしてひまわりやかぼちゃの種がミックスされている“ハムスターのえさ”を適当に盛り、水飲み器を設置して、正式名称がよく分からないハムスターコロコロをケージの中央にそっと置く。

これでしばらく放置することにした。

わくわくしながらちょっとケージから離れて出てくるかどうか見ていたが、ハム夫は一向に姿を現さない。まるで篭城しているようだ。篭城している相手には兵糧攻めがセオリーだが、逆にえさを盛り盛りにして釣り出そうという作戦だ。ネズミ捕りだって餌で釣るじゃない。結局、就寝時間までケージの周りを落ち着きなくウロウロしていた姿を見ることはついに出来なかった。

ハム夫の粘りにこっちがすっかり根負けしてしまった。

やれやれ…

部屋の電気を消してベッドに横になり、今日一日を振り返る。

それにしてもなんなんだろうか?この引き篭もりペットは。環境の変化は生き物には大きなストレスになる。人間だって引越しの後で体調を崩したりすることもあるのだから、まして圧倒的に体の小さいハムスターなら余計にデリケートなのかもしれない。

一緒に遊べることを期待して飼ったわけではないが、姿すら見せないというのはちょっとやるせないではないか。もしかしてずっとこのままなのだろうか。ペットショップのケージの中で仲間たちと一緒にいた時のようなフレンドリーさは微塵もない。今の状況から推測してとても手に乗るようになる姿が想像出来ない、いや、それどころか箱から出てくるのだろうか。相手は将来の“大物”だ。このまま箱の中の警備員として定着してしまう可能性もある。

じゃあ、なんで俺はこんなに苦労してまでこいつを飼わにゃならんの?

まあハムスターから飼ってくれと頼まれたわけではなく、全て人間の勝手な都合なのだがどこか腑に落ちない。そんなことを自問自答していると、

ガラガラガラ…

なにやらキッチンの方から聞きなれない音が聞こえてくる。

驚いて飛び起きてキッチンに向うと、なんとあれほど箱の中から出ることを頑なに拒んでいたハム夫が例のコロコロの中で元気に回っているではないか。さらに山盛りにしていたえさはもうほとんどなくなっている。

なんて可愛いんだろう。

そうだ、これだ。色々苦労はあるけれど、一瞬だけであっても愛くるしい元気な姿を見れば癒される。多分、そんな僅かなひと時のために人はペットを飼うのだろう。餌を補充しながらどこかホッとする。さて、もう寝るか。明日も仕事だ。再び電気を消して床に付く。

ガラガラガラ…

「・・・」

ガラガラガラガラガラ…

ハムスターコロコロの音は夜更けと共に鳴り止むどころか一層激しくなっていく。

ガラガラガラガラガラガラガラガラ…

「おい…」

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ…

「もうええっちゅうねん!!」

その日、管理人はハムスターが夜行性だということを学んだ。ちなみにハムスターコロコロは三日後の夜にあえなく撤去されることになる(※ 家を留守にする日中には戻して夜だけ除去するという運用)。

翌朝、ハム夫はまだカラカラと元気よく回っていた。もちろん、ずっとコロコロの中にいるわけではなく、時々、ケージを齧ったり、おが屑を敷き詰めたトレイの片隅を掘り返したりするのだが、ふらっとコロコロに入るとまた一心不乱に回り始めるという塩梅だ。その行動パターンに規則性は見られない。特に意味はないのだろう。

ハムスターってやつは本当にフリーダムだ。いや、フリーダム過ぎるだろ。こいつはきっと自分が人間の世話になっている自覚なんてないに違いない。寝たい時に寝て、食べたい時に食べ、そして回りたい時に回っているだけなのだ。

飼い主など点景の一つでしかないらしい。

お互いに干渉し合わず、但し、共存していく。そういうスタイルもなんとなく悪くはないのかもしれない。ふと気が付くと昨日の夜、餌を補充したにも関わらず、えさ入れの中はもうからっぽになっていた。

「おまえ…どんだけ大食なんだよ…」

首を傾げつつも餌を補充し、仕事場に向おうとしたが、ふと足を止める。残暑のきつい室内にハム夫を置き去りにして死なれても困る。ペットショップとは違ってここには常時、人の目がない。しかし、さすがに窓を開けたまま留守にするのも物騒極まりない。

しぶしぶエアコンのリモコンに手を伸ばす。設定温度を28度から30度にしたのはせめてもの節電だ。やっぱり苦労は何かと耐えない。

その日は残業があったものの、それほど遅くない時間に帰宅できた。ハム夫はすでに回り始めていた。トレーニングに余念がない。気になってひょいっとケージを除くとやはりえさ入れは空っぽだった。再び首を傾げつつ餌を補充する。するとハム夫がえさ入れに近付いてくるではないか。

おお!おまえ餌の音を覚えたのか!賢いじゃないか!えさ入れの中に入るとまるでリスのように起用にひまわりの種の殻を割って中身を食べる。それを黙々と繰り返している。それにしてもちょっと異常な食欲だ。とても小さな体からは想像出来ない大食漢ぶりである。

「ん?」

よく見るとハム夫の顔がぷっくり膨らんでいるではないか。はっとしてハム夫が根城にしている箱に手を伸ばした。餌に気を取られているからギギギと言われることもない。中を覗いた管理人は愕然とさせられる。

「ハム夫…おまえってやつは…」

中は種やコーンの類で既にパンパンになっていた。ここで管理人はげっし類には頬袋があること、そして自分の巣に食料を貯蔵する習性があることを知った。もうこいつは当分の間、餌なしでいい。
 


その後、ハム夫と管理人との共存関係は順調に推移した。やはりペットは衝動的に飼うべきでなく、また、知識をしっかり持った上で飼うべきだ。習性を理解すれば慌てることもなくなる。苦労は自分の努力で幾らか軽減できるのだから。

しかし、最後に管理人はハムスターについてもう一つのことを学ばなければならなかった。飼い始めて二年目の夏、朝起きてケージに近付くとハム夫はえさ入れの中でじっと動かなくなっていた。

「え?」

嫌な予感が頭をよぎったがそれを信じたくはない。

恐る恐るハム夫の背中をなでる。期待したギギギという声はなかった。手が震えた。震える手でゆっくりと動かないハム夫の身体を持ち上げ、そして掌に乗せた。初めて、本当に初めてハム夫を掌に乗せることが出来た。夏なのにハム夫はひんやりと冷たかった。

餌を頬張っている時に息が切れたのだろうか。ひまわりの種が口の中に残っていた。

管理人はまだまだ無知だった。ハムスターの一生はあまりにも短命で、そして、そのお別れは涙が出るほど辛いということをこの時、知ったのである。
 



ハム夫以外のハムスターを管理人が飼うことはもうないだろう。

おわり
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