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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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番外編 ドイツ新生活補完計画 (Part-3)

不動産屋との接触試験に失敗したゲンドウは
憤懣やるかたない状態でホテル宿泊に方針を切り替える

しかし、滞在費をケチるゲンドウは・・・


 The Beatles - Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band

(本文)


い、いかん…目が…目が霞んできた…死ぬ…マジでこのままだと死ぬ…
 
「あのう、ミスター碇」
 
「何だ…私はもう活動限界だぞ…どうでもいいから…早くホテルに向かえ…」
 
何と言うことだ…金、土、日とホテル暮らしを余儀なくされるとは…トホホ…いや!こんな情けない姿を冬月や赤木に見られていないだけまだマシとすべきだろう…とにかく!この事は最高機密にしなければならん…この秘密を守るためなら手段を選ばんぞ…俺は…
 
ゲンドウは横目で携帯を握り締めているイェーゲンの顔を窺う。イェーゲンは眉間に皺を寄せて携帯画面を眺めている。どうやら携帯サイトで空き部屋を調べている様だった。
 
このボケナスめ…何を難しい顔しておるのだ…そのうちギャフンと言わせてやるぞ…
 
「あのう…因みに宿泊のご予算は一泊500€(約6万円)くらいでしょうか?」
 
「ギャフン!!」
 
ゲンドウは助手席から思わず滑り落ちた。外れたサングラスを慌てて直す。
 
「ご…500€だと!?貴様!俺は大臣か!!何でそんなに高いんだ!!ビジネスホテルみたいなものは無いのか?」
 
「ビ、ビジネスホテル…それは一体どんなグレードのホテルですか?カイザーウィルヘルムホテルのスーペリアくらいですか?」
 
イェーゲンは困惑した表情を浮かべている。
 
す、スーペリアだとぉ!?こ、こいつ…ビジネスホテルも知らんと言うのか…俺は確信したぞ…このガキ…絶対、俺をからかっているに違いない…もう勘弁ならん…殺す…殺してやる!
 
「貴様はこの私をおちょくっとるのか!!リーズナブルなホテルに決まっとるだろうが!!何がカイザーウィルヘルムだ!!ベルリンで一番高いじゃないか!!」
 
ゲンドウの理性も同時に活動限界を迎えていた。イェーゲンの首をいきなり絞め始める。小さいローバーミニは左右に激しく揺れ始めた。
 
「う、うわ!!ま、待って下さい!基本的にEUではホテルはグレードで格付けされているんです。ドイツでは星による格付けはあまり主流ではありませんが一応、1つ星から5つ星までで分類されているんです…」
 
「だから何なんだそれは!!ミシュランの料理ガイドじゃあるまいし!星3つだの5つだのと言われたところでさっぱり分からんわ!!ゲヒルンに伝(つて)はないのか?!バカモノ!!」
 
「い、一応…世間を憚っておりますので…コーポレート契約の様なものはありません…職員宿舎の様なものならありますが…」
 
「それ見ろ!貴様!もったいぶりおって!!ちゃんと心当たりがあるではないか!!一刻も早くそこに向かえ!!」
 
「し、しかし…」
 
「しかし、何だ!!!いい加減にしろ!!俺は眠いんだ!!」
 
ゲンドウの目は血走っていた。
 
「しかし…ミスター碇はゲヒルンの本部の理事長ではないですか?」
 
「それがどうした!理事長も国連事務総長も無いわ!たわけ!睡眠不足は人類史上最も忌むべき存在なのだ!」
 
ゲンドウは更に手に力を込める。イェーゲンは目を白黒させながら必死に抵抗している。
 
「お願いです!ミスター碇!冷静になって下さい!ゲヒルンのトップを職員宿舎に連れて行ったとなると…僕…怒られてしまいます…」
 
「く…き、貴様!!今まで私から怒られていないと思っていたのか!?何てめでたい脳神経をしとるんだ!!いいだろう!聞いてやる!貴様は誰に怒られるというんだ!?」
 
「ツェッペリン技術主幹です…普段は優しいんですが…怒ると物凄く怖いもんで…」
 
ゲンドウはイェーゲンの首を絞めていた手の力を緩める。
 
「ツェッ…もしかして…キョウコ・ツェッペリンのことか?貴様…嘘を付くならもう少しマトモな嘘を付け!ツェッペリンは女ではないか!怒ると俺より怖いと言うのか!」
 
「はい。数倍怖いです」
 
「…」
 
イェーゲンはきっぱりと答えた。
 
一体…どういう女なんだ…主幹ということはヘルムート(技術部長)の部下という事か…見事なレポートをいつも書くから以前から注目してはおったが…どうせ…西洋人特有のごついヤツだろう…
 
「分かった…もういい…」
 
ゲンドウはイェーゲンの首から手を離すと顎に手を当てて思案し始めた。
 
ゲヒルンとして資金面は全く心配ないが…だからと言ってこんな下らない事に一円だって使いたくない…それ位なら少しでも実験費用に充てたい…Evaの開発費用は幾らあっても足らんのだ!!
 
ゲンドウはイェーゲンをジロッと見る。
 
「職員宿舎がダメだというならもっとも安く上がる方法をリコメンドしろ!言っておくが一泊50€以内だ!それ以上はびた一文出さんぞ!」
 
「ええ!?そんな…それじゃペンションかホステルになってしまいますよ…ミスター碇?」
 
「うるさい!つべこべ言うな!俺は無駄と言う言葉が一番嫌いなのだ!分かったらとっとと向かえ!俺は寝るぞ!本気で寝てやるからな!目が覚めた時に目の前にホテルがなかったら貴様を膾(なます)にして バルチック海 に投げ込むぞ!」
 
ゲンドウは腕を組むとイェーゲンにプイッと背中を向けた。まるで駄々っ子の様な仕草だった。ゲンドウの姿を唖然とイェーゲンが見詰めている。
 
ドイツ人も大概ケチで有名だけど…な、なんてケチなんだ…本当にゲヒルンのトップなのかな…でも…今度のボスはユーモア溢れるいい人でよかったな…
 
イェーゲンは口元に僅かに笑みを浮かべると知り合いの家族が経営するペンションにダイヤルしていた。
 
 
 
 
 
ねえ…どうしてそんなにナイーブになってるのよ…
 
だって…この国はふざけてるよ…5時に事務所が閉まるなんておかしすぎる…悔しいじゃないか…一分…一秒だって俺は無駄にしたくないのに…
 
ふふふ…あなたって本当に…かわいいのね…まるで子供みたい…
 
一刻も早く…俺は会いたいんだ…それを邪魔するヤツは誰であろうと…許さん…
 
許してあげて…いつまでもふくれていないで…
 
ま、待て…待ってくれ…ユ…
 
 
 
「さあ!ミスター碇。到着しましたよ!ここです!」
 
ゲンドウが目を覚ますとすぐ近くにイェーゲンの顔があった。
 
「う、うわー!!き、貴様!顔が近すぎるわ!!気持ち悪い!ん?つ、着いたのか…?」
 
「はい。僕の知り合いの家族が経営するペンションです」
 
「ぺ、ペンション!?」
 
ゲンドウが慌てて車の外に出ると郊外の一軒家という佇まいの大きな家が建っていた。日本のペンションとは異なり住宅街の一角にある。家の前の通りは車の交通量も多かった。
 
「ミスター碇。紹介します。こちらがペンションのオーナーのウォルフガング・シュルツさんです。私の幼馴染の父なんですよ。僕は実家通いですぐ近くなんです。月曜日の朝7時にここまで迎えに来ますので」
 
「そ、そうか…ご苦労だったな…イェーゲン…」
 
「Hallo, Herr Ikari」
 
「あ、ああ…どうも初めまして碇ゲンドウです。2泊ほどお世話になります」
 
「Wie geht es Ihnen? (How are you?の意)」
 
「えっ…今、なんと???」
 
「ああ、ミスター碇。ここでは英語は全く通じませんけどまあ2泊ですし、何とかなると思いますよ。あっそうだ!何か問題があったら私の携帯に連絡して下さい。歩いても5分ですから」
 
「え、英語が…通じないのか!?」
 
「はい。グレードの高いホテルなら別ですがペンションやホステルでは通じないところの方が多いですよ。でも安いですからご安心下さい」
 
イェーゲンとウォルフィー・シュルツは屈託の無い笑顔を浮かべてゲンドウを見ている。
 
「英語が通じないなんて…じゃあ…どうやってコミュニケーション取ればいいんだ…これは夢なのか…夢なら早く覚めて欲しい…」
 
ゲンドウは力なくその場にへたり込んでいた。
 
 
 
【教訓その3】
西洋で英語が万能の言語と考えるのは大きな間違いである。往々にして市民生活においては通じない事の方が多い。学問に王道なしと戒めるべし。
 
 
 
 

番外編 ドイツ新生活補完計画 (Part-3) 完 / つづく




(改定履歴)
13th Mar, 2009 / ハイパーリンクの追加
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