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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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番外編 ドイツ新生活補完計画 (Part-5)

日曜日。ベリルンの住宅街はひっそりと静まり返っていた…
朝食を求めてゲンドウはあても無く彷徨っていると
広場に移動式の遊園地が設置されていた。
そこでゲンドウは…


Merry Go Round

(本文)

翌、日曜日。 

ゲンドウは部屋の内側に鍵をかけた後、ベッドの近くに置いてある洋服ダンスでドアを塞いだ。
 
「ふふふ。これであのガキも入ってこれまい・・・」
 
そう意気込んでいたが…日曜日に朝食が運ばれる気配はまるでなかった。ペンション自体がまるで無人の家の様に静かだった。
 
ゲンドウは洋服ダンスをおずおずと元の位置に戻すとペンションから外に出た。朝の8時を回っていたが住宅街はひっそりと静まり返っている。時折、パウダーの様な非常に肌理(きめ)の細かい雪が文字通り風に舞っていた。
 
「…いまいち…この国のペースが掴めん…」
 
ドイツは比較的日本人とメンタリティーが似ているとよく言われるがゲンドウの目からは全く日本人とは異質なものに写っていた。
 
これで日本に近いというなら…イタリア人やフランス人などのラテン系はどうなるんだ…
 
ゲンドウは思わず身震いしていた。
 
 
 
 
 
ゲンドウは空腹に耐えていた。ペンションの近くの商店が軒を並べる通りを歩くが店という店は固く戸締りがされていた。
 
「コンビニはおろか…全て閉まっているじゃないか…ファーストフードの店はないのか…」
 
風が止むとまるで火山灰の様に雪がはらはらと落ちてくる。住宅地の前やアパルトメントの前の歩道は綺麗に除雪されて一箇所にまとめられていた。その上を塩が混ぜられた砂がかけられている。恐らく融雪と滑り止めをかねたものだろう。
 
ゲンドウが10分ほど歩くと石畳の広い広場に出る。そこには小さな移動式の遊園地が設置されていて多くの家族連れで賑わっていた。規模としては決して大きくなくメリーゴーランドなどは直径にして5メートルあるかどうかだった。
 
小雪がちらつく中だったがクリスマスマーケットと併設されることも珍しくない小さな移動式遊園地は子供たちの歓声で溢れていた。
 
小さなキャンピングカーの様な屋台がメリーゴーランドを取り囲む様に置かれている。Zuckerwatte(独 / 綿飴)と書かれた屋台に突き出た丸い腹をした優しそうな老人が子供たちにせがまれて綿飴を作っていた。
 
「綿飴しかないのか…とにかくここで何か腹の足しに成るものを探そう…ん?あのガキは…」
 
ふと見るとゲンドウの正面にある綿飴の屋台の前にペンションでゲンドウから2ユーロをせしめた少女とその弟らしい小さな男の子、そして長い亜麻色の髪をした少女の3人が綿飴を受け取っているところだった。
 
「あのガキ…私の2ユーロで…」
 
綿飴を受け取った3人がメリーゴーランドの方に向かっていく。その後についてゲンドウも歩いていく。するとゲンドウの存在に気が付いたペンションの少女はにこっと笑うとゲンドウの方に走りよってきた。
 
「く、き、貴様!今度は小遣いをせびりに来たのか!」
 
少女はゲンドウのコートの袖を掴むと屈託無い笑みを浮かべてゲンドウに向かって何事かをしきりに話している。
 
「な、何といっとるんだ…お前…」
 
そのうち少女と一緒にいた小さい男の子と亜麻色の髪の少女もゲンドウの近くに現れた。男の子は5歳くらいだろうか、ペンションの少女と同じハニーブラウンの髪をしていて顔つきも何処となく少女そっくりだった。
 
「援軍を呼ぶとは…まるで軍隊アリだな…」
 
ゲンドウはやや警戒混じりにじりじりと後退する。
 
「あの…おじさま…?」
 
ゲンドウは英語で話しかけられて驚いた。亜麻色の髪をした少女がゲンドウを見ていた。頭に大きな赤いリボンでツインテールを作っている。サファイアの様な深い青色の円らな大きな瞳をしており年恰好はペンションの少女とほぼ同じ様に見えた。
 
「お、お前…英語が話せるのか…?ドイツで英語は早くても小学校の高学年からだろう…」
 
「サビーネの家に泊まっているお客さんなんでしょ?サビーネがチップを弾んでくれてありがとうって言っています」
 
「さ、サビーネ…そ、そうか…この子の名前はサビーネというのか…」
 
ゲンドウの腕を掴んで広場の方に引っ張り込もうとしているサビーネを思わず見た。
 
「はい…それからこちらはサビーネの弟のセバスティアンよ」
 
「そ、そうか…それにしても…」
 
見事なクィーンズイングリッシュ(イギリス英語)ではないか…こんな小さい子が…もしかしてイギリス人か…い、いや…しっかりこいつのドイツ語を認識しているし…
 
ゲンドウの英語は厳密には米語だったためキングス/クィーンズイングリッシュにはかなりのコンプレックスがあった。ドイツでは基本的にイギリス英語を習う。米語中心の日本の教育システムから見れば羨ましい環境だった。
 
そのうちサビーネとセバスティアンがそれぞれゲンドウの手を引いてメリーゴーランドの方に誘っていく。
 
「こ、こら!お前ら!何処に行くんだ!」
 
「おじさまは朝食まだなんでしょ?」
 
「え!な、何で知ってるんだ?」
 
「サビーネが一緒にそこのベンチで綿飴を食べましょうって言ってるわ。私たちの綿飴は元々はおじ様のチップですもの。一緒に食べる権利があるわ」
 
「け、権利…」
 
やっぱり理屈っぽい感じはドイツ人っぽいな…しかし…この娘…
 
サビーネとセバスティアンがゲンドウをベンチに座らせると手でいきなりちぎった綿飴をゲンドウに突き出した。
 
「お…お前ら…ちゃんと手は洗ったんだろうな…」
 
ゲンドウはおずおずと綿飴を小さい手から受け取ると四人で並んで綿飴を食べ始めた。ゲンドウが綿飴をちぎって食べているとサビーネは足をばたつかせて笑い始めた。それをみたセバスティアンもつられて笑い始める。
 
「サビーネがお味はどうですかって聞いてるわ」
 
「甘いぞ…」
 
亜麻色の髪をした少女がサビーネとセバスティアンに通訳するとまた二人は笑い始めた。

「全く…子供の癖に…余計な気遣いばかりしおって…」

雪のちらつく中を綿飴を食うとはな…シンジももう6つか…夏祭り以来だな…登校拒否児童で偏食児童…問題児を絵に書いた様なヤツだが…ちゃんと三鷹で学校に行っているだろうか…すぐ逃げ出す根性なしだからな…

チラッとゲンドウの両脇に座って思い思いに綿飴を食べている子供たちを見る。

こいつらの様に少しは積極的になればいいがな…俺の近くにいても傷つくだけだ…これで…よかったんだ…全て…計画通りだ…

ぐうううう

ゲンドウは腹を押さえる。そして目を細めて灰色の空を眺めていた。



 
「ねえ、おじ様は中国から来たの?」
 
ゲンドウの隣に座っている亜麻色の髪をした少女が話しかけてきた。

「いや、残念ながら日本だ」
 
「ほんと?アタシも日本語は上手くないけど少しなら話せるわ。アタシのママは日本人とドイツ人のハーフなの」
 
「な、なに!お前は日本語も話せるのか…?」

ゲンドウは思わず少女の顔を見た。
 
「うん。まだママから習っている途中だけど…」
 
「そうか…そういえば何処となくそんな感じもしないではないな…」
 
サビーネが何事かを亜麻色の少女に話しかけている。サビーネは少女の事をエリーザと呼んでいた。
 
「お前の名前はエリーザというのか?」
 
「はい。正しくはエリザベート(Elisabeth)よ。だから省略するとエリーザ。でも日本人を親に持つ子はドイツの名前とは別に日本語の名前ももらうのよ」
 
「ほう、そうなのか…」
 
「でも普段は余り使わないの」
 
「何故だ?」
 
「だってドイツ人には発音が難しい場合が多いし、それに馴染みも無いから覚えてもらえ難いし…実生活では不便なことが多いの。日本に住むなら別だけど」
 
ニコッとエリーザはゲンドウに微笑む。

「そうか…ま、まあ…そうかもしれんな…」
 
話せば話すほどコイツは只者じゃない・・・とても小学校の低学年とは思えない受け応えだ…
 
エリーザは綿飴を食べ終わってメリーゴーランドに乗る子供たちを羨ましそうに眺めているサビーネとセバスティアンの方に向かって歩いていく。
 
ゲンドウもエリーザの後に何となく着いて行く。
 
「どうしたんだ…ケンカでもしたのか…?セバスティアンが泣くためにエネルギーを充填中だぞ…」
 
「あのね…アタシ達はお金が無いし親にも無理は言えないからってサビーネがメリーゴーランドに乗りたいって言うセバスティアンを叱っているの」
 
ゲンドウがチラッとメリーゴーランドの看板を見ると一回2ユーロと書かれていた。
 
「お前たちは…2ユーロの小遣いも無いのか?」
 
「はい。ドイツで小さい子はお小遣いをもらえない子の方が多いわ。親もぎりぎりの生活をしているから…」
 
日本だったら小学生でもかなり贅沢をしているというのに…綿飴も親の手伝いをして稼いだ金を遣っているじゃないか…しかもそれを三人で分けるとは…
 
ゲンドウはすたすたとメリーゴーランドを操作する中年の男の前に行くと財布から10ユーロ札を取り出して渡す。
 
「おい。お前たち三人も次はこれに乗るんだ」
 
「ええ!でも…」
 
「いいから乗れ!いやなら帰れ!」
 
エリーザがサビーネとセバスティアンに事情をドイツ語で説明する。すると歓声を上げてサビーネとセバスティアンがゲンドウに飛びついてきた。思わずゲンドウはふらつく。
 
「こ、こら!貴様ら!誰が俺に乗れと言った!お前らがシンクロするのはこっちの方だ!いいか!計画通りに!指示した通りに計画を進めるんだ!」
 
「おじさま、ありがとう」
 
「ふ、ふん!勘違いするな!朝食の礼だ…」
 
メリーゴーランドがやがてゲンドウたちの前で止まる。乗っていた子供たちが黄色い声を上げながら降りていく。メリーゴーランドを操作している男に抱えられてセバスティアンは黒い馬に乗せられる。
 
続いてエリーザが白い馬に乗る。長いスカートを穿いているため横乗りになる。サビーネはゲンドウの手を離さない。
 
「お、おい!お前何をしているんだ。お前も早くこの三号機に乗るんだ」
 
「おじ様、サビーネがおじ様にも乗れって言っているわ」
 
「な、何だと!俺もこれに乗るのか!?」
 
セバスティアンとサビーネが何事かをしきりに言っている。
 
「わかった!わかった!もういい!俺も乗るからお前も言われた通りに早く乗れ」
 
ゲンドウはサビーネを荒々しく抱えると近くにあった葦毛に乗せる。そしてゲンドウが乗ろうとして振り向くと馬は人気らしく既に子供で満席だった。
 
それを口実にメリーゴーランドから離れようとしたゲンドウだったが手回しよくエリーザが係員にドイツ語で話しかける。係員がゲンドウの肩に手を乗せてかぼちゃの馬車を指差した。
 
「お、おい…貴様…まさか…俺にこれに乗れと…」
 
余計な事をしおって!さ、最悪ではないか!

大人でメリーゴーランドに乗っているのはゲンドウだけだった。ゆっくりと回り始めた。子供たちの親がメリーゴーラウンドをぐるっと取り囲むようにして列を作っている。
 
「どうして俺までこれに乗っているんだ…ほとんど晒し者ではないか…こんな姿…ゲヒルンの連中に見せられん…」
 
回転半径が短いため体感スピードは意外に速く感じられる。ゲンドウは俯き加減だったがチラッと見るとメリーゴーランドを遠巻きに見ている大人たちの列の中に見た事のある長身の男の顔を発見して顔面蒼白になる。
 
い、イェーゲン!!やはり貴様はバルティック海に沈む運命らしいな…
 
運命の輪は加速していく。
 
 
 
 
【教訓その5】
ヨーロッパの庶民の暮らしは実に慎ましい。日本と同じ様な経済感覚でいると無駄に浪費しかねない。現地の金銭感覚を身に付けることが重要である。





番外偏 ドイツ新生活補完計画 (Part-5) 完 / つづく




(改定履歴)
4th Mar, 2009 / 誤字の修正。
24th Mar, 2009 / 年号修正。
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