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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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番外編 One of EOEs 緋色の渚 (Part-1)


話は遡る…
第12使徒「レリエル」にファーストアプローチをかけたシンジは
不運にも使徒内部に取り込まれてしまった。
ふとシンジが目を覚ますとサスペンド状態になったエントリープラグの中だった。
内部電源に切り替わりゆっくりとカウントダウンが進んでいた。
シンジは初めて明確な「死」を意識する。
息が詰まりそうな閉塞した空間で誰にもシンジの叫び声は届かない。
絶望的な状態の中でシンジは「もう一人の自分」と出会う…

 

※ これはEp#06においてカットされた話になります。Ep#07の現在の連載と話の繋がりが良さそうなので「番外編」としてUPする事にしました。
(本文)


シンジが目を覚ますとそこはエントリープラグの中だった。

「あれ?ここは?エントリープラグの中…」

そうだ…思い出した…僕はアスカとケンカして…僕がファーストアプローチをかけたんだ…そして使徒の中に吸い込まれてしまったんだ…じゃ、じゃあ…ここは使徒の中!

「そんな…冗談じゃないよ!どうやって出ればいいんだよ!誰か…誰か助けてよ!アスカ!綾波!ミサトさん!誰でもいいから助けてよ!」

しかし、シンジの悲痛な叫び声はどこにも届く様子はない。

「ちくしょう…ちくしょう…こんな…こんな事になるなんて…やだよ…やだよ…そんなのやだよ!」

シンジはサスペンド状態から初号機の起動を試みる。

途中まで起動シーケンスを進めてオペレーション画面がディスプレーされた時点でハッとする。外部電源が切れて内部電源に切り替わっていることを示すインジケータの表示を発見した。

駄目だ!活動限界まで1分もないじゃないか!

シンジは慌てて起動シーケンスを中断する。

エントリープラグの生命維持システムの時間を代わりに表示させると既に残り時間は1時間を切っていた。

そんな…あと1時間の間に救出されないと…僕は…僕は死んじゃうのか…

「そんなのやだよ!誰か!お願いだよ!動いてよ!ミサトさん!ミサトさん!ミサトさん!!」

シンジは操作レバーを何度も叩く。しかし、虚しくシンジの荒い呼吸の音しか聞こえてこない。

インジケーターは無情にも刻一刻と時を刻んでいた。

「こんなのって…こんなのってないよ…あんまりだよ…折角…見つかったと思ったのに…頑張れば…みんなから必要とされると思ったのに…僕は一体…何のために…」

シンジは生温いL.C.L.の中で慟哭し始めた。

「僕…死んじゃうのか…」

いやだ…死にたくない!死にたくないよ!

目を開ければ嫌でも生命維持システムの稼働時間が見えてしまう。カウントダウンは単に時間を示している訳ではない。自分の余命を刻んでいるも同然だった。

シンジは固く眼を閉じていた。

今までシンジは「死」というものをこれほど意識したことはなかった。使徒と戦い続けて実際に何度となく入院していた。怖いと思ったことも危険を感じたこともある。

だが、「死ぬ」とは不思議と思ったことはなかった。

残り時間…55分と32秒…

ゼロになった途端、息も出来なくなって窒息するわけではない。サッカーのロスタイムの様に多少の猶予はある。だが、そう考えたところで気休め程度にしかならなかった。

嫌だよ…嫌だよ…こわいよ…こわいよ…

シンジは体を縮める。じっと息を殺して静かに。
 




どれほどの時が流れたのか、分からなかった。

「ここは…」

シンジが目を覚ますとそこは漆黒の闇に包まれた静寂な世界だった。

僕は一体…どうなっちゃったんだろう…

物音ひとつ聞こえない世界。光すらない世界。とても現実のものとは思えなかった。

シンジはゆっくりと立ち上がる。エントリープラグも操縦席もない。

ただ闇だけだった。

わずかに自分のまわりだけを燐光の様な淡い光が覆っている。

「どうなってるんだろう…これは…夢…なのか…」

その時だった。

「…誰?誰かいるの?」

かすかに誰かの声が聞こえたような気がした。シンジは全身に鳥肌を立てる。
「誰かいるの?誰?」

返事はない。

「誰なんだよ!いい加減にしろよ!!」

シンジは思わず耳を抑えると激しく左右に首を振る。まるで取り憑かれたかの様にあたりを見回す。

するとシンジの正面に制服を着た自分自身が現れた。

「ぼ、僕…?」

向こう側のシンジは膝を抱えた状態で座っていた。朧月のように淡い光が周りを覆っている。

「う、嘘だろ…何なんだ…」

シンジは恐る恐る近づいて行く。もう一人のシンジはジッと自分の方を見つめているのがわかった。

「き、君は…誰…?」

自分自身に誰かと尋ねるのは滑稽に思えたが問い掛けずにはいられなかった。

「怖がることは無いよ…君…僕は碇シンジだ…」

「碇シンジって…そんなわけ…そんなわけないよ…碇シンジは僕だ…」

半分予期した答えだったが認める気にはならなかった。

向こう側のシンジが僅かに顔を持ち上げてうすら笑いを口元に浮かべるのが見えた。それを見たシンジは語気を強めてまた一歩近づいて行く。

「何が可笑しいんだよ!碇シンジは僕の方だ!お前は…お前は誰なんだ!」

「だから…もう一人の碇シンジだよ…」

「もう一人の…碇シンジ…?な、何を言って…」

「僕は君のもう一つの可能性なんだ…」

今度は遮る様に向こう側のシンジが答える。

「か、可能性?それは一体どういうこと…?」

「あまり深く考えない方がいいよ…考え過ぎると余計頭が混乱するだけだし…」

「…」

冷めた物言いにシンジは戸惑う。それを見てとったのか、向こう側のシンジがゆっくりと立ち上がるとシンジの顔を見る。
 
な、何なんだ…コイツ…
 
シンジは思わず後ずさりしていた。何かに絶望した様な冷め切った目をしているのが見える。
 
「僕は2016年3月27日からやって来たんだ…」
 
「え?に、2016年3月27日?」
 
向こう側のシンジが静かに頷く。

全く予想だにしない具体的な日付にシンジは驚愕する。縁も所縁もない、根拠のない数字だったため自分の中にある潜在意識が夢を通して向こう側のシンジに言わせているとは正直思えない。

何か神々しいものをシンジは感じていた。同時に恐怖が急に自分の中に広がっていく。

「そ、その日に一体…一体、何の意味があるっていうんだよ…じゃあ君は僕の五ヵ月後…ってこと?」

シンジはまともにむこう側のシンジを見る勇気がなかったが、何となく鋭い眼光を放っていて精悍な顔つきをしているようにも見えた。

とても半年後の自分がこんな状態になっているとは思えない。だが、一方で…

何か…とても悲しそうな…雰囲気がある…

シンジがちらっと視線を送ると向こう側のシンジと目が合う。慌てて逸らそうとしたが余りにも悲しい目をしているのが分かって躊躇した。

「君は…どうして…そんな悲しそうな目をしてるの?」

「僕は何もかも…失ってしまった…から…だと思う…」

「何もかも?」

向こう側のシンジは静かに頷く。

「僕はサードインパクトが起きた後の世界から来たんだ…」

「サ、サードインパクト!起きてしまうってこと…?嘘だ、そんなの…じゃあ…僕たち…いつか使徒にやられるってこと?誰か死んじゃうのかい?だから失ってしまったってこと?」

「いや…サードインパクトは使徒が起こしたんじゃない…人の手によって起こされたんだ…」

「ひ、人がサードインパクトを…そ、それじゃ…使徒じゃなくても起こせるってこと?」

「そうだよ…サードインパクトが起きて人類はみんな魂の故郷に還って行った…みんないなくなってしまったんだ…」

「誰も…いない世界…他人のいない世界…」

「気が付いたら僕と綾波しかいなかった…」

シンジはビックリして思わず向こう側のシンジの顔を見た。

「あ、綾波と…僕…?」

「その時…綾波が僕に教えてくれたんだ…これが…僕の望んだ世界だって…他人の存在で傷つかなくて済む…理想的な世界だって…自分の気持ちを裏切られて絶望しなくて済むし…見捨てられることもない…僕しかいない…理想的な世界…」

「僕しかいない…理想的な…世界…」

「一度はそれが出来た…でも…それは僕が本当に望んだ世界じゃなかったんだ…だから僕は再び他人と関わることを望んだ…そして…一つになっていた魂は再び夫々が前の状態に戻って行った…」

シンジが戸惑っていると向こう側のシンジが今度は一歩、また一歩と近づいて来るのが見えた。シンジは逆に後ずさる。

プラグスーツがひどく窮屈に感じられた。

「結局…どんなに自分の周りに壁を作って一人になろうとしたところで…そんな世界からは何も新しいものは生まれないんだ…ヒトには「希望」がある限り…自然に未来に向かって歩こうとする…だから自分の存在を見出すためには…自分の存在を維持するには…他人の存在を必要とするんだ…皮肉な事に…僕は一人になって…世界にただ一人の存在になって初めて…他人を必要としたんだ…」

「他人を…必要とする…自分自身の存在を維持するために…?そんな…そんなの…おかしいよ…何か矛盾してるよ…自分が存在するのに他人が必要なんて…面倒なだけじゃないか…みんな…自分勝手で…面倒を僕に押し付けてくるだけ…」

「いや…他人を介してでしか自分の姿を映し出すことが出来ないんだよ…ヒトは自己完結出来る単体の生命ではないんだ…楽しいことだけを繋いで生きては行けない様に…人間は誰も一人では生きられない…考えてみれば…僕はそのことを昔から知っていたはずなんだ…人から必要とされたいって…ずっと…心の何処かで思っていた…君だってそうだろ…」

シンジは一瞬、言葉に詰まった。

僕は…父さんに捨てられた…そして…僕に関わるとみんな僕に絶望する…そして僕を捨てて行く…僕が避けていても…今度は向こうから寄って来て…一方的に…面倒を僕に押し付けて…いつもいつも勝手で…我儘し放題…僕が居てもいいって思っていた場所も…勝手な都合で壊していく…結局、僕はいても仕方がない…だから…僕は自分が嫌いだ…

シンジはいつの間にか両手を握りしめていた。向こう側のシンジは1メートルと離れていない場所に立つとシンジを見る目を細める。

「そうやって…僕も自分を嫌い続けた…僕なんか消えてしまえばいい…死んでもいいと思った…自分が情けなくて…いつも逃げてばかりで…そして…遂にそれが…アスカを見殺しにすることになってしまった…」

「あ、アスカを見殺し?何だよ!それ!どういう事だよ!」

シンジは思わずもう一人の自分に駆け寄ると制服の腕を両手で掴む。今度は逆に制服のシンジが目を逸らす。その様子を見たシンジは激しく前後にゆする。

「どういう事だよ!見殺しって!何なんだよ!いつも一緒に闘ってきて…うっとしいほど人の事をバカにする!でも…見殺しになんて…」

「それが…事実なんだ…僕はそれをこの目で見て…何もかもが嫌になったんだ…それが…人が人の形を留められなくしたんだ…それでサードインパクトが起こった…」

「誤魔化すなよ!何言ってるんだよ!アスカはどうなったんだよ!綾波は?僕は?ミサトさんだって!何か言えよ!おい!」

「強く願うことで人はまた再びもとの姿を取り戻すことが出来た…世界は再び元に戻った…ミサトさんも…リツコさんも…みんな帰って来た…」

もう一人のシンジはいきなり顔を隠す。そしていきなり泣き始めた。シンジは驚いて腕を掴んでいた両手を離して飛びのいた。

「き、君…大丈夫?」

「で、でも…戻らない…どうしても戻ってこないものが…あったんだ…世界が戻っても彼女は帰ってこなかった…」

「世界は元に戻ったって…君が言い出したんじゃないか…何だよ?誰なんだよ、彼女って?元に戻らなかったってどういうこと?」

「アスカ…」

「えっ?あ、アスカが?ど、どうして?」

「なぜなら…新しい世界が出来た時に…最初に死んだから…」

「最初に…死んだ…?アスカが…?」

な、何の事だか…さっぱり分からない…

シンジは目の前の不可解な出来事に段々苛立ちを感じていた。

「アスカだけがいなかったんだ…僕が願った世界に…元に戻して欲しいって綾波に頼んだ世界に…戻ってこなかったんだ…」

「あ、綾波に頼んだ世界?それはどういうこと?よく分からないよ…君が言ってること…」
もう一人のシンジは涙を腕で拭うと再びシンジの方を見た。泣きはらした様に目は充血していた。

「世界が一度終わって僕が…元に戻して欲しいと願った時…一番初めにこの世に帰ってきたのは僕とアスカの二人だけだったんだ…」

「僕と…アスカ…二人だけ?」

シンジは怪訝な顔つきをした。

「その時…僕はアスカを殺そうとしたんだ…」

「ええっ!どうして?じゃあ…殺したのは君ってことじゃないか!何だよ!それで最初に死んだ人間ってさ!おかしいよ!君が殺したんじゃないか!」

「そうかもしれない…アスカの心を殺したのは碇シンジなんだ…君自身でもある…」

「違う!僕はアスカを殺したりなんかしない!確かに…ちょっと…ムカつくときもあるけど…でも!だからって殺そうなんて思わないよ!絶対に殺したりするもんか!」

「いや…このままだと君もいつかはアスカを殺すんだ…」

「そんなことするもんか!いい加減にしろよ!」

シンジは思わず制服のシンジの襟を掴んで右の拳を固めてにらみつけた。しかし、制服のシンジは抗うことなくじっとシンジを見返していた。

どこか冷めたような冷たい目をしていた。

「僕はアスカにひどいことをしたんだ…知らない間にたくさん傷つけていたんだ…挙句の果てに見殺しにした…だから…世界が元に戻っても…アスカは僕を許してくれないって…そう思ったんだ…アスカに拒まれるのが怖かったんだ…」

「だからアスカを殺そうとしたのか!」

制服のシンジは無言でうつむいた。

「初めはね…首を絞めた…この手で…」

「ふざけるなよ!」

バシッ!

まるでエコーのように辺りに殴りつけた音が反響する。

制服のシンジは闇の中でうつ伏せに倒れる。倒れたままで話し始めた。

「捨てられるかもしれないという恐怖…自分が嫌いで…他人も本気で好きになったこともない…人に裏切られたという気持ちや…他人に対する恐怖…劣等感を感じた時…人間は破壊の意思を自分か近くにいる人間に向ける…僕は…この世に自分とアスカの二人しかいなかったから…自分かアスカ…どっちかに向けるしかなかったんだ…」

「そんなバカなことがあるもんか!おかしいよ!そんなの!」

シンジは思わずプラグスーツの上から自分の胸を掴んだ。

「裏を返せば…君も僕も…人間は一人では生きられない…自分が自分であるためには自分の崩壊に向かう力を受け止めてくれる他人の存在が必要なんだ…なぜなら…ヒトは自己で完結しない生命だから…他人の存在を通して自分の存在を認識する生命体だから…ミサトさんはそれが出来損ないの群体だと言っていた…」

シンジは激しい虚脱感に襲われてその場にしゃがみ込んだ。殴り倒されたままだったもう一人のシンジもゆっくりと起き上がる。

「僕は確かにアスカを殺そうとした…でも…そんな僕をアスカは優しく受け入れてくれたんだ…それで僕は初めて他人を好きになれたんだ…でも…僕が好きになった時…アスカの心はもう死んでいたんだ…」

「心が…死んでいた?」

「アスカの僕に対する気持ち…それがアスカの心だったんだ…僕はそれを育てることが出来なかった…いや…逆に潰してしまったのかもしれない…気持ち悪い…そう言われても…僕はアスカを大切にしようと思った…でも…アスカは…アスカは…死んでしまったんだ…」

「死んでしまったって…どういう事…?首を絞めて殺したんじゃないのか…?」

「僕は結局中途半端だった…殺してはいないけど殺したも同然だよ…僕達二人は…見たこともない場所にいた…不思議な世界だった…」

もう一人のシンジは緋色の渚での出来事を話し始めた。





番外編 One of EOEs_(1) 完 / つづく




(改定履歴)
30th April, 2009 / 誤字修正
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