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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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番外偏 / der Berg Asama 思い出 (4)
(本文)

ミシ…ミシ…ミシ…

露天風呂と旅館をつなぐ廊下は距離にして10メートルもなかった。歩く度に軋む。鶯張りとは明らかに異なる、どちらかというと危険な感じがする音だった。

辺りはすっかり薄暗くなっていたが廊下の埃だらけの蛍光灯にはまだ明かりが灯っていない。

シンジは歩きながらチラッとアスカの横顔を盗み見た。相変わらず無言のまま俯いている。

何か…緊張するな…

直接手を繋いでいるわけではないがアスカに握られている浴衣の右袖の下辺りがやけに気になる。

やがて二人は「露天風呂」と書かれた暖簾を潜って旅館のメイン廊下に出た。シンジの言葉通り左に折れてすぐの所に裸電球で照らされた小さな土産物売り場があるのが見える。

みやげ物を物色する客はおろか店員の姿もなかった。

捕獲を試みた使徒が突然孵化を始めたために殲滅作戦に切り替えられ、その途端に発令された日本政府のA-17が影響しているのかもしれない。

Evaの中で国連軍の交信を聞いていたシンジはふっと思い当たる。

そう言えばミサト達とこの浅間山温泉郷に来る道すがら自家用車らしき車やバイクとすれ違った記憶がなかった。



シンジ自身、今日の作戦は心の何処かで楽勝だと思っていた。

誰がプライマリ(主体的作戦遂行者)になっても結果は同じ。だからミサトがあの時に立候補を募ったのだと理解していたのだ。

しかし、実際は…違っていた。

あの時…ミサトさんの目は明らかに怒っていた…でも…立候補する人って聞いてきたのはミサトさんの方だし…それで立候補したアスカに腹を立てるのはおかしいよ…

アスカが立候補して作戦を担当することになった後のミサトの顔が忘れられなかった。

そりゃ確かに…アスカも…やけにしつこかったけど…でもそれにムカついた様な感じじゃなかった…もっと別の何かに…そんな気がする…

シンジは本部のシミュレーションルームを出る時にミサトが鬼の様な形相でアスカの背中を睨んでいるのに気が付いて慌てて眼を逸らした。

そして今まで感じたことのないミサトの怒気に思わず身震いしていた。

あんなミサトさん…初めてだ…僕も…Evaに乗り始めた当初は…何かにつけてミサトさんに反抗してたから…よく怒らせていたけど…


「乗りますよ…どうせ…僕しか動かせないんでしょ?」


その時にもミサトの顔色は変わった。

シンジは挑戦的な言動をしたもののその鋭い眼光が同じ年頃の女性のものとは明らかに異質であることを本能的に感じ取って思わず目を逸らした。

そして自分の立場に対する自覚がその日を境に少しずつではあったが芽生えていったのだ。
 
しかし…
 
ミサトさんは…普段はずぼらで優しいけど…でも…やっぱりどこかで軍人なんだ…そして…僕は…気楽なミサトさんの同居人ってだけじゃない…僕は…同時にミサトさんの部下…パイロットなんだ…

面倒臭い…僕が望んだわけじゃないのに…でもちゃんと言うことを聞いてきたし…これからも多分…そうなんだ…


再びシンジはちらっとアスカの様子を伺う。暗くてよく見えないがまだ顔を赤らめている様にも見える。

でも…アスカを見る目はあの時の僕の比じゃなかった…何となくだけど…ミサトさんは僕や綾波に接する時とアスカに接する時で態度が違う…どうしてなんだろう…同じ…Evaのパイロットなのに…違うのは僕よりちょっと長くアスカはドイツで訓練を受けていたみたいだし…ミサトさんとは割と長い付き合いみたいだけど…

アスカは黙ったままシンジに従って歩いている。

珍しいな…こんな大人しいアスカ…僕…初めてだ…

ふっとシンジは1週間だけの事だったがアスカの事を「惣流さん」と呼ばされていたことを思い出した。

来日当初のアスカはレイやシンジに対して特別フレンドリーという訳ではなかったが今よりは少なくとも友好的だった。
 
それが今の様に対抗心、いやほとんど敵愾心に近い態度をアスカが取るきっかけになったのは第7使徒戦の前の定期シンクロテストの時に交わした会話だった。
 
テスト前の雑談でシンジはレイや自分が特に選抜を受けたわけでもないのにEvaのパイロットになっているという話をした。

その瞬間、アスカの顔から笑顔が消えた。

それ以来、二人に対する態度を硬化させたのだ。

シンジは視線を正面に戻す。

また出会った頃の様に…僕や綾波に接してくれる時が来るんだろうか…出来れば来て欲しいけど…

あんな話…するんじゃなかった…






「ええ!?じゃ、じゃあ…アンタとファーストは…何の選抜試験も…訓練も受けていないってこと…?」

「うん…綾波のことはよく分からないけど…多分、特殊訓練なんて受けてないと思うよ。でもいつも怪我が絶えなかったから…かなり危険な実験に付き合わされてたんじゃないかな…」

「そう…だったんだ…」

「全部…父さんが勝手にしたことなんだ…僕だって頼んでも無いのにさ…いきなり今年の誕生日に父さんから呼び出しを受けて…それで言われた通り3日後に第3東京市に来たんだ…そしたらいきなり…えっと…名前忘れちゃったけどさ…第3使徒が現れて…それで適当に初号機に乗せられちゃって…戦わされたんだ…」

「…なのに…あのゼロナインシステムが…」

「え?ゼロ?なにそれ…」

シンジは自分の目の前でMP3プレーヤーを握り締めたまま表情を曇らせているアスカに気が付いた。

「ねえ?どうかしたの?アスカ?」

アスカは途端にキッと鋭くシンジの顔を睨んだ。

「気安くアスカって呼ばないでくれない?Fräulein Soryuって呼びなさいよ!」


ガシャーン!


アスカが叫ぶのと同時にパイロット控え室の外で女性職員が機材を乗せたワゴン車をひっくり返す音が聞こえて来た。

しかし、二人ともワゴン車の方を見ることもなく、両竦みの様な状態でお互いを見詰め合っていた。突然のアスカの剣幕にシンジは頭が混乱していた。

優しく微笑みかけてくれていたアスカも、ジョークで決して外向的ではないシンジやレイを和ませていたアスカも、もうそこにはいなかった。

青い瞳が哀しそうに、しかし、静かに燃えていた。

「え!えっと…フロ…」

「フロイラインソーリューよ!それか惣流さんか!どっちか!」

「そ、惣流さん!?で、でも…アスカでいいって…この前…使徒を一緒に倒した時に…空母で…」

「あれはアンタがアタシと同格だって思っていたから…その…特別に許してあげてたんじゃないの!」

「ど、同格…?」

シンジはアスカの言葉の意味を理解出来なかった。

ただ一つ確かなことは二人の間で間違いなく何かが壊れた事だった。

「アタシはね!アンタ達みたいにひょっこりとパイロットになったわけでも、適当なノリでここにいるわけでもないのよ!」

アスカは下を向いてうつむいた。

「あ…アス…」

シンジは喉元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。いや、掛ける言葉がなかった。

「アタシは…ちゃんと…正式に…アタシは選抜試験にパスして…訓練も受けて…ここにいるのに…なのに…頼んでもいない…?お父さんが勝手にしたこと…?何よそれ…アタシのことをバカにしないでよ!!」

アスカはギロッとシンジを鋭く睨みつけた。敵意むき出しの挑みかかる様な激しい色を湛えていた。

シンジは思わず目を逸らさずに入られなかった。深い意味も意図もなく、ただほんの軽い気持ちで自分のこれまでの境遇を話したつもりだった。

同じ14歳で同じ学校、同じクラス…そうした気安さも多少はあったにせよ、まさか激昂するとは想像だにしていなかったシンジはただ驚き、慌て、そして沈黙するしかなかった。

シンジは恐る恐るアスカの顔を上目使いにチラッと見て思わずハッとする。

アスカは確かに怒っていた。だが今にも泣き出しそうな哀しい眼の様にも見えた。

あ、アスカ…どうして…どうしてそんな…眼を…とっても哀しそうな…

シンジは後悔し始めていた。

心細かったEvaのパイロットも何故か二人から三人になったことで心強くなっていた。これから助け合って行かないといけない。そんな矢先だった。

そしてシンジ自身…

アスカの笑顔が眩しかった。声をかけられる度に恥かしくなって俯いていた。

だが…今は緊迫した空気しか感じることが出来なかった。

「アタシは…自分の名誉と尊厳のためにここにいるのよ!なのに…それを…どうでもよさそうに…面倒臭そうに…適当に、適当にって…失礼だとは思わないわけ?アンタ!」

「ご、ごめん…」

シンジは反射的に謝る。それを聞いた途端、シンジを見るアスカの目が更に鋭くなる。

「何よ!その態度!」

シンジはビックリして思わずアスカを見返した。

「ええ!?ちゃ、ちゃんと謝ったじゃないか…」

謝って更に怒りを増長させるという現象にシンジが出会ったのはアスカが初めてだった。

ど、どうして…謝ったのに…更に怒るなんて…じゃあ…僕にどうしろって言うんだよ…

その理由をアスカから聞くのはかなり後の事になる。


アンタってさ…内罰的過ぎるのよ…いつも反射的に誤ってばかり…アンタのごめんには逃避と自己防衛が混ざってる…


アスカはジロッとシンジをひと睨みするとパイロット控え室を後にした。まるで嵐が去ったかの様に控え室はシーンと静まり返っていた。

しかし、結局、「惣流さん」という呼び方は長く続かなかった。第7使徒との緒戦に敗れた後…呼べと命じた本人の方から辞退の申し入れがあったのだ。

「やっぱり…アスカでいいわ…」

「ええ!折角慣れてきたのに…何でまた急に…」

「うるさいわね!気分が悪いのよ!アンタにファミリーネームで呼ばれるの!」

「そ、そんな勝手な…」

ビシッとアスカはシンジを指差す。

「分かった?明日からアスカって呼ぶのよ!それから!Ladyが部屋にいる時はドアは閉めない事!何度言ったら覚えるのかしら!アンタって!」

ユニゾン特訓のために引っ越して来たアスカの荷物整理を手伝わされていたシンジはため息を付いた。

「面倒臭いなあ…」

しかし、呼び方が元に戻っても戻らないものが二人の間には奇妙な緊張感としてそのまま残っていた。





「えっと…着いたよ…ここなんだけどさ…」

「…」

アスカから返事が返ってこない。シンジはアスカの横顔を見る。

「あ、アスカ…?」

も、もしかして…あまりのショボさに唖然としてるんだろうか…

アスカはシンジの浴衣の袖を持ったまま離そうとしない。まるで父親に連れられた少女が恥ずかしがっているかの様だった。

今日のアタシ…最悪だった…色んな人に迷惑をかけて…ごめん、ミサト…ありがとう、シンジ…アンタはアタシの命の恩人…

アスカがシンジの視線に気が付いてパッと目を合わせる。

「小さいお土産屋さんだから…つまらないかもしれないけどさ…その…」

「…あ、ありがとう…」

「えっ?今、何て言ったの?」

「な、何でもないわよ!」

「ご、ごめん…」

アスカが握っていたシンジの浴衣の袖を離した。

二人は思い思いにすっかり色褪せて鄙(ひな)びた雰囲気の土産物屋の中に入って行った。




 
der Berg Asama_(4) 完 / つづく


 

(改定履歴)
7th June, 2009 / 統合によりエピソード#の採番変更
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