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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第5部 Her impression 心の中の君 / on Rei side


(あらすじ)
シンクロテスト後のブリーフィング中、レイは誰にも気づかれる事なく静かに心の中で葛藤していた。
セカンド…あなたはどうして…こんな事を…
そっとプラグスーツのポケットに手を忍ばせていた。
(本文)

セカンドは私のことを初めて名前で呼んだ…でも…心がどんどん閉ざされていく…

レイは傍目から見れば無表情だったが心の中で葛藤していた。

それに…あなたは…
 
レイは密かに更衣室から持ち出したアスカのロケットを入れているポケットに手をやった。

どうして…?どうしてこんな事をするの?

レイは目を瞑る。

人を好きになるって…どういうことなの…レベルがあるものなの…?


アンタ…シンジのことをどう思ってるわけ…?

碇君…大切な…人…

アンタが言う…絆って…何な訳…?

分かち難い結びつき…人と人を繋ぐ…

それはシンジに対するアンタの気持ちでもある…そう受け止めてもいい訳…?

・・・それが…好き…という事…?好きってどういうことなの…?


行為そのものには意味は無くてさ…その…気持ちじゃないかな…大切なのは…

碇君…あなたの気持ちって…何処にあるの…?大切なもの…なの…?わたしはあなたから人を想う気持ちを…教えてもらったわ…

笑えば…笑えばいいと思うよ…綾波…

碇君…でも…


「時間も押してるし…リツコたちがまだ来てないけど始めちゃおっか?日向君、シンジ君たちに新しいセキュリティーカード配ってくれる?」

「了解しました」

ミサトの声でレイは再び静かに目を開けた。

でも…あなたからあの時以外で…「気持ち」を感じた事がない…あなたは常に怯えてる…自分以外の…他人の存在を…



アスカはシンクロテストが終わっても暫くエントリープラグの中から出てこなかった。レイはエアシャワーに向かう道すがら横目で弐号機のエントリーエリアのハッチを見た。

ハッチの上にある電光掲示板が「EMPTY」になっている。まだエントリープラグが実験エリアから戻ってきていないことを示していた。
 
セカンド…やっぱり今日はあなたから…心を感じなかった…このままだとEvaを動かせなくなる…

レイは無言のままゲートをくぐる。前後のゲートが閉じられて温水ミストが吹き出してきた。L.C.L.が洗い流されていく。やがてシャワーはエアーに変わり一連のシーケンスが完了すると目の前のゲートが開いた。

エントリーエリアの無機質な廊下が続いていた。

レイは再び歩き始める。歩きながらレイはふと自分が無意識のうちに髪を撫でて手櫛で髪形を整えているのに気が付いた。
わたし…自分で髪を…?何のためにこんな事を…人間らしく…人の知恵…

今までレイはL.C.L.でガビガビになった状態の髪を乱れるに任せてそのまま放置していた。

そのためだろうか…エントリーエリアから出て発令所の方に向かっていると一般職員と廊下ですれ違うことが多かったが、すれ違うほぼ全員がボサボサ頭のレイを見ては思わずこみ上げてくる笑いを噛み殺していた。

今日はシミュレーションルームに向かうレイを見て誰一人として笑うものはいなかった。

髪を整えると…綺麗になる…何のために…

それが人間らしいってことよ!

「アスカ…ラングレー…」

レイは先週の学校でのある出来事を思い出してした。
 



レイがいつも通り昼休憩に一人でベンチに腰掛けているといきなり隣にどかっと荒々しく誰かが座って来た。

レイは驚くでもなくそっと音の方向に顔を向けるとそこにはアスカが座っていた。

アスカは正面を向いたままでレイと顔を合わせようともしなかった。左目には眼帯をしていた。

「今日はヒカリが風邪を引いて休みなのよ。アンタとランチを食べても楽しくないけど一緒に食べてあげるわ」

二人は無言のままお互いのランチを膝の上に乗せた。

アスカはシンジが作った弁当箱を広げていたがレイはコンビニで買ったおにぎり二つをビニールの上に無造作に置いていた。

レイは日高昆布のおにぎりを食べ始めた。するとレイの目の前に赤いプラスティックの弁当箱のふたが突きつけられた。

その上には厚焼き卵2つとサトイモの煮物が乗っていた。

レイがおにぎりを口にくわえたまま隣に座っているアスカを見た。

「何かさ…今日は食欲が無いのよね!アンタにこれあげるわ。アンタがアタシを嫌うのは構わないけど、シンジのお弁当をその辺りに放り投げるのだけはアタシが絶対に許さないわよ!」

レイは片手でそれを受け取って自分の膝の上に置いた。

「どうしてわたしに…?」

「別に!食欲が無いだけよ!食べる気があるならさっさと食べれば?」

アスカは弁当に付いていた爪楊枝を取り出すとレイの膝の上にあるサトイモに深々と突き刺す。その一部始終をレイはじっと見ていた。

アスカは相変わらずレイと視線を合わせない。

凄い勢いで次々に弁当の中身を口に放り込んでいく。とても食欲がなさそうには見えない…二人は何かを会話するわけでもなく黙々と手を動かしていた。

「アンタ、二つともおにぎりの中身がコンブっておかしくない?」

レイが二つ目のおにぎりを一口食べたところで不意にアスカが話しかけてきた。レイは左手におにぎり、右手にシンジの作った厚焼き玉子を持ったまま視線だけをアスカに向ける。

「わたしは…肉が嫌い…」

「そっか…確かにアンタ、前にもそう言ってたわね…」

アスカは第10使徒戦の時を思い出していた。出撃前にミサトにステーキを奢ってやると言われてレイを誘った時も同じ台詞を言われていた。

早いわね…あれからもう2ヶ月経つのか…結局、ラーメンだったけど…仕方ないわよね…アタシ達ビンボーだし…

そうだ…思い出した…この女はいきなりニンニクラーメンチャーシュー抜きをオーダーしたのよ…あの時、何故か悔しかったのよね…プロっぽい(通っぽい)オーダーするから…

アスカがふとレイの横顔を見るとレイの右の口端に小さなノリの破片が張り付いているのを見つける。レイは気にする様子がまるでない…

「ちょっと!アンタ、それでも女?口にノリが付いたままじゃないのよ!」

「?」

レイがきょとんとした目でアスカを見ていた。

「アンタの右の口!舐めて取りなさいよ!早く!」

「どうして…?」

アスカはため息をつくとスカートのポケットから薔薇の柄が入ったハンカチを取り出してレイの口元を拭った。

レイは思わず体を仰け反らせた。

「もう取れたわよ!アンタも少しは外見に気を配ったらどう?何よ、その髪型!だっさいわね!えっ!ちょ、ちょっと…アンタ…もしかしてこれって…」

アスカはレイの右耳の後ろ辺りの髪を触ると表情を引きつらせる。レイはアスカに髪を触られて体を硬直させた。

「信じられない…これって寝癖じゃないの!恐ろしい女だわ…あり得ない…アンタばかじゃないの?」

「寝癖…?」

「うがー!アンタもう喋んないでいいわよ!アンタと話してたらストレスでアタシ絶対死ぬわ。とっととそのおにぎり食べなさいよ!」

アスカは弁当箱を膝からベンチに下ろすと赤い巾着袋の中から小さいポーチを取り出す。中にはウェットティッシュ、持ち運び用コロン、制汗スプレー、携帯歯ブラシやナプキンなどの小物が入っていた。

その中から折り畳み式の小さなヘアブラシを取り出した。

アスカはそれを組み立てると立ち上がって素早くレイの背後に回りこむ。そして、いきなり荒々しくレイの髪を梳き始めた。

レイが反射的にアスカの手首を掴む。

「な、何よ!髪を整えてあげてるんじゃない。何か文句でもあるわけ?」

「そんな事をして…何の意味があるの…」

「はぁ?意味って…アンタねえ。こうすれば女は綺麗になるのよ。アンタも意外と悪くない髪質なんだからちょっとはケアしなさいよ!」

「綺麗になるって…どういうこと?」

「いちいちうるさいわね!女が綺麗になるって事は…その…人間らしくなるってことよ!」

「人間らしく…なる…人間…人間になる…」

アスカの手首を掴んでいたレイが手を離した。

「そうよ!人間が他の生命体と違うところは自分の内側も外側も磨いて常に進歩しようとするところにあるのよ!ただ自然環境に順応する進化とは違うのよ。これが人間の知恵という力よ!」
 
アスカはため息をつきながらレイの髪形を手際よく整えていく。レイはおにぎりを持ったままアスカにされるままに任せていた。

「知恵…人の力…知恵…」

レイが呟いていると隣にアスカが戻ってきた。

また暫く二人は黙ったままでベンチに座っていたがレイが食べ終わるのを見たアスカはレイの膝から弁当箱のふたを取り上げる。

そして代わりにポンとレイの膝の上に自分のヘアブラシを放り投げた。レイはそれを手に取るとアスカの方を見た。

「アンタにあげるわ、それ…機能的でアタシのお気に入りだったけど…見てられないわ…」

全く…どうしてシンジはこんな寝癖も直さない様な女を…アタシの事なんて見てもくれないのに…この女が綺麗になるとアタシはますます無視されるのかな…

「セカンド…」

アスカはレイの声で現実に引き戻される。そして何も答えずにすくっと立ち上がるとレイを見下ろした。

「それで髪の手入れくらいしなさいよね…そうすればちょっとは人間らしくなるわよ、アンタも。折角スレンダーでいい感じなんだから…勿体無いわよ!」

そう言い放つとアスカは赤い巾着袋を持って下足場の方に歩いていった。

そんなアンタをシンジが好きっていうならしょうがないわよね…それならそれで・・・アタシは強く一人で生きていくことに集中すればいい…今までの様に…
 


「はい。レイちゃん」

いつの間にか日向がレイの隣に立っていた。レイは自分の目の前にある新しいセキュリティーカードを受け取ると時計仕掛けの様に今まで使っていたセキュリティーカードを日向に渡す。

そのまま日向がアスカの方に歩いていこうときびすを返した瞬間だった。

「ありがとう…日向…さん…」

「えっ?どういたしまして」

日向は一瞬戸惑ったような表情を浮かべたがすぐに持ち味の機転を発揮してレイに微笑みかけていた。

レイちゃん…どうしちゃったのかな…何か…今日はヘンだな…三人とも…あと…

日向はチラッとテーブルに頬杖をついてやや憮然とした表情をしているミサトの顔を見ていた。
 
何か辛い事でもあったんですか…?ミサトさん…
 




Ep#06_(5) 完 / つづく
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