新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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(本文)
2015年7月26日の早朝。
朝靄が少しかかっていた。半そでではやや肌寒いひんやりした朝だったが早くもバラスを敷いただけの駐車場に5人の男女の姿があった。
一行は駐車場から望める浅間山をバックにして記念撮影をしている様だった。
「いいか?それじゃ撮るぞ」
「はーい!」
「おっけー!」
加持は構えたカメラを再び下ろしてミサトの顔を見る。
「…おい…葛城…」
「ん?どったの?早く撮ってよ。寒いんだからさあ」
加持はやれやれという様に肩を竦めると遠慮がちにため息をつく。
「お前なあ…折角の記念撮影なんだから缶ビールはどっかに置いとけよ…」
「何よ。この方が旅行って感じがするでしょ?別にいいじゃん。ねえ、アスカ?」
ミサトは自分の前に立っているアスカの首に腕を巻きつけて声をかける。レイの隣でボーっとしていたアスカはいきなりの事に驚く。
「わっ!ちょっと!いきなり何すんのよアンタ!ビックリするじゃないのよ!」
ミサトは一瞬、ギョッとした様な顔をしてアスカの横顔を伺うがすぐに白い歯を見せて笑う。
「何ボーっとしてんのよ?あんた」
「べ、別に…」
アスカはプイッと横を向く。ミサトはアスカの耳元で囁く。
「ごめんね…沖縄に比べるとちょっちここはショボイかもしんないけどさ…」
「ミサト…」
アスカは自分の顔の横にあるミサトの方を思わず見た。
「行きたかったんでしょ?あんた…分かるわよ…あたしにだってそれ位…憧れだものね…ヨーロッパにとって南の島ってさ…まだ拗ねてんの?」
アスカは俯いて視線を足元に落した。素足に白いサンダルを履いていた。
「そんなんじゃ…ないわよ…だって…火山なんて滅多に見る事なかったし…」
アスカは目を合わせようとしない。
その様子にミサトは少し表情を曇らせる。
「そっか…楽しんでくれたんならよかった!」
ミサトはにやっと笑うとアスカにいきなり頬ずりし始めた。
「ちょっと!アンタ!ヘンタイじゃないの!やめてよ!」
ゴメン…ミサト…でも…こんなこと言えない…それに…
アスカはちらっとレイの向こうに立っているシンジの方を見る。
何なんだろう…この感じ…アタシ…初めてだ…
「いいかい?それじゃいくぞ」
ミサトがアスカの足元にボアビールの500ml缶を置くのを確認した加持は声をかける。その声にアスカはハッとする。
「いいわよ!」
ミサトがアスカから離れて加持に手を振る。
加持はファインダを覗いて構図を全身からバストアップの集合写真に切り替える。缶ビールを意図的にカットする。
「よーし!ちあーず!」
パシャっ
「ねえ!加持さん!アタシとツーショット!」
「ああいいよ」
アスカは一団から離れて加持の方に小走りに走っていく。
どうしちゃったのかしら…アタシには加持さんがいるのに…今回はちょっと無理しちゃったから…
そうよ…きっと…アイツに引け目を感じてるだけなんだ…借りを返せば済む話じゃん!
やがてネルフ御一行様は「バリューレンタカー」とロゴが入った白いワンボックスカーに銘々乗り込むと浅間山温泉郷の「紺屋荘」を後にした。
後部座席からアスカは離れていく浅間山を見ていた。
さようなら…浅間山さん…プライベートでゆっくり来れるといいな…その時には…多分…
全てが片付いている…筈…
話は前日まで遡る。
第8使徒殲滅作戦が完了した後、ミサトは国連軍の野営テントでシンジたちチルドレンを迎えた。
「お疲れ様!あんたたち。今日は本当によくやったわ。あたしからスペシャルボーナスよ」
浅間山の温泉に一泊して帰ろうというミサトの提案にシンジとアスカは飛び上がって喜んだ。レイは一人でキョトンとした様な表情をしていたが喜ぶ二人を見て心なしか口元が綻んでいる様にも見えた。
国連軍の第7輜重分隊の輸送トラックに強引に乗り込んだミサトたちはミサトが適当に携帯サイトから予約した浅間山温泉郷の「紺屋荘」に向かった。
駐車場の掃除をしていた宿屋の主人は突然現れた国連軍の輸送トラックを見て腰を抜かさんばかりに驚いた。
防弾ガラスの窓を開けて助手席からミサトがぬっと顔を出す。
「どうも~!先ほど予約したネルフですけどお~」
「ね…ねる…ああ…ネルフご一行様ですか…お、お待ちしてました…」
「おーし!着いたわよ!あんたたち!」
「は~い!」
「あ、あの…このごっついトラックは…」
宿屋の主人はトラックから勢いよく降りて来たミサトにおずおずと聞く。第7輜重分隊所属の5台の装甲トラックが次から次へと姿を表すのを不安そうに眺めている。
「ああ、大丈夫です。この人たちは私たちを降ろすとすぐに駐屯地に帰りますから!」
「そ、そうなんですか…じゃあ、お車のお預かりは…?」
「夕方に一台、ワンボックスカーが来ますからそれをお願いします」
「ワンボックスって本当に普通のワンボックスですか?」
「もっちろーん!」
「わ、わかりました…そ、それじゃあ…お部屋の方に…」
宿屋の主人についてミサトたちは古めかしいコンクリート作りの「紺屋荘」に向かっていく。
加持が第三東京市からワンボックスカーのレンタカーでミサトたちに合流したのは夕方6時過ぎだった。
そして加持の到着と前後して宅急便でミサト宛の荷物が一つ「紺屋荘」に届けられた。
女部屋になっている「かえでの間」で既に出来上がっているミサトからやっとの思いで抜け出したシンジはため息を一つつくと人気のない旅館の老化を玄関に向かって歩き始める。
シンジが玄関の近くにある旅館のフロントの前を通り過ぎようとした時だった。
すっかり禿げ上がった頭に度のきつそうな黒縁メガネを鼻先にちょこんと乗せた宿屋の主人に呼び止められた。
そして加持の到着と前後して宅急便でミサト宛の荷物が一つ「紺屋荘」に届けられた。
女部屋になっている「かえでの間」で既に出来上がっているミサトからやっとの思いで抜け出したシンジはため息を一つつくと人気のない旅館の老化を玄関に向かって歩き始める。
シンジが玄関の近くにある旅館のフロントの前を通り過ぎようとした時だった。
すっかり禿げ上がった頭に度のきつそうな黒縁メガネを鼻先にちょこんと乗せた宿屋の主人に呼び止められた。
「ああ、ちょっと。お客さん。お荷物一つ届いてますよ」
「え?に、荷物?ああ、どうもすみません…ありがとうございます…」
荷物って…誰からだろう…どうして僕たちがここにいるって分かったのかな…
シンジが首を傾げているとフロントの奥から宿屋の主人がシンジの予想を遥かに上回る大きさの段ボール箱を重たそうに運んでくるのが見えた。
ま、まさか…こんな大きな箱が…
「よっこらしょっと!」
ボスッ
「・・・」
リンゴ箱程度の大きさだったが10kgの米袋より少し軽いくらいの重量がありそうだった。シンジが恐る恐る宅急便の宛名を確認する。
宛名は浅間温泉郷「紺屋荘」気付 特務機関ネルフ作戦本部 葛城ミサトになっていた。
「ミサトさん宛だ…」
差出人の欄には「本人」とだけ書かれていたが明らかに伝票を書いた主はミサトではないことが明白だった。
そして特記事項には「ナマモノ」と書かれてある。
「な、なま…?」
そこまでシンジが言いかけた時、突然、箱が動き始めた。
「う、うわ!ちょ、ちょっとおじさん…」
シンジが慌てて振り返るともうそこには宿屋の主人の姿はなかった。
そ、そんなのないよ…
ドスッ!
いきなりダンボールの天上に穴が開く。一瞬、黄色い嘴(くちばし)の様なものが見えた様な気がした。
「ひっ!な、何だ・・・何が一体始まったんだ・・・は、早く…ミサトさんを・・・」
言いかけてシンジはハッとする。さっきまで管を巻いて散々シンジにからむミサトの姿が脳裏を掠めた。
い、いや…ダメだ…断じてダメだ…ミサトさんは絶対ダメだ…やっぱりコイツを退治するならここは接近戦に強いアス…カ…
足を一歩踏み出してシンジは急に思い止まる。
いや…待てよ…今日は作戦完了から機嫌が悪そうだった…またここで面倒な事を頼んだら…
るっさいわね!たかだかダンボールがガタガタ言うだけで何でいちいちこのアタシが行かないといけないのよ!!バッカじゃないの?アンタ!!
ダメだ…今は絶対ダメだ…話しかけたらフルボッコにされる危険性が高い…そうだ!どうしてすぐ思いつかなかったんだろう!綾波だ!ここは間違いなく綾波に応援を頼んだ方がいい…
シンジはたちの悪い酔っ払いと化したミサトの後ろで何事も無かった様に超然と部屋の片隅でTVを大人しく見ていたレイのことを思い出していた。
よーし決まりだ!!
しかし、あり得ないほどの優柔不断が災いしてタイムリミットの方が先に訪れる。次の瞬間、箱の中から何度も黄色い嘴(くちばし)が突き上げて勢いよくダンボールの蓋が突き破られて何かがシンジの目の前に飛び出てきた。
「う、うわー!」
思わずシンジはその場にへたり込む。ペンペンだった。
「ぺ、ペンペン…ペンペンじゃないか!どうしてこんなところに…」
「フッ」
ペンペンは軽く埃を払うとシンジに一瞥もくれることなく颯爽と大浴場の方に向かって行った。
「え・・・えと…いいのかな…この旅館…ペット同伴…」
シンジに構うことなくペンペンの姿は薄暗い廊下に消えていった。
ま、まあ…いっか…僕ら以外にお客いないみたいだし…
シンジはゆっくり起き上がるとダンボールの中から出てきた梱包材代わりに使われていたと思われる新聞紙をおずおずと片付け始めた。
それにしても…生きた動物をナマモノで…しかも宅配便に預けるなんて…何考えてるんだ…
シンジは「かえでの間」で繰り広げられているおぞましい宴会の光景を思い出してため息をつく。
三鷹にいた時は毎日がつまらなかった…どうしてこんなに平凡なんだろうって思ってたけど…14歳になってネルフに来てからというもの…
シンジはまたため息をつく。
普通って実は素晴らしい事なんだって思う様になるなんて…正直…思わなかった…これはこれで…
「面倒臭い…」
シンジは空のダンボールを抱えて加持と二人の「もみじの間」に向かって行った。
der Berg Asama_(2) 完 / つづく
(改定履歴)
7th June, 2009 / 旧その2と旧その3を統合。
7th June, 2009 / 旧その2と旧その3を統合。
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