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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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番外編 ドイツ新生活補完計画 (Part-2)

イェーゲンの車で一路、ベルリンを目指すゲンドウだったが
いきなりヨーロッパ文化の洗礼を受ける。
いち早く訪れるヨーロッパの週末にゲンドウは…
(本文)

イェーゲンとゲンドウを乗せたローバーミニはアウトバーンのランプを下ってベルリンの西側から市街に入る。市内のあちこちに除雪した雪が残っている。まるで火山灰の様な細雪が紙の様に舞っている。
 
これで4月だからな…一年中夏の日本とはまさに対局の位置だな…
 
菩提樹が街路樹として通りの両脇に等間隔に植えられているが木の幹しかない。葉を茂らせることもなく、ただ枝だけを天に向かって広げている様に見えた。
 
ヨーロッパの冬は灰色一色に覆われる。唯一の温もりは街の灯りだけだった。
 
「あの…ミスター碇」
 
車窓からベルリン市街の様子を眺めていたゲンドウはイェーゲンの声でふと我に返る。
 
「今度は何だ…ガス欠とか言うなよ…」
 
ゲンドウはやや警戒した視線をイェーゲンに送る。
 
「ははは。ミスター碇はユーモラスですね」
 
イェーゲンはゲンドウがジョークを飛ばしたと勘違いしているようだった。
 
バカ言え!貴様の存在が既にギャグだ!何だってゲヒルン研究所はこんなヤツを採用したんだ…
 
「ところで今日はどちらのホテルに宿泊される予定ですか?」
 
「ぶほぉっ!!」
 
ゲンドウはイェーゲンの言葉に心底驚愕して思わず咳き込んだ。
 
「大丈夫ですか?ミスター碇。風邪ですか?」
 
「き、きさま…私の計画書を…計画書を読んどらんのか!!」
 
ゲンドウはイェーゲンの肩を掴むと凄む様に顔を近づけて睨み付けた。その眼光にややイェーゲンは鼻白む。
 
「今日は5時半に空港着!6時までに貴様が私をピックアップ!6時半に不動産屋に行ってキーを受け取り、そしてアパルトメントに7時半までに入る!その為にLH(ルフトハンザ)998便から996便にして一便早くベルリンに来たのだ!計画通りに進めろ!全てだ!!貴様のせいで今日の予定は既に8%近くDelayしているではないか!!」
 
イェーゲンは肩を竦めて両手を挙げるジェスチャーをする。まるで「そんなの出来っこないっすよ。勘弁して下さいよ」と言わんばかりだった。その所作を見たゲンドウの怒りは頂点に達する。
 
「何なんだ!!それは!!」
 
「ミスター碇…今日は金曜日ですよ?」
 
「それがどうした!金曜だろうが日曜だろうがそんなことは知らん!」
 
「金曜日は普通みんな仕事を早めに切り上げて帰りますよ?この時間に不動産屋のオフィスが開いているとは思いませんけど・・・」
 
「な、何!!」
 
ゲンドウが慌てて時計を見ると既に8時を回っていた。
 
「き、きさまが!貴様さえ時間通りに迎えに来ていればちゃんとコンタクト出来ていた筈なんだ!それを…2時間も遅刻しおって!!」
 
「お、落ち着いて下さい、ミスター碇。アポイントでもない限り5時でも開いてなかったと思いますよ?と、とにかく不動産屋にはダメ元で行って見ますけど…ホテルを予約した方がいいと思います…」
 
だ、ダメ元だと…なんだそれは…こいつ…適当な事を言って言い逃れするつもりか!
 
「バカも休み休み言え!!5時に閉まる不動産屋なんぞ聞いた事が無い!!商売する気があるのか!!日本では夕方からが稼ぎ時なんだ!!最低でも7時くらいまでは開いているぞ!」
 
「へえ、そうなんですか?じゃあ日本の不動産屋は昼から営業するんですね?」
 
「バカもん!!朝からちゃんとやっとるわ!!」
 
「ええ!!それでは12時間近く働く事になるじゃないですか!そんなクレイジーな…」
 
「クレイジーなのは貴様の方だ!!とにかく!一刻も早く不動産屋に向かうのだ!いいな!全て計画通りに進めろ!」
 
「は、はい…」
 
イェーゲンのローバーミニは蛇行しながら不動産屋に向かって行った。
 
 
 
Geschlossen (Closed)
 
 
 
 
不動産屋のHans & Willy Makler Büro の前に着いたゲンドウは愕然とする。事務所はすっかり暗くなっており人の気配は全くなかった。
 
すごすごとイェーゲンの車に戻ってきたゲンドウは力なく助手席のシートに身体を沈めた。
 
「あのう…ミスター碇…」
 
ジロッとゲンドウはイェーゲンを睨む。イェーゲンは何事かを言い淀んでいた。
 
「何だ?また何か問題か?もうこれだけの事を経験すれば少々のことで私は驚かんぞ…」
 
「それはよかった!この不動産屋の次の営業日は月曜日の10時からと書いてあります」
 
「ぐふぉっ!!」
 
ゲンドウは思わず身体を仰け反らせる。
 
「ど、土日を思いっきり休むのか!?一体、何なんだ!そのやる気の無い営業スタイルは!!」
 
イェーゲンの両腕を掴むと前後に激しく揺っていたがハッとした表情をする。
 
「と、と言う事は…私のアパルトメントの鍵は…」
 
「はい…残念ながら月曜日に受け取りという事になりますね…」
 
ヘナヘナとゲンドウはクッションの頗る悪い助手席に力なく腰を落す。
 
け、計画が…俺の…完璧な計画が…
 
「あの…ホテル…宜しければ予約しましょうか…?」
 
ゲンドウは燃え尽きていた。真っ白に…そしてそれは灰色のベルリンの街に溶けていく…
 
 
 
【教訓その2】
ヨーロッパの週末は早く訪れる。そして休日は全員に等しく与えられ、日曜日は基本的に街の機能が停止することを前提にして旅に備えねばならない。


※ ユーゲント(Juegent)はJugend (若者)と紛らわしいのでイェーゲン(Juegen)に急遽変更しました。あしからずご了承下さい。


番外偏 ドイツ新生活補完計画 (Part-2) 完 / つづく
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