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(あらすじ)
初号機のパレットガンが火を噴いた。突然、初号機の足元は漆黒の闇に包まれる。崩壊するオフェンスライン。ミサトは咄嗟の判断で撤収を命令するが…
W. A. Mozart-Magic Flute-Queen of Night Aria … 人間バージョン
W. A. Mozart/魔笛:夜の女王のアリア … こちら初音ミク様 でございます
※ ミク Ver. の方が好きかも…
(本文)
やっぱり…アスカが拘留されたのは心理的に影響が大きすぎる…これじゃ作戦にならない…頭のどこかで危惧はあったけど…実際に目の当たりにすると…あたしのミスだわ…完全に…
二人が激しく言い争っている光景だけはずっと映し出されていたためミサトはアスカとシンジの組み合わせをオフェンスラインに起用したことを今更ながらに後悔していた。
くそっ!こんなことならレイと組ませればよかった…
しかし、一度射出してフォーメーションを組んでいる以上この体勢で最善を尽くすしかない。ミサトはイライラを募らせるが一方で冷静な自分の存在にも気が付いていた。
確かにアスカの反応は信じられなかった。ある意味、ミサトはネルフの中でアスカとの付き合いがリツコや加持を除けば一番長かったから尚更だった。パイロットとして搭乗している時に少なくともここまで感情を荒げることをしなかったからだ。
ミサトは乱闘騒ぎ以降のアスカの言動を噛みしめる。
アスカ…どうしちゃったのよ…あんなにクールだったあんたが…トレセン時代だって独房にぶち込まれたことも一度や二度じゃなかった…どんな目に遭ってもこんなに感情をむき出しにすることなんてなかった…
やっぱり来日してからのあんたは全然パイロットらしくないわ…それじゃ訓練を施していない普通の女の子と何にも変わら…
そこでミサトはハッとする。
まさか…あんたが惚れている男って…加持じゃなくて…
で、でも…可能性は十分だ…自由が殆んどなくて外界から隔絶された大人だけの空間にずっといたあんたが…
いや、あんたに普通に女の子として接していた男で身近な存在って加持かシンちゃんくらい…そんなあんたが父性じゃなくて等身大に恋する相手っていえば…シン…
突然、日向がミサトを振り返る。
「使徒との距離450を切りました!まっすぐ集光ビル方面に向かってます!」
パレットガンの射程に入ったことを告げていた。これからいつファーストアプローチが始まってもおかしくない。
ミサトはすぐに現実に引き戻される。
「射程に入ったわ。青葉君、ファーストアプローチに備えて!」
「了解。2番から16番サイトまでのデータ収集開始します。S暗号転送モード」
青葉は落ち着いた声でミサトの指示に答える。
近づいてくる使徒を頂点にしてシンジとアスカのオフェンスラインが対向の位置から斜め側面に展開していく。正面攻撃を避けて使徒の後方側面からの攻撃をシンジたちが意図していることがミサトにも分かった。
オフェンスラインの動きを見ながらプライマリーバックアップの零号機もライフルを持って移動していた。一見して何の変哲も無いこれらの動きだったがミサトはどことなく違和感を覚えていた。
使徒をやり過ごしながら弐号機はあまり動かず、初号機が弐号機を起点に動いている。
変ね…バックアップとアプローチの役が逆っぽい動きをしてるわ…まさかとは思うけど…
ミサトが確認のための交信をしようとした瞬間だった。
「初号機!距離200からファーストアプローチ!」
日向が叫んだ。その声にミサトが思わず自分のレシーバーをデスクの上に取り落とす。
「な、何ですって?シンジ君が?ちょっとどういうことよ!」
「アスカ…綾波…まだ?」
シンジは初めてのファーストアプローチに高揚していた。逸(はや)る気持ちを懸命に抑えていた。発令所から送られてくる3D化されたナビゲーション情報を見る。
レイはオフェンスラインの前進に伴って更にバックアップポジションを上げていた。
「零号機、ポイント01確保…これ以上は上がれないわ…17番(射出口)の退路確保が難しくなる…」
「そっか、了解…アスカは?」
アスカからなかなか返事が返ってこない。シンジはイライラを募らせる。
綾波が上がれなかったらT2でもうこの位置で仕掛けるしかない…アスカ…何やってんだろ…さっきのケンカで…まさかとは思うけど…僕にヘマをさせる気じゃ…そうだったら許せない…
「アスカ…まだ!?」
「ちょっと待ってよ…!そんなに急に動けないよ…!」
アスカは兵装ビルから新しいアンビリカルケーブルを引き出しているところだった。
声を潜ませる必要は必ずしもないが心理的にどうしてもヒソヒソ声になってしまう3人だった。第12使徒の巨大な球体が音もなくシンジの潜んでいるビルの横を通り過ぎていく。
距離300…290…280…
「アスカ…!早く…!」
「うるさいわね…!アンタ動き過ぎよ…!」
「早くしないと…!(使徒との)再接近のポイントをロスしちゃうよ…!」
距離250…ここをロスすると背後から追いかけないといけなくなる…
シンジはアスカのバックアップポジション到着を待っていた。L.C.L.の中で垂れる筈のない汗を感じる。
240…まだか…
「初号機…F00キープ…距離220…」
アスカのバックアップポジション到着とシンジが狙うタイミングはほぼ同時とみてよかった。
駄目だ…アスカを待っていたら距離200をオーバーする…行くしかない…
シンジはレバーに力を込めた。初号機はゆっくりとパレットガンを顔の高さまで持ち上げる。
距離…200…いまだ!
初号機はビルから飛び出すと使徒の左後方側面に狙いを定める。
ガオン!!ガオン!!ガオン!!
「弐号機ポイントB01確保…!使徒捕捉…!し、シンジはや…」
アスカが照準で球体を捉えた瞬間シンジがパレットガンを球体に向けて撃っていた。
もらった!!今のは絶対当たったぞ!
シンジはさっと身を隠しはしたもののまるで獲物を仕留めた狩人の様に様子が気になっていた。その一瞬の隙がシンジの退避行動を緩慢なものにしていた。
しかし、アスカの目の前ではシンジの感慨とは全く別のことが起こっていた。初号機の放った球(弾)筋を追う暇もなく、フッと使徒がアスカの目の前から姿を消す。
アスカがバックアップの位置から第二撃を仕掛けようとしたまさに時だった。
思わず我が目を疑う。
「き、消えた…そんなバカな…」
まさか…うそよ…嘘に決まってる!!こんなのって!!
アスカが思わずレーダを確認する。レーダにも何も映っていない。
「Was??? Target is rader out??? どうなってんの!?」
3ヶ国語が入り乱れた交信を全員に送るのがやっとだった。それだけ焦っていた。
その時だった。
「うわあああ」
アスカの交信に返事をするかの様にシンジの叫び声が飛び込んできた。
「シンジ!Shit!」
アスカが初号機の位置に駆け寄っていく。アスカは心の中で呟いていた。
何かの間違いよ…ちゃんと使徒は見えてたじゃない…これは現実なのよ!夢とは違うんだから!
「何だよこれ!ミサトさん!アスカ!綾波!助けてよ!」
シンジの悲痛な叫び声が聞こえてくる。
「シンジ君!オフェンスラインで何が起こってるの?初号機の状況を主モニターに回して!オンフォードでもいいから早く!」
ミサトが発令所で叫ぶ。
「使徒がレーダーアウト!現在位置を確認中!」
日向が慌ただしくキーボードを叩く。
「レーダーアウトぉ??ちょっと!冗談はナッシングよ?」
アスカがシンジのいる筈の場所にたどり着くと初号機の周りに巨大な黒い湖が広がっていた。
「な、何よこれ!」
そして、その漆黒の影の中に沈んでいく初号機の姿がアスカの目に飛び込んできた。まるでそれは底なし沼のようだった。
「う、うそ…だ…」
アスカは呆然とその場に立ち尽くす。
「た、助けて!あ、アスカ!早く助けてよ!」
シンジの声に弾かれてアスカはハッとするとパレットガンを放り投げて沈み行く初号機のアンビリカルケーブルを掴む。
まるで綱引きの様に引き始めた。
「シンジ!しっかり!」
「アスカ!早く!早く助けてよ!」
「ど、どうなってんのよ!全然持ち上がらないじゃないのよ!」
初号機は弐号機の姿を見ると更にもがき始めるが、一向に這い上がる気配がなかった。
「弐号機のオンフォード信号をキャッチ!主モニターに回します!」
青葉が手際よく切り替える。この様子を発令所全員が目の当たりにするとそこかしこで驚きの声が上がる。
「な、何?あの影は…初号機が埋まってるじゃないのよ…」
ミサトが呆然と呟く。その時、ミサトの背後からマヤが叫ぶ。
「MAGIの解析結果が出ました!そ、そんな…球体の方が影であの黒い方が使徒本体です!」
「な、何ですって?しまった!囮に引っかかったってこと?」
発令所にアスカの叫び声が響く。
「いやああ!!」
初号機が完全に埋没し、途中でちぎれたアンビリカルケーブルを持ってその場に立ち竦む弐号機の姿が発令所の主モニターに映っていた。
「しょ…初号機が…使徒に取り込まれた…」
日向が思わず席から立ち上がる。ミサトは咄嗟に判断する。
「アスカ!撤収よ!すぐその場から退避して!」
しかし、アスカから反応が返ってこない。
「アスカ!聞いてるの?これは命令よ!直ちに撤収!」
ミサトが叫ぶがエントリープラグ内のアスカは茫然自失状態に陥っていた。
じょ、冗談でしょ?!アスカ!あんた…
「使徒が弐号機に移動しつつあります!影が…い、いや、じゃなくて本体が同心円状に急速拡大中!直径が100から125!いや200を超えました!」
青葉の珍しく上ずった声がミサトに追い討ちをかける。
「ま、まさか…アスカ…」
その時…
滅多なことでは動いてはならないプライマリーバックアップのレイが突然駆け出した。
プライマリーバックアップはオフェンスラインが万が一に崩壊した場合に備えて退路を遮断され全滅の憂き目に遭わない為の、いわば最後の砦だった。
現在の状況でオフェンスラインに進出することは常識では全く考えられない。
「レイ!あんたまで何考えてるのよ!」
もうメチャクチャだ…
茫然とモニターを見ている日向に代わって青葉が報告し難そうに遠慮がちにミサトに告げる。
「零号機…ポイント01を…放棄…F00に進出中…」
「レイ!!あんた!!ちょっと!!」
ミサトは日向のデスクに片足の乗せた状態でマイクにかじりついていた。
アイスドール(技術部内でのレイのあだ名)が…勝手に…動いた…今までただの一度だってこんなことは…せ、先輩に…
マヤは一人、モニター上で疾走している零号機の姿をじっと凝視していた。