忍者ブログ
新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第16部 12th Angel (Part-1)


(あらすじ)

絶対防衛圏を何の前触れもなく突破して来た第12使徒の襲来に本部は騒然としていた。一刻の猶予もない状態でミサトは市街戦を選択するが…


(本文)

翌日…

第12使徒の襲来が突然告げられネルフ本部は騒然としていた。折り悪くゲンドウと冬月は国連総会に出席のため数日前から留守にしていたことも影響していた。

ゲンドウと冬月は日向がアメリカ国防総省と調整して手配した国連軍のEva参号機の空輸団と合流して来週に帰国する予定だった。

現在のネルフの序列システムからいけば平時は北上総務部長だが、有事においてはミサトが全指揮権を掌握することになっていた。

そしてGrade Sにカテゴリーされる重大な問題が発生した場合に限り、司令長官室長を兼務するリツコに自動的に指揮権が移譲されるが滅多な事でリツコが表に出ることはなかった。

ミサトの指揮権発動は第10使徒戦に続いて2度目になる。

レイ、アスカ、シンジは作戦部のシミュレーションルームに集合していた。ミサトと日向とマヤもいた。

リツコの姿はなかった。

「使徒は第三東京市の郊外に突然出現して現在は市街の中心地に向かっているわ。どうやって絶対防衛圏を突破したのかは不明。市内での戦闘は避けたいけれどここまで踏み込まれてしまった以上は市街地戦を選択せざるを得ないわ。フォーメーションはT2。オフェンスラインはアスカとシンジ君で組んで。プライマリーバックアップにはレイが入って」

「分かりました」

「・・・」

レイとシンジが返事をするがアスカは黙っていた。

ミサトがそれに気が付いてアスカの方を見る。アスカは何か思案顔でボーっとしていた。

「アスカ、分かったの?」

「わ、分かってるわよ!」

ミサトの声に思わずハッとしたアスカが焦って答える。アスカのこの反応はミサトの心に一抹の不安を芽生えさせた。

今回に限ったことではないが特にこの第12使徒に関しては謎が多く、いまだにMAGIは回答を保留した状態が続いていた。

刻一刻と近づいてくる使徒のことを考えればもはや幾許も猶予はなかった。

今日のファーストアプローチは今までの中である意味一番難しい…こんな状態でアスカは大丈夫かしら…かといってアスカ以外に任せるのも実際には難しいし…

ミサトは折り悪くアスカのシンクロテストの結果が芳しくなかったことに加え、度重なる酷薄な運命の荒波に一人孤独に晒されている状況を考え合わせるとファーストアプローチの役目を誰にするのかの判断、いやアスカ以外の選択肢が無いと分かっていながら悩んでいた。

作戦遂行に100%は望めないけど、被害管理は司令官たるものの務め…でも戦闘そのものとEvaの特性を引き出すことは意味が違う。やっぱり実績から考えてアスカしかあり得ない。とはいえ…あまりにも惨い状況にある…リツコだけを責める事は出来ない…あたし自身の責任でもある…こんな状態で…情けない…どう声をかけていいかも分からない…

ミサトの逡巡とは別にアスカはパイロットになって初めて恐怖を感じていた。それは昨日見た夢に今の状況が余りにも酷似していたこともあったが、やはり「ローレライ」の存在が大きかった。

これでシンジがファーストアプローチをかけると…最悪の結果になるっていうの…?

アスカは「恐怖」を感じている自分があまりにも情けなく、不甲斐なく感じていた。

もし…これで作戦をしくじることがあればアタシはその場で始末されるかもしれない…失敗は許されない…こんなプレッシャー何とも感じなかったアタシなのに…

アスカはちらっとレイの肩越しにシンジの方に視線だけを送った。

アタシはアンタに自分の心をあげてしまった…それはアタシの勝手だけど…こんな状況になってしまって…ローレライに支配されて…アタシは誰でもなくなってしまった…誰でも無いアタシになる前に…好きだったアンタ…

アスカは視線を再び正面に戻すと目を閉じた。

一人で生きるしかない事は分かってる…でも…まだどこかでアンタに…そんなアタシにだんだんムカついて来てる…早く出て行って欲しい…アタシの心から…アンタが…跡形もなく!

シンジは全く別のことを考えていた。シンジとアスカは利根の件でケンカして以来、お互いにまともに会話もしていなかった。

シンジにもアスカに対して悪いことをしたという思いは勿論あった。

しかし、アスカと加持が同棲していたというカミングアウトでシンジにとっても自分の居場所になりつつあった葛城家がバラバラになり、また自分に対するアスカの態度が酷く身勝手なものに映っていた。

今のシンジはアスカに対する反発心の方が強かった。

勝手なんだ…悪いのはアスカの方だ…いつも僕のせいにして馬鹿にして!

ミサトは決断する。

「ファーストアプローチはアスカ!それじゃ全員位置について」

「分かったわ!」

「了解!」

こうして夫々の思いがバラバラのまま第12使徒戦の火蓋は切って落とされた。

アスカはレイともシンジとも目を合わせることなく足早にシミュレーションルームを去っていく。自分の横を一瞥もすることなく風を切って去っていくアスカをシンジは睨みつけていた…

 




アスカとシンジのオフェンスラインは第一戦闘速度でお互いにパレットガンを持って市街地での近距離戦に備えていた。

本部からの情報で第12使徒の巨大な球体があと少しでパレットガンの射程に入ることを確認する。

距離450に入ったところでいきなり撃っても効果が少ない…出来るだけアタシに引きつけないと…でも…

それが出来るのはバックアップに回るシンジがいてこそだった。

シンジが間髪入れずに援護射撃をすればそれだけ敵の注意を逸らすことが出来るためアスカがカウンター攻撃の標的になる可能性も低くすることが出来る。

二人の呼吸が重要と言えた。

シンジはアタシのバックアップをちゃんとしてくれるかしら…あれからアタシ達、全然口も聞いてない…まさか作戦中に意地悪して第二波攻撃をかけないなんてことは無いと思うけど…

シンジに対して初めて抱く不信感だった。

二人が初対面だった第6使徒戦の時ですらダブルエントリーだったとはいえこんな感情を抱いたことはなかった。

アスカがシンジに対して全幅の信頼を寄せるようになったのは第8使徒戦の時のシンジの咄嗟の行動があってからだった。あの判断は一部始終をつぶさに見ているからこそできることだった。

以来、アスカは今までシンジを使徒と戦っている時に振り返る様なことをしなかった。背中を預けていた。

まるで縋るかの様に。

アイツは…アタシを見てくれている…例えそれが戦いの時だけであったとしても…それだけでいい…一瞬だけでも全てがアタシのものになる…

そう信じていた。しかし、まるでロケットを引き千切った時にそんな気持ちもかなぐり捨ててしまったかの様に今日のアスカは不安に苛まれていた。

しくじるわけには行かない…頭に常に銃口を突きつけられているのと同じだ…怖い…アタシ…今日はずっと…怖いって思ってる…こんなの初めてだ…この上…アンタのせいで命まで奪われるのなんて…アンタがしくじってもアタシの責任になるかもって思うと…

アスカは思わず並行している初号機を睨み付ける。

足を引っ張られるのもゴメンだわ!こんな気持ち気取られたくない!特にバカシンジにはね!

アスカはシンジと交信する。

「シンジ!アンタしっかりアタシを援護してよね!ボーっとしてんじゃないわよ!わかってるの?」

ぶっきら棒な言い方に加えてアスカがバックアップの確認をわざわざしてくることがシンジには嫌味に聞こえた。

何だよ!今までバックアップの確認なんてしてきたこと無い癖に!腹立つなあ!

「ちぇっ、分かってるよ。そんなこと言われなくても…」

ややイラついたような声が耳に入り、シンジのむくれた表情が映し出される。シンジの表情を見てアスカはカチンと来る。

Was(なによそれ)?男の癖にむくれてるってわけ?イラつくわね…

「何よ、その顔!シンクロテストの結果がちょーっとよかったからっていい気になってんじゃないわよ、アンタ!」

アスカの甲高い声がシンジの神経を更に逆なでする。

「そんなわけ無いだろ!アスカこそ調子が悪いみたいだから使徒を甘く見るなよな!」

「なっ!何ですって!」

アスカはシンジから嫌味を初めて言われて思わずカッとなる。

「何よ、それ!アンタ、アタシのことをバカにしてるわけ?」

「アスカこそ僕を馬鹿にしてるじゃないか!自分は何なんだよ!加持さんとさあ!」

「うっ…くぅっ…」

アスカは思わず右手で自分の胸を押さえた。



アスカ…もういいんだ…一緒に農園に行こう…

加持さん…でも…アタシ…まだ戦ってる…しかも…ローレライが…



シンジから発令所のメンバーも聞いている一般回線で加持のことを仄めかされて胸にまるで何かを撃ち込まれた様な痛みが走る。

酷い…みんなが聞いてる前で…普通の女の子なら泣いてるわよ…こういう時って便利よね!どうせアタシはカワイげのない泣かない女よ!

アスカはレバーに戻した手に思わず力を込めた。アスカが反論しようとしたその時だった。発令所からミサトが二人の交信に割り込んできた。

「ちょっと!アスカ!シンジ君も!戦闘中にケンカなんかしないで!何考えてるのよ!」

ミサトの一喝で二人は静かになる。

「零号機、ポイント04を確保…」

二人の言い争いを聞いていた筈のレイが何事もなかったように交信してくる。その飄々とした対応にアスカはますますイライラを募らせた。

Damn (ちくしょう)!許さないわよ!シンジ!

アスカは心の中で毒づくとシンジと二人だけの回線を繋ぐ。

「シンジ…ちょっと他の回線切りなさいよ…」

第一発令所では日向がこの異変にすぐ気が付いた。

「あれ?初号機と弐号機の本部との回線が切れてホットラインが繋がりました」

「な、何ですって!こんな時に何考えてるのよ!」

ミサトは思わず発令所のデスクを拳で殴りつける。アスカとシンジはホットラインで会話を始めた。

「何だよ…アスカ…」

「みんなが聞いてる回線で…何で言うのよ…あんまりよ!」

「知らないよ!アスカが悪いんじゃないか!自分勝手もいい加減にしろよ!」

「アンタがアタシとキスしといて他の男のラブレターをアタシに渡してきたんじゃない!キスだけしといて後は知らないってわけ?アンタの方がよっぽど勝手じゃないのよ!それで加持さんに嫉妬でもしてるわけ?ばっかみたい!」

あれはアタシのファーストキスだったのに…

アスカは思わず喉元まででかかった言葉を飲み込んだ。

「アスカが先にしようって言い出したんじゃないか!僕からしたわけじゃないだろ!」

アスカは一瞬、シンジのこの言葉に絶句してしまう。

「アンタも…アタシからどこまで奪えば気が済むのよ…」

アスカは思わず戦闘中にも関わらずエントリープラグの中で自分の両肩を抱き締めた。

パレットガンが弐号機の足元に落ちる。主モニターでオフェンスラインの様子を見ていた発令所の一同はその信じられない光景に絶句する。

ミサトは口を半分以上開けていた。

「ば、バカな…」

戦闘配置中に…パレットガンを…あ…アスカ…あんた正気…?

「僕はアスカから何も取ってなんかいるもんか!いつもいつも変な言いがかりをつけないでよ!僕をバカにするな!」

アタシ…自分から泣きたいって思ったの初めてだ…アンタの中には自分しかいない…アタシの欠片すらないじゃない…アンタなんて大っきらい!アンタなんかどっかに行ってしまえばいいんだわ!

アスカは心の中で叫んでいた。


アタシって…やっぱバカ…気持ちも心も何も無かったアタシの初めてのキス…でも…

キッとアスカはシンジに鋭い視線を送る。

でも…これでアンタの気持ちがわかったわ…一刻も…一刻も早く出て行って!アタシから!

「ふん!いつも威勢だけはいいわよね!アンタって。そのくせ怖がりで何も出来ないくせに!Big Mouthもいい加減にしなさいよ。自分からアタシにキスも出来ない弱虫男!アンタみたいな情けない男にファーストアプローチなんか出来るもんですか!弱虫は引っ込んでなさいよ!Fuckface!」

アスカの弐号機は足元に落としていたパレットガンを荒々しく拾い上げて戦闘姿勢を再び取る。

「何だと!怖くなんか無いさ!アスカに出来るんなら僕にだって出来るよ!」

シンジは思わずレバーを拳で叩く。

「はん!どうだか!じゃあやれるものならやってみなさいよ!」

「いいとも!僕がお手本を見せてやるよ!」

「おやおや無理しちゃって!そんならお手並み拝見といくわ!後で泣き出しても知らないんだから!」

「アスカの力なんか必要ないよ!僕だけで仕留めてやるさ!だいたいファーストアプローチは男の仕事!」

二人は荒々しくホットラインを切って本部との回線を回復させる。

「弐号機…あ!初号機共に回線が回復…」

ミサトは日向の報告にもう無反応だった。発令所に重々しい空気が流れる。

発令所のミサトは全身に汗をかいているのが自分でも分かった。

あの子たち一体何考えてるのよ!アスカ!シンジ君も!今日のあんたたちは変よ!

ミサトはイライラしながら両腕を組んで発令所のモニターからエントリープラグ内の二人の様子を睨み付けていた。






Ep#06_(16) 完 / つづく

(改定履歴)
5th Mar, 2009 / 表現の修正
29th May, 2010 / ハイパーリンク先の修正
PR
ブログ内検索
カウンター
since 7th Nov. 2008
Copyright ©  -- der Erlkönig --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Material by White Board

powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]