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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第18部 12th Angel (Part-3)


(あらすじ)

レイは駆け出していた。黒いうねりになって弐号機に殺到する使徒から間一髪のところでアスカの危機を救う。ここまでミサトの作戦が瓦解したことはなかった。しかも初号機をまるごと喪失した事態は看過できなかった。
「すぐに緊急会議を招集するわ!リツコを呼んで来て!」

Gustav Holst - The Planets Op.32- Mars, the Bringer of War

※ 「Jupiter」の方が断然有名(特に2:55辺り)ですが、密かに「Mars(火星)」もかっこよくて個人的には好きな曲です。
(本文)

レイは駆け出していた。全てを振り払うかの様に…

精密スコープを装着した遠距離攻撃可能なライフルをかなぐり捨てていた。セオリー通りなら確保した位置をキープしながらライフルで援護射撃をするべきところだ。

どうして…どうして…わたしは走っているの…?何のために…命令違反…セオリーにも背を向けて…ただ…ひたすら…わたしは…走ってる…

「レイ!聞こえないのか!あんたまで…くそ!今日はどうなってんだ!!バカやろう!!」

まるで稲妻の様なミサトの叫び声が発令所に響き渡る。

一瞬、その場にいた全員が凍りついたが、すぐにキーボードを叩く音が聞こえ始める。隣にいた日向は思わずミサトの横顔を見た。

ミサトさん…こわっ…

ミサトのこめかみにはいくつも青筋が立っている。

これが本当の…かつて第三支部で…「女トール(Thor / 北欧神話の雷神)」と言われた…国連軍にも一目置かれているミサトさん…なのか…

ミサトの雷号は零号機のレイにも届いていた。しかし、速度が鈍ることはなかった。

F02通過…葛城三佐が怒っている…本気で怒っている…なのに…わたしは…言いつけを守らないといけないのに…

「零号機、F00に!そのまま弐号機に向かっています!そうか!も、もしかして…」

青葉が背後のミサトに告げる。

レイの目前には漆黒の湖が広がっていた。それは大きな黒いうねりの様になって弐号機に向かっている様にも見えた。

わたしは…会いたい…もう一度…セカンド…碇君が…まだ…

青葉の声に日向がハッとする。

「ミサトさん!レイちゃんは多分、アスカちゃんを…」

日向がミサトの制服の袖を引っ張った瞬間だった。


ガシーン!!


発令所に鈍い衝突音が響く。発令所の視線は一斉に主モニターに集中する。

零号機が弐号機を後ろから羽交い絞めにすると後方に引きずり始めるのが映し出されていた。その姿を見てミサトはレイの意図をようやく理解する。

「そ、そうか!レイ!あんた自分で考えてアスカを!確かにナイスアドリブだわ!」

使徒の黒い湖が弐号機のまさに足先に殺到した瞬間だった。際どいところでアスカは危機を脱する。

ミサトは今までとはまるで別人の様にレイの行動を前提に矢継ぎ早に指示を発令所に飛ばす。

「日向君!国連軍のマクダウェル准将(使徒迎撃部隊の国連軍総司令官)に支援要請!ポイント01までの退路確保を最優先!ヘリによる対地攻撃でレイを援護する!」

「り、了解!」

「青葉君は使徒の膨張行動解析を急いで!結果が出次第、国連軍の野営本部に情報を飛ばすこと!」

「しかし、使徒のデータは…」

ミサトはじろっと青葉を睨む。

「Evaによる防衛線が崩壊した今となっては次の第二派攻撃の方針がこっち(ネルフ)で立つまで、時間的猶予を確保する必要がある。国連地上部隊による包囲網を構築して少しでも使徒の進度を遅らせるのよ!使徒のデータが無いと地上部隊に無駄な損害が出かねない!急いで!!」

「わ、分かりました…」

ここまで言わないと動けない軍事組織があるなんてね…とんだお笑い種だわ…ある意味、今までの敵が使徒で幸運なのかもしれない…

「それからマヤは使徒本体とあの囮の詳細な解析を急いで!特にコアの位置を突き止めたい!出来れば…初号機の詳細な位置が…欲しい…」

「わかりました!」

ミサトは持っていたレシーバーを投げて日向に返した。

さてと!こっからが腕の見せ所よ!戦局が絶不調の時こそ迅速な対応を見せなければ!モタモタしてるとうち(ネルフ)が実は実戦オンチってことを外(国連軍など)に気取られかねない…素人丸出しのPlan B(次善策)だけは世間に出せない…

「セカンド、撤収命令よ。答えて」

レイの声が発令所にも聞こえてきた。アスカからやはり答えは帰ってこない。

その声でミサトは再び我に返る。弐号機を引き摺る重い音が断続的に響いてくる。ミサトは再び日向からレシーバーを引っ手繰る。

「アスカ!!聞いてんのか!?このバカ!!呆けてないで返事しろ!!」

「セカンド」

ミサトとレイが交互にアスカに問いかける。

「レイ…シンジが…」

弱々しいアスカの声がようやく発令所に届いた。

な、なに!さっき一瞬だけど…確かに名前を呼んだ…アスカがレイを確かに名前で呼んだわ…

ミサトは極めて短いやり取りだったが強烈な違和感を覚えていた。発令所には次々と関係部局からの連絡が飛び込んで来ていて誰も気が付いていなかった。

「急いで…セカンド…ここはもう危険だわ」

対照的に極めて冷静なレイの声だった。





弐号機がようやく自分で撤収を開始した。

零号機が弐号機を庇う様にして殿を務めている。レイは近くにあった弐号機のパレットガンを掴むと尚も拡張を続ける使徒目掛けて立て続けに撃ち込んだ。


ガオン!ガオン!ガオン!ガオン!


しかし、まるで沼に石を投げ込むかの様に反応が返ってこない。

「普通の攻撃では…ダメージを与えられない…この使徒のATフィールドは…」

「レイ!もう十分よ!直ちに帰還して!」

「でも…碇君がまだ…」

「命令よ…同じことを二度言わさないで…」

「了解…」

零号機と弐号機はほとんど並走で拡張を続ける使徒から逃れていた。使徒が接近するごとに付近のビルはまるで沼地に突き立てた角柱の様に傾きながら黒い海に沈んでいく。

しばらくすると使徒はそれ以上の動きを見せなくなり零号機と弐号機は一番近くにあった第17番ゲートのあるビルまでたどり着く。

その模様を見たとき発令所に安堵の空気が流れた。

「着いたわ…セカンド…」

「…」

「先に降りて…」

「分かった…」

弐号機が射出口の縦型カタパルトに足をかける。

「ねえ…」

「何?セカンド…」

レイはアスカに背を向けたままパレットガンを構えていた。アスカが口を開いた瞬間…


ガコーン!!


弐号機を乗せたカタパルトはジオフロントに向かって降下していった。特殊装甲の階層を通過する度に光の帯がアスカの上をまるでスキャナーの様に下から上に向かって移動していく。

「…ありがとう…」

アスカの声は誰にも届かなかった。





残された現実は惨憺たる有様だった。

使徒戦始まって以来、ここまで完全にミサトの作戦が瓦解したのは初めてだった。

戦士として専門訓練を受けている筈のアスカが戦場で茫然自失状態になるとは、いくらシンクロテストの不調や家族間でのいざこざがあったとしても普通では考えられない話だった。

そして作戦を公然と無視したシンジの行動。ファーストアプローチの初弾を放った後のシンジの行動はアスカに比べてやはり緩慢で隙が多かった。それは訓練を受けていない差であって言っても仕方が無いことだ。

やはり総合的に考えてアスカのことが一番ミサトには信じられなかったし納得も出来ない。

更にミサトの頭に重くのしかかっているのは初号機喪失、という看過出来ない事態だった。

現在のネルフの作戦運営は3体のEvaが顕在であることが前提で、一体でも戦列を離れれば使徒に対する戦力劣化が著しいという事情は確かにあったが…初号機は可能な限り温存しなければならない、というネルフ本部の方針があった。

それを丸ごと喪失した事態は極めて深刻だった。そしてそれはGrade SにカテゴリーされるIssueでもあった。

ミサトは次々と作戦部に指示を飛ばしていたが時間が経つ毎に自分の立場の危うさを感じずにはいられなかった。

「零号機、及び弐号機の17番ゲートからの帰還を確認しました…」

青葉が無言のミサトに少し気を使いつつ告げた。

「そう…じゃあすぐに対策会議を招集するわ。マヤ、リツコを呼んで来て頂戴!日向君、うちの連中(作戦部の1課から5課)を総動員して国連軍の野営本部に合同の対策本部を設置する準備を進めて!」

「わ、分かりました!」

日向とマヤが声を揃えて返事をする。その姿に一瞥もなくミサトは肩を怒らせながら足早に発令所を去って行った。





「ざけんじゃねーぞ!!」

ガーン!!

ミサトは廊下に置いてあった金属製のごみ箱を思いっきり蹴っていた。

発令所で我慢に我慢を重ねていた鬱憤が一人になった途端に一気に爆発していた。レイとアスカがシミュレーションルームに戻ってくる時間ももどかしい。居ても立ってもいられずエントリーエリアにまっすぐ向かっていた。

ミサトは前室をスルーしてエントリープラグにアクセスするハッチがある通路をブーツの踵を荒々しく鳴らしながら歩いて行く。

何があったかは知らねえが…

ミサトはアスカとシンジが本部との回線を切った時に交わした会話のことが気になっていた。

あそこでアプローチとバックアップを交代したに違いない!あんたには気の毒したし、確かに色々あったから同情はするけど…でもそれを差っぴいてもこの事は絶対に許さん!!

ミサトはアスカを拳で殴りつけるつもりだった。

ミサトが荒々しくエアシャワーの横を通り抜けるとミサトの目に帰還したレイとアスカの姿が飛び込んできた。が、そこにはミサトの想像を超える光景があった。

なっ…何なんだ…これ…

エントリープラグから出てきたアスカはレイに抱えられて辛うじて立っていた。

あ、アスカ…あんたがレイの手を借りるなんて…ちょっとどういうことよ!

ミサトは真っ先にアスカの元に駆け寄る。

「アスカ!レイ!」

ミサトはアスカの正面まで来る。レイの肩を借りているアスカはミサトと目を合わせようともしなかった。

体が小刻みに震えている。まるで何かに怯える様に・・・死線を何度と無く潜り抜けてきたはずのアスカのこの姿がミサトにはまるで信じられなかった。

これが…あたしの…アスカ…なんて変わり果てた…

「ミサト…ごめん…アタシがバカだった…アタシがシンジを…沈めてしまった…」

アスカ…そんな顔されたらもう殴れねーじゃん…

ミサトにある感情がこみ上げてきた。そして何も言わずただLCLで濡れたアスカを抱きしめた。

「アスカ・・・もう大丈夫…もう大丈夫だから…」

傍らには心配そうに二人を見つめるレイの姿があった。

「碇君・・・」

レイはプラグスーツのポケットに手を伸ばしていた。

「レイ…」

「はい…葛城三佐…」

ポケットに入れていた手をパッと外に出す。ミサトはアスカを抱きしめたままレイの方を見ると小さく頷いた。

「ナイス判断だった…あんた…今日は冴えてたわ…」

「…いえ…わたしは…ただ…」

碇君が…まだ…

「あんた、悪いんだけどさ。アスカを医療部に連れて行ってくんない?処置が終わったら二人ともシミュレーションルームに集合よ」

ミサトは言いかけていたレイを遮った。

「…分かりました…三佐…」

アスカはレイに促されてゆっくりと立ち上がると無機質な廊下を歩いていく。ポケットに入れているミサトの携帯は休むことなく鳴り続けている。

「世間並に…気持ちを言い合う時間もないとはね…あたしもよくよく業が深いねえ…もしもし!」

ため息をつくと遠ざかる二人の少女の後ろ姿をミサトはじっと目だけで見送っていた。





Ep#06_(18) 完 / つづく
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