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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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番外編 ドイツ新生活補完計画 (Part-4)


プロのトラベラー並みに普通のベルリンにあるペンションで
一泊することになったゲンドウ。
朝目覚めるとそこには…
(本文)


ゲンドウがふと目を覚ますとベッドの傍らにハニーブラウンの長い髪をひと束に括った小学校低学年くらいの女の子が立っていた。そしてしげしげとゲンドウの顔を覗き込んでいる。
 
何なんだ…これは…ここは天国か…?お前は…天使…なのか…?
 
ゲンドウはだんだん意識がはっきりしてくる。ブライドの隙間から薄らと光が差し込んでいるのが見えた。部屋の片隅に置かれた木製のシングルベッドに日本の掛け布団に比べると半分程度の薄さしかないベッドクロス。
 
いや…ペンションの部屋ではないか…そうか…思い出したぞ…俺は昨日、イェーゲンの知り合いの家に泊まったんだ…部屋に着くなり爆睡したがちゃんとカギは内側からかけたぞ…すると…このガキは…
 
ガバッと上体を起こす。
 
「お、おい…お前…いったいどうやってセキュリティーを破って入って来たんだ…」
 
ゲンドウは少女の細い腕を掴もうとしたがひょいっと少女は避けるとゲンドウから離れる。そしてお腹を抱えてケタケタと笑い始めた。
 
「お、お前…鬼ごっこではないぞ…」
 
ゲンドウは寝ぼけた目を擦りながらベッドの横のナイトテーブルの上に手を伸ばす。度入りのサングラスを慌ててかける。
 
すると少女の背後に思いっきり全開に開け放たれた部屋のドアが見える。一般の家と変わらない白いタイル張りの廊下が見え、ほかのペンションの客らしい老夫婦も物珍しそうにゲンドウの寝顔を遠巻きに覗いていた。
 
「き、貴様…私のプライベートをあからさまに公開しおって…何て開放的なセキュリティーなんだ!ん?と、ということは…お前はここの子か?」
 
少女は涙を流しながら笑っている。
 
「何がそんなに可笑しいんだ!それからそこの老人ども!!何をジロジロ見ておるのだ!拝観料を払え!」
 
「Morgen. Hahaha」
 
老夫婦はゲンドウに手を振るとゆっくりした足取りで豪快な笑い声をあげながらその場を離れて行く。
 
「く、貴様ら!タダ見する気か!待て!」
 
ゲンドウがベッドからとび起きて後を追いかけようとすると少女はいきなり足元に置いていたプラスティックのトレーをゲンドウに突き出して進路を阻んだ。
 
「うわっ!お、お前…いきなり奇襲とは卑怯な!ん?な、何だこれは…」
 
「Morgen!das Fruehstueck!(おはよ!朝食よ!)」
 
「な、何?」
 
「auch Fuehstueck!Esse!(だから朝食だってば!食べなさい!)」
 
少女はトレーを更にゲンドウに向けて突き出す。反射的にゲンドウは片膝をついてトレーを少女から受け取る。
 
「OK! So?(OK!それから?)」
 
少女は当然と言う様な顔つきで小さな右手をゲンドウに突き出す。
 
「ん?何だそれは?」
 
少女はまるでお駄賃を強請っている様に見えた。
 
「ま、まさか…貴様…こんなしょぼいルームサービスでチップを要求しているのか…?」
 
少女はゲンドウのTip(チップ)という言葉だけは認識した様で片方の手を腰に当てると右手をヒラヒラさせる。
 
「Ja!Natuerlich!reichlich Trinkgeld, Bitte!(そうよ!そんなの当然じゃん!チップは弾んでね!)」
 
「な、何てガキだ…」
 
ゲンドウはトレーをベッドの向こう側にあるテーブルに置くと壁にかけていたカシミヤのコートから財布を取り出す。そして50セント(ユーロの補助単位。1ユーロ=100セント)を少女に渡す。
 
「ほれ…」
 
すると少女はいきなり頬を膨らませると円らな青い瞳を怒らせてゲンドウのトランクスのすそを引っ張り始めた。
 
「Nein!(こんなのいや!)」
 
「う、うわー!バカ者!貴様!なんて事をするんだ!」
 
「Nein!!(いや!!)」
 
ゲンドウは慌ててトランクスを掴んで少女に対抗するが今度は少女が更に全体重をかけてトランクスにぶら下がり始めた。
 
「こ、こいつ!!なんて強情なんだ!ゴムが!ゴムが伸びるだろうが!わかった!わかった!俺が悪かった!!ほれ!!」
 
ゲンドウは更にチップを追加する。それを見た少女は途端に目を輝かせてパッと手を離す。そしてにっこりほほ笑むとゲンドウに投げキッスをした。
 
「Danke sehr!Lippe!(どうもありがと!チュッ!)」
 
「全く何てガキだ…変なところでマセおって…」
 
忌々しそうに少女の後ろ姿を見送る。ゲンドウがふと財布の中身を確認すると2ユーロの硬貨がないことに気が付いた。
 
「し、しまった!!おい!!今のは無しだ!!間違いだ!!」
 
しかし、少女の姿はもうどこにもなかった。ゲンドウは部屋に戻るとドアを荒々しく閉めて鍵を厳重にかける。
 
「おのれ…へなちょこルームサービスの押し売りの挙げ句に…器物損壊…天使どころかグレムリンではないか!」
 
ゲンドウはゴムの切れたトランクスを脱ぎ捨てると新しいものに履き替えた。スーツケースからジーンズを取り出して穿くと少女が持ってきたトレーの前に座った。
 
コーヒーはこぼれてソーサーの上に黒い水たまりを作り、ワンプレートの朝食は半分がすでに皿から滑落していた。空の小さな籠にはおそらくパンが入っていたのだろう。パンは滑落したスクランブルエッグの中にめり込んでいる。
 
ゲンドウはため息をつくとパンをスクランブルエッグの中から取り出した。
 
「あのバカ娘め…ほとんどこぼれておるではないか…こんな重いものを一人で無理して運んで来おって…貴様の超過勤務に免じて今回だけは…許してやる…」
 
 
 
 
 
【教訓その4】
質の高いサービスがゼロ円(乃至は低料金)で受けられることは日本が世界に誇るべき幸福であり、お客が神様なのは世界広しと言えども日本だけである。郷に入っては郷に従うことが最もヨーロッパ生活でストレスを生まない唯一にして最善の方法である。
 
 
 
 
 
 
 
 番外編 ドイツ新生活補完計画 (Part-4) 完 / つづく
 
 
 
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