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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第11部 The eve of the night 血戦前夜 (Part-4)


(あらすじ)

シンジはリニア駅から松代を目指す。シンジが松代の手前まで来た時、突然、リニアがスローダウンを始める。
「89発令って…何なんだろう…」
シンジの独り言にさらっと答える声が聞こえて来た。加持リョウジだった。
「いよ、シンジ君。まさか葛城のヤツのお使い…じゃあないだろ?」
「加持さん…」
(本文)


シンジが第三東京市駅でリニアの自由席切符を購入した時、構内の時計は午後3時を回ったところだった。

「後、15分か…」

平日の午後にも関わらず普段よりも人影が少なかった。大きな荷物を抱えた子供連れの母親の姿が目に付く。

「PSI(Post Second Inpact)疎開」

最近、マスコミ各社が多用する言葉だった。第三東京市への転入は一進一退を続けていたがレリエルとの戦いを境に遂に転出がそれを上回るようになっていた。

シンジは切符を現金で払うと券売機の前を後にした。15時15分発第二東京市行きリニアが止まるプラットフォームに向かって歩き始める。
 




ミサトは松代実験場にいる周防を電話口に呼び出して作戦部内で緊急会議を行っていた。

「って事は…実験場がヤバイって事か?ミサちゃんよ」

「やばいってもんじゃないわね…これはもう戦争って言ってもいい…」

「戦争って…そんなオーバーな…」

日向が思わずミサトの隣で呟いた。ミサトはキッと日向を睨む。

「オーバーじゃない!!あたしはマジだ!!」

「す、すみません…」

ミサトの剣幕に日向はシュンとなる。

電話会議システムの向こう側で周防の低い声が聞こえてくる。

「でも…具体的にどうするよ?仮に事がおっぱじまったとしてよ…哀しいかな、俺たちに対抗手段はないぜ?」

「いずれにしても本日の16時を持って松代にNv89を発令するわ。(作戦)本部長名で既に日本政府に通告したから。これでまず第二実験場の周囲に防衛線を張り巡らせる。近づくものは誰であれ容赦なく即射殺も可能になるしね。そのために89発令と同時に第二種警戒態勢に移行する言質を司令から取り付けてある」

日向は先の会議で瞬時にここまで考えていたミサトに感心する。

「89?ミサちゃん、キュウマル(Nv90)の間違いじゃないのか?」

「いや、スッサン。あえてあたしが89を会議で通したんだよ」

「89を…マジでやる気だな…ミサちゃん…」

ネルフコード80番台は使徒が襲来した場合などに使用する「軍事作戦実施に伴う指定区域内における制限措置」に関する発令で89はその中でも特に強力な「ネルフ関係者以外の強制退去及び排他行動許可」を意味していた。つまりネルフが松代実験場の半径5km圏内を作戦(戦闘)区域に指定したことになる。

因みに周防のいうNv90は「軍事作戦」ではなく「(ネルフによる)通常行動における警戒措置」であり、80番台に比べて格段に規制が軽かった。

Nv80番台の発令はその対象は兎も角としてミサトの言う通り紛れもなく「戦争」という宣言だった。

「ミサちゃん…ブンヤ(新聞社などマスコミ各社)対策なら90で十分だが、何でここにいる国連軍まで退去させる様な89を?それなら国連軍との共同オペレーションのコードも…」

「それは…国連軍と言えども安心できないからよ。それに参号機の件に絡んで松代の事をリークした日本政府の対応も気になる。世界で最も極秘に行動出来る部隊が動くと致命的になるでしょ?警備に託(かこつ)けて部隊を展開する大義名分にするつもりかもしれない」

あの意味不明な国連軍の辞令の事を言ってるんだ…この人は…国連軍にも疑いの目を向けなければならないとなると…まさに孤立無援、絶海の孤島状態ってわけだ…僕たちは…

日向はいつになく神経を尖らせているミサトの横顔を見ていた。

「戦自か…確かに介入してくるとウザいな…」

周防の「戦自」という言葉に一同が絶句する。

戦自は国連軍とは異なり世界で唯一の主権国家直属の独自戦力であるため国連に対する報告義務がなかった。しかもValantine Council(但し特権は「静かなる者の政策」により現在凍結中)でもある日本政府が保有するだけにネルフにとっては最大の懸念材料でもあった。

ネルフの中で最も精強な作戦部の面々に緊張が走る。

「蛮勇は不要。己の弱さを正しく自覚して対応できる者こそ誠の勇者」

これがミサトの掲げる作戦部内における不動の掟だった。それだけに戦自が動いた場合のリスクは誰もが承知していた。

「対人攻撃を食らったら一溜まりもないあたし達はとりあえず合法的に結界を張り巡らせる必要がある。ネルフ関係者だけで実験場を固めた後、Evaで示威行動をとって相手にバカな気を起こさせない様にけん制する」

「しかし、葛城さん…松代市内に近づく人間を完全にシャットアウトすることが難しい以上、どうやって敵味方を区別しますか?」

作戦部の面々に混じって由良保安部長の姿があった。

「なんだ?由良の野郎がそこにいるのか?」

「いて悪かったな。どうでもいいけど周防。お前パチンコ屋で貸した1万円早く返せよ」

「わ、分かってるよ!」

部屋からかすかに笑いが漏れる。ミサトも釣られて笑みを作るがすぐに真顔に戻った。

「少々荒っぽいけど半径5キロの防衛線付近に近づくものは先制攻撃も辞さず、で行くわ。部隊が散開するとおしまいだからね」

ミサトの過激な発言に日向が驚く。

「そ、そんな事をして後で問題に…モガ…」

ミサトは右手を日向の口に押し付けて発言を遮った。

「某国が昔展開した作戦みたいに誤射で済ますわ。済まなければあたしが全責任を持つ」

由良が眉間に皺を寄せる。

「やっぱ穏やかじゃないですね、葛城さん…保安部が(警察機関の)機動隊と全ての幹線道路に検問を張って何人たりとも入れない様にする方がよくないですか?」

「その為には…特別警戒発令Nv-47が必要になるでしょ?だからそれはしない」

全員がミサトの発言の真意を図りかねて怪訝な顔つきをする。由良がそれを代弁する。

「どうしてです?葛城さんがその気なら僕はすぐに発令しますよ?」

「いや…そうじゃなくて…ネルフコードを使うとこちらの意図が相手に筒抜けになってしまう。それに、もし敵に明確に松代制圧の意思があるなら幹線道路を遮断しても手前からいち早く展開するだけだから検問は実質的に意味を成さない。それ位なら道路をあえて使わせてこちらの射程に入ったところで一網打尽にする方がマシってことよ」

「そこまで考えますか…でも葛城さんの懸念というか…敵とは何を想定しているんですか?やはり戦自ですか?」

ミサトは静かに頷いた。

「そうね…あたし達以外の全て…直近では一先ず日本政府…」

「我々以外の全て…ですか…確かにスパイ疑惑や意図的とも取れる官房長官発言など不穏な動きがあるのは確かですけどね…」

由良が腕を組んで思案顔になる。

「仮に日本政府や国連軍が敵だとして…何で松代を制圧する必要が?何の目的が…参号機の奪取ですか?」

「いや…参号機が目的なら空輸中を狙うわ…目的は恐らく松代のMAGI-0(バックアップ機)か、あるいはここ(ジオフロント)…」

「ネルフそのものの攻略…ということですか?」

ミサトは由良の声にゆっくりと頷いて見せた。

「声東撃西(東に声して西を撃つ/孫子三十六計の一つ)かもしれない。松代に目を向けさせておいてこちら(本部)に主力を投入してくるってことも考えられる…いずれにしても敵の攻撃を誘発させる何かをうち(ネルフ)が抱えてることは間違いない…それが何なのかが分かれば作戦も立てやすいけど仕方がない…頭が悪いけど2方面作戦を取る。初号機と第二、第三部隊をジオフロントに配置して残りは全て松代に投入する」

「しかし…」

その場にいた全員が言葉を失う。

ミサトも自分の懸念がロジックではなく「女の勘」から来ているだけに全員を納得させる材料を欠いていた。絆だけが頼りの会議運営はミサトとしても不本意だった。

ミサトは目を閉じる。

ダメか…でも…堪らなく不安だ…あたし自身が自分を信じていないかもしれない…あたしは正しい判断をしているのか…

ミサトが諦めかけた時だった。

電話会議システムのスピーカから周防の声が聞こえて来る。

「おいおい…今のは命令じゃねえのかよ?今まで俺たちの大将の読みが外れた事はねえだろ?みんな何黙ってんだよ。返事がねえぞ」

「スッさん…」

「了解。僕は保安部員全員に第二種警戒態勢に備えて装備を改めさせます」

由良がゆっくりと立ち上がる。

「了解です、ミサトさん。すぐに部隊配置を開始します」

日向も立ち上がる。そして次々にその場にいた者が大きな返事と共に立ち上がっていく。

「みんな…ありがとう…」

ミサトは作戦部と保安部の面々を見渡す。全員が頷いていた。

「よし!この時間を持って松代及び本部防衛作戦を開始する!総員、配置に付け!」

「了解!」

時計の針は16時を回ろうとしていた。
 





シンジはリニアの車窓から流れる景色を見ていた。すると突然、ガコンという振動と共にリニアがスピードを落していく。

「な、何だ…」

「え?もしかして事故?」

自由席車両の乗客たちは突然のスローダウンを訝しがる。全員がざわつき始めていた。


お客様にお知らせします。ただ今、特務機関ネルフより松代市内に第89発令が宣言されました。これ伴いまして松代市内への進入は制限され、特務機関ネルフ及び日本政府内務省の設置する検問によるチェックを受けなければなりません。この列車は徐行運転で松代駅に入ります。お急ぎのところをお客様には大変ご不便をおかけしますが何卒ご理解とご協力をお願い申し上げます。


「何だよ…またネルフかよ!ったく…冗談じゃないよ…」

シンジの近くに座っていた中年のサラリーマン風の男性が舌打ちする。シンジは思わず身体を竦める。

「それにしても何なんだろ…89発令って…」

シンジの独り言に呼応するように後ろから男の声が聞こえて来た。

「ネルフコード第89発令。軍事作戦実施に伴う指定区域内における制限措置の一種でネルフ関係者以外の強制退去及び排他行動を可能にする…」

「えっ?だ、誰ですか?」

シンジが慌てて後ろの座席を覗き見ると両腕を頭の後ろに組んだ加持が座っていた。シンジの顔を見ると加持はにやっと口元に笑みを浮かべる。

「か、加持さん…どうして…」

「いよ!シンジ君、意外な所で会うな。どうしたんだい?まさか松代まで葛城のヤツのお使いじゃないんだろ?」

「…」

シンジは思わず加持から目を逸らす。気まずそうにしているシンジの様子を見ていた加持は愉快そうに再び笑う。

「よかったら隣に座らないか?」

シンジは思案顔になる。

素直に従ってもいいんだろうか…まさか僕を連れ戻しに来たわけじゃ…ないよな…だって加持さんは…

意を決したか様にシンジは力強く頷くとリュックサックを持って加持の隣に移動してきた。

「久し振りだね、シンジ君。この前まで入院していたらしいけど…もう大丈夫なのかい?」

何気ない加持の言葉だったがシンジは少し驚いたような顔をする。

どうして…加持さんが僕の入院の事を…

「ええ・・・お陰さまで…」

ぎこちなく返事を返す。

「そうか、そりゃよかったな。それにしてもお姫様の悪戯で散々な目にあって大変だったね。でも悪気はなかったと思うから許してくれると嬉しいな」

「悪気も何も…悪かったのは…僕の方ですから気にしていません…」

シンジは顔を曇らせていく。

加持さんは…ネルフを追放された筈だ…その後で僕たちはレリエルと戦ったのに…何故…入院の事やアスカのことまで知ってるんだ…あやしい…ミサトさんも連絡が付かないと言っていたのに…ネルフに情報提供者がいるのか…

「一人で旅行かい?」

加持の声にシンジはハッとする。

「加持さんこそ…どうして…」

「そうだな…新しい高原の花を育てたいと思ってね…ちょっとこっちの方に足を伸ばしたってわけさ…」

途端にシンジの顔が険しくなる。

僕を子ども扱いして…適当にはぐらかす気なのか…根掘り葉掘り僕の事ばかり…不思議な人だったけどネルフの人じゃなくなると…替えって不気味だ…でもそれ以上に…ムカつく…

「からかわないで下さい…」

シンジの目に少し非難の色があるのを見て取ると加持は少し居住まいを正してシンジの方を見た。

「すまん…俺がネルフをクビになったのは知ってるんだろ?」

「ええ…綾波から聞きましたから」

ミサトの名前を予想していた加持はレイの名前を聞いて少し驚いた様な顔をしたがすぐに顔を綻ばせた。

「参ったな…レイちゃんまで知ってるのか…失業者ってのはなんか格好が付かないな…ははは」

加持は愉快そうに笑うとペットボトルのお茶を一口含んだ。

「加持さん…スパイだったんですか?」

「どうしてそう思うんだい?」

顔色一つ変えることなく加持はペットボトルを目の前のドリンクホルダーに戻す。

「そんな噂が流れてたから…」

「ははは。そんなカッコいいものじゃないな…ただの新聞記者さ…」

「新聞…記者…ですか…?」

シンジは加持の言葉に怪訝な顔つきをする。

「ああ…自分の好奇心に忠実なだけ…かな…」

やっぱりムカつく…僕を煙に巻くような事ばかり言って…大人って…

シンジは大きなため息をつくとプイッと加持から視線を正面に向ける。

「そんな…そんな下らない理由で…加持さんはミサトさんやアスカを…悲しませて…何が楽しいんですか?」

「え?俺が?葛城を?」

加持はシンジの言葉に鋭く反応する。顔は笑っていたものの目は笑っていない。

しまった…つい…腹が立って余計な事を…

「あ、いや…その…」

シンジの狼狽を加持は見逃さなかった。

「葛城やアスカが悲しんでいたのかい?」

「それは…」



あんたってバカよ…ホントにバカだわ…

ミサトさん…僕は…あの時…どう慰めていいのか…分からなかった…

今のあたしに出来る事は…

止めてよ!ミサトさん!

ごめん…

僕はあの時…どうすればよかったのか…分からなかった…

こんな時だっていうのに…女の子にまだ頼ってるの?

もう死にたい…

何馬鹿なことを言ってるの!しっかり生きて!それから死になさい!




バカシンジの癖に!何言ってるのよ!

だから加持さんは死んじゃったんだってば!

うそ…うそよ…そんなのうそに決まってるわ…

ホントだよ!

加持さん…アタシ…汚されちゃった…どうしよう…汚されちゃったよ…ううう…

アスカ…

こっちに来ないで!あんな女に助けられるなんて死んだ方がマシだったわ!

でも…

アンタなんか大っ嫌い!嫌い!嫌い!みんな大っ嫌い!




僕は面倒臭いって思ったんだ…君の気持ちを考える事が出来なかった…ただ…義務的に気遣いの言葉をかけただけ…そして…自分のためだけに君に縋ってしまった…そして…君はいなくなってしまった…

「悲しませたのは結局…僕なのか…加持さんじゃ…ない…」

「…シンジ君…これ…よかったら使うかい?」

加持はそっとシンジの目の前に真っ白なハンカチを差し出す。

「えっ?どうして…」

「よっぽど…辛い事があったんだね…それが俺のせいならスマン…」

加持の言葉に首を傾げていたがシンジは思わずハッとする。涙が頬を伝って流れていた。

「え…あ!す、すみません…か、花粉症になったみたいで…この頃、何ていうか勝手に涙が…」

シンジは慌てて両腕で涙を拭う。加持はシンジの様子を目を細めて見ていたがやがて如才なくハンカチを仕舞う。

「ホント…すみません…何でもないんです…」

「分かってるよ…まだ…俺は二人を泣かしてない…だろ?」

シンジは無言で頷いた。

「それに…多分…同じ事が君にも言えるんだろうな…」

「…」

加持はシンジの肩に手を置いて優しく微笑みかける。

「お互い…あまり人を悲しませるような事は慎んだ方が良さそうだな…」

「あの…加持さん…実は…」

「シンジ君、その前にもうすぐ松代駅に着く…89発令が出た後だし、俺の予想が正しければ君も大手を振って検問を無事にくぐれないんだろ?」

シンジはコクッと小さく頷いていた。

「どうだい?ここは一つ共同戦線を張らないかい?」

加持はにっこり微笑んでシンジを見る。

「それに…これも多分だが…君の考えている事をしようとすれば一人じゃムリなんじゃないかなと思ってね…」

「加持さん…」

リニアはゆっくりと松代の町の中に入っていた。





Ep#07_(11) 完 / つづく
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