忍者ブログ
新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第17部 hail of bullets in the rain 鉄の雨、赤い涙 (Part-2)


(あらすじ)

長い沈黙を破ったのは加持の方だった。シンジの肩にそっと手を置く。
「未来を知ることは…どうやらアドバンテージとは限らないらしいな…一つだけ言わせて貰うと…大切なのは自分がどうするか…ということじゃないかな…今の君がもし単なる同情で行動するなら…それも結局は大切なものを壊してしまうことになる…かもしれないよ?まあ、自分の気持ちが何処にあるのか…それは常に自問していいと思うよ」
二人が実験場の地下エリアに入った途端、轟音と地響きが響いてきた。
「やれやれ…どうやらセンチになってる暇はないらしいな…おっぱじまったらしいが…それにしては…」
一方、地上では…

Notung - Siegfried / Richard Wagner

(本文)


明りのない地下通路の中ですすり泣く声だけが響いていた。

加持とシンジは冷たいコンクリートの上に腰を下ろして向き合っていた。加持は壁にもたれたまま静かに目を閉じていた。

作り話にしてはあまりに完成し過ぎている…とても中学生が思い付く様な話じゃない…だが…

加持はゆっくりと目を開けると膝を抱えて蹲っているシンジの姿を見る。

哀しいかな…言葉だけで判断出来ないというのも愚かな大人の世界…しかし、仮にシンジ君の話がTIP(サードインパクト)の本質ならば…世の中は大きくそれを誤解しているし…逆に俺の危惧はますます確信に変わっていく…

「さてと…少し休みすぎたかな…」

先に沈黙を破ったのは加持の方だった。

加持はゆっくりと立ち上がるとシンジの方に近づいていく。そしてシンジの前で片膝を付くとそっとシンジの肩に手を置いた。

「シンジ君…ありがとう…よく話してくれたね…」

加持の言葉にシンジが顔を上げる。涙で黒い円らな瞳が揺れていた。

「人間はよく未来の事が分かればどんなにいいだろうと考えるものなんだが…シンジ君の話を聞いているとどうやらそれはアドバンテージとは限らないみたいだな…一つだけ…言わせて貰ってもいいかい?」

加持は逸(はや)る気持ちを抑えてシンジに微笑みかける。シンジは加持の言葉にゆっくりと頷く。

「大切なことはもう一人のシンジ君が言っていた通り…自分がどうするか…ということじゃないかな?今の君がもし単に同情で行動するなら…それも結局は大切なものを壊してしまうことになるかもしれないよ?まあ…君に限った話じゃないが…」

加持はゆっくりと立ち上がる。それを見てシンジもおずおずと立ち上がる。

「俺にも言えることだが…シンジ君…君は自分の気持ちが何処にあるのか…それは常に自問していいと思う…」

「加持さん…僕は…」

シンジは加持に促されて再び歩き始めた。加持はチラッと左腕の時計を見ると少し歩く速度を速めていた。

「君やアスカの様な子供が宿命を意識するのは如何にも早すぎる…それは俺たち大人の罪深さってやつだろうな…とにかく…急ごう…宿命はともかく…運命の方は待ってくれない」

「はい…」

加持はマグライトの明りに照らし出されるシンジの顔を再び横目で見た。

すまない、シンジ君…二枚舌の様だが俺にはまだ君の話が100%信じられない…だが…少なくとも君が参号機を目指す理由は分かった…嘘か真か…夢か現か…参号機を起動すれば使徒になる…それを防げば君の友達に危害を加えないで済む…確かにそれは参号機を目指す立派な理由だ…但し…

再び加持は視線を正面に戻す。二人の正面にはすっかり赤く錆びた鉄製の重厚な扉が現れていた。

それを信じるか、どうかは…MAGIの結果を待ってからだ…自分でも可笑しいが君の口からでまかせである事を半分は望む俺がいて…真実と信じる半分の俺がいる…

「どうやら…ネズミに齧られる前に着いたみたいだな…」

「これが…実験場の地下と通じる入り口なんですか…」

「ああ…そうだ…俺たちはもう第二実験場の真下にいるってわけだ…」

加持は黒いリュックの中から小さな工具箱を取り出すと手馴れた手つきで開錠作業を始めた。

怒られるかもしれないが…俺の好奇心の虫も当面は収まりそうにない…
 





同じ頃、新横田基地の司令部は騒然となっていた。

ヘリパイロットからの緊急電で戦自所属のAH-64が全て撃墜されたという事実を知ったマクダウェル少将は驚きを隠さなかった。

「バカな!戦自(戦略自衛隊)といきなり交戦とは!ミサトは何を考えてるんだ!」

「いや…これはミサトの指示ではあるまい…」

「え?」

マクダウェルと司令部のオペレーターは声の方を振り返る。

サー・シュワルツェンベック中将が落ち着きなく動き回るマクダウェル少将の後ろでゆったりと座ってコーヒーを飲んでいた。

「どういう事でしょうか…?差し支えなければその理由を小官にご教示願えませんか?中将」

戦略自衛隊に対して縄張り意識が強い国連軍(特にアメリカ軍系将校)は弐号機空輸ルート上に戦自のAH-64編隊が進出すると同程度の部隊を差し向けていた。

このアメリカ親父がアスカの一度目の警告であっさりとルートを外す様に指示した事は明らかにネルフに対して含む所が無い事を示して余りあった。

それだけにマクダウェルは目の前で繰り広げられている事に少なからず混乱してもいた。

ミサトはこの前(レリエル戦で)の我が軍との共同オペレーションで意味の分からない懲罰を受けた…だから独自作戦に拘って89発令をかけたんだろう…ミサトが国連軍と一線を画するというならば…それはそれで俺は構わん…だが…戦自の介入といい…さっきの交戦といい…俺の知らないところで何かが動いているんじゃねえのか…

嗅覚だけで生きているマクダウェルは突然現れたシュワルツェンベックに対しても普通ではない匂いを嗅ぎつけていた。

アフガンからここ(新横田)まで何千キロあると思ってるんだ…ミサトに会いに来ただけだと…人を食ったような言い方じゃねえかよ…Eva連隊創設に関連した動きがあるのかも知れん…辞令は送れと言うから送ったものの…肝心のミサトからは未だに統帥本部に「拝受」の返事が来てない…

マクダウェルはじっとシュワルツェンベックの次の言葉を待っていた。

返事の催促にしてはちょっと大袈裟じゃねえか…コイツは…Shotgun Wedding(米俗語 / デキ婚のこと。妊娠した娘の父親がショットガン片手に相手の男の家に押しかけて責任を取らせた逸話がその由来とされる)じゃあるまいしよ…

シュワルツェンベックは白地に黒色でUNFとロゴが入っているマグカップを弄びながらゆっくりと口を開く。

「ああ見えてミサトは現実主義の指揮官だからな…ミサトならばまず戦いを回避しようとする。自陣営の戦力が整っていないのにいきなり戦端を開くとは考え難い。直進に拘らず迂回の指示をまずパイロットに出したと見るべきだ。だが…パイロット側が何らかの理由でそれを拒否した…」

「まさか…パイロット如きが司令官の指示を…」

マクダウェルは怪訝な表情を浮かべている。

「閫(こん)外の将は君命を聞かず、という言葉がある。シビリアンの現代に於いてはもちろん禁忌事項だが戦場では時として最良の判断になる場合もある。まあ往々にして近視眼的という嫌いはあるがな。さっきの交信内容(国連軍に伝わっているのはアスカの警告のみ)でも分かるがミッション遂行を第一に考えて合理的に行動して無駄がない。弐号機のパイロットが松代に急行するのに拘ったのだろう…パイロットはあのRote Walküreだからな…」

一瞬、シュワルツェンベックの目は鋭くなる。

そんな事も分からないバカじゃない筈だ…恐らく…それに足る何かを発見したという事なのか…

「ロ…失礼ですがそれは?」

「ローテヴァルキューレー。ドイツ語だよ…英語ならばRed Valkyrie(緋色の戦乙女)だ…少将はニーベルングの指輪(ワグナー作曲の代表的オペラ)を知らんのかね?」

「お恥かしながら…それはゲームとか映画でしょうか…」

マクダウェルの言葉を聞くとシュワルツェンベックは僅かに口元に笑みを浮かべる。

「かつて…キリスト教化される前…古代ゲルマン民族の間では北欧神話(エッダ)が信じられていた。その神話をモチーフにしたワーグナーのオペラがそれだよ…ブリュンヒルド(Brunhild)という主神オーディーンの娘はヴァルキューレだったが、父の命に背いたために怒りを買って人間に落とされてしまった。その時に死をも恐れぬ男と結婚させられるという宿命を与えられた…逆を言えばその様な勇者が現れるまで真っ赤に燃え盛る焔で眠りにつかされ、まあ、体よく封じ込められたという訳だが…そこに現れる筈のなかった勇者ジークフリードが魔剣グラムを携えて現れてしまったため二人は禁断の恋に落ち、やがてお互いに身を滅ぼす…という筋立てだが…」

ぽかんと口を開けたマクダウェルに気が付いたシュワルツェンベックはそれを見て笑い声を上げる。

「ははは。これは失礼した。要はそのブリュンヒルドにあやかって弐号機パイロットに与えられた愛称が緋色の戦乙女というわけだよ。私も何度かN-30(ドイツ某所)で実際に会った事があるが、可愛い顔をして敵にまるで容赦がない。荒くれ共が集う我が軍でもそのギャップから戦慄する者が少なくなかった…まあそれはどうでもいいことだが…」

シュワルツェンベックはコーヒーを飲み干すとスッと立ち上がる。

「中将どちらへ?」

「我が軍も松代に向かう。恐らく高遠方面の支援が必要になるだろう。友軍(ミサト)を見殺しには出来ん」

「高…?ああ、実験場の南側ですか?し、しかし、その方面は山道しかありませんし…第一、中将は今着いたばかりではないですか?」

「戦局に即応出来ない軍隊に存在する価値などない」

そういい残すとシュワルツェンベックは踵を返した。驚いたマクダウェルは追いすがる様にその背中に言葉を投げかける。

「お、お待ち下さい!中将!ここはValentine Councilでもある日本ですぞ!無政府状態の紛争地域とは事情が違います!(国連軍の)日本派遣軍の正規部隊以外が寄港するだけでナーバスになるこの国でその…到着したての部隊といいますか…いきなり出撃というのは…」

シュワルツェンベックは足を止めると慌てているマクダウェルに視線を送る。

「少将…戦自がネルフの行動に介入しているのだ…同様の理屈で我が軍が動くことに一体どんな不都合があるのかね?日本政府(基本的に外務省と国防省の事を指す)にはそう説明すればよかろう」

「し、しかし!この国はロジックではなくてどこか観念といいますか…その…情緒的な政治判断が優先されるので…その…非常に複雑でして…」

「少将。君の今までの苦労と努力は尊重しよう。だが、万人が納得するのを待っていては国家だけではない…人類が滅びる場合もある…自ら信ずる道を進む勇気が時として大切になる…その結果もたらされる破滅なら私は甘んじてそれを受けよう…その覚悟があるものが真の勇者というものだ…そして…今がその時なのだ」

シュワルツェンベックはマクダウェルを残して颯爽と去って行った。マクダウェルと司令部のオペレーターは呆然と見送るしかなかった。おずおずとオペレーターの一人がマクダウェルを見上げる。

「あの…司令…宜しいのですか?行ってしまわれましたが…」

「ちっ!分かり切った事をこの歳で説教されるとはな!おい!ぼやぼやするな!ミサトに連絡を入れろ!松代に進駐している我が軍の第36戦車大隊の指揮権を移譲するとな!好きに使えと言ってやれ!それから待機中のAH-64を弐号機の護衛につけろ!」

「は、はっ!」

マクダウェル少将も自分が鳥肌を立てているのに気が付いていた。

「こんな感じは久し振りだぜ…くそったれ…面白くなってきやがった…」
 





戦自総司令部ではレオパルドXXの新横田基地到着と松代方面への移動準備が進んでいる事をキャッチしていた。

長門は矢継ぎ早に指示を飛ばす。

「外務省の国連局に日本派遣軍以外の国連軍の介入は内政干渉だと苦情を言っておけ。阿賀野さん(外務省国連局長)には俺が後で直接連絡を入れる」

「はっ」

「第二師団に連絡して新首都高の松代方面道路の封鎖を行って時間を稼げ。相手が実力行使に出てきた場合は残念だが防ぐ事は出来まい。一撃目は受けて無駄な戦力消耗は避けて退却しろ。後で不当な攻撃だと糾弾する材料にする。こちらから攻撃は絶対に仕掛けるな」

「はっ了解しました」

「それから…フェンリル到着前に片を付ける必要がある…Good Dogにミッション”チャーリー1(対テロ作戦の一種。目標制圧最優先。生存者有無を問わず)”を指示しろ」

「チャーリー1ですか?!人質を取るのではなかったのですか?」

長門の指示にその場にいた全員が驚いて思わず顔を上げた。

「フェンリルは想定外だ。時間を掛けるとそれだけ我々に不利になる。それに連中が有無を言わさず飛び込んでくるとGood Dogの攻撃がテロリストによるものだったという方便が使えなくなる恐れも出てくる。殺(や)れ!」

「了解しました!」

「くそ…アフガンからわざわざ日本に来るか…普通…」

ゲオルグめ…フェンリルはお前のシナリオなのか…それとも…いずれにしても俺の計画はズタボロだ…ドリューの確保は別の機会を狙った方がいいかも知れん…

長門は珍しく苛立ちを隠さなかった。戦自総司令部に緊張が走っていた。
 






松代。ネルフ第二実験場作戦部野営本部テント。

「マックが?あたしに?36大隊(国連軍機甲大隊)の指揮権を?そうか…あのおっさん…そう来たか…」

ミサトは日向が伝えた国連軍日本派遣軍司令部からの緊急電を聞いて思わず顎に手を当てる。そしてすぐに日向たちオペレーターに号令をかける。

「よし!直ちに第4部隊に連絡!対戦車体制を解いて国連軍を正門に誘導!南側の防衛に一個中隊を充てる。その他の部隊はその場に待機させろ!」

「了解!」

「ミサトさん、89発令を共同オペレーションコードに切り替えますか?」

日向がパイプ椅子から立ち上がってミサトに質問した。

「いや…本部にそれを伝えても拒否られるだけだ…今は1分、いや1秒でも惜しい…学者と議論している暇はない。それよりも弐号機の到着時刻は?」

日向の隣にいた若いオペレーターがモニターから視線を外すことなく答える。

「あと12分です!」

「ちっ…間に合わない…多分…それよりも先に仕掛けてくるだろう…それにしても…」

ミサトは軽く舌打ちをしていた。

百戦錬磨のあんたが考えもなく戦端を開く様なことをする筈がない…絶対…あんたは何かを見たんだ…だから迂回を選ばなかった…

空輸中の弐号機との交信はアンビリカルケーブルを通したネルフ専用の有線通信回線を使えないため無線通信バンドを使うしかなかった。当然、戦自との交戦後は両者が妨害電波を照射しているためロスト状態だった。

「そうか…やはり弱点を突くつもりなんだ…高遠方面に歩兵部隊が既に散開してるんだな!」
ミサトが手を打った、その瞬間だった。

「ミサトさん!!あぶない!!」

「えっ?」


バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!


テントの出入り口と向かい合っていた日向が銃声と共にミサトに飛び掛って床に伏せさせる。

「うが!」

「あぐ!」

作戦部の若手オペレーターの男女がそのまま体を朱に染めて崩れ落ちる。

ミサトと日向は咄嗟に計器類を乗せていた机を蹴り倒して弾除けを作ると素早くそこに身を隠した。

「安藤!ゆきちゃん!くそ…ってぇ…」

日向は左肩を押さえて苦痛に顔を顰める。日向の迷彩服はみるみるうちに黒いシミを作っていく。

ミサトは既にホルスターから愛銃の自動式拳銃 コルトM1911A1を引き抜いていた。相手の弾幕が途切れた瞬間、ミサトの銃口が火を噴く。


ダーン!ダーン!ダーン!ダーン!ダーン!ダーン!ダダーン!


射撃の腕には絶対の自信を持つミサトはあっという間に小銃で武装した兵士二人の顔面を正確に打ち抜いていた。

空になったシングルアクションの弾倉を片手で落すとポケットから新しい弾倉を取り出して素早く装着する。三秒もかからないミサトの動作だったが再び攻守が逆転して小銃が乱射され始めた。

ミサトが視線を送ることなく日向を気遣う。

「日向君!大丈夫?どこ?肩?」

「は、はい…左を…なんのこれしき!」

日向の耳はまるで打ち上げ花火の後の様にキーンという高い音が響いて聴力が鈍ったような錯覚に陥っていた。日向はこれほどまでに自分の鼓動が早くなったのを感じた事がなかった。既に背筋が氷を押し付けられた様にぞくぞくしていた。

寒い…夏なのに…どうして…

「ベルトを使って止血して!早く!」

「は、はい!」

再びミサトが隙を見て打ち返し始める。それを見ながら日向は緩慢な動きでベルトを引き抜いたものの腕がまるで別人のものの様に重かった。

「バカ!何やってるの!しっかりして!早く止血しないと死ぬぞ!」

どうなってるんだ…なんか…気持ちいい…ミサトさん…ミサトさん…

日向は遠くでミサトの声を聞いていた。


バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!


二人のすぐ近くで火花が立て続けに散っていた。

薄れ行く意識の中で日向は夢うつつの様な状態でミサトの声を聞いていた。

「スッさん!ベースキャンプを強襲されてる!応援を頼む!日向君が負傷した!え?傷は浅いんだけど!撃たれたショックで気を失ったみたい!」

マジっすか…ミサトさん…傷…浅いんだ…俺って…ダッセー…

「フォースは?ちくしょう!奴ら!研究棟と分断するつもりか!仕方がない!リツコにダミープラグで参号機の起動できるか可能性を聞いてみて!!既に防衛線は突破されたわ!!技術部要員の退避を最優先!!」

ダミープラグで…起動…参号機を…







「加持さん…本当に開くんですか…これ…」

「その…予定…なんだがな…」

難なく鍵を全て外した加持だったが肝心の扉は全くビクともしなかった。二人は汗だくになって茶褐色の扉を押し続けていた。

皮肉な事にどんなキーロックシステムより錆び付く方がセキュリティー上は有効の様に思えた。

「か、加持さん…」

「何だい…?お説教なら…後にしてくれよ…うーん」

「そ、そんなんじゃなくて…お、押すんじゃなくて…一遍…引いてみません?うー」

「引く?そうだな…押して駄目なら…そいつは妙案だ…」

二人は今度は一斉に引き始める。

バキン!

いきなり鉄の扉が3センチほど開いた。

「や、やった…ハアハア…」

「ふー…シンジ君…君はいい諜報員になるぞ…」

「せ…折角ですけど…遠慮…しておきます…ハアハア…」

「賢明だ…」

加持は隙間に手をかけると一気に扉を引いた。

ギギギ…ガガガ…

「ドイツのドアは全て外から内側に押す様に付けるんだよ…」

加持が始めに扉の中をマグライトで確認してシンジを手招く。

「どうしてですか…?」

シンジは辺りに散らばっていた工具類をリュックに詰めると肩に担いで加持の後を追う。

「立て篭もった時に内側からつっかえ棒とかすれば強力だろ?外からドアを引っ張られてドアを壊されるとオシマイだからね…」

「なるほど…ドアの付け方に…そんな意味があったんですね…」

「ああ…そうだ…だが…今回…一つ誤算があった…」

「何ですか?」

「ここは日本だったってことさ…」

「…」

シンジは狭い通路の中で自分の前を身を屈めて歩く加持の背中を凝視する。

加持さんは…凄くて…かっこいいけど…たまにお笑い芸人みたいな事をする…僕…無事に帰れるんだろうか…

やがて二人は同じ様な鉄製の扉に行き当たった。

しかし、前の扉とは違ってライトの明りを通してみても殆ど錆びはついていなかった。加持は慎重に扉に耳を当てると同様に工具を使ってロックを外した。そして扉を静かに開ける。

白いコンクリートに囲まれた四畳半程度の倉庫の様な部屋に二人は出た。

「どうやら…無事に着いたみたいだな…」

「ここが…第二実験場…」

「そうだ…研究棟の地下五階の最下層だ…」


ズズーン


二人が黒色のゴアテックス製特殊服の泥と塵を払っているといきなり地響きがしてきた。

「な、何だ…今の…」

加持は天井を見ながら目を細める。

「三十分ほど前…衆院が解散したからな…やれやれ…遂におっぱじまりやがったらしい…だが…妙だな…」

「何がですか?」

シンジは怪訝そうな顔つきをして加持を見た。加持は真剣な面持ちでシンジの方を見る。

「戦自の狙いはあくまでMAGIの確保の筈だ…派手にドンパチするのは最終手段…葛城を下手に刺激すれば当然にあいつはMAGIを破棄して撤収するだろうからな…玉砕を選ぶようなロマンチストじゃないしな…」

「ミサトさん…意外と手堅いですしね…」

「分かってるみたいだな…」


ズズーン!ズズーン!


地鳴りの様な轟音が鳴り響いてきた。

「今のは戦車の砲撃だな…一体…地上では何が起こってるんだ…とにかく…急ごう!まずはMAGIだ!」

「は、はい!」

シンジは加持の後に付いて廊下を走る。

何なんだ…この胸騒ぎ…ひょっとして間に合わなかったのか…

まるで地震の様に断続的な揺れの中でシンジの心にも不安の波が広がっていた。






Ep#07_(17) 完 / つづく

(改定履歴)
7th May, 2009 / 表現修正
7th June, 2009 / 表現修正
28th May, 2010 / ハイパーリンク先の修正
PR
ブログ内検索
カウンター
since 7th Nov. 2008
Copyright ©  -- der Erlkönig --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Material by White Board

powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]