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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第3部 Equivocal things 不安な気持ち


(あらすじ)

シンジは第11使徒戦の後の帰り道でアスカの機嫌が豹変したことを気にしていた。同居を始めて以来ずっと一方的にバカにされ続けていたシンジだったが、夏祭りを境にしてアスカと少し打ち解けて来た様に感じていた矢先だけに自分に原因があるかもしれないとずっと考えていた。
まさか・・・シュワルツシルトのことをまだ怒っているのかな・・・
他に原因があるかもしれないのに。

Rammstein - Engel (Evangelion)


(本文)


シンジとアスカはミサトのマンションで向かい合って食事をしていた。ペンペンもシンジが与えた魚のあらをガツガツと音を立てて突いている。

食卓には向う付けのキムチ、味噌汁、そして中央にはブリの切り身の照り焼きが盛り付けられた大皿が置いてある。二人は黙々と箸を動かしていた。

無言の団欒だった。

アスカは薄いピンクのワンピースを着ていた。

第11使徒戦があった日、二人が本部から帰宅すると時計は夜の9時を回っていた。本部とリニア駅を結ぶ通路では元気だったアスカだったがホームで列車を待つ辺りから急に機嫌が悪くなった様に見えた。

どうして急に機嫌が悪くなっちゃったんだろう…

シンジは自分が何か悪い事をしたのかもしれないと思ってあれこれ考えてみたが思い当たる事と言えば一つしかなかった。

まさか、シュワルツシルトの時の事を思い出して怒っているのかな…
電話で早く帰って来てと言ったばっかりに委員長とあまり遊べなかったし…
それにあんなに怒ってたもんな…
 



アスカがヒカリの家に泊まりに行った翌日、アスカは午前中でヒカリの家からマンションに帰って来た。

走って帰ってきたのだろう。シンジが玄関に迎えに行くとアスカは息せき切っていて胸に左手を当てて壁にもたれていた。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・た、ただいま・・・」

アスカは薄い青色のワンピースを着て右手にはドイツで買ったと言っていた白いつばの大きな帽子と花柄のトートバックを持っていた。そしてコサージュがついたサンダルを脱いでリビングにシンジと一緒に向かった。

シンジは帰ってきたばかりのアスカを掴まえてシュワルツシルトの事について矢継ぎ早に質問をぶつけたが、アスカはシンジの質問に対して全て丁寧に答えてくれた。

アスカはかなり機嫌がよかった。

しかし、質問が全て終わってシンジがほっと胸を撫で下ろした時、アスカはまだシンジの顔をじっと見ていた。

「アンタ、アタシに話したいことがあったんでしょ?何?」

「えっ質問は全部終わったからもう特に話すことは無いけど?」

シンジの言葉を聞いた途端、アスカの顔色が変わる。

「ちょっとアンタ。まさかそれだけの為にアタシに早く帰って来いって…あんな声出して頼んできたわけ?アンタ、ばっかじゃないの!?」

と言うとシンジを押し退けた。その剣幕にシンジはビックリする。

アスカは着替えの入った花柄のトートバックと白い帽子を掴むと小走りに自分の部屋に肩を怒らせながら戻ろうとした。

「ちょっと何でそんなに怒ってるんだよ?」

「うるさい!バカシンジ!人をバカにするじゃないわよ!」

バカシンジって…

シンジは初めて言われた言葉にたじろいだ。

「バカになんかしてないよ。ただ質問しただけじゃないか」

「それがバカにしてるっていうのよ!アンタなんかやっぱり大キッライ!だからガキは嫌なのよ!」

アスカはキッと振り返ってシンジをひと睨みすると再び歩き始めた。

「アスカ、ちょ、ちょっと待ってよ!」

シンジは思わずアスカの二の腕を掴んだが、直ぐに振り払われた。

「Don't touch me!(触らないでよ)Fuck-head!(大バカ野郎)」

かなり汚い言葉を吐き捨ててアスカは自分の部屋のふすまを思いっきり閉めてシンジの視界から消えた。

シンジは知らないがアスカは部屋に戻ると一人ひざを抱えていつまでも落ち込んでいた。アスカの青い瞳はとても寂しそうな色をしていた。

・・・という経緯が二人の間にはあった。
 



しかし、第11使徒戦があった日。本部から帰り道のアスカの事を考えるとやはり腑に落ちない。

あんなに一人でしゃべってたのに・・・

てっきりシンジはアスカが水に流してくれたものだと思っていた。シンジが逡巡しているとアスカが始めて夕食時間で声を発する。

「ごちそうさま!」

そしてそのまま自分の食器をシンクの中に荒々しく突っ込むと部屋に向かっていった。シンジはぶりの照り焼きをつつきながらアスカの後姿をみつめていた。

今日来ているワンピースは背中の部分が大きく開いている。以前に一度、外着として着ているところを見たことがあったが、日差しの強い日本では日に焼けると言って専ら部屋着としてこの頃は使っていた。

アスカの部屋着は原則的にタンクトップもしくはキャミソールのトップスにショートパンツという組み合わせだった。シンジはこれまでアスカの服装をあまり意識したことはなかったが、どういう法則になっているのかは詳らかではないが一ケ月のうち一週間位、ワンピースを着るときがある事はファッションに鈍感なシンジでも同居を通して知っていた。

シンジは外ではなく部屋でワンピースを着ているアスカに対していい印象がほとんどなかった。大抵アスカが手厳しくシンジをやり込めるときは圧倒的にワンピースを着ていることが多いからだ。

シンジは自分も食べ終わるとシンクに食器を持っていってアスカと自分の洗い物をはじめた。

洗い物の間、シンジはアスカの様子が気になって仕方がなかった。以前であれば嵐が過ぎ去るまでひたすら大人しくしていたのだが、どういう訳かこのところアスカの機嫌が悪いときも放って置こうと思うより、何とか機嫌を取ることを考える方が多くなっていた。

時折思い出すアスカが以前に見せた自分に対する微笑み、そしてリップグロスの跡。

金魚すくいの後に見せたアスカの不可解な行動が引っかかって以来だろうか。自分でもよく分からないほどの非常にささやかな変化だった。

シンジは洗物を終えるとアスカの部屋に向かった。しかし、さすがに襖をノックする勇気が無かった。

わざわざアスカの部屋に行くなんて・・・

こんな自分は初めてだった。

一体、僕は何を話せばいいんだろう・・・

少しその場に立ち尽くす。

するとふすまが急に開いてアスカが部屋から出てきた。アスカはあまり前を見ていなかったらしくそのままの勢いでシンジにぶつかる。

「うわっ」

「きゃあ!」

二人はそのまま廊下に尻餅をつく。

「いったーい!もう!アンタ何でそんなとこに突っ立ってんのよ!危ないじゃない!」

アスカが腰を摩りながらシンジを睨む。

「ご、ごめん・・・ん?何か落したよ」

シンジはふと見ると自分とアスカの目の前に白いビニールに覆われた5cm角のスポンジの様なものが落ちているのを見つけてそれを手に取った。

何だろ?これ…

シンジは初めて見る不思議なものをしげしげと見つめる。

それを見たアスカの顔が急に真っ赤になっていく。そしてシンジの手からいきなりそれを引ったくる。

「バカ!バカ!バカ!バカー!変態!エッチ!スケベ!アンタなんか知らない!」

火の出るようなアスカの勢いにシンジはたじろぐ。そしてアスカはそのまま自分の部屋に戻ると荒々しく襖をピシャッと閉める。

な、何なんだよ一体…

瞬時の出来事にシンジは何が起こったのか直ぐには理解できず呆然とそのまま廊下に尻餅をついたまま座っていた。

すると再び襖が10cmほど開く。アスカの部屋の明かりが暗い廊下に一条の光の束を急に作った。シンジはビクッとする。

僅かな隙間からアスカがシンジの様子を窺う。さながら岩戸に隠れる天照大神の様だった。しかし、残念ながら今のアスカの様子は同じ神様でもどちらかというと黄泉大神になったイザナミノミコトに近かった。

「ちょっと!アンタいつまでアタシの部屋を盗聴するつもり?」

「と、盗聴!?そんなことするわけ・・・」

「うそ!襖のところに立ってたじゃない!アンタ、耳を当ててアタシの様子を探ってたのね!このヘンタイ!」

「そんなことしてないってば・・・」

「ふん!どうだか!アンタはスケベだから。ミサトに言ってキーを付けて貰おうかしら!アンタが寝ている時に入ってくるかもしれないと思うと安心して眠れないわ!」

「・・・」

「ちょっと!アンタ何かアタシに用?何も無いなら向こうに行って欲しいんだけど!」

シンジは一方的にアスカからなす術もなく攻撃される。

「ごめん・・・」

シンジはのろのろと立ち上がるとアスカの部屋を後にしてリビングの方に向かっていった。

アスカはシンジの後姿をじっと襖の陰から窺う。そして完全にシンジの姿が見えなくなるのを確認してようやく襖を開けて廊下に姿を現した。

暗い廊下でアスカの顔はまだ紅潮していた。自分でも顔が火照っているのが分かる。

「もう・・・サイテー・・・」

ボソッと呟くとシンジから取り上げた白いビニール製のものを片手にアスカはトイレに向かっていった。

アスカは中に入ると鍵をかけてロックの状態を厳重に確認した。便座の上に腰を下ろす。そしてそのままじっと前かがみのまま暫くの間一点を見つめていた。

「面倒くさい・・・子供なんか絶対要らないのに・・・何なのよ・・・アタシ・・・」

男には決して知られたくない女の密か事を晒した恥ずかしさも入り混じっていた。





 Ep#02_(3) 完 / つづく
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