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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第2部 Spotlight 招かざる客


(あらすじ)

豊田の流した情報によってゲンドウは人類補完委員会から召還を受ける事になった。ゲンドウは情報漏洩に際してある疑念を冬月に吐露する。それは加持と弐号機パイロットに対する警戒心だった。なぜゲンドウはアスカに警戒の目を向けなければならなかったのだろうか。
「冬月。ツェッペリンを覚えているか?」
ゲンドウの話に驚く冬月。酷寒のドイツで一体何が起こったのか。
「所詮、弐号機共々捨て駒。利用価値が無くなれば真っ先に切る」

ただ幸せになりたいだけのアスカの想いとは裏腹に過酷な現実を照らし出しつつあった。

(本文)


シンジとアスカとレイはネルフ本部からジオフロント内のリニア駅に直接繋がるバイパス通路を並んで歩いていた。3人とも無言だった。シンジの顔はすっかり疲れ果てていた。

「自爆しないでよかったね・・・まさかSF映画みたいな目に遭うなんて思わなかったよ・・・」

シンジが誰に話しかけるでもなくぼそっと呟いた。

「そうね。今回ばかりはちょっと危なかったかもね。今までと全然違うパターンだしね。ということは大きいだけじゃなくて小さいのとか色んな種類があるのかしらね?使徒って・・・」

アスカが元気一杯に答える。

「今日はコンピューターウィルスみたいな使徒だったからどうしようもなかったわ!全然活躍できなかったからストレスがすっごい溜まったわ!あーあ、つまんないの!」

「そ、そうだね・・・」

「とにかく!助かったんだからいいじゃない!運も実力のうちってやつかしら?ホホホ」

シンジはアスカの図太い神経と物凄いポジティブシンキングに対して呆気に取られる。レイは終始無言で黙々と歩き続けている。アスカが一方的に話をしている内にシンジたちはバイパス通路とリニア駅を繋ぐゲートに行き当たる。

このゲートは万が一の事態に備えて手榴弾程度であれば防御するほどの強度があった。先頭を歩いていたレイがセキュリティーカードをあてると重々しいゲートが開いていく。完全に開くまでに30秒くらい時間がかかる。朝夕の通勤時間帯以外はセキュリティーカードで適宜開閉しなければならないので結構面倒くさい。

リニア駅のネルフ職員専用の改札が目の前に現れる。自動小銃と防弾チョッキで武装した保安部員が両脇に等間隔で並んでいた。実に物々しい雰囲気だ。シンジはこの空気があまり好きではなかった。

シンジたちが改札前で手荷物検査と金属探知機のゲートをくぐってセキュリティーチェックを受けおわるとようやくリニアに乗るための自動改札を通過することが出来る。ホームにもセキュリティーが立っている。シンジたちの顔を見るとセキュリティーの一人が手を振って挨拶してくれた。

「Tschüss!(読み:チュース)」

アスカは手を振ってくれたセキュリティーに片手を上げて挨拶する。その時、アスカは下腹辺りに少し違和感を覚えた。

あれ・・・もしかしてまた…うそ・・・

アスカの表情はみるみる険しくなっていく。ホームにある電光掲示板を見ると時計はもう夜8時の10分前を指していた。シンジが電光掲示板から目を戻すとシンジの隣にレイが立っていた。アスカの姿が見えない。

あれ?・・・ついさっきまでいたのに・・・

シンジが辺りをキョロキョロ見回すとアスカはシンジとレイの後にあるホームのベンチに腹を抱えるようにして一人座っていた。シンジはその様子が気になってベンチの方に歩いていき、アスカの目の前に立つ。

「あの・・・アスカ、どうしたの?疲れちゃったの?」

アスカは答えない。

「あのさ、お腹とか痛いの?」

「・・・うるさいわね。放って置いてよ!大丈夫だから!」

アスカは前かがみになったままでシンジを大きな声で突き放す。シンジは突然怒鳴られてビックリしたが、すごすごと再びレイの隣に戻っていく。

さっきまで一人でしゃべって元気だったのに・・・どうしちゃったんだろ・・・

ホームにリニアが入ってきたことを伝える自動のアナウンスが流れてきた。

「間もなく2
番線に第三東京市地上駅行きリニアが参ります。危ないですから白線の内側までお下がり下さい。この電車は4両編成です。尚、後ろ側車両の改札入り口がネルフ職員専用となっております。保安検査にご協力下さい・・・」
 
 
 
 
国防省統合作戦本部極東局長である長門忠興一佐は内務省国家公安調査局長の旗風潤一郎の電話を受けていた。長門は神経質そうな細い目をしていた。

国防省の統合作戦本部は旧自と戦自の両方の実行部隊の作戦行動を統括する制服組における最高意思決定機関であり、極東局長ポストの経験は本部長昇進要件の一つとされるほど重要なポジションだった。歴代局長は旧自と戦自が交互に就任しており長門は戦自派だった。

戦自派は同じ国防省でも内務省との関係が比較的強いという傾向があった。外務省がPSI Eraを踏まえて日本の外交戦略を「国連」の一点張りにしているため、内部統制色の強い両者は自然と距離が近くなっていた。

余談だかこの長門とチルドレンたちは将来的に運命の悪戯で相対することになるがそれは後の物語となる。今は話を戻そう。

「長門君。今日の内閣合同情報会議で君のところの豊田君からネルフの話を聞いたけどあれは本当?」

「どうしたんですか、旗風さん。いきなり出し抜けに。一体何のことです?何せピラミッド絡みの話には枚挙に暇が無いもので。どれのことを話しておられるんだか・・・」

「確かに・・・失敬。何でも2日前に第11使徒と思しきものがネルフ本部に侵入、サードインパクト発生まで寸前だったという話じゃないか」

「・・・本当ですか?」

「そうだよ。オリハルコンがキャッチした最高機密の情報ということだ。僕は思わず川内さんの顔色を窺ったがね」

「それで副長官は何と仰っておられたのですか?」

「極めて遺憾。この一言だけだけど怒り心頭って感じだったね」

「そうですか・・・」

「長門君。やはり事態は深刻だ。サードインパクトが起こってからでは意味が無い。一刻も早くネルフを国内から追い払った方がいい」

「なるほど・・・で、旗風さんはこれからどうされるおつもりです?」

「外務省の連中が騒ぎ出す前にキール・ローレンツに情報を流す。彼にも動いてもらった方が何かと好都合だろう」

やはり・・・そう来るか・・・

「しかし、旗風さん。オリハルコンの情報が今までに合同情報会議で流された験しは無いじゃないですか。それが何で今、このタイミングでそちらに流れるんです?」

「それは君が豊田君に直接聞いた方がいいんじゃないの?公安サイドとしてはあり難く受け取っているけどね。なんたってオリハルコンへの参画はうちの大将(事務次官)の悲願だからね。45兆円の税金を叩いて置きながら君のところが独占してる訳だしさ。じゃあ僕はこれで。今から電話すれば丁度ドイツは13時だからね。それじゃ」

殆ど一方的に旗風がしゃべって電話は切れた。長門はデスクから立ち上がると第二東京市のビル群の夜景を見る。長門はあの昼行灯と呼ばれている豊田が内務省に情報流したことが妙に気になっていた。

「柄にも無いことを・・・"静かなるもの"が動けば不幸になるぞ・・・豊田・・・」





 
ネルフの司令長官室のシンプルなデスクには必要最低限のものしか置かれていなかった。徹底的に無駄を省き機能美だけを追求する碇ゲンドウの志向がよく現れていた。

「老人たちが?」

ゲンドウはデスクに両肘を付いて顔の前で両手を組んでいた。視線だけをデスクの前に立っている冬月に向ける。

「そうだ、碇。さっき極秘に連絡が入ってきた。このことを知っているのは私と君だけだ」

「先日の件で召喚とは今更どういうつもりだ・・・」

冬月は話が長引くと思ったのか、横に設置されている打合せテーブルからキャスターつきの椅子を引き出して腰を下ろした。

「それについては君の方にも何か情報があるんじゃないかね?」

「先生、何のことを言っておられるのか・・・」

「そうかね・・・まあいいだろう。で、老人たちには君はどう返事をするつもりだ?」

「Yesしかないに決まっているだろう・・・」

苦々しくゲンドウが履き捨てた。

「まあそうだろうな・・・もう一ついいかね?」

ゲンドウは無言のまま頷く。

「先日の件は既に誤報と伝えてあってお互いによく分かっている筈だ。なぜ今さら会う必要がある?」

「おそらくねずみだよ。先生」

「ねずみ?」

「これだ」

ゲンドウはプリントアウトしたメールを冬月に渡す。冬月は渡されたメールに目を走らせていたが再びゲンドウに視線を戻す。

「そういう事か・・・既に国連筋からも使徒侵入の事実を君は確認されているというわけか・・・老人たちも我々の計画に感付いた可能性があるということかな・・・」

ゲンドウは小さく横に首を振る。

「いや、それはありえない。が、お互いにお互いのことが気になっている・・・そういうことだろう。しかし、目下の問題はむしろ・・・」

ゲンドウのめがねが光を反射して異様な光を放つ。

「基本的にUnofficialではあるが今回の件は全て筒抜けということ。多少の観測気球が混ざっている可能性はあるがな。まさに人間の敵は人間というわけだよ。実にタイミングがよすぎる。水漏れは小さいうちに対処しなければダムをも決壊させることになるだろう」

「加持か?」

ゲンドウが静かに頷くが、更にゆっくりと重々しく口を開く。

「それからもう一つ懸念材料が有る」

メールを読み返していた冬月は再びゲンドウに視線を向ける。

「まだ他にあるのかね?」

「弐号機パイロットだ」

「何だって?まさか…それは考えすぎじゃないのか?」

「動機はある」

「動機?アスカ君にか?」

冬月は思わず体を乗り出す。ゲンドウはデスクで微動だにしない。

「冬月。ツェッペリンを覚えているか?」

「ツェッペリン・・・キョウコ君か?もちろんだ。アスカ君の母親だね。彼女は非常に優秀な技術者だった。私もベルリンで何度かあったことがあるからよく覚えている。かなりの美人だったしな。そういえばアスカ君の眼差しはキョウコ君そっくりだな。キョウコ君も勝気だったがアスカ君のそれは親譲りとは少し違うようだがな・・・」

冬月は顎に手を当てて思い出すような眼差しをしていた。

「しかし、実に気の毒をしたな。私が本部に戻った後だったが・・・確か7年前になるかな。第3支部での起動試験の時に事故が発生して精神汚染を受けて自殺したらしいが…それでアスカ君がネルフを恨んでいるとでも言いたいのか?しかしそれはあまりに荒唐無稽に過ぎんかね?」

「ツェッペリンの精神が弐号機のコアだったとしてもか?」

「何だと!弐号機のコアだって?まさか・・・碇。君はキョウコ君をサルベージしたのか!」

冬月は思わずプリントアウトしたメールを落していた。A4の紙は部屋の空気を切り裂きながら滑空していく。

「あの時は私としてもやむを得なかった・・・弐号機を早く軌道に乗せる必要があった。何しろあの事故のお陰でE計画は12%もDelay(遅延)したからな。もっとも・・・」

ゲンドウは自分の足元に落ちたA4の紙を拾い上げるとデスクの横にあるシュレッダーにかけた。シュレッダーから無機質な音が聞こえ始める。

「精神サルベージの方は私というより老人たちの方がむしろ積極的だったがね・・・」

「自殺ではなかった・・・そういうことか・・・」

ゲンドウは再びデスクに両肘を突く。

「ツェッペリンは事故の後遺症で復帰の見込みがなかった。精神サルベージの技術は今日ではさほどに難しくなくなってきてはいるもののそれでもかなりのリスクを負わねばならない。確度を上げるには当時はどうしても人間のサンプルが必要だった。たとえそれが精神疾患ある人間だったとしてもだ」

「なんと言うことを・・・」

「試験後、自殺に見せかけるのは造作も無いことだよ。工作は第3支部主導で進められた。先生も面識があるだろう。ゲオルグ・ハイツィンガーだよ。今は支部長としてのうのうとしているがな」

冬月は痩身長身で鋭い眼光を放つ如何にも冷酷そうな男の表情を思い出していた。ネルフの前身組織(ゲヒルン)の時からの古参のメンバーでSeeleとのパイプが太いことで知られている。

キョウコ君に横恋慕していたあの男がよりによって一枚噛んでいるとはな・・・

冬月はあまりのことに戦慄していた。

「幸運なことに弐号機パイロットの父親、確か名前はフランツ・ルンケルの筈だが、事故後にツェッペリンとの離婚調停を起こした時期に重なった。愛するものとの決別を苦に自殺。少々安っぽいドラマだったかも知れんが最高の舞台だったよ」

ゲンドウは右手でめがねの位置を直す。

「ハンブルクの機能をベルリンに完全移行するのもまだ万全ではなかったし、内戦のきな臭い雰囲気が当時はまだ多分に残っていたからな。まったく謀略好きな連中で流石のこの私も少々閉口したよ。ふふふ。因果なことだ。まさかその弐号機のパイロットにその一人娘がなるとはな。さすがにこれは幾ら私がマルドルック機関だといっても仕組んだことでは無い。運命の悪戯か、ツェッペリンの魂が娘を誘ったのか・・・葛城が第三支部に赴任していた時によりにもよってツェッペリンの娘をセカンドチルドレンとして見出したのだ」

なんと言う皮肉なことだ・・・アスカ君はエヴァのパイロットであることに誇りを持ってしかもそれに自分の全てを賭けているというのに・・・

冬月は激しい虚脱感に襲われていた。

「しかし、ツェッペリンもあのまま精神異常者として無駄に生を貪るよりも幾らかでも娘の役に立った方が母親としては本望じゃなかったかね?」

「バカな!たとえ精神疾患を患っていたとしてもアスカ君にとっては唯一の母親ではないか!それをコアに使うというのはあまりに惨い・・・」

「先生。あなたでもそう思うだろう。なんと言う非道だと。鬼畜だと。それが私が言うところの人間の動機というものだよ。加持との接触でこの情報がもたらされればあの娘は簡単に復讐の鬼と化すだろう。私は飼い犬に手を噛まれるのは好きではない」

「しかし・・・しかしだ、碇。アスカ君は君の息子のシンジ君と葛城君の家で同居しているのは知っているだろう…」

「ああ、その事ですか?シンジに対する接し方を見ていれば自ずとどこまで真実に迫っているのかが分かるというものですよ。復讐の刃はまずもっとも弱いところに向く」

「碇・・・君は自分の息子ですら囮に使うのか・・・」

「先生。世の中には事を荒立たせず静寂な状態を保っていた方が本人たちにとって幸せな場合もあるということですよ。世間ではよく知る権利があるというが、本当にそうですかね?物を知れば知るほど多くの人間がむしろどんどんと不幸になる。実に滑稽な話だがそれが事実なんですよ。本当に幸せなのは真実を知っていても沈黙する"静かなる者"だけですよ」

冬月は言葉を失っていた。

「いずれにしても計画に支障は出ていない。全て予定通り。唯一、老人たちが騒いでいることを除いてね。今回の使徒の件が第三者に漏れるということはまず足元から整理した方がいい。他の要因を探るのはそれからでも遅くは無い」

ゲンドウはデスクの上に置いてあるラップトップに手を置いた。

「もう少し泳がせておく心算だったが意外と早くその時が訪れるかも知れん。後はタイミングだけの問題だ」

冬月は喉の渇きを覚えていた。声を絞り出すようにしてゲンドウに問いかける。

「碇・・・加持はともかく君は…君はアスカ君をどうするつもりかね…」

ゲンドウは始めの内は無言だったがやがて重々しく口を開く。

「まあ使えるうちは使う。それだけのことだ。しかし、利用価値が無くなればその時は躊躇なく真っ先に切ることになるだろう。所詮、弐号機共々捨て駒だからな」

ゲンドウは遠い目をしていた。
 



Ep#02_(2) 完 / つづく





(改定履歴)
24th Mar, 2009 / 表現修正
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