新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第1部 Stairway to Heaven ツェッペリン(Zeppelin)の面影
アメリカの早期警戒衛星が第二支部喪失の事実を掴み独自に調査を進める中、ネルフはEva参号機の接収を決定してアメリカ政府との対立姿勢を鮮明にする。しかし、この決定の裏にはE計画のアップグレードコードS計画に関連する陰謀の痕跡が確認されたことに対するゲンドウのSeeleへの牽制の意味がこめられていた。そんな折、ミサトがアスカをセカンドチルドレンとして見出した経緯をリツコに話す。アスカはマルドゥック機関の審査を経ていないイレギュラーな形でドイツにおけるミサトの二次選抜プログラムに参加していた。
その扉を開いたのは他ならぬ加持だった…リツコはアスカと加持の関係に疑念を持ち始める。
(本文)
アメリカの早期警戒衛星がネルフ第二支部の爆発を世界で最も早く探知していた。
この情報は直ちにセカンドインパクトの発生にもついぞビクともしなかったロッキーマウンテンの地中深くに置かれている北米航空宇宙軍基地からアメリカ国防総省統合情報本部に(DIA)に送られた。
事態を憂慮したジェフ・クーパー長官は直ちに大統領に報告した。またこの情報はJDL(ジョイント・ディフェンス・リエゾン)ラインを経由して日本の国防省にも通報され文字通りこの事故は世界を震撼させていた。
この情報は直ちにセカンドインパクトの発生にもついぞビクともしなかったロッキーマウンテンの地中深くに置かれている北米航空宇宙軍基地からアメリカ国防総省統合情報本部に(DIA)に送られた。
事態を憂慮したジェフ・クーパー長官は直ちに大統領に報告した。またこの情報はJDL(ジョイント・ディフェンス・リエゾン)ラインを経由して日本の国防省にも通報され文字通りこの事故は世界を震撼させていた。
しかし、この事故がネルフ本部を取り巻く情勢を悪化させていく「予兆」になろうとは誰も想像していなかった…
一方…
ネルフ本部内では事故発生後、極めて迅速にMAGIによる事故原因の究明が進められ世界中が騒ぎ出す前にほぼ95%の確度で「S2機関の暴走によるコアの臨界事故」が原因である事が判明していた。
ゲンドウは事故翌日には本部の幹部(部長クラス)を招集していた。ミサトを始めとした各部長はそれぞれ緊張した面持ちで事故原因の解析結果を説明するリツコに聞き入っていた。
説明が一通り終わるとゲンドウが矢継ぎ早に指示を出す。アメリカ政府からの追及に対応する特別チームを編成し、冬月副司令をその本部長に就任させて事態の収拾を急ぐことが決定された。
そこまではよかった。次のゲンドウの言葉にその場に居合わせた一堂は耳を疑った。
「第一支部のエヴァ参号機を本部に接収する方向で各部は調整を進めろ。受け入れオペレーションは葛城作戦部長をキャップとし、スケジュールは技術部プランをベースとして進めることを指示する」
ミッションの責任者に選ばれたミサトはあまりの事にさすがに絶句する。
これだけの事故を起こしておきながら直後に参号機の接収って…アメリカ政府に宣戦布告する様なものだわ…大体、参号機はアメリカがバレンタイン条約内で製造権を主張して第一支部と第二支部に配備する予定で作られていたものの一つ…弐号機とベースは同じプロダクションタイプ…どう考えたって次世代抑止力兵器足り得るEvaをアメリカが手放す訳がないわ…それを特務機関ネルフの権限をフル活用して接収なんて…分からないわ…司令の意図が…
ミサトはゲンドウとの直接対決を避けたい事情があった。先日のアスカの乱闘事件ではアスカ共々考えられらいほどの温情をかけてもらっていたが、その実、人づてに聞いた話ではゲンドウはアスカに対して相当な不快感を抱いているというのだ。
そう言われれば査問会で抱いた疑問もミサトの中で氷解していく。
チルドレンの人事は司令長官マター…それを自分がその場にいるにもかかわらず副司令に代行させるなんておかしいと思っていたのよ…直接口も聞きたくないほど嫌悪しているって事?どうして司令はいつもアスカばかりに冷たいのかしら…まあ誰に対しても冷たいけどアスカに対する態度は尋常じゃないわ…何かある…
一方でゲンドウが京都に本拠を置くとされているネルフ内でもほとんど知るものがいない謎の組織「マルドゥック機関」を統括する立場にあることも気がかりだった。
マルドゥックに手を出すものは必ず消される…
と言われていた。
戦略パイロットとしてのチルドレン第二次選抜の実行責任者だったミサトはゲンドウがチルドレン関係の生殺与奪の全権を握っていることを嫌と言うほど味わされている。全てこのマルドゥック機関が絡んでいた。
アスカがゲンドウの不興を買っているとすればアスカの替わりはどうにでも出来た。
あの子は帰る場所がないって常々いうけど…ドイツに帰るっていう選択肢も今まではあったけどね…ネルフを去ればどうなるか…義理の親御さんが引き取ってくれればいいけど…14歳の女の子がネルフを見限られた途端、冷たい社会のどん底に追いやられてしまう…あたしはあの子の何でもないけど…でも放っては置けない…
ミサトはずっと下を向いたまま逡巡していたがだからと言ってこのゲンドウの指示に素直に従えない不快感もあった。どう考えてもネルフのためにならないからだ。
重苦しい空気が流れる中、ミサトの代弁者が現れた。
ゲンドウに対して正面を切って疑義を呈したのは志摩情報諜報部長だった。ネルフ情報諜報部の守備範囲は非常に広範に渡っており各国機関との折衝とそれに付随して情報諜報も担当するネルフの要だった。
志摩はもうすぐ50歳を迎える2女の父親で加持の上司でもあった。
「しかし、司令…参号機はご承知の通りアメリカ政府とのJDP(ジョイント・デベロップメント・プログラム)で進めています。これを本部に"移設"となると今回の事故の手前、かなりアメリカ政府を刺激することになります。ここは少し様子を見られた方が・・・」
志摩の意見は極めて正論だった。如何にも実直な感じを受ける落ち着いた声だった。
ミサトも思わず無言のうちに頷いていた。
そうよ…志摩さんの言う通りよ。同じやるにしても少し間を空けるべきだわ。
しかし、ゲンドウの視線が鋭くなる。それを見たミサトは慌てて目を逸らす。
「志摩。"移設"ではない。"接収"だ。間違えるな。それから事故の事後処理と参号機接収はワンパックで対応することを基本方針にする。これに関して君の意見は必要ない」
志摩は敢えて穏便なニュアンスの移設という言葉を使ったのだが言下に否定された。
それでも志摩は尚もゲンドウに食い下がろうとする。ネルフと各国機関との利害調整を行うトップとしては悪戯に敵を作るような強硬策は避けたかった。
「しかし、司令・・・」
「君の意見は却下だ。他に質問がなければ以上で散会だ」
ゲンドウは一方的に会議の終了を宣言すると荒々しく立ち上がって会議室を後にした。志摩はうな垂れる。各部長たちも同情しつつ各自の持ち場に戻っていく。
ミサトもその一人だった。
冬月だけが志摩の元を訪れて無言のまま肩を叩いてそのままゲンドウの後に従っていく。ゲンドウの事は任せろという合図だった。
司令長官室に戻ったゲンドウは荒々しく自分の席に着いた。その途端にコーヒーを持ってきた女性職員と冬月がほぼ同じタイミングで入ってきた。
冬月は職員が退出するのを待って口を開いた。
冬月は職員が退出するのを待って口を開いた。
「碇。何を考えている?」
「御聞きになった通りですよ、先生…」
「しかし、志摩君の指摘は当然だ。今、この時期にアメリカを刺激するのは不味いんじゃないかね?」
「状況は変わった・・・先日の老人たちとの会談でね」
ゲンドウと冬月は第11使徒戦における本部への使徒侵入を許した廉でSeeleに召喚されていた。それはあくまで表向きの話しであって豊田の揺さぶり工作によって互いの腹を探り合う為の会談というのが実際の姿だった。
Seeleとの会談後、ゲンドウたちはベルリンの第三支部を訪れて久しぶりにゲオルグ・ハイツィンガーと再会し、第三支部における各種事案の報告を受けて日本に帰国していた。
「先生、各支部の動きを達観した場合に老人たちの考えをどう見ます?」
「つまりそこに今回の参号機に対する君の強硬な姿勢の理由があるという事だろ?」
ゲンドウは静かに頷く。
「確かに今回の事故といい第三支部の状況といい、我々を取り巻く情勢に楽観できる要素は見当たらんな。少しずつだが計画も見直しを考えた方がいいかもしれん」
「計画はそのまま進める」
冬月はゲンドウの即答に苦笑いを浮かべた。
「しかし、今回の事故で一つ解せない事がある。コアの臨界事故という赤木博士の先ほどの報告だが、S2機関の四号機への搭載試験は確かに難易度の高い作業だがそれだけで支部を丸ごと吹き飛ばすような大爆発が起こるとは思えんが・・・」
「その通りだ。第二支部は指向性コアではない中性コア(非指向性コア)の実験もあわせて行っていたと考えて間違いなかろう。先ほどの会議では敢えて私が伏せさせた」
「な、なんだと?NCを・・・それは確かか?」
ゲンドウはデスクから立ち上がると司令室全体を覆うガラスから外の景色を見下ろす。
「赤木博士がMAGIによる解析を進めているがその痕跡らしきものが確認されつつある。もしNCならばコアが何らかの理由で臨界事故を起こした場合の影響は現在のEvaの比ではない。極めて小規模なインパクトを誘発して支部は消失・・・まずはこの辺りだろう」
「なるほど・・・NCならば確かにあの爆発規模も納得がいくな・・・」
「指向性を持たなければパイロットに対する制約も減少する。それはすなわち・・・」
「ダミーシステムへの道を開く、か・・・」
無言でゲンドウが頷く。
「そしてそれはS計画の道にやがては通じる・・・危険だ」
冬月もS計画の文言を聞いて眉間に皺を寄せた。
「S計画か・・・新世界の秩序としてバレンタイン条約がある。それに逆行するようなことはしないと相互に確認し合った筈だがな・・・」
「昨日の敵は今日の友、今日の友は明日の敵。所詮は蛇の道は蛇ですよ、先生」
「支部にある機体回収は技術拡散を未然に防ぐ為というわけだ。その為には君はアメリカをも敵に回す、と言う訳か・・・」
「その通りだ、先生。だから尚更我々に計画の見直しなど有り得ないということだよ。先に足を止めたものが敗北することになる。それに・・・」
ゲンドウは執務室にかけてあるセフィロトの樹の大型版画を凝視しながら呟いた。
「この計画を実行した時から私には世界を敵に回す覚悟が出来ている」
「碇・・・」
所詮は血塗られた道…ユイ君を失ってからというもの…我々の当初目指していたものが変わり始めた様な気がする…だが…確かにこの男が言う通り…後戻りはできん…
冬月はゲンドウを見る目を細めていた。
「しかし、おったまげたわね。支部ごと吹っ飛ぶなんて・・・S2機関の搭載ってそんなに危険だったの?こっちでも結構、S2機関関係の実験やってるじゃん」
リツコとミサトは並んで"天国への階段"とあだ名される長いエスカレーターを下っていた。上りは天国でも下りはさしずめ地獄というところだろうか。
「・・・そうね・・・この世に100%安全というものは存在しないわ・・・」
バカな連中…使徒から採取したS2機関を四号機に搭載すると言って言うことを聞かなかっただけでもあの人は怒り心頭だったのに…挙句にNCに手を出すなんて…Seeleが影で動き始めた事を考えなければ…E計画のアップグレードコード…S計画…まさか…
「100%安全ね…そりゃ望めないのは分かるけどさあ・・・そうだ!今度、実験する時はあたし年休取ろっかなぁ。結構溜まってるし、吹っ飛ばないで済むじゃん!そういやリツコ。あんた結構あるんじゃないの?年休?」
リツコは大げさにため息を一つ付く。
あなた…こんな時によくもまあ…
「そんなことよりも・・・ちゃんと伝えてくれたのかしら?」
「ん?何のこと?」
「加持君によ」
「ああ、勿論!ちゃんと伝えたわよ。二つとも」
「そう。で、彼は何かそれについて言っていたかしら?」
「司令からの伝言だろうなって言ってたわよ」
「ふっ、察しがいいわね。彼」
「でもさあ。加持は司令の何を新聞記者みたいに嗅ぎ回ってるってわけ?何かスキャンダルでもあるのかしらーん?」
「下らない事言ってないで明日のテストの事くれぐれも頼んだわよ。危険な試験なんだから」
「分かってるわよ。でも、アスカは明日、こっちにいても特にやること無いんじゃないの?」
「そうね・・・」
「じゃあさあ、あんた。何で停職処分をわざわざ遅らせてまでテストに参加させる事にしたのよ?あんたが言い出したことで司令も許可したんでしょ?」
「あたしはあの子をパイロットである以前に一人の技術者としても注目しているのよ。明日の試験には立ち会ってもらいたい。それが理由よ。他には無いわ」
「ふーん。技術者ね。そういやアスカのお母さんも技術者だったらしいわね」
ミサトの言葉に思わずリツコの表情が引きつるがミサトはそれには気が付かなかった。
「そうよ・・・キョウコさんの事でしょ?」
「そうそう。リツコは知ってるの?アスカのお母さん」
「残念ながら面識は無いわね。6年前のことだからわたしがゲヒルン(ネルフの前身組織)に入って間もなく事故で亡くなったんですもの。あなたも知ってるでしょ?ま、まさか、あなた・・・」
リツコは思わずミサトの腕を掴んで自分のほうに顔を向けさせた。
「な、何よ。ちゃんと知ってるわよ!亡くなったって事は!でも・・・いつかまではよく知らないけどさ・・・意外と最近なのね・・・」
「呆れたわ!さてはあなた!アスカの経歴ファイルですらまともに読んでいないわね!」
「そ、そんなわけ・・・」
ミサトの目が泳ぐ。顔には「はい、全く読んでいません」と書いてある。リツコの整った眉は一層つり上がっていく。
「全く!あなたって人は!なんてチャランポランなの!ったく、何だってあなたはアスカをセカンドチルドレンとして見出して訓練したのかしら!信じられないわ!」
リツコは大げさにため息を付くとミサトの腕を放して再び正面に向き直る。
「だって・・・あの時は第2期チルドレン候補生の一人が事故で亡くなって急に欠員が出たのよ。選抜プログラムが始まるまで間がなかったしさ・・・マルドゥック機関を使っても補充なんて直ぐ利かないしさ・・・その時にドイツに赴任してきた加持がゲッティンゲンにいい候補者がいるって教えてくれたのよ。それであたしがベルリンから会いに行ったのがアスカだったのよ」
「加持君が・・・」
リツコは再びミサトに視線を戻す。
どうして加持君がアスカの選抜に絡んでいるの…?確かに第二次選抜では急な欠員があってワイルドカードが一枠出来たけど…その空いた席がよりによってアスカだったなんて…嘘でしょ…
「そうよ。いいところだったわ、ゲッティンゲンは。会いに行ったその日にあたしとアスカは大喧嘩してね。見ず知らずの町の人たちがあたし達二人を仲裁するっていう凄い初対面だったわ。ひひひ。今となっては懐かしいけど・・・」
ミサトはやや遠い目をする。対照的にリツコの目は鋭くなっていく。
「アスカは確かに飛び入りだったけどさあ、後のことはあんたもよく知ってる通りよ。第二期候補生の中で他の追従を許さぬ抜群の成績だったわ。まあ既に名門ゲッティンゲン大学を卒業していた天才少女っていうのもあったけどさ。でもそれとパイロットの適正ってまた違うじゃない?頭もよかったけど戦士としても一級品だったわ。あの子の実力は悩む余地が全くなかった。まさに仕組まれたみたいに完璧だった」
「確かに最高の結果にはなったわね。あたし達にとってはだけど・・・」
それがアスカにとっては地獄の始まりだったかもしれない・・・そこに誘ったのが加持君だったとはね・・・皮肉なものね・・・話としては出来すぎている・・・本当に仕組まれた様にね・・・それにしても全く無様な話ね…第三支部は何をやってたのかしら…
「じゃあ・・・あなたがアスカを見出したっていうよりは加持君が一枚噛んでいたっていう言い方のほうが正しいわけね・・・」
「まあ、そうなるかなあ・・・確かにあたしが第三支部にいた時にアスカを知っていた訳じゃないしさ。どっちかって言うとあたしはやっぱりあの子の教官っていう方がしっくりくるわよね」
「そう・・・そういう事だったの・・・」
これは迂闊にここでは言えないわね・・・このおっちょこちょいにも釘を刺して置かないと・・・
二人の目前には地階のフロアが迫ってきていた。リツコは眉間に皺を寄せたままだった。
どちらにしても…わたし達は今の指向性コアが理想ではないことが分かってはいてもこれに結局縋るしか方法がなかった…その結果、多くの不幸が生まれてしまった…でも、それが天上の神に通じる道と信じて歩き続けるしかない…不幸な女の面影しかここ(ネルフ)にはないけど…
リツコは白衣のポケットに入れてあるタバコの箱を右手で弄んでいた。
アスカ…少なくともあなたが只者じゃないってことは分かったわ…色々調べさせてもらうわよ…あなたに何処までツェッペリンの影があるのか…ね…
Ep#04_(1) 完 / つづく
3rd Sept, 2011 / ハイパーリンクの修正PR
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