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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第3部 Cotton candy 綿あめの価値
 
 
(あらすじ)
 
アスカとレイのゲーム大会でのデスマッチは第三東京市駅前商店街始まって以来の観客動員数を記録してすっかり商店街のアイドルと化す。シンジたちは空き時間を利用して露店を散策する。アスカは綿飴が食べたいと言い出してシンジが1個500円の綿飴を3人分購入することに。アスカは綿飴1つが500円というのはボッタクリだとテキヤのおじさんに突っかかって行く。
「あ、アスカ!」
「ちょっと、シンジ離しなさいよ!あの人との話はまだ終わってないわよ!」
 

(本文)


「いやー二人のおかげで本当に今年の夏祭りは盛り上がったよ!本当にありがとう!ミサトさんにこりゃ凄い借りが出来ちまったなぁ!はっはっは」
 
南雲会長は上機嫌でアスカとレイを迎えていた。
 
「メインイベントの盆踊りまでまだ少し時間があるから3人で露店を回ってくるといいよ。はい。これはささやかなお礼だけど」
 
南雲は懐から商店街の露店で有効なクーポン券の束を三人に渡す。
 
「一人千円分くらいあるから十分遊べると思うよ」
 
「会長さん、ありがとう!」
 
「すみません。会長さん。僕、何もしていないのに・・・」
 
「・・・ありがとう・・・」
 
南雲会長は豪快に笑うとイベント会場から本部のある方向に歩いていった。シンジは古賀が用意してくれた第三東京市駅前商店街青年部の半被を羽織っていたが、しつこく背中にはミサト手製の「ネルフ」のゼッケンがやはり安全ピンで止められていた。ネルフのスポンサーシップをPRする狙いがあるとはいえ殆ど不毛な措置と言えた。

アスカとレイの浴衣はさっきの死闘ですっかり着崩れを起こしていた。呉服屋の前に三人が差し掛かると女将さんがそれを見かねてレイとアスカを呼び止めた。
 
「レイちゃん、アスカちゃん。あれあれすっかり着崩れしちゃって・・・それじゃ折角の娘っぷりが台無しだわ。こっちにいらっしゃい。着付けし直してあげるから」
 
「ありがとうございます!」
 
確かな集客力を持っていることを先ほどの特別イベントで図らずも証明する形となったアスカとレイはすっかり第三東京市駅前商店街のアイドルと化していた。
 
「それじゃ一人ずつ入っておいで。レイちゃんから始めようかしら」
 
「・・・はい・・・」
 
呉服屋の女将さんはレイの手を取ると店の奥に連れて行った。アスカは呉服屋の畳に腰を下ろした。
 
「あー疲れたわ!」
 
「アスカ。あのゲーム凄くうまくなってたね。あれじゃ僕よりも強くなってるよ」
 
アスカはジロッとシンジを上目遣いに睨む。
 
「嘘だったのね」
 
「えっ?な、何が?」
 
「惚けないでよ。女の子とゲームしたのはアタシだけじゃないんでしょ?ファーストとともしてたんでしょ!」
 
シンジは咄嗟に何を自分が言われているのか理解できなかったが、やがてアスカが何らかの理由で誤解しているらしいことにようやく気が付く。
 
「綾波とは一緒にゲームしたことなんて無いよ。本当に女の人とはアスカだけだし・・・」
 
「えっ?本当にそうなの?」
 
「うん・・・綾波があんなにゲームがうまいなんて僕も今日、初めて知ったんだ。うまいっていうよりもゲームをするということ自体に驚いたけど・・・」
 
アスカはシンジの目を見ていたが嘘をついている目ではなかった。いや、それ以前にシンジが嘘を付けない性格なのをアスカはよく知っていた。
 
「何だ。アタシすっかり勘違いしてたのね。あーあ、ばっかみたい!」

アスカはぷいっと横を向く。シンジはアスカの斜め正面に立って見下ろすような位置にいた。すっかり着崩れたアスカの浴衣の胸元に目が留まる。襟元が左右に開いて見えそうだった。
 
バスト8xって…大きいんだな・・・
 
シンジの脳裏にはユニゾンの時やネルフ内のプールで見たアスカの胸が同時にフラッシュバックしていた。アスカがふと視線を戻すとシンジの視線が自分の胸元に落ちているのに気が付いた。
 
「ちょっと!アンタ何処見てんのよ!」

アスカはぱっと浴衣の襟元を両手で合わせると下駄の先端でシンジの向う脛を思いっきり蹴り上げる。
 
「いてーーー!」

「ったく、アンタは本当に油断も隙も無いんだから!スケベ!」

シンジは思わずその場に崩れ落ちる。レイが店の奥から出てきた。部屋の奥から女将さんの声が聞こえてくる。
 
「はい、じゃあ次はアスカちゃん、いらっしゃい」
 
「はーい」
 
アスカは何事も無かったかのように小走りに奥に入っていく。レイは店先でしゃがみこんで脛をさすっているシンジに目を留める。
 
「・・・碇君・・・足・・・どうかしたの?」
 
シンジは涙目でレイを見上げた。
 
「いやちょっと・・・罰が当たったみたい・・・」
 
「罰・・・人間が犯した悪事に対して与えられるこらしめ・・・天罰のこと・・・神様の戒め・・・」
 
シンジはマンションを出たときよりもきりっと浴衣を着こなしているレイを暫くの間ずっと見上げていた。
 



 
アスカとレイは見違えるように艶やかに変身していた。シンジも何処とは明確に指摘できないが微妙にミサトの着付けはどこかが間違っていたらしい。
 
浴衣姿ってこんなに可愛くなるんだなあ・・・
 
シンジは二人をぼうっと見つめていた。レイとアスカは朝顔をあしらった髪飾りを呉服屋の女将さんからプレゼントされて髪を飾っていた。アスカは朝顔の髪飾りでアップスタイルにしてもらっていた。しかし、それでもプラグスーツのヘッドセットはつけたままだ。

呉服屋を後にした三人は露店が軒を並べる「本部」テントの方向に歩いていく。アスカとレイは道行く人々から握手を求められ、そして携帯やデジカメで写真に撮られていた。普段は写真を撮られることに抵抗を示すアスカだったが今日は商店街のマスコットガールとして写真撮影は仕事の一環と割り切っているようだった。気軽にツーショット写真にも応じる。アスカから時折、実力制裁を加えられているケンスケがこの光景を見るとさぞかし憤慨することだろう。

暫く三人で散策しているとアスカがシンジの半被を引っ張ってきた。

「あ!Zuckerwatte(読み: ツッカーヴァッテ / 意味: 綿飴 独)。あれクーポンで買ってよ」

「えっ何ていったの?」

シンジはアスカが指差す方向を見ると綿菓子を売っている露店が見える。

「もしかしてこれ?」

シンジがテキヤのおじさんが綿状になった飴を割り箸に手際よく巻き付けているところを指差す。

「そうよ。Zuckerwatteよ。日本語で何ていうの?」

「綿菓子だよ。綿飴ともいうけど・・・」

あ、そう!ドイツ語と同じニュアンスね。Zuckerwatteも飴の綿っていう意味だから。世界共通なのね。英語でもCotton candyだものね」

ドイツ語で「へーそうなんだ」「あ、そうなの?」という相槌は日本語と音が同じで「アーソー」という。アスカも日本語なのかドイツ語なのか、判別できない「アーソー(あ、そう)」をよく使う。

「ふーん、そうなんだ・・・っていうかさ。ドイツにもあるんだね。綿飴・・・」

「当たり前じゃない!公園やPlatz(広場)とか子供が集まる場所ではおじさんがよく売ってるわ。日本はあんまり見かけないけど。なーんだ。あるんじゃない。Zuckerwatte」

「綾波もいる?」

「よく・・・分からない・・・不思議なもの・・・なんか見たことがある様な気がする・・・空の上を飛んでいる・・・」

「空の上で見たことあるですってぇ!!アンタ知らないの?何だったっけ・・・そう!綿飴よ」

「・・・よく分からない・・・」

「ファースト!ちょっとアンタ、アタシをバカにしてる訳?からかうつもり?もういいわ!シンジ!」

「な、何・・・」

雲行きがまた怪しくなってきたアスカとレイの雰囲気にびくついていたシンジは不意に名前を呼ばれて不必要に焦る。

また、アスカに無理難題を突きつけられたらどうしよう・・・

シンジの顔に緊張の色が走る。

「面倒くさいから3つ買って頂戴!アンタも食べるでしょ?」

シンジはほっとする。

よかった・・・普通で・・・

「うん分かった。あのすみません・・・」

「らっしゃい!」

アスカが言うように綿飴売りが子供相手の商売を基本にしているとすれば、明らかに子供の肝を一瞬で潰してしまいそうな強面のおじさんだった。中学生のシンジでもちょっと話しかけるのには勇気がいる。思えばシンジは祭りに限らず露店でスマイルに溢れたテキヤさんに今まで出会ったことがなかった。これも文化の違いなのだろうか?多分シンジの運が無いだけだろう。

「綿飴を3つ下さい」

「あいよ!こっちの出来ているのでいいかい?」

「あ、はい」

「1つ500円だから3つで1500円ね」

500円という言葉を聞いた途端、シンジの隣にいたアスカの顔色が変わる。

「じゃあこれでお願いします」

シンジが南雲から貰ったクーポンをおじさんに1500円分千切って渡す。いきなりクーポンの束は半分になっていた。その光景を見ていたアスカはついに我慢が出来なくなる。

「ちょっと!Zuckerwatteが一つ500円ですって!4ユーロってこと?高すぎるわよ!何か計算間違ってんじゃないの!!」

シンジはいきなりテキヤのおじさんに突っかかっていくアスカにビックリする。

「ア、アスカ!すみません!!」

シンジはテキヤのおじさんの視界から逃れるようにアスカとレイの手を引いて駆け出していく。

「毎度ありー」

レイは3人分の綿飴を持った状態でシンジにされるがままに無言でついてくるが、アスカは尚も追いすがるようにシンジに抵抗する。対照的な反応をする二人だった。

「ちょ、ちょっと、シンジ!あの人との話はまだ終わってないわよ!離しなさいよ!」

3つ先の露店まで来たところでようやくシンジがアスカとレイの手を離す。

「アスカ。日本ではあれが普通なんだよ」

「普通?4ユーロが?アンタ、ドイツだったら4ユーロもあるとPublic Busで何処までいけると思ってんのよ!市内を突き抜けて隣町まで行くわよ!」

シンジはアスカの剣幕にたじたじになる。

「普通」という言葉が4ユーロは暴利だと認識しているアスカを余計に刺激してしまったらしい。自分の主張を明確にして議論を仕掛けてくるゲルマン人独特のペースに日本人の中でも引っ込み思案な部類に入るシンジはいまだにうまく対応できなかった。

そのため、普段のアスカとの会話でも何とかうやむやにしようとすることが多かったが、そういう態度を最も嫌うゲルマン人の血が75%を占めているアスカとの摩擦を生むというのがいつものパターンだった。

しかし、今日のシンジは綿飴の文化の違いという予備知識が得られていたことが幸いした。

「そ、その日本の場合は・・・綿飴はスペシャルな時に食べるものだから・・・えっと、そうだ!プレミアがつくんだよ。うん、プレミアが」

アスカはシンジをじっと見ていたが「プレミアム」という言葉を聞いてようやく合点が行った様だった。

あ、そう・・・プレミアム込みってことなら仕方が無いわね・・・でも4ユーロって分かってたらアタシ買わなかったわ・・・」

その時、アスカの目の前にいきなり綿飴が突きつけられた。レイがビニール袋から取り出してアスカに向けていた。

「食べないの?・・・セカンド・・・」

「た、食べるわよ。アンタに言われるまでもないわ!」

アスカはレイから綿飴をひったくると一口分を千切って口の中に入れた。

「おいしい!味は何処も同じね!」
 
アスカはすっかり4ユーロのことは忘れて綿飴に夢中になっていた。シンジもレイから綿飴を手渡されていた。

「ありがとう。綾波」

心なしかレイの顔が微笑んでいるようにシンジには見えた。

 
Ep#01_(3) 完 / つづく
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