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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第2部 The Battle of Woman's honor 女の闘い
 

(あらすじ)
メイン会場で開かれているゲーム大会のイベントコンパニオンをすることになったアスカとレイ。些細なことからアスカがレイにキレてイベントの段取り無視で満座の前でレイにゲーム対決で決着を付けろと言い出す。
「セカンド・・・言っておくけど・・・あたし・・・強いわよ・・・」
「上等よ!」
舞台の裾でシンジはただ震えて見ているしかなかった・・・
 

(本文)


第三東京市駅前商店街のほぼ中央にあるイベント広場に夏祭りのメインイベントを行う為の特設会場が設けられていた。ここでは5時から6時半まで子供を対象にしたゲーム大会が開かれ、夜の帳が下りるのを待ってからメインイベントである盆踊りがスタートし、宴も酣(たけなわ)というところでビンゴゲームを行うというのが大まかな夏祭りの流れになっていた。

大会で使われるゲームはアスカとシンジもマンションで二人でよくする対戦型パズルゲームだった。

同じ色のボールを4つ以上揃えると消すことが出来、連鎖させればさせるほど相手側に不必要なボールを送ってダメージを与えるというのが基本的なルールだ。不必要なボールは下から上に競り上がってくる方式で一番上までボールが積みあがってしまった方が負ける。

いわゆるオーソドックスな落ち物ゲームだった。

「エルブスだわ」

「あっ本当だ」

エルブスとはこのゲームの正しい名前ではなくドイツ語で豆(die Erbse)のことをいう。アスカにはこのゲームに出てくるキャラクターのボールがエンドウ豆に見えるらしく、シンジをゲームに誘うときは「Erbseやらない?」と言ってくる。

図らずもアスカとシンジの二人にしか分からない合言葉の一つになっていた。

会場には大型スクリーンが設営されており、これを高輝度プロジェクターで投影して観客に背を向けた状態でプレーヤーはゲーム用の操作スティックとボタンを駆使して対戦するような舞台構成になっていた。

舞台の裾から大型スクリーンを見ていたアスカとシンジの後ろから青年部の古賀が話しかけてくる。

「今、子供たちがあっちで予選をしてるんだ。予選で参加者を16人に絞って本戦のトーナメントはこっちの会場を使うんだよ」

古賀の右手にはメインステージの音響と繋がっている司会用のマイクが握られている。

「へえ。ずいぶんと手が込んでいるのね」

「そうなんだよ。ゲーム大会は去年初めて試みたんだけど、それがやけに反響があってねえ。それで今回も出場者を募集したら老若男女を問わず100人が集まってこっちがパンクしちゃったんだ。仕方が無く予選と本戦を分けて捌くしかなかったってのが実際なんだけどね」

「ロウナクナン・・・って何?」

ろうにゃくなんにょだよ。お年よりも子供も性別も関係ないって意味だよ」

シンジが淀みなく答える。

あ、そう。家に帰ったら漢字教えてよね」

「アスカちゃんて本当にハーフなの?やけに日本語がうまいけど」

古賀がアスカに尋ねる。

「正確にはクォーターよ。アタシのママが日本人とドイツ人のハーフなの」

「そうなんだ。いや、どうりで可愛い訳だ」

「いやね!古賀さん。それほどでもあるわよ」

「アスカ、ちょっと日本語が・・・」

「ちょっと!そんなことよりあれってファーストじゃないの!」

「えっ綾波?」

アスカの声にシンジと古賀は一斉に舞台の裾からステージの中央を見た。そこには紛れも無くレイが立っており、じっとプロジェクターから投影されているゲームのデモ画面を見ているのが分かった。

「あの女!勝手にメインステージに上がって!何をするつもりかしら!そうか・・・一人目立つ心算ね」

アスカはそういうとシンジが制止するのも聞かずカコカコとミサトから借りた女物の下駄を鳴らして舞台の裾から出てメインステージに姿を現した。

「ちょっと、ファースト!」

レイは一瞬チラッと目だけでアスカを見たがすぐにゲームのデモ画面に視線を戻す。

「何・・・弐号機パイロット・・・」

その飄々とした対応にアスカはイライラを爆発させた。

「アタシたちの出番は本戦が始まってからでしょ?何でアンタがこんなところに今、あがる必要があるわけ?」

「このゲーム・・・」

「ゲームが何よ!」

「あたし、知ってるわ・・・」

「はあ?アンタ何言ってんの?そりゃそうよ。結構人気があるのよ。これ4作目でしょ」

「違うわ・・・」

「何が違うっていうのよ!さっさと答えなさいよ!」

「昔からこのゲームを知ってる気がするの・・・碇君がゲームをしている姿が見えて・・・」

「シンジが!?」

アスカはレイからシンジの名前が出たことでたちまち冷静ではいられなくなる。

レイの表現も抽象的で分かり難いせいもあったがアスカは「以前にこのゲームをシンジと一緒にしたことがある」と勝手に頭の中で脳内変換されていたのだ。

レイはおぼろげな記憶のようなイメージがあると言ったつもりだったが、アスカはレイの微妙な言い回しをフォローアップ出来るほどまだ日本語に精通していなかった。

アスカの頭にみるみる血が上っていく。

・・・何よ。シンジのやつ。アタシとエルプセを初めてやった時に女の子とゲームしたのは初めてだから緊張した、とか可愛いことを言ってた癖に!ファーストと一緒にやったことあるんじゃない!

アスカは舞台の裾で古賀と一緒に二人を見つめているシンジをキッと睨む。

アスカと不意に視線がぶつかり思わずシンジは古賀の後ろに姿を隠す。アスカにはその行動がシンジが後ろめたいことをしていたことを認めた様に見えた。

アスカの心は傷ついていく。

何よ・・・アタシ一人・・・バカみたいじゃない・・・

アスカはシンジとエルプセを対戦している自分に密かに満足していた。たかがゲームではあったがシンジの「女の子の対戦相手」というカテゴリーを完全に独占しているということに何事においても独占欲の強いアスカは充足していたのだ。

それが・・・脆くもこんな形で崩れ去っていくとは想像だにしていなかった。
許せない!シンジもファーストも!アタシのことをバカにして楽しんでいるんだわ!

しかし、舞台の裾に隠れたシンジ以上に自分の存在を無視して泰然自若でゲームのデモ画面を見つめている、まさに目の前にいるレイに最も腹が立っていた。本戦が始まるまでにはまだ20分の猶予がある。

アスカは決断する。

「ファースト!勝負よ!」

レイはデモ画面から視線だけをアスカに向ける。アスカとは対照的に極めて冷静な視線だった。

「アタシはアタシの名誉にかけてアンタにこれで挑戦するわ!アンタとはいつか決着をつけないといけないと思っていたから丁度いいわ!!」

アスカはレイを指差す。レイはアスカの顔とデモ画面を交互に見ていたがゆっくりした間合いでアスカに向き直る。

「止めて置いた方がいいわ・・・セカンド・・・」

「何ですって?アンタ逃げる気?はん!負けると分かって怖いのね!アンタ!」

舞台の裾で古賀とシンジは予想外の展開にただ手汗を握って経過を見守るしかなかった。

「シ、シンジ君、ステージの真ん中でケンカはまずいんだけど・・・」

古賀はとても大人とは思えない泣き言をシンジに言う。

「そ、そんなこと言われても・・・僕にあの二人を止めることが出来るって古賀さんは思っているんですか?」

「いや、全然思わない」

古賀が即答する。二人が不毛なやり取りをしている間にもステージ上の緊張はどんどん高まって行く。この異様な雰囲気を予選会場の観客が一人、また一人と気が付き始めて視線が増えつつあった。

「どうなの!ファースト!アタシの挑戦を受けるの?それとも負けを認めるの?」

レイはアスカの顔をじっと見ていたが静かに答えた。

「・・・言っておくけどセカンド・・・あたし・・・強いわよ・・・」

意外な一言をアスカに向かって言い放った。

「上等よ!」

アスカはいきなり浴衣の裾をめくると女物の下駄を荒々しく脱ぎ捨てて裸足になった。一瞬だがアスカの白い足が膝辺りまで露わになる。おおっと会場からどよめきが聞こえてきた。

それを見ていたレイも静かに下駄を脱いで裸足になる。そして、レイはおもむろに帯の中に右手を無造作に突っ込むと腰紐を引き出し、浴衣の両袖を一気に肩まで引き上げて手早く襷がけをする。アスカに負けず劣らず色白なレイの二の腕とほっそりした肩口が露わになり再び会場がどよめく。

「くっ!ファースト・・・アンタ、只者じゃないわね!」

アスカは臨戦態勢のレイを睨みつける。

「シンジ!」

「は、はい!」

アスカはシンジをステージに召喚した。殆ど独楽鼠状態だった。

「アタシをファーストと同じように縛って頂戴!」

「えっ!そ、その・・・縛るって・・・襷がけしろってこと?」

「そうよ!グズグズするんじゃないわよ!アンタも!」

恐る恐るシンジはアスカの帯の中に手を突っ込み腰紐を緩めて引き出した。会場から拍手が沸き起こる。いつの間にかメインステージには渦の人だかりが出来ていた。アスカは思いっきり両袖をたくし上げる。会場のボルテージが一気に上がっていく。

「ア、アスカ!そこまで上げなくてもいいよ!その・・・横から見えちゃうから・・・」

アスカとレイの集中力はかなり高まっておりアスカにはシンジの声が殆ど届いていないようだった。仕方がなくシンジはアスカの袖を少し戻して襷がけを施す。同様にレイの裾もチェックして少し直した。会場から僅かばかりのブーイングがシンジの耳に届いた。メイン会場の異様な雰囲気を察知した南雲会長が本部テントからステージの裾まで現れた。

「古賀君!一体どうしたんだ!」

「す、すみません会長。レイちゃんとアスカちゃんがステージで・・・」

さすがに古賀はケンカし始めたとは言いづらくて途中で言葉を切った。南雲はステージの裾から観客席の様子を窺った。

「こ、これは!商店街のイベント始まって以来、これほどの観客が集まったことはただの一度として・・・なんと言うことだ!凄い!大盛況じゃないか!」

第三東京市駅前商店街は使徒が攻めてくる街として世界的に有名になっていた。しかし、それは例えば肉屋では使徒のDNAが混入している等のあらぬ風評被害との戦いの日々でもあった。その為、如何に多くのお客に足を運んでもらうかがこの夏祭りのキーになっていたのだ。

ステージ上では共に腰紐で襷がけをして二の腕と肩の一部を露出し、裸足の状態で対戦席近くでにらみ合いを続けるアスカとレイがいた。南雲はこの道50年の商売人魂がチャンスの到来を告げるのを感じていた。南雲は古賀からマイクをひったくるとステージに飛び出していった。

「えー、皆さん!それではただ今より特別イベント!当商店街が誇るマスコットガール、アスカちゃんとレイちゃんによるパズルゲーム無制限3本勝負を開催いたします!」

高らかに宣言した。会場からは大歓声と大きな拍手が沸き起こる。古賀とシンジは南雲の逞しい商魂に度肝を抜かれてその場に凝固するしかなかった。まさに災い転じて福となすを地で行く南雲だった。アスカとレイは共にコントローラーを目の前にしてお互いににらみ合う。文字通り火花が出る勢いだ。南雲はステージ中央に躍り出る。

「赤コーナー!スリーサイズ・・・」

南雲はマイクのスイッチを切るといそいそと小走りにアスカの元に駆け寄る。

「アスカちゃん、いくつ?」

アスカはレイから視線をはずすことなく躊躇なく答える。

「8x、5x、8x」

再び南雲がステージ中央に戻って大音声を上げる。

「上から8x、5x、8xの発展途上のダイナマイトガール。ネルフ所属!惣流・アスカ・ラングレー!!」

おおおお!地響きと思うようなどよめきが起こり、会場の興奮は最高潮に達する。とても素人わざとは思えない南雲の即興パフォーマンスにシンジは真のプロフェッショナルを見る気がしていた。南雲はそのままレイの元にも急ぐ。アスカと同じ質問をレイにもしているらしい。

「青コーナー!スリーサイズ、上から7x、4x、7xのスレンダービューチフル。ネルフ所属!綾波レイ!!」

うおおお!会場の各所から雄叫びが聞こえてきた。南雲のマイクパフォーマンスのみならず素晴らしいインタビュアーとしての手腕に対して惜しみの無い拍手が会場から送られていた。

「・・・す、凄い・・・会長。これが商魂なんですね・・・」

古賀がめがねを取って感動の涙を拭っていた。

「ジャッジメント!スーパー大安吉日堂社長。不肖、この南雲源蔵が務めさせて頂きます」

シンジはビックリした。第三東京市が誇る市内有数のスーパーチェーン店の大安吉日堂の社長が南雲だとこの時始めて知ったのだ。やはり一代でここまでのし上るだけのことはある。南雲はアスカとレイをステージの中央に呼び寄せた。ルール説明のまねをするつもりだったがアスカがいきなり南雲からマイクをひったくる。そしてアスカはレイに向かって拳を突き出し、そしてゆっくりと親指を下に向けた。

「You are out!(アンタは終わりよ!)」

明らかな挑発行為に会場がどよめき、そして手拍子とアスカコールが沸き起こる。アスカはマイクを南雲に投げて返す。最高の役者だ!南雲は関心した様な眼差しでアスカを見ていた。レイも静かにマイクを南雲から取る。

「セカンド・・・何をそんなに恐れているの・・・」

「な!何ですって!」

レイは南雲にマイクを渡すと平然と自分のコントローラーに向かっていく。会場から同様に綾波コールが起こる。レイに飛びかかろうとするアスカを必死に南雲は抑える。アスカは南雲に促されてようやくコントローラーに向かっていく。

「そ、それでは位置について!レディー!ゴー!」

二人は一斉に上から振ってくるボールを積み上げて連鎖を仕込み始める。自然にスクロールしてくる速度ではなく、下レバーを押しっぱなしにしてハイスピードでボールを次々と落していく。Nextの画面に出てくる次のボールの色を確認している為、的確且つハイスピードなボールのやり取りになっていた。

「こっこれは!二人とも相当やり込んでいるね」

思わず古賀が叫ぶ。子供ばかりを相手にしていたこれまでのゲーム大会とは明らかに違う。まさにエキシビジョンマッチと言ってもよかった。ゲームが始まって僅かに10秒たらず。レイがいきなり仕掛けてくる。画面上のボールが鮮やかな連鎖を繰り返して一気に5連鎖をアスカに叩きつける。

「レイちゃん!いきなりの5連鎖!」

会場がどよめく。子供たちも自分たちの予選のことを忘れて大画面上で繰り広げられるハイスピード勝負に見入っていた。

「くっ!ファースト!アンタ!早仕掛けね」

アスカはレイの仕掛けた5連鎖を相殺するため積み込みを中断して連鎖を崩す。途中までとはいえアスカも4連鎖を送り込んでレイの攻撃を最小限に食い止める。

「アスカちゃんも負けじと4連鎖!」

レイは小刻みに2連鎖で波状攻撃を仕掛けようとしていたが、アスカが連鎖を崩して相殺するのを察知するや更に積み込む方針に切り替える。お互いに程ほどの連鎖で相手のプレースタイルを見極めようと様子見の展開を繰り広げていた。しかし、ハイスピードで積み上げていることには変わりはなく、会場からはとても二人が様子見でプレーしているようには見えない。

「二人とも凄いじゃないか!事も無げにあっさり4連鎖、5連鎖だよ。しかも僅か数秒の間に仕込んでるなんて。子供にはとても出来るようなもんじゃないよ。まさかこんなハイレベルな勝負になるなんて正直全然思ってなかったのに」

「古賀さん、やけに詳しいですね」

シンジが古賀に問いかける。

「だって僕おもちゃ屋だもん」

「そうだったんですか・・・」

結局、第一ゲームはレイが寸前のところで勝利を収めた。お互いが繰り出した5連鎖と波状攻撃で同じようにボールがつみあがり、どちらが先にゲームオーバーになっても仕方が無いという状態になっていた時にレイがボールの回転を操作するボタンを連射し始めた。こうすることでボールが接地すると認識される当たり判定までの僅かな時間を稼ぐことが出来、それを知っていた分だけレイのアドバンテージとなって勝利したのだ。

「一本目!勝者!レイちゃん!」

第一ゲームを終えた時点でゲームを知り尽くしている二人に会場は驚愕し、そしてまだ始まったばかりにもかかわらずスタンディングオベーションが始まっていた。

「凄い!凄いよ、シンジ君!可愛い女の子が二人でハイレベルなゲーム対戦するなんて!最高に萌えるよ!」

「こ、古賀さん・・・」

シンジは古賀から一歩、二歩と離れる。





「やるわね、ファースト・・・」

アスカがレイを見る。

「・・・まだ本番はこれからよ・・・セカンド・・・」

「ふっ言ってくれるわね。アタシもそろそろ本気だすわよ」

「それでは二本目に入ります!これをレイちゃんが取ればレイちゃんの勝利になります!」

南雲のマイクパフォーマンスも冴え渡る。

「会長さん!待って!」

アスカが南雲にタイムを申し入れる。南雲が頷くといきなりアスカは浴衣の端を持ち上げて端折り始めた。会場は大歓声を上げる。そして間髪いれずにアスカコールが沸き起こった。アスカの白い足は膝上まで露わになる。

「これで動きやすくなったわ。ファースト!覚悟しなさい!」

「それでは!レディー!ゴー!」

一本目からは一転して二人は早い仕掛けではなく連鎖勝負に出た。見る見るうちに二人のボールが積みあがっていく。アスカがゲームの操作に合わせて小刻みに体を動かすのに対してレイは直立不動で身じろぎ一つしないで淡々と操作していく。まさに動と静、相反する二人だった。

「こ、これは・・・まさか・・・7、8・・・凄い!10連鎖を超えてるじゃないか!二人とも」

古賀が唖然とする。アスカが会場で叫ぶ。

「Lock on(いただきよ)!」

一瞬の隙を突いてアスカは一気に連鎖を始める。レイに17連鎖を送り込む。聞いたことも無い連鎖音が断末魔の雄叫びの様に連続して流れ、もはや会場は言葉を失っていた。レイも少し遅れて連鎖を開始して相殺を試みるがアスカの攻撃によってボール一つ分が予定を狂わせて途中で連鎖がストップして10連鎖になってしまう。かなり悔しいパターンだ。

「ちっ」

レイが小さく舌打ちする。積み込み勝負はアスカが勝利を収めた。

「二本目!勝者!アスカちゃん!」

「よっしゃあ!」

レイは終始静かだったがシンジには心底、悔しそうにしている様に見えた。悔しさがレイの闘志に火を付ける。レイの目が燃えていた。

「綾波・・・」

シンジは思わず呟いていた。レイは左右に首を振り、そして両方の腕を小さく回すと順手で持っていた操作レバーを逆手に持ち替え、そして回転ボタンを押す手のポジションを調整し直した。

「レイちゃん・・・あのレバーの持ち方は・・・まさにゲーセンスタイルだね・・・」

古賀がレイのプレースタイルの変更に目ざとく気が付いていた。シンジはアスカとはよく対戦していたのでお互いの手の内も力量も分かっていたが、初めて見るレイのプレイになぜか親近感を感じてドキドキしていた。

今の「エルプセ」は4作目になる。移り変わりの激しいパズルゲームの中でもロングヒットの部類だ。このゲームの第一作目はシンジが小学校に上がる前に発売され、シンジの母ルイはこのゲームが好きでゲーム機と一緒に買って来て仕事が休みの日はよく一人で遊んでいたらしい。

物心付いたシンジは母の面影を求めて残されたこのゲームに没頭した。シンジにとってはただのソフトではなかった。自分の知らないレイの一面を垣間見るからなのか・・・いや何処となく懐かしさを感じている、という方がやはり正しいかった。





本戦がスタートする予定時刻を既に超過していたが誰も異議を唱えるものはいなかった。そして運命の3本目は異様な熱気の中で始まろうとしていた。

「これを取った方が勝者になります!それでは!レディー!ゴー!」

レイは今までとは人が違った様にハイスピードで積み上げ始める。そしてあっという間に8連鎖をアスカに送り込む。

「な!何て早さなの!」

アスカも堪らず連鎖を崩すが5連鎖を返すのがせいぜいだった。相殺してもレイの攻撃のダメージを完全には緩和できない。更に畳み掛けるように今度は7連鎖。

「What the hell is it・・・?(一体どうしたって言うの?)」

アスカは呆然と呟いた。終に対応できずにメインステージに沈んだ。ほとんど秒殺だった。会場が一瞬唖然として静まり返ったが、やがて割れんばかりの拍手の波が押し寄せてきた。

「勝者!綾波レイちゃん!!」

会場からは二人に対して惜しみの無い拍手と声援が改めて送られる。俯いているアスカの隣にレイがやって来る。アスカはレイと顔をあわせる。

「・・・悔しいけど、ファースト。アンタの勝ちよ。完敗だわ・・・」

アスカが意外にもあっさりと負けを認めた。

「セカンド・・・あなたも相当の使い手だったわ・・・あたしを本気にさせたのは・・・あなたが初めて・・・」
「さあさあ二人ともステージの中央に行って!」

南雲に背中を押されて二人の少女はステージの中央に再び連れて行かれ、そして南雲の粋な計らいで二人は互いに握手させられる。

「レイちゃんとアスカちゃんに今一度、熱い拍手をお願いしまーす!」

商店街のイベント会場の盛り上がりは最高潮に達していた。アスカコールと綾波コールの両方が沸き起こる。レイとアスカの顔にも笑顔が戻っていた。

「シンジ君!本当にありがとう!いいものを見させてもらったよ!!」

「・・・い、いえ・・・僕は何も・・・」

古賀は興奮気味にシンジの両手を掴んで力強く握手をしてきた。



Ep01_(2) 完 / つづく


 

(改定履歴)
25th May, 2009 / 誤字修正 
27th Oct, 2009 /  改行及び表現修正
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