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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第4部 A miracle on a fishpond of goldfish 奇跡

(あらすじ)

アスカは金魚すくいに挑戦したいと言い出す。金魚すくいには全くいい思い出の無いシンジだったが実は金魚すくいが得意だった。アスカのはちゃめちゃ振りに業を煮やしたシンジはアスカに金魚すくいのレクチャーを始めるが・・・

(本文)



綿飴を思い思いに食べ終わった3人は「本部」まであと少しというところまでやってきていた。シンジが時計を確認しようとしたその時、またアスカがシンジの半被を引っ張ってきた。

「ねえ!シンジ!アレやりたいわ!」

「あれって・・・ああ金魚すくいだね」

「キンギョスクイっていうの?すっごい楽しそう!」

「そ、そうかな・・・」

日本人のシンジが見たところ全く何の変哲も無いただの金魚すくいだった。小さい赤い和金が所狭しと泳いでいる中に子供だましの比較的大きな黒い出目金がちらちら泳いでいるところを見ると難易度はそれなりに高そうな金魚すくいのようだ。

シンジは露店の主を確認して自分の認識が間違っていないことを確信する。年季の入ったスキンヘッドのテキヤのおじさんが無言で中央に座っており、その周りを親子連れが3組ほど金魚すくいを楽しんでいる。明らかにこの道の酸いも甘いも知るプロのような空気があるおじさんだった。

家族でわいわい楽しむヨーロッパのカーニバルと一線を画する、日本の夏祭り特有のあの切ない雰囲気、それは露店に漂う哀愁のせいだとする向きもあるがまさに裸電球の明かりに照らされるおじさんはそれを体現していた。

一方のシンジは金魚すくいに全くいい思い出が無かった。

父ゲンドウが唯一一回だけシンジが五歳の時に近所の夏祭りに頼みもしないのに連れて行ってくれたことがあった。未だにその理由は分からない。母ユイが事故死した2年後、シンジが親戚に預けられる直前の出来事だった。

シンジはゲンドウからなぜかその時に金魚すくいの手ほどきを受けていたが、それがあまりにも苦痛だったことを思い出していた。





「シンジ。同じことは二度と言わん。だから心して私のアドバイスを聞いておくのだ。お前の質問は許さん。わかったな?」

「はい。おとうさん」

「シンジ。出目金はフェイクだ。むやみに手を出すな。基本的に網の強度は出目金の重量に耐えるだけの強度が無い」

「はい。おとうさん」

「シンジ。不必要に網を水につけるな。網が水を吸って指数関数的に強度が落ちる。それから網の活動限界には常に注意を払え」

「はい。おとうさん」

「シンジ。ターゲットは必ず絞れ。目移りはするな。無駄な動きは目的を阻害する最大の支配因子であることを忘れるな。そして相手の動きを見極めた上で文字通りゆっくりすくえ。決して無駄に持ち上げるな。金魚を気液界面に追い込み、それを一気に最短距離でお碗の中に入れろ」

「はい。おとうさん」

「シンジ、今回の網は半紙だが網の種類によって戦術は異なるから注意しろ。特に網のMaterial(材料)が最中(もなか)の場合は難易度が高い。金魚が最中を突いて食べるから注意が必要だ。それから往々にして最中と柄の部分の接合は手が抜かれている場合が多い。分かるな?最中が水を吸って半紙とは異なり自重が時間の経過と共に増すことを考慮に入れなければならないということだ。」

「はい。おとうさん」

シンジはため息を一つ付く。忌まわしいとまでは言わないが何時思い出しても全然楽しくない。

だから祭りは嫌いなんだ・・・





a.JPG「ねえ!ちょっとシンジ!聞いてるの?アンタ何呆けてんのよ!」

シンジはアスカの声で再び現実に引き戻される。

「・・・あっごめん・・・えっと・・・あ、そうだ。綾波もする?」

「・・・あたしは・・・見ているわ・・・」

「分かった・・・あのーすみません。1回分お願いします」

「はいよ。300円だよ、お兄ちゃん」

シンジはアスカがまた高いと言い出さないかとチラッと横目でアスカの様子を確認したが嬉々としておじさんからお碗と半紙の網を受け取っているところだった。

アスカの高い、安いの判断基準がシンジにはまだよく分からなかった。

シンジはクーポンをおじさんに渡す。

「お姉ちゃん。着物の袖を濡らさない様に気をつけなよ」

「分かってるわよ。よーし見てなさいよ!」

アスカはいきなり黒い出目金めがけて網を突っ込む。

「あ!アスカ駄目だよ!出目金は!」

ぼちゃん・・・

アスカの目の前で無残にもすくい上げた黒い出目金が落ちていく。出目金をすくって失敗した場合のダメージは甚大だ。半紙の網に大きな穴が開くので同じ網で再挑戦は出来なくなる。

「残念だったな。お姉ちゃん。うまくすくったのになあ・・・」

「なにこれ!網がすっごい弱いじゃないの!もしかして紙?ちょっとどういうことよ!」

「それを考えに入れてテクニックで金魚を取るから面白いんだよ…お姉ちゃん」

さすが歴戦の猛者だけあっておじさんはアスカをいとも容易くいなした。

「Shit!もう一回やるわよ!」

「はいよ。お姉ちゃん。今度はうまくいくといいねえ」

おじさんはアスカに新しい網を手渡す。アスカは小さい和金に今度は狙いを定めているようだった。アスカは金魚を網で追うために水中に躊躇なく全体を漬けていた。

「あっ!駄目だよ、アスカ!不必要に網を水につけたら!」

「えっ?」

アスカがシンジの声に驚いて網を引き上げる。

「ほら、見て御覧よ。網が完全に濡れてヨレヨレになっちゃってるじゃないか。これじゃあ直ぐ破けちゃうよ」

「うー」

アスカは唸った。しこたま水を吸った半紙の網をアスカは虫眼鏡を覗くように見た。殆ど向こう側が透けているのが分かる。

シンジはレイと並んでアスカの後から立って見ていたが堪りかねてアスカの隣にやって来た。金魚すくいを楽しむ幼稚園くらいの男の子がアスカの隣にいたこともあり、シンジはやむを得ずアスカに密着するくらい近くに座った。

二人の肩と肩が触れ合う。アスカはぎょっとして思わずシンジの方を見る。シンジがアスカの顔を横から覗き込む。

「ちょっと貸してごらんよ」

「え、ええ・・・」

そしてお碗と網を受け取るために手を伸ばす。アスカはシンジにそのまま抱き締められる様な錯覚に襲われて思わず俯いて目を瞑った。シンジはお碗と網をアスカの白い手からそっと引き取る。

やだ・・・何、アタシったら・・・こいつはシンジよ!加持さんじゃないのに!

アスカは頬を少し朱に染めてシンジと反対方向にぷいっと顔をそむける。

シンジはそれには全く気が付かず金魚すくいのコツをアスカにレクチャーし始めた。

「出来るだけお碗と網を近づけて狙いを定めてからさっと網を水に漬けるんだよ・・・アスカ、聞いてる?」

「き、聞いてるわよ!おわんと網を近づけるんでしょ!」

「うん。で、こうやってすくうんだ・・・」

シンジがすっと水面を切るようにして比較的大振りな一匹の和金をすくう。

「すごーい!やったわ!」

アスカは思わずシンジの腕を両手で掴んで揺する。

「ちょ、ちょっと、アスカ!そんな揺すったら・・・」

ぽちゃん・・・

二人の目の前でシンジがすくった和金が落ちていく。網も端から中心に向かって裂けてしまった。

「ごめん・・・ま、まあ、あんな感じなんだけど」

「今のは仕方が無いわ。アタシが水に漬けて殆ど駄目にしてたし。でもアンタって時々・・・」

「えっ?何?」

「・・・な、なんでもないわよ!よーし、何と無くコツが分かってきたわ」

「もう一回やるかい?お姉ちゃん」

「Absolutely(当たり前じゃない)!次は絶対捕まえるわよ!」

アスカの金魚すくいのフォームは始めに比べてそれらしくなってきていた。飲み込みが早いのはさすがだった。そしてアスカも水面すれすれに一匹の和金を追い込むが、和金が危険を察知してぷいっと網から逃げていく。

「ちっ!まったくすばしっこいわね!」

同じようなことを何度か繰り返している間に網が活動限界を迎えつつあった。しかし、格段にターゲットに対するアスカのアプローチは上達していた。そしてラストチャンスと思われたその時、アスカが水を切るように網を滑らせると見事に一匹の和金を網に乗せることに成功した。

「Ja!(Yesと同意)」

そのままお碗に移動させようと持ち上げる。すると水面から7、8cmのところで網が無情にも破れる。まるでスローモーションの様に網の裂け目から和金が落ちていく。

「逃がすもんですか!」

アスカはプラスチック製の柄の縁で和金を追いかける。そして和金が着水する前に縁の部分で和金を引っ掛けた。

和金が縁の上で暴れる。

「こ、こいつ、しつこいわね!観念しなさいよ!」

和金も命がかかっている為、縁の上で必死に抵抗している。アスカは巧みにバランスをとって和金を引っ掛け続ける。網の縁で・・・その場にいた全員がこの奇跡的な光景を呆然と眺めていた。

そして次の瞬間、

「うぉりゃー!」

アスカは既に半紙が破れてプラスチックだけになった柄を振り上げて和金を高々と上空に弾き飛ばした。そして着水予定地に自分のお碗を持っていく。

ぽちゃん!

見事に和金を一匹キャッチした。

「お見事!お姉ちゃん」

テキヤのおじさんが立ち上がって拍手をする。それを合図にして露店を取り巻いていたギャラリーが一斉に拍手をする。

「いっただきー!」

アスカが手を振ってそれに応える。シンジとレイも周りに合わせて拍手をした。

父さんから教えてもらった僕の金魚すくいに一つ欠けているものがあった・・・それは人間のこうした心というか精神が時に常識を覆すこともあるってことだ・・・

アスカはおじさんに小さな和金をお碗からお持ち帰り用のビニールに移してもらっているところだった。アスカはシンジとレイの姿を見つけると得意そうにVサインを送ってきた。



 
Ep#01_(4)完 / つづく
 

(改定履歴)
21st Mar, 2010 / イメージ図の追加


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