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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第3部 The murkiness of history 知られざる過去


(あらすじ)
川内は出雲重光が主導していた「静かなる者の政策」の政治的補完を進めるため、内閣官房保安室の三笠、愛宕、国防省政策局の鬼怒川、そしてこれに加えて日本国政府の包括的諜報機関である内閣調査室「内調」の加賀を自室に集めた。
そして加賀からもたらされたネルフの驚くべき成り立ちと世界の歴史の影に暗躍するSeeleの姿に戦慄していた。


 
日本政府の内閣官房調査室。通称「内調」は日本の包括的諜報活動を一手に引き受けている最高機密組織としてPSI時代においては進化していた。

内務省が主軸を国内諜報に置いているのに対して内調は国内外を問わずに活動している点が相違点だった。

副官房長官の川内の部屋に鬼怒川国防省政策局長、三笠内閣官房保安室長、三笠の部下の愛宕参事官、そして加賀内調室長が集まっていた。

「それでは早速始めたいと思います。まずはこちらを御参照下さい」

加賀はそういうと特殊な秘密保持書類ケースから分厚い書類の束を取り出すと4人に夫々手渡した。

「お手元の資料はこの会合が終わり次第また回収してこの場で処分します。メモも一切厳禁ということでお願いします」

四人が緊張した面持ちで頷く。

「まず我々が"静かなる者の政策"の政治的補完を目指すに当たり認識を共有する必要があります。その段階はこの資料の順番そのままになっていますが、第一に特務機関ネルフの発足経緯とバレンタイン条約の詳細について、第二にセカンドインパクトとその後の世界的内乱、第三にゴーストに対して現在までに掴んでいる情報、そして最後にこれらを踏まえて出雲閣下が目指しておられた政策骨子、という流れです」

鬼怒川が怪訝そうな顔をした。加賀の入省暦は鬼怒川より二期早かった。

「加賀さん、なぜまずネルフなんですか?ネルフの発足、すなわちバレンタイン体制の構築は殆どイコールなのは分かりますが?」

川内が加賀と目を合わせて頷くと全員の顔をそれぞれ順番に見ていく。

「それについては一番の古株である僕が答えた方がいいだろう。ネルフの前身が国連機関の人工進化研究所なのは諸君らも知っている通りだ。条約の批准に伴って接収されたわが国の松代にあった新技術創造研究所がそのまま移行したと世間では思われておる」

川内の言葉に一番驚いた顔をしたのは三笠だった。

「えっ!副長官、新技術創研じゃないんですか?」

川内が手で三笠を制する。

「表と裏の顔があるという意味だよ。新技術創研が母体になっているのは間違いないが話はそれほど単純では無い。そもそもこの新技術創研の成り立ちを巡ってはわが国の歴史の暗部に食い込まねばならんのだ」

鬼怒川が眉間にしわを寄せて川内の方を見ていた。

「歴史の暗部とおっしゃいますと?」

「第二次世界大戦まで遡らねばならん・・・」

「ええ!そんな昔まで・・・」

愛宕が思わず驚きの声を上げた。

「これはわが国に於いても最高レベルの国家機密になる。新技術総研が世に出たきっかけは今は亡き六分儀博士と葛城博士がS2理論という画期的な概念を生み出した事に端を発していると言われておるが、実際にはそれだけを研究しておったわけではない。水面下ではメカトロニクスやエレクトロニクス等各種技術と生体の融合、更には人間の精神の物理学的応用という特異な分野にまで切り込んでおったのだ」

「なにやらオカルトめいてますね・・・あっすみません・・・」

愛宕が三笠の視線に気が付いて慌てて口をつむぐ。

「いや、愛宕君の感想がまさに的を得ておる。出雲先生は日本でこの種の自然科学分野において異端のエリアに手を出すのは人道的観点と世界秩序という大局にたって好ましくないと考えておられた。それ故にこれらを封印する事を当時の内閣官房に検討させておった。ところが折り悪く所長の六分儀博士が実験中の事故で亡くなって世間の耳目が集まってしまい時機を逸してしまった。その内に国連に接収されたというわけだ。どういう経緯で国連がこの研究所の存在を知ったかは今だ持って不明だが・・・」

川内は自分のポケットをまさぐってタバコを取り出した。隣にいた三笠が火を着けた。

息子のゲンドウがその情報をSeeleに持ち込んだんだろう…言葉は悪いが学者バカだった葛城にそんな器用な立ち回りが出来る筈がねえ…新技総研の存在は秘中の秘だったんだからな…

「いずれにしても新技術創研が世に出るまでは財団法人として民間で密かに活動しておったものを水面下で政府がウォッチしておった。これを国立研究所としてセカンドインパクトを機に統合した経緯がある。あの当時は東京が攻撃を受けて消失するなど日本にとっても苦難の時期だった。そのため時限的臨時有事法を施行してこの様なものにまで手を出さざるを得なかったというのもいい訳だが事情としてはあった。それから内務省の発足と共に直接的にEvaと繋がるものではないが少なくともこれらの要素技術を集めてセカンドインパクト後の時代において新しい抑止力兵器の開発を期待しておったのも事実だ。そこまでは政府自由党の政策として一枚岩だったのだが…」

「生駒の野郎ですね…」

三笠の吐き捨てるような言葉に川内以外の全員が驚いたが、川内は気にする様子もなく無言のままそれに頷いた。

「そうだ。更にこの新型抑止力兵器を背景に列強の一角に食い込むという政治的動きが起こり、自由党を二分する大論争になった。それが今で言うところの守旧派勢力で生駒君を中心とするグループ嵐世会だったというわけだ。抑止力開発は行っても最終的にそれを世界秩序の枠組みで運用しようとした出雲先生の理念とは真っ向から対立するわけだが・・・」

川内はため息を一つついたがすぐにまた話し始めた。

「それはともかくとして、問題なのは新技術創研のおいたちなのだ。新技術創研の前身は民間のある財団法人なのだが、実は旧日本陸軍が秘密結社的に組織していた「生化学兵器技術研究所(新技廟)」の残党の隠れ蓑になっておったのだ」

「ま、まさか・・・」

鬼怒川の顔からみるみる血の気が失せているのが分かる。

「驚くのはまだ早い。更にこの財団法人はかつて満州と呼ばれておった中国北東部に駐留しておった関東軍の直轄だった第731部隊とも関係しておるといわれておる。当時ハルピンに基地を作り生体実験等の非人道的行為をしていた疑惑がかけられていた曰く付きの部隊だよ。日ソ中立条約が破られてソ連軍が大挙侵攻してきて関東軍は殆ど無抵抗のまま壊滅したがこの部隊はソ連の侵攻を知るや徹底的に施設を破壊していち早く日本本土に帰国した。帰国後、この部隊の関係者は一様に行方知れずとなり敗戦後のアメリカ占領軍の追捕も遂に及ばなかった。未だに全ての真相は謎に包まれておる」

この言葉に全員が絶句してしまった。

「中国の山東省は満州国の下あたりに位置するがこの地域は歴史的に第一次世界大戦当時はドイツ植民地だった関係で山東省から満州に至る地域にはドイツ人も少なからず居住しておった。まあ三国同盟もあったしな。つまり第731部隊はナチスドイツとのコンタクトの可能性も多分に取り沙汰されておったのだ」

「それが…連合国軍が追捕しようとした背景だったんですか…」

鬼怒川の言葉に川内が頷く。

「ナチスドイツにおいても非人道的な兵器研究は進んでおったらしいが一つの特徴として人間の精神というものに早くから着目しておった様だ。何故かまでは分からん。少なくともネルフの前身は非常にきな臭いもので出来上がっておると言う事だ。これを知った上でネルフの発足と条約の中身を理解する必要がある・・・それに…」

川内がタバコを灰皿に押し付けながら口を再び開く。

「なぜ戦犯を裁く東京裁判があれ程までに苛烈を極めたかというと、霧散したナチスの精神兵器研究と日本の生体兵器研究の所在を明らかにするという水面下の目的が特にアメリカにあったからだ。その所在が明らかになるまで日本の占領は続く事になったが、日本政府が米軍の駐留を承認して、独自の軍事力を保持して反共路線で協調すること、更にこれらの兵器研究の継続的な追跡調査を約束することでいわゆるサンフランシスコ平和条約が締結されたというわけだ」

「まるで悪い夢を見ている様だ・・・」

鬼怒川が思わず頭を抱えていた。それを横目で見ながら加賀がおもむろに話し始めた。

「偶然かどうかは分かりませんが、副長官が先ほどおっしゃった財団法人ですが調べていくうちに実体の無いダミー会社であることが分かりました。更にこのダミー会社を追っていくとマルドゥック機関という団体に行き着いたのです」

マルドゥック機関?何だそりゃ?」

三笠が自分のタバコに火を着けようとしていた手を思わず止めて加賀の方を見た。

人類補完委員会の直接諮問機関ですがその実態は全くの謎です・・・因みに先日のファラオとゴーストのコンタクト写真というのを詳しく調べたところ、ファラオが入って行ったベルリンのビルはこのマルドゥック機関のダミー会社であることが分かりました。しかもこの会社は人類補完委員会のドイツ支局が入っていることも判明しています。従って、完全にゴーストとコンタクトしたというのは早計かと思われます」

鬼怒川の顔色は冴えなかったが顔を上げて話し始めた。

人類補完委員会というのは国連機関の一つですな。なるほどな。あながち国連と関係していると強弁出来なくはない、というわけか…さすがに簡単には尻尾を出さないな。しかし、豊田君がなぜここをSeeleの出先機関と特定したのかは更に関連の情報を解析しないと分からないな・・・」

川内が苦い顔をする。

人類補完委員会こそがバレンタイン条約とその体制構築に対して世界的に働きかけた機関でゴーストのまさに手先だ。出雲先生は国連を軸にした良識ある世界秩序の構築を政治信条に掲げておったのだ。ところがその枠組みは各国家ではなく国連の一つの機関である人類補完委員会が主導する立場に途中から挿げ替わったのだ。ここにバレンタイン体制を巡る大きな欠陥が生じた。これについては後の資料で言及があるだろう・・・」

「因みにネルフのMAGIシステムの詳細は不明ですが少なくともデータ出力等のプロファイリングにより日本では松代と箱根、ドイツのハンブルクとベルリン、アメリカのマサチューセッツ、中国の長春、すなわち昔のハルピンに設置されているのは確認しています。北京の信号は恐らくダミーと思われます」

加賀が資料をめくりながら呟いた。

「何れもネルフの息がかかっている地域じゃねえかよ・・・」

三笠がようやく自分のタバコに火を着けて荒々しく煙を吐く。鬼怒川の表情はやや虚ろだったが全員の顔を見渡す。

「それにしても歴史を遡って考えるとナチスドイツの影を引き摺っている可能性はやはり排除できませんね・・・偶然にしては出来すぎじゃないですか?それに・・・」

自分を落ち着けるために鬼怒川はグラスの水を一気に飲み干した。

「個人的にはドイツとの関わりが非常に引っかかります。ゴースト、すなわちSeeleはドイツ語で魂のことじゃないですか?ネルフはNervで神経という意味のやはりドイツ語。ナチス台頭前のドイツは第二帝国で1918年のドイツ革命で崩壊するまでは連邦体制だったとはいえ一貫してプロシアが主導権を握っていました。そのプロシアの歴史は神聖ローマ帝国、十字軍に端を発するドイツ騎士団との関わりが非常に深い。更にEvaはEvangelionといいますが英語の福音を意味するEvangelizationとの造語じゃないですか?キリスト教との関わりがあるとすればかなり奥が深いですよ」

「それがどうしたというのかね?」

鬼怒川の発言の真意を測りかねた川内が鋭い視線を向けた。

「確証はありません。しかし、何か遠大なリレーをしているように感じるんです・・・ネルフというものを知れば知るほど我々は何か大きな動きの中で踊らされている、そんな気がするんです。いや、世界の歴史すべてが・・・少なくともそれにゴーストが深く関わっているということだけは確かだと思います…」

室内には重苦しい雰囲気が流れていた。防諜対応の重層構造の窓ガラスから夏の日差しが差し込んでいた。蝉の鳴き声だけはわずかに外から漏れていた。
 
 



 
Ep#05_(3) 完 / つづく

(改定履歴)
11th July,2010 / 表現修正
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