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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第3部 Inexorable regulations and callous reality 無情と現実の間


(あらすじ)

勝負と位置づけたシンクロテストの結果はアスカに厳しい現実を突きつけていた。アスカの様子を伺うミサトとリツコはお互いにお互いを伺っていた。
「フィフスが必要という事にならなければいいけどね…」
「分かってるわよ!」

(本文)

ネルフ技術本部第二実験エリアに三つのエントリープラグが並んでいるのがオペレーションルームの窓越しに見えていた。

ミサトはいつもの様に窓の外とモニターの両方を見ながら腕を組んでいた。

マヤの隣にいたリツコは大きなため息をつくと首を振りながらミサトのところにやって来た。ミサトはリツコが隣に立っても視線をモニターから外さない。

視線の先にはシンジがいた。

リツコはメガネを外して白衣の胸ポケットに仕舞う。


「何があったの?」

「えっ?な、何のこと?」

ミサトはリツコの顔を見る。リツコは横目でミサトを見ていたがやがて皮肉な笑みを浮かべる。

「わたしが聞きたいのは保護者であるあなたの見解ね」

「ほ、ほごしゃあ?だからどういうことよ?」

「アスカのシンクロ率は過去最低よ。それも活動係数の限界とまではいかないにしても不安定で時々割り込むような状態ね」

「アスカが?まさか…嘘でしょ?」

ミサトは一瞬耳を疑った。

アスカはこれまで高水準を維持し続けていた。リツコはそれには答えずミサトをただじっと見るだけだった。


「じゃあ…三人の中で…」

「そうよ。一番下ね。それも単に下って訳じゃなくてこのままだとパイロットとしての資質をも問われかねない。そんな事態だと思うわ」

「そんな…」

「アスカはリビドーが比較的高い傾向が元々はあったけど、これがまず急激に落ち込んでいるわね。僅かだけどデストルドーのスペクトルが見られるわ」

そこまでいうとジロッとリツコはミサトの顔を見た。

「それから…A-10神経の信号にノイズが乗っている。これが基本的にはシンクロ率低下の要因ではあるけど…どちらにしても明らかにパイロットの精神状態が不安定ね…」

ミサトは思わず口に手を当てていた。リツコには心当たりがある様にしか見えなかった。

「もう一度聞くけど保護者として何か心当たりは?」

「別に…アスカの全てを把握しているわけじゃないし…シンちゃんとまたケンカでもしたんじゃないの?」

「それを含めて詳細なことを把握するのが保護者としての勤めじゃなくって?参考までに言っておくけど、これまでにも二人はちょくちょくいがみ合っていたわよね。例えば第7使徒の時とか」

「ユニゾンの時か…」

ミサトはみるみる痩せていくアスカがシンジの作ったワンプレートを見た時に見せたはち切れんばかりの笑顔の様子を不意に思い出した。

内外構わずけんかを繰り返すシンジとアスカだったが、共同生活を通して育まれた葛城家の家族としての「絆」「情愛」の側面を勘案すればケンカの仲たがいは表層的な一面のように思えた。


でも…今のあたし達は…バラバラだわ…3人とも…昔に戻ってしまった…

ミサトは思わず右手でクロスのペンダントを握り締める。

リツコはミサトの内省に構うことなく言葉を続ける。


「わたしが言いたい事が分かったでしょ?ケンカなら日常茶飯事のことよね?それでもアスカは常に高いシンクロ率を今まで維持してきたのよ?」

いつになく反応が鈍いミサトの横顔をリツコは刺す様に見る。

「それを思うと直近でかなり大きな精神的なショックがあったんじゃないかと推定するしかないわね…乱闘事件の前の結果と比べるとまるで別人…」

リツコはそこまで言うとため息を一つついてミサトからモニターの中のアスカに視線を向けた。

「特にA-10神経はEvaとのシンクロにとって重要な要素の一つ。これは人間の情愛の感情なども司っている。家族や恋人とか、ね。だからわたしはあなたに聞いているのよ?」

「あたしが…知るわけ無いじゃないの…」

ミサトの表情が僅かに曇る。

「そう…それは残念ね…でも、この状態が続くようなら万が一のことも考えなければいけないわよ」

「ま、万が一って何よ?」


ミサトが思わずリツコの横顔を伺う。リツコはモニターのアスカを見詰めたままだった。

「人選よ…マルドゥックのね…分かるでしょ?この意味…」

ミサトを見ることなくリツコは事も無げに呟く。

「人選…」

L.C.L.の中でアスカは眉間に皺を寄せている。何かを祈る姿にも見えた。

必死に足掻いている…リツコの目にはそう写っていた。


哀れね…見ていられないわ…今のあなたを…アスカ…ユニゾンまでのあなたはとてもクールでクレバーだったわ…そんな無様な姿を見せることを潔しとしなかった筈…

何があったのかは…分からないけど…まさか記憶が戻った…とか…

「あんた、簡単に言うけどさ。アスカは…」

リツコは思考を遮られて忌々しそうな表情を浮かべると横目でミサトをひと睨みする。

「分かってるわよ。いちいちあなたにそんな事を説明されなくても。何のためにアスカを4年の歳月をかけて訓練したと思ってるのかって言いたいんでしょ?プロダクションタイプの戦略パイロットとして戦闘訓練を施しているのは確かにアスカだけだし…」

リツコはここがオペレーションルームでなければタバコを吸いたい気分だった。白衣の中にあるタバコに手を伸ばしてしきりに弄ぶ。

「それに…零号機や初号機とは扱いがまるで違う…使徒撃滅の申し子と言ってもいいわよね…」


一方で初号機を実戦に極力使いたくないという事情もあるけどね…世の中で言うプロトタイプ、テストタイプとは意味が違う。プロダクションタイプだからこそ言わば捨て駒…

そんな地獄にわざわざ押し込められた哀れな子…縋っていた…信じていた男の手でね…だから…わたしはどこか…あなたの事が…気になっているって事か…

結局…わたしも十分…無様…似た者同士って事かしら…ね…

リツコはミサトに向き直ると鋭い視線を送る。


「よく考えてミサト。あなたのところにもネルフ最高幹部会のポリシーが伝わっているはずよ。だからあなたはアスカ来日以降、フォーメーションはアスカ主体で組んで来たし、これからは一層その傾向に拍車がかかる事くらいわかるでしょ?」

「…」

訓練を受けているのはアスカだけだしさ!、そう言ってあの子たちには誤魔化してきてる…でも…実際は…補充のLead Time(納期)が長い…Expendables(軍事用語: 消耗品)…

目を合わそうとしないミサトにリツコが更に畳み掛ける。

「いずれにしても日向君がアメリカから空輸する手はずを整えた参号機の到着に合わせて今度フォースチルドレンの人選が始まるわ。その時にフィフスチルドレンが必要という事にならない様に出来るのならそれに越したことは無いけどね。コアの書き換えは簡単ではないのよ」

フィフスですって…冗談じゃない!

「分かってるわよ!それくらい!」

ミサトの声にオペレーター全員が一瞬顔を上げる。

ちっ!何よ…まるであたしが悪者みたいに…あたしにだって感情ってものが…

ミサトは集まった視線から逃れる様にオペレーションルームから足早に外に出る。

ミサトの後ろ姿を見送りながらリツコは肩をすくめて溜息をつく。


分かってるの?ミサト…今の状況を…今回はともかく…アスカに次は無いわよ…まあ…その様子だとどうやらあなたは加持君とアスカの事を知ってるみたいね…グルって訳でもない…か…

嫌ね…いつから私たちは腹の探り合いをする様になったのか…

「やれやれね…日向君…」

「は、はい」

「帰国してすぐの仕事がこんな指示で悪いけど…ミサトの代わりにシンジ君たちに上がる様に伝えて頂戴」

「分かりました」

日向がマイクを手に取るのを見るとリツコは再びモニターに視線を戻した。

まさかこれで終わりじゃないわよね?アスカ…加持君とあなたとで一体何をしようとしているのかしら?それとも…あなたは本当にただの加持君の玩具だったのかしら?

リツコの口元には自嘲とも取れる様な笑みが浮かんでいた。 

 
 
 
 
Ep#06_(3) 完 / つづく
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