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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第10部 Under the Ground ターミナルドグマ(Part-4)


(あらすじ)

漆黒の闇の空間に手術台に四肢を拘束されたアスカの姿があった。傍らに佇むリツコ。まさに地獄の様な空間に浮かび上がる二人の男の姿があった。モニターに写る碇ゲンドウ、そしてもう一方はゲオルグ・ハイツィンガー。特務機関ネルフ第三支部長兼特別監査部長だった。


※ やや不快感を覚える描写があるかもしれません。許容範囲内とは思っているのですが、熱烈アスカファンには辛い?でしょうか…ね…老婆心ながら...大丈夫かな~とは思いますけど。念の為、お断りしておきます。作者小心者ですので。
(本文)


20:05

ここは…何処だろう…真っ暗で何も見えない…

アスカは身体を動かそうとしたが別の人間のものの様に指一本動かす事が出来なかった。

何か…自分の身体から…魂だけが抜け出たみたいだ…頭がボーっとする…今が夢なのか、現実なのか…何だろう?

アスカは特異な臭気を感じ取る。

これ…嗅いだ事がある…L.C.L.…アタシ…Evaの中にいるのかな…あれ…?誰かの声が聞こえる…小さくて…よく…聞こえない…誰かいるの…?

遥か遠くで二人の男の声が聞こえている。


「Georg!You guaranteed this matter!」

「Wait! Wait! Gendo, please come down. Come down. What are you talking about?」


何…これって…英語?…寒い…凍えてしまいそう…





 
手術台に四肢を金属バンドで拘束された状態で制服を着たアスカが横たわっていた。

その傍らで背もたれの無い椅子に膝を組んで座っているリツコの姿があった。リツコは自分の正面にある2つの大型モニターを眺めている。

モニターの明かり以外に光は無く、天井も壁も何処まで続いているのか、全く分からない。

まさに漆黒の空間だった。

左のモニターにはサングラスを取ったゲンドウが写っていた。そしてもう一方には爬虫類を思わせるような鋭い目つきをした銀髪の長身の男がデスクに座っているのが見えた。

特務機関ネルフ第三支部長、そしてネルフ内の組織ではあるが人類補完委員会直属の特別監査部長としての顔を持つ男、ゲオルグ・ハイツィンガー、その人だった。

ゲオルグは完全に感情が隠れた冷血な仮面の様な表情をしていた。

「ゲオルグ。一体どういうつもりだ?この娘がツェッペリンの一人娘だったという事でも驚きだったのにSeeleのチャイルド(ズィーベンステルネ選抜の適格者)だったとは…この件は捨て置けんぞ」

まるで威嚇する様にゲンドウは鋭い視線をwebカメラに向けていた。

「ちょっと待ってくれ、ゲンドウ。ドリュ…いや、失敬。セカンドがズィーベンステルネのチャイルドだったというのは私も初耳なんだ。ドクター赤木から聞いて私も正直なところ驚いているところだ」

ゲオルグは流暢な英語で話している。言葉とは裏腹に相変わらず無表情だった。それを画面で見ているのか、ゲンドウは忌々しそうに少し顔をしかめる。

「初耳か…よくもまあ…」

「いや、本当なんだ。Seeleと我々は今の今まで血眼になってドリューを探していたんだ」

「下手な言い逃れはやめた方が身の為だぞ、ゲオルグ」

「よく考えてみてくれ。ドリューをチルドレン(マルドゥック機関選抜の適格者)にして君のところに送り込む事に何のメリットがあるんだね?特別監査部としては既に加持を君のところに派遣しているし、それで十分事足りるだろ」

「ふん。老人たちが何を考えているかは知らんがな…」

画面の中のゲオルグが僅かに身を乗り出す。

「ゲンドウ、頼む。落ち着いて聞いて欲しい。「ドリュー」の話はお互いに非常にデリケートな問題の筈だろ?」

ゲンドウは無言だったがわずかに表情を強張らせる。リツコは目ざとくそれを見ていた。

お互いに…デリケートな問題…やはりこの二人の間でアスカを巡って何かあるわね…

「ズィーベンステルネはドイツの誇る天才少女が九死に一生を得た事を知りチャイルドとして蘇生する事にしたが、この決定はさすがにこの私も関知するところではなかったんだ。Seeleが直に判断した事で後から分かった事実なんだ。とにかくこうして第三の適格者「ドリュー」は誕生したわけだ。蘇生後、ベルリンで約半年ほど療養して心身共にケアをしてきた訳だが…」

「その時に記憶操作も繰り返した…そういうことですね?」

リツコが鋭く切り込んできた。画面の二人が一斉にリツコの方を見る。

「Genau, Dr. Akagi. まず新たな人格を形成するためにアスカ・ツェッペリンの記憶を完全にフォーマットし、別の人格をその上にアドオンすることを試みた」

「ナチの開発した技術がベースになっている心神変換固定剤、またの名をベルリンレッドでか?」

ゲンドウの「ナチ」という言葉にゲオルグは不快感を覚えるがそれを億尾にも出さない術を心得ていた。

「…その通りだ…ドイツの技術は世界一…だからな」

「それで?」

興味なさそうにゲンドウがゲオルグを促す。

「その後、ドリューは第二の人生をゲッティンゲンでスタートさせた。如何に天涯孤独とは言えベルリンではあまりに顔を知られ過ぎている。そこでズィーベンステルネ監視の下である下宿屋の夫婦に預けて大学に通わせた」

「そこで音楽ではなく物理学を学ばせたわけですね?」

ゲオルグはリツコの方を見た。

「そうだ。Evaのパイロットして必要な専門知識を身に付けさせるためにな」

「何故思い切ってミュンヘンやフランクフルトなど遠いところになさらず中途半端なゲッティンゲンに?ハンブルクにもベルリンにも比較的近い位置にありますわ」

僅かにゲオルグの顔が引きつる。

「ドクター赤木はドイツの地理にお詳しい様ですな。しかし、道のりにして300kmはありますからね…」

「なるほど…分かりました…」

答えになっていないわ…この男にしては珍しく苦しい答えね…何かある…今は突っ込むのは得策ではないわね…私の推測が正しければ…その答えはテンプルホフにある…

「重要なのはここからだ。ドリューは見事に10歳で学士号を取った。ズィーベンステルネは引き続き大学院で学ばせる予定だったが、ある日を境にして突然姿を消したのだ。そしてその時にドリューの替わりに第二の適格者候補として惣流・アスカ・ラングレーが突然現れた様な印象がある」

「…」

ゲンドウの目が鋭くなる。リツコは二人のやり取りを固唾を飲んで見守っていた。

「これは一体何を意味するのか…むしろ委員会、いやSeeleの方がゲンドウ、あなたに聞きたいでしょうな…」

「主客逆転も甚だしい…事情を聞きたいのは俺の方だ…葛城のヤツが何ゆえにわざわざ曰く付きのその娘をネルフに引き込んだのか?その答えは加持だ」

「加持が?」

ゲオルグが眉間に皺を寄せた。ゲンドウの代わりにリツコが答える。

「そうです。加持リョウジはこちらの第二次選抜プログラムで欠員が生じた時に葛城三佐に「いい候補者がいる」と言って惣流・アスカ・ラングレーを紹介し、前後の見境無く葛城三佐が強引に第三支部に連れ帰ったものと思われます」

信じられない、という様にゲオルグが画面の中で大袈裟に両手を挙げていた。

「ではドリューにアメリカ国籍とドイツの戸籍を与えたのは…加持…ということかね?一介の情報部員にそこまで大それた事が出来るとは思えんがね…」

その様子を見ていたゲンドウがため息をつく。

「いずれにしても加持は当時は本部ではなく第三支部の職員として勤務していたのだ。君の管轄だろ?ゲオルグ」

「いや、天に誓って言うが私はそういった性質の書類を決裁した覚えは無いし、第一、Valentine Councilでもある(ドイツの)連邦政府と直接折衝するわけだから職務権限から言って最低でも支部長のサインが必要だろう。当時、私はまだ諜報部長だったのでね」

「となると…冬月…か…」

「組織論的にはそういう事になる。が、その時ドクター冬月は本部に帰任していて実質的に支部長ポストは空位に等しい状態だったからな。君が言うように加持が尾を引いているとすればその間隙を突いたのかも知れん」

「なるほど…いずれにしても加持の件は君の不始末だぞ」

「分かっている…今回のスパイ容疑の件は申し訳ないと思っている。しかし、まだ第三支部勤務時代の工作に関わったという確証は無い筈だろ?。ところで…」

「ところで?ところで何だ?」

「ドリューを可及的速やかに第三支部経由でズィーベンステルネに送還して欲しい」

「何故だ?」

「何故って…君の方がこの会議を持ちかけてきたんじゃないか?君は国連総会でニューヨークにいる筈だろ?それにこちらは昼間だからいいがドクター赤木がいる日本は夜ではないか。無理を押して緊急招集したのは君だ。それほどこの件の解決を急いだということじゃないのかね?」

「ふふふ、確かにな…だが、ゲオルグ。君は何故セカンド、いやドリューの送還を急ぐのかね?」

「急ぐというより…君が迷惑ならすぐに引き取る、という私のせめてもの厚意じゃないか」

「厚意とくるのか…なるほど…しかし、君の申し入れは丁重にお断りするよ」

ゲンドウの放った一言でゲオルグは驚愕の表情を浮かべて身を乗り出す。

「な、何だって!ゲンドウ、どういうことだね?」

「何をそんなに慌てている?鉄面皮の君らしくないぞ、ゲオルグ。それとも何かドリューを急いで取り戻したい別な理由でもあるのかね?」

「い、いや…そういう訳ではないが…」

ゲンドウが口元に不敵な笑みを浮かべる。

「君も知っているだろ?裏死海文書によれば近々第12使徒レリエルの襲来が予想される。こんなタイミングで送還を急ぐ必要もあるまい?」

「それはよく分かっている。それが君の懸念ならば委員会が提案しているフォースチルドレンのみならずフィフスチルドレンもチャイルドから派遣する用意があるが?どうかね?」

「それも断る。既にそこにいる赤木博士が選定作業に着手している」

「コード707(第三東京市立第一中学校)の候補者でかね?」

「まあ基本的にはそうなる」

「バカな!世界中の英才を集めて教育訓練を施しているチャイルドとは比べ物にもならん!」

ゲオルグが思わず自分のデスクを叩いていた。マイクを通して聞こえる音は甲高く、間が抜けていた。

「やけに君はチャイルドを推すじゃないか?君はこちら側の人間の筈…だろ?」

「そういう問題じゃない、ゲンドウ。私はMuch betterを言っているんだ」

「とにかくセカンドは少なくとも直近の危機である第12使徒戦が終わるまでは解任出来ないし、まして送還などとは思いもよらぬことだよ」

ゲンドウのこの言葉に思わずリツコは身を乗り出す。しかし、ゲオルグの視線を意識して再び平静を装った。

どうしたのかしら…ゲオルグと話す前は送還もしくは殺処分とまで言っていたのに…

「しかし…お互いに痛くも無い腹を探り合った状態で…君も安心してドリューをセカンドとして使えないだろう?やはりここは…」

「その心配は要らんよ。その為に赤木博士がそこにいるんだからな。赤木博士」

「はい…」

ゲオルグは不安そうな表情を画面で浮かべている。リツコがゆっくりと自動制御の手術台を操作してアスカの上体をゆっくりと起こす。

「ゲンドウ、君は一体何を…何をドリューにするつもりだ?」

「鼻腔に特殊なマイクロチップを埋め込む。逆らえば鼻腔内で破裂してその時は命を失うことになるだろう」

リツコが細い注射器を慎重にアスカの鼻孔に入れていく。

「ば、バカな!!気は確かか!ゲンドウ!ドリューになんて事を!こんな暴挙は許されんぞ!!やめろ!!」

一瞬、リツコの手が止まる。

「何をしている?赤木博士」

「は、はい…」

「やめてくれ!」

リツコは手早く処置をするとアスカの右の鼻の穴から出てきた鼻血をそっと自分の白衣の袖で拭く。ガーゼに消毒液をしみ込ませて鼻孔内を拭き始めた。

「なんということを…」

画面内でゲオルグは放心していた。

「これで君の言っていた当面の懸念は消えた訳だ、ははは」

「碇!この件は委員会の特別監査部の権限において報告させてもらうぞ!それから何故ドリューがセカンドチルドレンとして日本にいるのか、ということの釈明もせいぜいしっかり考えておく事だな!」

ゲオルグが荒々しく通信を切断するのが見えた。ゲンドウも愉快そうに笑いながら何もリツコに言わず画面から消えた。

完全な闇と静寂が二人を包んだ。

リツコは白衣のポケットに入れていたリモコンを手探りで操作して手術台だけに煌々と照明をつけた。

「まるで眠り姫ね…アスカ…ごめんなさいね…あの人には逆らえないの…」

リツコはそっと制服のリボンを解く。

「心配しないでいいわ…ちゃんと部屋まで送ってあげるわよ…」

ゆっくりとした手つきでブラウスの第一ボタンを外した。





Ep#06_(10) 完 / つづく

(改定履歴)
29th June, 2009 / 表現修正
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