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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第5
部 Pledge 公約と契約
 

(あらすじ)

ようやくミサトのマンションに帰ってきたシンジたち。和金を一匹ゲットしたアスカはミサトから「生き物の飼育はあんたには無理」と言われてプライドを傷つけられ、金魚の飼育を巡ってミサトと「負けた方は1ヶ月の間、勝った方の召使になる」という賭けをする。アスカは金魚を飼育する水槽をリツコと共同で構築する約束を取り交わして必勝の体制を構築する。
「あなたが賭けに勝って見事にミサトをメイドにしたらあたしにもレンタルしてもらえるかしら?」
「ノープロブレムよ」

(本文)


こうして第三東京市駅前商店街のThe Bon Dance Party 2015はかつて無い観客動員数を記録して大成功を収めた。シンジたちは南雲会長を初めとした町内会の面々から惜しみの無い賛辞を送られて商店街を後にした。

時計は既に夜の9時半を回っていた。シンジはミサトからタクシーチケットを渡されて、リニア駅からタクシーを拾って三人一緒に便乗して帰ってくるようにという指示を受けていた。

リニア駅からミサトのマンションまでは歩いて10分程度ではあったがやはり未成年者だけで帰るのは物騒な時間帯だった。遠くの方ではゴッドファーザー「愛のテーマ」のクラクション音とバイクの暴走音が鳴り響いている。

シンジは南雲会長からミサトへのお土産という「ボアビールの350ml缶 6本セット」2箱を受け取っていた。

「もしかしてアタシたち、この2箱の缶ビールでミサトに売られてたんじゃないの?」

アスカがタクシーの中でぼそっと呟いた。

「そうなのかな・・・」

シンジもあながちありえない話ではないので否定はしなかった。1メーターでミサトのマンションに着くとシンジは申し訳なさそうに運転手にネルフのタクシーチケットを渡した。

シンジが制服のポケットからカードキーを取り出してミサトの部屋のドアを開けるとアスカが一番に入っていく。

「ただいまー・・・」

3人はミサトのマンションにようやく到着して一息をついた。

「おかえり!あんたたち!今日はよくやったわ!」

ミサトはキッチンから玄関に現れるとアスカとレイにいきなり抱きついてきた。

「さっき南雲さんからお礼の電話を貰ったとこよ。これからもネルフとタイアップして色々やりたいってさ!あんたたちを選んだアタシの目に狂いはなかったわ!」

「タイアップって・・・」

今日の夏祭りへのネルフの参加で一体どれだけの段取りが事前にあったというのだろう。適当にノリでイベントに参加して愛嬌を振り撒いてケンカをして・・・ケンカはハプニングとしてもそれ以外は事前にしっかりしたプランがあったとは到底思えなかった。

普段なら異議を唱えるところであったが、三人とも夕方からこの時間までずっと立ち通しでさすがに疲れていた。とにかく今は早く座りたかった。

「はい。ミサトさん。会長さんからお礼だって言ってこれもらってきました・・・」

シンジがミサトに缶ビールを手渡す。

「まー!これこれ!これを待っていたのよん!」

ミサトの言葉を聞いたアスカが誰よりも早く反応する。

「ちょっと!ミサト!アンタ、まさかその缶ビール2箱でアタシたちを売ったんじゃないでしょうね!」

アスカが廊下でミサトに言う。ミサトの言葉にタクシーの中で持った疑念が現実味を帯びてきたことで放置できなくなったらしい。

「ちょっと、ちょっと。あんた人聞きの悪いことをいうもんじゃないわよ。これはこれ。それはそれでしょ?」

「答えになっていないわ!実際のところはどうなのよ!」

「だからさあ。あたしがそんなキックバックを町内の人に要求するわけ無いじゃん!」

「ふん!どうだか!まったく怪しい限りだわ!」

「そんなことよりあんた達、明日は学校の登校日でしょ?早く着替えてきなさいよ。ほら!レイも。あんたはこれからまだD地区まで帰らないといけないんだからね」

「分かったわ・・・」

ミサトはビールをおし抱いたままレイの背中を押して自分の部屋に入っていく。

「ちょっとミサト!アンタとの話はまだ終わってないわよ!」

「アスカ。あんたもそんなところでブーブー言ってないでとりあえず着替えちゃいなさいよ」

「わかってるわよ!」

アスカはずかずかと廊下を歩いていたが金魚を入れたビニール袋を持っていることに気が付くとシンジの方を向く。

「ねえ、シンジ。これ着替え終わるまで預かっててもらえない?」

「うん。いいよ」

「ありがと!」

にこっとシンジに微笑みかけるとそのままアスカはミサトの部屋に入ると勢いよく襖を閉めた。

「・・・」

ちょっとしたことだったがアスカのさっきの行動がシンジには信じられなかった。アスカはシンジに物を頼むときに滅多なことで微笑んだりしないし、お礼もよっぽどの事でないと御座なりにされる。むしろ対応して当然という女王然とした態度を取るのが常だった。

一体、どうしたって言うんだろ・・・何か企んでるのかな・・・

ミサトの部屋から時折、女たちの笑い声が聞こえてくる。

シンジは金魚を持ってキッチンに入ると煮物を入れる大きな九谷焼の鉢皿を食器棚から取り出してそこにアスカの金魚を入れた。シンジの足がペンペンに当たる。ペンペンはシンジにわき腹の部分を少し踏まれたにも拘らずテーブルの下で腹ばいになって寝ている。鼾(いびき)までかいていた・・・

ペンギンって金魚食べるのかな・・・魚を食べるんだからやっぱり食べるよな・・・

心配になってきたシンジはリビングの新聞入れから新東京日日新聞を一部取り出すと鉢皿の上に広げてふたをした。そして自分も部屋に戻って制服を着替えた。シンジがキッチンに戻ってくると新聞紙は置いたままの状態になっていた。金魚が無事である証拠だ。

シンジはコップを取り出して冷蔵庫から麦茶を取り出して一気に飲み干す。そしてまたコップに麦茶をそそいだ。シンクの中にはボアビールの缶が3本転がっている。昨日の残り物をつまみにさっきまでミサトが飲んでいたらしい。

やがてミサトの部屋から着替え終わったアスカとレイがキッチンに入ってきた。アスカは今日、家で出かけるまで着ていた赤いタンクトップとオフホワイトのショートパンツという軽装だった。

「あーのど渇いた。あ、それ頂戴!」

「えっ!?」

アスカはシンジが答えるよりも早く手に持っていた麦茶のコップを取ると一気にそれを飲み干した。シンジはビックリした。アスカはこれまで一度たりともシンジが口をつけたコップで自分も飲むようなことはした事がなかったからだ。空のコップをシンジはアスカから受け取る。

「・・・」

アスカが口を付けた部分には薄いピンクのリップグロスの跡が付いていた。

ミサトも部屋から出てきた。二人の浴衣をたたみ終わったようだった。

「あらあらもう10時ね。レイ、タクシーを呼んであげるから到着するまでここで待ってなさいよ」

「・・・はい・・・」

そういうとミサトは家の電話からいつも頼むタクシー会社に電話をかけ始めた。レイは昼過ぎにここに来た時に着ていた学校の制服を着ている。

「あ、綾波も何か飲む?」

レイは金魚の蓋に使われている新東京日日新聞に目を走らせていたがシンジに話しかけられるとシンジの目をじっと見つめてきた。

「・・・あたし・・・いらないわ・・・」

「そ、そう・・・」

アスカは洗面所から顔を洗って出てきた。グロスもすっかり落している。シンジはアスカのさっきの不可解な行動のことが微妙に引っかかっていた。

「さっぱりしたわ。あ!そうだシンジ。アンタに預けた金魚は?」

「え、あ、えっと・・・ここにいるよ」

シンジは慌てて新聞のふたをとる。九谷焼の鉢皿の中に小さな和金が一匹ちょろちょろと泳いでいる。ミサトは冷蔵庫からビールを取り出してプルトップを開けるとレイの隣に座る。

「あら。あんた達金魚すくいしたのね。でも、一匹だけってちょっと寂しくない?」

「アタシが初挑戦でゲットした金魚にケチつけないでよ」

アスカがミサトと向かい合わせに座ると椅子の上で片膝をつく。シンジも遠慮がちにアスカの隣に座る。

「ふーん、アスカが捕ってきたの。で、あんたこれどうする心算よ?」

ミサトはビールを口に含む。

「勿論、アタシが飼うわよ」

ぷー。ミサトが思わずビールを少し口から吹きだして慌てて口を片手で押さえる。

「ちょっと!汚いじゃない!何してんのよアンタ!」

「ごみんごみん・・・くっくっく・・・あんたが飼うの?本気で言ってる?無理に決まってるじゃん!」

「何が無理なのよ!」

ミサトが缶ビールをテーブルに置いて両肘をつく。

「だってさあ。ひひひ。あんたって手がかからないことで世界的に有名な植物のサボテンですら枯らす様な女よ?そんなあんたがまして魚類なんてまともに飼えるわけ無いじゃん。どうせ3日で飽きてシンちゃんが育てるってのがオチよ」

ミサトは愉快そうに笑う。その隣でレイはふたに使っていた新聞を引き寄せて読み始める。

「あ、あれはサボテンのことがよく分かってなかったのよ。水のやりすぎで根腐れしたんじゃない。別にNeglectして枯らした訳じゃないでしょ!」

アスカがテーブルを拳で叩く。レイはアスカの拳に目を向けたが直ぐに新聞に視線を戻す。

「ふーん、どうだかねえ。とにかくあんたに生き物の飼育は向いてないのよ。それに金魚すくいの金魚ってさあ。日本ではウスバカゲロウの次に有名な儚い命の代名詞なんだからね。この金魚の不幸はそれに輪をかけてあんたにすくわれたってことね。だいたいね。あんたに飼われる生命体は例え鉄食いバクテリアでも3日で死ぬわね。ひひひひ」

ミサトのこの言葉にアスカのプライドは激しく傷つく。今日一日、目の前に座っているこのずぼら女の向こう見ずな計画のお陰でくたくたに疲れ果てたのだ。しかもやる事など殆どなく、マスコットガールとして商店街で愛嬌を振り撒いて無意味に一日中立ちっぱなしで過ごしていたのだ。確かに初めての浴衣、露店、盆踊りは楽しかったがそれを考慮しても割に合わない。

何も考えてない適当なミサトにアタシがそこまで言われる筋合いなんてないわ!
大体、何でアタシが商店街のオヤジにお酌なんかしなきゃいけないのよ!

アスカは今日溜まった鬱憤を一気に爆発させた。

「言ってくれるじゃないの!ミサト。あんたみたいなずぼら女にそこまで言われるとはね!じゃあアタシはここに公約するわ!この金魚は絶対に立派に育てて見せる!」

「ほー。じゃあさあ。あんた、もし金魚が死んだらどうするわけ?」

ミサトが意地悪く質問する。

「ミサトさん!アスカも!もうその辺で・・・」

シンジはこれ以上ここで話がこじれるとまた最終的に自分の身に災厄が降りかかって来ることが容易に想像出来たため適当なところで切り上げるように促した。しかし、シンジの努力は全くの徒労に終わる。

「じゃあ!この金魚が死んだら1ヶ月間、アタシがアンタのServant(メイド)になってやるわ!但し!!」

アスカは語尾に力を込める。

「但し?何よ?」

「もし、この金魚が一ヶ月経っても死なずに元気だったらアンタがアタシのServantになるのよ!」

「いいわよ。どうせ死ぬに決まってるんだから。受けてたってやろうじゃん。その賭け」

「その言葉、アンタ忘れんじゃないわよ!ここにいるファーストとシンジがWitness(証人)よ!」

「あーあ、何でこうなるんだよ・・・」

「・・・あたし・・・帰るわ・・・タクシーが来たみたいだし・・・」

レイがテーブルの上にばさっと新聞を置く。新聞には「陸奥総理の公約倒れ」という見出しが躍っていた。




 
夏祭りが終わった2日後。アスカはプラグスーツを着たままリツコの研究室を訪れていた。今日のアスカはネルフでの本部待機の当番になっていて朝からずっとネルフにいた。

「アスカ?ま、立ち話もなんだから入りなさい。丁度コーヒーを入れたところだから。あなたも飲むでしょ?」

「ホント?頂くわ。リツコのところで飲むコーヒーが一番美味しいわ」

ネルフ内でリツコほどコーヒーに拘る人間はいない。そのリツコのコーヒー談義に伍していけるのは同じくコーヒー好きなアスカくらいのものだった。二人が好きな豆の種類もマンデリンビッグアチェと共通していた。

リツコはわざわざペーパーフィルターではなく持参しているネルドリッパーでじっくり抽出する。アスカもいつかはネルドリップでコーヒーを楽しみたいと思ってはいるものの経済的な事情と黒ければコーヒーと認識する程度でしかない同性の方の同居人の理解の無さでペーパーフィルターに甘んじているのが現状だった。

アスカは頻繁ではないが本部待機の当番で特にやることが無い時はリツコのコーヒーを飲みに研究室を訪れることがこれまでにも何度かあった。

「あなたたち3人、ミサトの計画した商店街の夏祭りに狩出されたんですってね?どう?楽しんでこれたかしら?地域貢献とか言っていたけど基本的にはお祭り騒ぎがしたかっただけでしょうしね、ミサトは。でも、あなた達にとって少しでも息抜きになったのならあながち無駄とも言えないけど・・・」

アスカはリツコの鋭い洞察力に改めて感心する。リツコはアスカにマグカップを手渡す。

「まあね、それなりに面白かったわ。盆踊りとか。あと浴衣も着れたしさ。でもあまり思い出したく無いのよね。ムカムカしてくるから」

「ふふふ。どうやらその様子だと散々だったみたいね。で?今日は何の用かしら?」

アスカは猫のキャラクターが入ったマグカップをリツコのデスクの上に置いた。

「実はリツコに相談があって・・・アンタのところに来れば材料が揃うかなーと思って来たのよ」

「材料?何か実験部材が必要ってことかしら?」

「そう。小型のオゾン発生器にフッ素樹脂チューブでしょ。これはオゾンを扱うからテトラフルオロエチレン(PFA)じゃないと駄目よね。それからソレノイドバルブと・・・」

「ちょっと待ってアスカ。一つや二つじゃないんなら空で言われてもディスカッションの効率が悪いわ。そこのホワイトボード使っていいからあなたがやりたい事を書いてもらえないかしら?」

「OK」

アスカはホワイトボードに金魚を飼育する水槽とそこに空気や浄化した水を送るシステムのフロープランを描き始めた。フロープランを見たリツコは無言で頷きながらアスカの意図を理解する。アスカは更に金魚に与える餌の量と浄化システムの浄化効率の試算結果を書き加えた。

「なるほどね・・・あなたの考えていることはよく分かったわ。でもちょっと失礼な言い方かもしれないけど、たかだが金魚1匹を飼うのにどうしてこんなシステムを組もうと思ってるのかしら?」

「理由は簡単よ。アタシのプライドをかけているの」

「プライドですって?」

アスカは手短にミサトとの間で起こった一昨日の金魚すくいの金魚を巡るいざこざを話した。リツコは口に手を当てて愉快そうに笑い始めた。

「全くミサトらしいわね・・・でも、まあ確かにあなたがミサトにそこまで言われる筋合いは無いわね。分かったわ。そこに書いているあなたのシステムを組む部材なら十分、ここで手に入るから好きに使っていいわよ」

「ホント?助かるわ、リツコ」

「その代わり一つ条件があるわ。あなたが勝利してミサトを見事にメイドにしたら、あたしにもミサトを一日くらいはレンタルしてもらえるかしら?」

「Kein Problem(No Problemと同意)。一日じゃなくて50%権利をあげるわ」

「交渉成立ね」

リツコが口元に不敵な笑いを浮かべる。アスカとリツコは契約の証しとして握手を交わした。二人は金魚の飼育システムの構築で手を組むことになった。



Ep#01_(5) 完 / つづく





(改定履歴)
May 25th, 2009 / 誤字修正
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