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(あらすじ)
夜が明ける。アスカが目覚めると全く身に覚えの無い部屋にいた。
「お目覚めの様ね」
アスカは声のする方に思わず顔を向けた。
(本文)
アスカは夢を見ていた。
そこは第三東京市街だった。初号機と弐号機でT2(Two Top)のフォーメーションを組んでいた。
作戦部ではそれほどバリエーションは無いがFlat-A、T2、SA(Stand Alone)とそれぞれ略称される3つの基本フォーメーションがあり、これを作戦本部の指示に基づいてシンジたちはポジション取りしていた。
アスカ固定でシンジもしくはレイとペアを組んでオフェンスラインと呼称される前衛を構築して、その背後に通常は重火器等で遠距離兵装をしたバックアップが一人付くというバランスの取れた陣形がT2だった。
本来、市街地など遮蔽物が多い環境でT2を用いることになっていたがこれまでの使徒戦では作戦環境に限らずほとんどT2を用いていた。
「何これ?T2フォーメーション…使徒が来てるの?ファーストアプローチは…まだね」
使徒戦においてもっともリスクが高い作戦行動の一つがファーストアプローチ、すなわち第一波攻撃だった。
使徒襲来時はMAGIでも使徒の戦闘能力を正確に割り出すことはデータ不足で殆ど出来ない。的確な殲滅行動の指針を本部が割り出すためのデータを集める必要があった。
そのためネルフではまず使徒襲来時は使徒のカウンターを警戒しながら試しの攻撃を加えて目標の攻撃と防御のパターンに関するデータ収集をするというステップを必ず踏んだ。
それがファーストアプローチだった。
フォーメーションとファーストアプローチの運用はアスカが合流してEvaが3体になったときにミサトと日向が考案した戦術の一つだった。
Evaによる使徒殲滅作戦は戦闘が進むにつれて段階的にシステム化されていた。
ファーストアプローチはもっとも被弾確率が高く、そして未知の攻撃にさらされる危険があったためパイロットの中でも最難関のミッションだった。
基本的にこのファーストアプローチは戦略パイロットであるアスカが先陣を切ることになっていた。アスカはこれをパイロットの誉れとして誇り、そしてそこに自分自身の存在価値を見出してもいた。
また、3人の中で専門の戦闘訓練を受けているのはアスカだけからだとミサトはチルドレン全員にもこの意義を説明していた。
それにしても不思議ね…使徒が来てるのにどうしてこんなに静かなの…
アスカは辺りを見回した。
オフェンスラインを組んでいるシンジとは100メートルも離れていない。Evaの大きさを考えると殆ど同じ位置、といってもよかった。
「ちょっと…シンジ近すぎるわよ。カウンターが来た時にそれじゃ二人でお陀仏じゃん…それじゃアタシのバックアップが出来な…」
アスカがそこまで言いかけた時、初号機がいきなりパレットガンを構えた。ファーストアプローチをシンジがまさにかけようとしていた。
「なっ…」
アスカは自分の縄張りに土足で踏み込んでくるシンジに激しい不快感を覚える。たちまち頭に血が上る。
「何よ!シンクロ率でちょっとトップになったからって!何でアンタがファーストアプローチをするわけ?いい気になるんじゃないわよ!」
アスカは自分の居場所をどんどん奪っていくシンジに憎しみにも似た感情を募らせる。
「ちょっと!シンジ!聞こえないの?返事しなさいよ!ミサト!シンジがファーストアプローチって誰が決めたのよ!本部?誰か出てよ!応答してよ!何よこれ?誰もそこにいないわけ?」
アスカが交信しても誰からも答えが返ってこない。
何よ…みんなあたしの存在を無視してるの?シンクロの結果が悪いから…もうアタシはお払い箱ってこと?
アスカはシンジを睨みつける。
「アンタは…アタシの心も…ファーストキスも…全部…全部アタシから持っていったくせに!アタシはアンタだからファーストキスを捧げたのよ。なのに…なのに…アンタはアタシを助けてくれない!抱き締めてもくれないじゃないのよ!!」
初号機からは返信がなかった。
「今度はアタシから最後の居場所まで奪うつもり?アタシ、ネルフ以外にどこにも行くところがないんだから…すぐに何処にでも逃げられるアンタとは違うのよ!何処まで追い詰めれば気が済むのよ!アタシには…Evaしかない…アンタは何も答えてくれない…許せない…黙ってないで何とか言いなさいよ!このバカシンジー!!」
返事の代わりに初号機がパレットガンの安全装置を外す。
「シンジ…」
バックアップ無しでのファーストコンタクトは自殺行為に等しかった。アスカは胸が張り裂けそうだったが作戦行動が始まればそこに私情を差し挟む余地は無かった。
それだけではない。
これだけ近いとシンジもアタシもカウンターを食らえば共倒れになる…何よ!この位置取り!初めから躓(つまづ)いてるじゃないの!目標が近づいている時に散開すれば(使徒に)気配を気取られかねない…ここはアタシが第二撃で痛打を与えて足止めして…その間に初号機を逃がせば…一人は助かる…ランチャーね…
「仕方ない…弐号機バックアップに回る!目標まだ視認できない!アタシはランチャーを使うわ!使徒とはまだ600以上の距離があると思う」
アスカはランチャーを兵装ビルから引き出すと弐号機からシンジの様子を伺った。
シンジがいきなり弾を装填する。それを見たアスカは驚愕する。
うそ!弾を装填した!パレットガンの射程内ってこと!?近いの?何処にいるって言うのよ!
アスカにはシンジが狙う方向に使徒の姿は見えなかった。アスカは慌てて自分の周りを確認するがやはり何も見えない。
発令所(本部)からのデータもアップされていない。使徒の位置はUnknownのままだ。
アイツ…何やってんのよ?やっぱり何もいないじゃないの…こんな時に何ふざけてるのよ!
アスカが交信しようとしたその時だった。
ガオン!ガオン!
シンジのパレットガンが火を噴いた。弾丸は遥か彼方に消えていく。
「バ、バカ!ファーストアプローチで無駄弾を撃つなんて!気は確か?相手に自分の位置を教えるようなものよ!早く退避しないとカウンターが来るわよ!シンジ!」
シンジの初号機は初弾を放ってもその場に留まっている。あまりにも動きが緩慢だった。
アスカは咄嗟にシンジの方に駆け寄ろうとした。
「バカ!撃ったらすぐその場を離れるのがジョーシキよ!早くしなさいよ!バカシンジ!」
ガシーン!
弐号機の機体に引っ張られるような衝撃が走る。
「う、うわっ!な、なに?し、しまった!ケーブルが!いつの間に…」
アスカのアンビリカルケーブルが延び切っていた。動きが取れない。
するとシンジの乗った初号機が立っている場所がいきなり底なし沼になり、見る見るうちに初号機がアスカの目の前で飲み込まれていく。
「シンジ!危ない!くそ!外部電源切断!あ、あれ・・・?切断!」
アスカがいくら操作しても外部電源を供給するアンビリカルケーブルが弐号機の背中から外れない。こうしている間にもどんどん初号機は沈んでいく。
既に胸の辺りまでを露出するのみとなっていた。アスカは焦りで取り乱す。
「ど、どうして?ファースト!ケーブルが、ケーブルが抜けない!ファースト!聞こえないの?ミサト!誰か!早くシンジを!」
アスカは必死にもがくが身動きが取れない。アスカがケーブルを物理的に切断するためにプログナイフを取り出そうとした時だった。
「うわあああ」
シンジの悲鳴が聞こえてきた。
アスカはハッとして初号機の方を振り返る。初号機は頭部の角だけになっていた。
「シンジー!いやー!」
初号機は完全に飲み込まれて辺りには何も痕跡が残らなかった。底なし沼も消えていた。
「そんなのいや!!アタシを一人にしないで!!シンジ!!行かないで!!」
アスカは弐号機の中で叫んでいた!思わず頭を抱える。
一人にしないで…一人にしないで…
一人はいや…
一人はいや…
アスカはハッと目を覚ます。見知らぬ天井が目に飛び込んできた。
え…今のは夢…?
体にじっとりと汗をかいているのが分かった。頭に靄がかかったようにハッキリしない。鼓動と共に頭に鈍い衝動が走る。
ホントに…さっきのは夢…それとも…これが夢…ここは…ここは…何処?
キングサイズのベッドの中にいる。自分の正面には100型の薄型液晶TVがかかっていた。ベランダから溢れんばかりの日光が差し込んでいる。
まるで高級ホテルのスィートルームを思わせる様な調度と佇まいだった。
ミサトのマンションじゃない…エンペラーホテルに感じが似てるけど…なんか違う…
ベッドからゆっくり上体を起こす。
アスカはハッとする。
アタシ…何も着てない!う、うそだ!
パッと4客の革張りソファの上に新しい下着が置いてあり、ソファの向こう側にあるクローゼットの中にクリーニングされた自分の制服とプレスされたブラウスがかかっているのが見えた。
「そんな…アタシ…やだ!」
ガバッとベッドクロスを捲ってベッドの中を確認する。自分が一糸も纏わずベッドの中にいることに気が付く。
みるみる血の気が引いていく。
アタシ…誰かに…脱がされて…どうなったの…昨日…リツコに会って…それから…
「何も思い出せない…」
ベッドの上で頭を抱える。
「…アタシ…何かされ…や…やだ…」
金の置時計が朝の7時を報せていた。
「お目覚めの様ね。お姫様…」
アスカが顔を上げるとバスローブに身を包んだリツコがマグカップを二つ持ってベッドルームの入り口に立っていた。
「…リツコ…」
Ep#06_(13) 完 / つづく