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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第15部 The Transgression 悪魔の囁き


(あらすじ)

学校を遅刻をしたシンジだったが律儀に弁当を作って持ってきていた。
「よかったら…これ食べない?」
「…ありがとう…」
じっと見詰めるヒカリの姿があった。


「碇君」

教室の自分の席に座っていたシンジは後ろから不意に声をかけられて少し慌てた様子で振り向いた。そこにはヒカリが立っていた。

ヒカリは教室に飾られている小さな向日葵を生けたガラスの花瓶を両手に持っている。

「い、委員長。どうしたの?」

「どうしたのじゃないわよ。碇君は今日遅刻したでしょ?」

「う、うん…そうだけど…」

ヒカリは花瓶をシンジの方に勢いよく突き出す。思わず反射的にシンジは花瓶を受け取る。その様子を見たヒカリは小さくため息をついた。

「しょうがないわね…遅刻した人が昼休憩までに花瓶の水替えをする決まりでしょ?覚えてないの?」

「そ、そうだったっけ…ごめん…知らなかった…」

「まあ…碇君が遅刻したのってこれが初めてだから仕方が無いけど…決まりは決まりだからちゃんとしてね」

「うん…分かった…」

シンジはおずおずと花瓶を持って廊下に向かって歩き始めた。

「あ、碇君」

ややしょぼくれた雰囲気が漂うシンジの背中に向かってヒカリが再び声をかけた。

「何?」

「あのさ、今日、アスカはどうしたの?」

アスカの名前が出た瞬間、シンジは顔を曇らせてヒカリから視線を逸らした。

「僕が知るわけ無いじゃないか…昨日は結局帰ってこなかったし…」

「えっ!?帰らなかったって…マンションに?ど、どうして?」

「知らないよ…何か本部に用事でもあったんじゃないのかな…」

「でも…何の連絡も無いなんておかしくない?」

ヒカリの言葉にシンジはふっと昨日無視した携帯電話の着信のことが頭を過ぎる。

「何か事故とか…」

「だから…知らないっていってるじゃないか。アスカは強いから放っておいてもへっちゃらだよ」

「でも…もし…」

「僕、水を替えてくる」

吐き捨てる様にいうとシンジは言葉を継ごうとするヒカリに構うことなく足早に教室を去っていく。

ヒカリはシンジにしては珍しく棘のある行動に驚いて結局言葉を飲み込まざるを得なかった。

どうしちゃったのかしら…碇君にしては何か珍しくトゲトゲしいな…でも…何か心配だなあ…昨日も…今日も…アスカの携帯…繋がらないし…メールも帰ってこない…

ヒカリは自分の席に戻ろうとした足を止めて廊下の方に目をやる。廊下の流しでシンジが丁寧にガラスの花瓶を洗っているのが僅かに見えた。

碇君…アスカが頼りにしてるのは何だかんだ言って碇君しかいないのに…どうして…そんなに無関心でいられるの…?

二人の様子を教室の片隅でレイは静かにじっと見詰めていた。





 
「ちょっとリツコ、話があるんだけど」

技術部のプレゼンテーションルームでマヤ、青葉とラップトップの画面を見ながら打ち合わせしていたリツコは目だけを入り口に立っているミサトに向けた。

マヤも青葉もミサトに軽く会釈をするがいつもと様子が違う事を敏感に察知して落ち着かない様子で再び視線をモニターに戻した。

「どうしたの?出し抜けに…今、打ち合わせ中なんだけど…」

リツコは大袈裟にため息をつくと椅子の背もたれに身体を預けてミサトに向き直る。

「アスカのことでちょっと聞きたい事があるのよ」

ミサトは部屋の入り口に寄りかかると腕を組んでリツコに鋭い視線を送っていた。

「しょうがないわね…ちょっとブレイクを入れましょ?10分後にここでまた続きをするからそれまでちょっと外してもらえるかしら?」

「分かりました」

マヤと青葉はリツコとミサトに一礼すると足早に部屋を去っていった。

二人が出て行くのを見届けたミサトはリツコの目の前までずかずかとやって来た。

「単刀直入に言うわ。諜報課が昨日拘留したアスカの身柄を作戦部として可及的速やかに返還することを要請するわ」

ミサトはリツコを見る目に力を込める。リツコも暫くミサトを見ていたがやがてため息をつく。

「残念だけどそれは出来ない相談ね」

「何ですって?」

「諜報課の調査によればセカンドチルドレンは第3支部時代に加持一尉と同居していた事が明らかになったわ」

「ど…う…きょ…」

同居から攻めてくるか…下手に追求するとやぶへびかよ…くそ!忌々しいわね…

「あなたも知っての通り加持一尉には日本政府内務省の情報部員だったかもしれないという嫌疑がかかっているわ。その加持一尉と一緒に来日したセカンドチルドレンも容疑が晴れるまで釈放は出来ないわね」

「ちょっとリツコ…加持とアスカが関係あるって決まったわけじゃないでしょ?加持と関わった人間をしょっ引くって言うなら本部の女子職員の大半を留置しないといけなくなるじゃないの?」

「必要ならそれも考えるわ…」

「何ですって?」

マジかよ…リツコがこんな事言い出すとテコでも動かないからねえ…この石頭め!

ミサトの頭の中では結局リツコに潰された夏祭りの協賛プロジェクトなど諸々なことが走馬灯の様に駆け巡っていた。

「とにかく作戦部としては使徒の襲来に備えてチルドレンを常時3人維持したいのよ。すぐにアスカの力が必要になるわ。こんな時にグレーだからって理由で留置するのは司令長官室長の職務権限としても職権乱用じゃないかしら?」

「フォース(Fourth)とフィフス(Fifth)の選定には既に着手しているわ。選定が完了次第、速やかに作戦部に引き渡すわ。それで人的には問題ないでしょ?」

「そんな悠長なことを言ってる暇は無いわね!今日、明日にも使徒が攻めて来るかも知れないって時に!どこの馬の骨か分からない様なものを押し付けられても作戦遂行に支障が出かねないでしょ?」

「馬の骨ね…そういう意味では加持一尉の情報提供は有り難かったわね…選抜したセカンドチルドレンがあそこまで曰くつきとはね」

リツコは皮肉な笑みを浮かべると頬杖をついて流し目をミサトに送る。

ミサトは返事に窮するが苦し紛れに言葉を無理やり搾り出す。

「ぐ…と、にかく…緊急の場合は…」

「緊急事態の時は一時的にあなたの指揮下にセカンドを戻すことも考えるわよ…但し、作戦完了後は再び身柄をこちらが預かる事になるけど…」

リツコはため息混じりに答えるとミサトからテーブルの上に置いたままのラップトップに視線を移す。キーボードを叩く無機質な音が聞こえ始めた。

「じゃあ…普段の生活は…学校とかはどうなるのよ?」

「うるさいわね…いちいち…第一にアスカは既に大学を卒業しているのよ?何で今更学校に…まして中学校なんかに通わせる必要があるのよ。わたしは前にもこの件については反対したわ。それをあなたが満座の前で土下座までして頼み込むものだから渋々承諾したんじゃないの!風が悪いったらありはしないわよ!」

ミサトはアスカを第一中学校に通わせるために反対の急先鋒だったリツコに対しては特に一計を案じた。カフェテリアにリツコが向うのを見計らってランチタイムでごった返す中で日向と二人で泣き落とし作戦(土下座)を敢行して強引に言質を取り付けていたのだ。

「そういう問題じゃないわ。パイロット間の連携を深めるためにも貴重な時間なのよ?」

ミサトが尚もリツコに食い下がる。

リツコはキーボードを叩く手を止めるとジロッとミサトを見る。

「とにかく!セカンドチルドレンの通学はこの機会に無期凍結が妥当と判断します。それから今日にもアスカの着替えは女性職員を派遣して取りに行かせるから!マンションのキー情報を後で渡してもらうわよ」

「な、何ですって?!」

「当然でしょ?本部に当面拘置する訳ですもの。着替えが無いとあの子が可哀相な目に遭うだけよ?」

「じゃあどうあってもアスカは開放しないってわけ?」

「未来永劫閉じ込めるとは言っていないわ。容疑が晴れれば釈放するわよ。あるいはそれよりもフィフスが着任して強制送還される方が早いか…」

ミサトはこれ以上の議論が不毛になることを察してリツコを一睨みすると無言のまま部屋を出て行った。

ミサトと入れ替わる様にマヤが部屋に入って来た。

リツコはため息をつくと右手で髪をたくし上げる。白衣の袖には血の跡が付いていた。

「あれ?先輩、どうされたんですか?それ?怪我でもされたんですか?」

「ええ…まあちょっとね…」

確かに傷を負ったかもしれないわね…心にね…

リツコの表情は曇っていた。


 



昼休憩の始まりを告げるチャイムが校庭に響き渡る。それを合図に第一中学校の各教室が蜂の巣を突いた様にざわつき始めた。

レイはいつもの様に鞄からおにぎりが2つ入ったビニール袋を取り出す。

視線の中に男子生徒の制服が入ってくる。レイは小首を傾げるとそっと目を上げる。そこにはシンジが立っていた。

「…碇…君…」

「綾波…も、もしよかったらこれ…食べない?」

そう言ってシンジは小さな赤い弁当箱をレイに差し出してきた。レイはそれに見覚えがあった。

セカンド…

レイは不意に今まで感じたことのない鈍い痛みを胸に感じて思わず右手を胸に当てた。

「あ、綾波?どうかしたの?」

「…でも…それは…」

レイはまるで怯えている様にも見えた。シンジはレイが気を遣っていると思ったのか、にっこりと微笑みかけた。

「本当は…アスカがもし学校にいたらと思って気が気じゃなかったから作ってきちゃったんだけど…よく考えたら今日は当番のはずだし…それでついでって言ったら悪いんだけど…どうかなって思って…」

レイは戸惑った表情を浮かべていたが目を静かに閉じるとそっとシンジの手から小さな赤い弁当箱を受け取った。

「…ありがとう…」

「じゃあ…また昼休憩が終わったらとりに来るよ」

シンジは立ち尽くすレイに構うことなくその場を後にするとケンスケの座っている方に歩いていった。レイの手は小刻みに震えていた。

セカンド…人を好きになるって…胸が痛くなるの…?

レイはスカートのポケットの中に入れていた潰れたピンクのロケットにそっと手を忍ばせる。

あなたと…もう少し…お話…すれば…

レイは赤い弁当箱を持って一人、教室を出て行く。

レイの後姿をヒカリはじっと目で追っていた。
 
 
 
 
 
Ep#06_(15) 完 / つづく

(改定履歴)
5th Mar, 2009 / 誤字の修正
29th May, 2010 / ハイパーリンク先の修正
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