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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第20部 I miss you... 心、そして絆


(あらすじ)

シンジが使徒内部に取り込まれてしまったことに衝撃を受けるアスカ、そしてレイ…奇妙な形で二人の間に芽生えたものがあった。その一方で二人の心の中にいるシンジに対する思いは同時に複雑化していく。


TV版16話のアスカとレイの言い合いのシーン(ものまね vs. ほんもの)
※ すごく雰囲気出ていていいですね。そっくりです。
(本文)

ネルフ本部の医療部でアスカは個室のベッドを与えられてそこで点滴を受けていた。

アスカが目を覚ますと全身に毛布がかけられていたが、プラグスーツが上半身だけ脱がされて臍の辺りまで露わになっているのに気が付いた。アスカの体は羞恥心で見る見るうちに焼かれていく。

アタシいつの間にか眠ってしまって…その間に誰かがアタシに触れた…男だったら絶対殺してやる…

「気がついたのね、セカンド…」

心の中で毒づいていたアスカはレイに話しかけられて思わずハッとする。辺りを見回すとベッドの傍らにレイがプラグスーツを着たまま座っているのが見えた。

ファースト!アンタがずっとアタシに付いてくれてたの?やれやれね…様無いわ、アタシ…アンタに全てを見られるなんて…

アスカは自嘲を口元に浮かべる。

「アンタに借りが出来たわね…レイ…」

レイはアスカに正面を切って名前を呼ばれて驚いた様な表情を浮かべる。

「アンタのこと…面倒臭いからこれから名前で呼ぶことにするわ…」

「…」

アスカはレイの戸惑っている様子を感じとっていた。恐らくアスカのことをどう呼ぶべきか迷っているのだろう。レイの思案顔を見ていたアスカは思わず笑いがこみ上げてきた。

アンタはアタシに話しかけられるといつも困ったような顔をするのね…

「ふっ別にいいわよ…アンタは無理してアタシのことを呼ばなくても…今まで通りで構わないわよ…そんなことより…」

アスカは毛布の中で点滴を受けていない左腕で自分の胸を覆い隠した。

「アタシの体に触れたヤツがどこの誰だか…アンタ、知ってるんでしょ?」

「知ってるわ…」

「誰?」

「わたしと看護婦さん」

「あ、アンタが?そうか…よかった…」

レイの一言で救われる心地がしていた。アスカはレイの目の前で見知らぬ男にプラグスーツを脱がされたかもしれないと思うとまるで陵辱現場を目撃された様な激しい羞恥心に襲われていたからだ。

「看護婦さんがあなたのプラグスーツを脱がすことが出来なかったから…だからわたしがあなたのプラグスーツを脱がせたの」

「そうだったの…」

「いけない事だったの?」

レイが眉間に皺を寄せていた。

「い、いけない事?医療行為なんだから仕方が無いじゃないの!だ、第一アンタは女なんだから。そんなの構やしないわよ。アンタが男だったら殺してたけどね…」

アスカは意地悪そうな笑みを浮かべる。

「どうして男の人だったらあなたを脱がせてはいけないの?」

「ど、どうしてって…アンタ、ばっかじゃないの?そんなの普通は駄目に決まってるじゃん!」

アスカはレイの問いかけに思わず顔を赤らめてレイから顔を背けた。

何よ、この女…大人しそうな顔して…じゃあアンタはいつも脱がされてるってわけ?いやらしい!

「アタシの体に触れていい男はアタシの許可を得た人間に限るってことよ!」

「それは碇君…?」

「シ…」

アスカは思わずレイに視線を戻す。レイは至って無表情でアスカの様子を眺めていた。

「ちょ、ちょと…どうしてそこでシンジが出てくるのよ!あ、アンタ一体何考えてるのよ!アタシをからかってるわけ?いい加減にしないと怒るわよ!」

アスカは思わず顔を赤くすると上体を起こそうとした。

「動いては駄目、セカンド。まだ点滴は終わってないわ」

レイは急に立ち上がるとアスカの両肩を上から押さえつけて再びベッドに戻した。

結構強い力だった。

「ぐえっ…」

ちょっとアンタ…少しは手加減しなさいよ…呼吸が一瞬止まったじゃないの…

出鼻を挫かれたアスカはそのまま押し黙ってしまった。暫く二人は無言のままだったが、その沈黙を再びアスカが破る。

「アンタ…さっきは何が言いたかったわけ?」

「何の話?」

ホンッとにイラつくわ!アンタと話してると!それに…こんな時にデリカシーの欠片もないじゃない・・・

「だから!シンジのことよ!アタシは別にシンジに何も…その…許可なんか与えてないわよ!何をEvidence(根拠)にそんなことをアンタが言い出すわけ?」

「…それは…」

アスカはレイを寝たまま睨みつけた。レイは一転して戸惑ったような表情を浮かべる。アスカの顔を無言のまま見つめていたがやがて静かに俯いた。

「何よ?」

アスカが畳み掛けてくる。レイはそれに答えることなくプラグスーツのポケットにそっと上から手を当てる。

これを…早く…セカンドに…返さなければ…でも…わたしは何を躊躇しているの…

アスカも無言のレイをそのままじっと見ていたがため息をつくと視線を天井に戻した。

「アタシとシンジは何の関係もないんだから…余計な事を言わないでよね…」

アスカの吐き捨てる様な言葉にレイが反応する。

セカンド…あなたに聞きたいことが…

「アンタも…どうせ…怒ってるんでしょ?」

「どうして…?」

「どうしてって…惚けないでよ。アンタだって零号機の中で聞いてたでしょ?アタシとシンジのケンカ…」

「聞いてたわ…でも…すぐに双方向(一般)回線が切れてホットラインモードになったから…何が起こったのか…はっきり分からないけど…」

「けど?何よ…」

「今日のファーストアプローチはあなただったわ。碇君じゃない。なのにどうして…碇君は…」

アスカはレイから顔をそむけると小さいため息をつく。

「そうよね…ホントやれやれね…独断専行…命令無視…この前のシンクロテストでちょっといい結果が出たからって…お手本を見せてやる、とか言っちゃって…とんだお調子者よ…」

「セカンド…」

あなたの心が泣いている…どうして…表に出る言葉と心の中が別々なの…?それも…好きって言うこと…?

「シンジの悪口言われて…アンタ…不愉快なんでしょ?こんなアタシが言うなって…おもってるんでしょ?」

「…」

レイはアスカの横顔をじっと見つめていた。レイの視線に気がついたのか、アスカはレイに背を向けた。

「全部…アタシが仕向けた事よ…アイツを挑発する様なこと言って…あの時に…ファーストアプローチを交代した…多分…アタシがしてたら…こんな事にはならなかった…それに距離200にも拘らなかったと思う…アンタ…薄々気づいてたんでしょ…?」

「確信はなかったけど…碇君がプライマリー(主体的作戦遂行者)みたいに指示を出していたから…普通はあそこまでバックアップを上げないから…」

「そうよ。動き過ぎなのよ…だからバカ…くそ…アイツがど素人だって分かっていた癖に…こうなる事も半分は分かってた癖に…なのに…噴き出す感情が止められなかった…アイツを使徒の中に沈めたのはこのアタシよ…」

「あなた…エヴァに何のために乗っているの?人に褒められる…ため…?」

「違うわ…アタシは自分の尊厳の為に乗っているのよ…だから…いつか…自分自身を褒めてあげてもいいかもね…アタシはよく頑張った、てね…」

「なら…尚更…碇君を助けなきゃ…」

「シンジを…」

アスカが再びレイの方に向く。

「ええ…今、葛城三佐と赤木博士が碇君の救出作戦を検討しているわ…」

「そうなんだ…」

沈痛な面持ちだったアスカにわずかに安堵の色が差していた。ふっとアスカはレイの方を見た。

「でも…どうして?アタシは自分自身を褒めるって言ったのに…どうしてそこでシンジが…」

「それは…あなたの心だから…」

「あ、アタシの心…?」

レイは小さく頷いて見せた。

「そう…Evaは心を通わせないとあなたには応えてくれないわ…一昨日のシンクロテストの時、あなたから心を感じなかった…今日の戦闘でも…」

レイの言葉に思わずアスカが起き上がろうとする。それを見たレイが反射的に立ち上がってアスカの両肩を掴んだ。アスカはそれを振り払おうとする。

驚いたレイは思わずアスカの顔を見た。アスカはレイに強い視線を送っている。図星なのか、それとも反発なのか…

「ば、バカ言わないでよ!Evaはただの機械じゃない!適当なこと言って話をごまかすんじゃないわよ!Evaとアタシの心がどう関係があるって言うのよ!結局!シンジが使徒に襲われたのはアタシのせいって言いたいんでしょ?アンタ」

アスカはレイに鋭い視線を向けると自分の肩を掴んでいるレイの手首を握る。まるで病人の様に握力を感じなかった。

「いいえ。あなたは気が付いてるはず。Evaには心がある。あなたが心を閉ざせばEvaとシンクロ出来ない…あなたの大切な心…」

レイは難なくアスカの手を振りほどくと再びベッドに寝かせた。はだけた毛布を丁寧にアスカの上にかける。

「ふん!余計なおせっかいね!何?それってアタシに同情してるわけ?Evaがそのうち動かせなくなってアタシが弐号機から降ろされて…ネルフから追い出されて…行く当てもなくさまようしかない…哀れな女だと思ってるんでしょ!」

「それはあなた次第…」

「うるさいわね!放っておいてよ!何よ!アンタ!黙って聞いてたらいい気になって!出て行って!この部屋から!早く!」

アスカはレイに背を向けた。点滴袋が激しく揺れる。

バカ!バカ!バカ!アンタなんかにアタシの何が分かるって言うのよ!アタシをこれ以上覗かないでよ!

レイは暫く無言のままアスカの様子を伺っていたがやがて音も無くすっと立ち上がるとゆっくりとアスカから離れていく。

「ちょっと、ファ…レイ!」

レイは部屋のノブに手をかけていたが名前を呼ばれてアスカに再び向き直った。アスカはレイに背中を向けたままだった。

「何?」

「一つアンタに言いたい事があった…」

レイはアスカの次の言葉をじっと待っていた。視線はアスカの背中に注がれている。

「約束して欲しいことがある」

「何を約束するの?」

アスカの肩が激しく上下していた。

「何があってもアタシ達は生きることを選ぶって…アタシに誓って欲しい…」

「それはどうして?」

「どうしてって…ふん!どうせ司令やリツコから死ねと言われれば死ぬんでしょうけどね。アンタは…」

「命令なら…死ぬわ…」

「うるさい!」

アスカはいきなり上体を起こす。毛布がはだけてベッドの下に落ちていく。

「でもね…これだけは言っとくわ。本当の人間なら命令では死なないわよ!自分自身で自分の道を選ぶものよ」

アスカは胸を隠そうともせずレイを睨みつけていた。

「本当の人間なら…命令では…死なない…自分で選ぶ…」

「アンタが命令じゃなくて自分の意思で絶対死ぬって言うならアタシは何も言わない!勝手に死ねばいいんだわ!そんなヤツ!でも命令だから死ぬっていう判断ならアタシはアンタを許さない」

「どうして…あなたはわたしが死ぬことを許さないの?」

「迷惑なのよ!そういうことされるのって!アンタは残される人の事を考えたことがある訳?」

「残された人…のこと…」

レイは少しうつむき加減になり少しの間考え込んだ。奇妙な静寂が病室を支配した。

「わたしが死ぬことはあなたの迷惑になるの?」

「そうよ!大迷惑ね!」

アスカはうつむくと両手で拳を握り締めていた。

「もう嫌なのよ…アタシだけ置いていかれて…死んで行かれるのって…」

ママ…

レイは俯いて少し考えていた。

「でも…わたしの代わりは幾らでもいるもの…」

「それは…アタシも同じよ!Evaを動かせなくなればその時点でアタシも終わりよ!でもだからって…アタシは死にたくない!自分の命の使い方は自分で選ぶわ!例えゴミ屑みたいに扱われても…なのに…死ぬ自由も奪われた人間の苦しみも分からない癖に…アタシに…簡単に死ぬなんて言わないでよ…」

「アスカ…」

レイが再びアスカの傍らにやって来ると、はだけた毛布をアスカの肩にかけた。

「アタシに触らないで…」

「ごめんなさい…どう答えていいのか…分からない…」

「触らないでったら…」

レイが毛布から手を離す。アスカは毛布を手で掴むとそれを抱き締める。レイはアスカの横顔を見ていたがやがて重々しく口を開いた。

「約束…するわ…」

ハッとしてアスカはレイの方を見た。レイと視線がぶつかる。

「絶対よ…裏切ったら地獄の果てまで追いかけてアンタを殺すわよ…」

「セカンド。あなたは死んでる人も殺せるの?」

「本当に…アンタってうるさい女ね!いちいち人の揚げ足を…」

アスカは思わず言葉を呑んだ。レイは僅かに微笑んでいた。アスカは驚きで怒りを忘れた。

あ、アンタ…笑ってるの?

「じゃあ、わたしはシミュレーションルームに行くわ…あなたも点滴が終わったらそこに集合して。碇君の救出作戦が始まるから…」

レイは病室を静かに出て行った。レイは病室を出た後、右手で潰れたロケットを握り締めていた。アスカの耳には チェロの音 が聞こえていた。
 
 
 
 
 
 
Ep#06 _(20) 完 / つづく
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