忍者ブログ
新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第13部 Death comes to all 死の意味を知るもの


(あらすじ)

松代市に入ったシンジと加持は加持の定宿に向かい、日が落ちるのを待って第二試験場に向かう事にした。文字通り死地に向うにも関わらず他人事の様なシンジを見る加持の目はいつになく厳しかった。

No more War...
加持と落ち合ったシン子は辺りをキョロキョロしながら並んで歩いていた。まるで何かを探しているような雰囲気だった。

「そうか…シンジ君は松代に5歳の時まで住んでいたんだよね?」

「知ってるんですか?」

「ああ…」

「夏祭りが終わって…僕は父さんと一緒に松代駅から電車に乗って第二東京市(松本)まで行ったんです…滅多に一緒に散歩もしてくれなかった父さんが…何か…僕…嬉しくって…」

なのに…父さんは…僕を捨てたんだ…先生に預けてそのまま…僕は要らない子の筈だったのに…あんな手紙一枚で…(ネルフの)セキュリティーカードを送るついでみたいな手紙で…

シンジの目が鋭くなっているのに加持は気が付いていた。

松代はシンジ君にとっても…俺たちにとっても…原点に当たる場所だ…松代にあった新技術創造研究所(現在のネルフ第二実験場)…全てはそこから始まったんだ…2008年…12月24日にキョウコ・ツェッペリンが自殺し、30日に那智(サナエ)さんが殺された…そして二人の少女をあり得ないほどの不幸が襲った…

「駅も駅前も随分変わっちゃったなあ…」

シンジの何気ない声に加持は静かにうなずく。

「それは無理もない。松代は第二東京市のベッドタウンとしてここ数年で急激に人口が増えたからね。町から市に変わって…そしてこのリニア駅も2009年に出来たんだ…」

「そうだったんですか…昔は普通電車しか止まらない小さな駅舎だったのに…」

俺が…特報局員(内務省特殊情報局員)の初仕事でここにやってきた時もまだ小さな駅舎だった…

「僕…この近くの保育園に通ってたんです…砂遊びが大好きで…よく日が暮れるまで遊んでいました…」

家に帰っても誰もいなかったし…誰も迎えに来てくれなかった…僕はいつも一人だったんだ…

思い出「そうかい…多分…その保育園は今もあるよ…”ひまわり保育園"だろ?」

「はい…」

「そこから歩いて15分…シンジ君…君が生まれた家がある…」

「…」

「君の家族は松代と箱根の間を往復する日々だった…そのうちご両親の仕事の中心が箱根に移る事になったその矢先…箱根にあった人工進化研究所、今で言うネルフ本部で2004年に事故が発生した。君が三歳の時さ」

「僕…その時のこと…ほとんど覚えてないんです…おかしいですよね…」

「おかしくはないさ…どうにもならない事を忘れるのは幸せだ…というドイツの諺があってね…覚えている事によって時として人は不幸になる場合もあるってことさ…」

加持と女装したシンジの脇を長野県警のパトカーが通り過ぎる。上空は軍用ヘリが引っ切り無しに飛び交っていた。

「何か…妙に騒がしいですね…」

「ああ…」

太陽がようやく西に傾き始めていた。

「シンジ君はこれからどうするつもりだったんだい?」

突然、加持が足を止めてシンジを真正面から見た。

「え?えっと…」

第89発令のどさくさでお互いに有耶無耶になっていた事に今度は加持から触れてきた。ひょんなことから行き連れになった二人ではあったが避けては通れない話題だった。

シンジも思わず足を止めるがすぐに加持から視線をパッと逸した。

加持さんに正直に伝えてもいいんだろうか…でも…加持さんが言う通り…一人では心細いし…第一…加持さんがいなかったら駅すら出ることが出来なかったかもしれない…こんな格好させられてるけど…

シンジはおずおずと口を開く。

「僕は…これから参号機のあるところへ行くつもりです…」

「参号機…」

加持が意外そうな顔をする。その顔を見てシンジは不安に苛まれる。

なんだよ…リニアの中では悟ったような事を言ってた癖に…

シンジは少しイラついた様に加持を見た。

「何なんですか…そんなに予想外ですか…?」

「ああ、そうだな…」

加持は笑うのを止めていた。

大人の男性が少し苦手なシンジではあったがどちらかというといつになく真剣な顔をする加持に気圧されていた。

「正直を言うと…俺はてっきりシンジ君が友達を連れ戻しに来たのかと思っていたんだ…」

「トウジを?」

「ああ。でも君の目的はそうじゃなかった…君は友達をスルーして参号機のところに行くと言ったね…?どうしてだろうね…?」

「それは…」

そう言えば…なんでだろう…トウジを助けるだけなら連れ出すだけでいいのに…自分でもよく分からないけど…何か…参号機を起動させる前にどうにかしないとって…そんな気持ちだった…夢か現実かも分からないのに…僕はとにかく…参号機をどうにかすればトウジを殺さないで済む…そう考えた…いや、違う…何かがそうさせるんだ…

加持はじっと注意深くシンジの顔を見ていたが再び歩き始めた。シンジもそれに釣られて歩く。

「これもドイツの諺なんだが…オムレツを作るには卵を割らねばならない…という言葉がある。根本的な問題点を解決しないと意味がないってニュアンスかな…これは俺の主観が入るが…シンジ君は参号機のところに行かないと意味がない、逆を言うとそれで友達も救える…という事になるのかな…?」

シンジは返事に迷っていた。限りなく「はい」に近かったが確信が持てなかった。加持と話せば話すほど何故自分がここにいるのか、それすらも曖昧になっていく様な気がしていた。

加持は少しの間、シンジの様子を伺っていたが返事を諦めたのか、正面に向き直る。

「まあいいさ。正直に話してくれた君に俺も自分のことを話さないとフェアじゃないな。俺もネルフの第二実験場に用事があってここに来たのさ」

「加持さんも…参号機ですか?」

「いや…俺の目的はMAGIのバックアップ機…だな」

「MAGI…」

「ちょっとした調べものがあってね…言っても分からないだろうが…マクスウェルの悪魔を覗くにはどうしてもMAGIの力が必要なんだよ」

「マクスウェル…ですか…そんなこと言われても…よく分かりませんけど…」

「ははは。まあそうだろうな。ところで、シンジ君。今日の宿は決まってるのかい?」

「え?や、宿ですか?いえ…何も考えてませんでした…」

加持はやれやれと言わんばかりに両手を上げるとズボンのポケットから煙草を取り出した。

「おやおや…89発令で第二種警戒態勢が張られている第二実験場に潜入しようとしているスーパーエージェントらしからぬ発言だな…まだこんなに日が高いのに迂闊に近寄ると例え君でも撃たれるぞ」

「う、撃たれる!?まさか…そんな…」

加持は今まで見た事がないような厳しい目をシンジに向ける。

「君の目標(参号機)はそのど真ん中にある…まさか自分だけは大丈夫だと思っていたのかい?」

「そ、そんな訳じゃ…ないですけど…」

図星だった。シンジは思わず俯いた。加持はその様子を見て小さくため息をつく。

「シンジ君…君は人類のためにEvaに乗って使徒と命がけで戦っている…確かに怖いだろうし…納得も出来ない部分が少なからずあるだろう…」

「はい…」

「だが…逆を言うと使徒戦で君は最も安全なEvaというシェルターの中にいるとも…少し意地が悪いがそういう言い方も出来るんだぜ…」

「一番安全な…場所…?」

加持の言葉にシンジは思わず怪訝な顔つきをする。加持は煙草を一本口に咥えていた。

「君が知らないところで多くの血が流れているんだ…男も女も子供も関係なくね…使徒の前では…いや…地球上で起こる自然現象ですらヒトは無力さをまざまざと見せ付けられるんだ…ヒトは全く儚く…そしてなんて弱いんだろう…ガラス細工の様に傷つきやすく、そして壊れやすい…」

加持が遠い目をする。シンジは言い知れぬ苛立ちを覚えていた。

そんな…そんなのおかしいよ!シェルターって…一体何なんだよ!いつも死ぬような目に遭わされてるっていうのに!それに好き好んで僕は乗ってるわけじゃない!

加持はポケットからライターを取り出すと火を付ける。シンジの苛立ちを感じたのか、煙をふうっと吹くとシンジの方を見た。加持の口元には僅かな笑みがあったものの目はやはり笑ってはいなかった。

何なんだよ…その人をバカにした様な目は!

シンジが口を開きかけた瞬間、機先を制する様に加持がシンジに問いかけて来た。

「サードチルドレン、碇シンジ君…君は第3使徒が現れて以来、今日までに何人の人がこの日本で亡くなったか知ってるかい?」

「え、亡くなった人…ですか…いいえ…」

シンジはあまりに突飛な質問にしどろもどろになる。適当に数字を答えて意地を張ろうとする自分も感じていたが不謹慎だと窘める自分の方が強かった。

「4892人だよ。大部分は国連軍の兵士だけどね。この数字の意味が分かるかい?今からちょうど20年前の1995年に大阪、神戸を襲った阪神淡路大震災で亡くなった人は約6400名で負傷者行方不明者に至っては40000人を超え、そして今尚、被災者の中には元の生活を取り戻していない人がたくさんいるんだ。勿論、単純比較するのは不謹慎かもしれないがそれに匹敵するくらいのことが起こっているだよ。それも…君の目の前でね…」

「…」

シンジは言葉がなかった。意外な切り口だった。自分は被害者だという意識が常日頃から強いシンジは何のためにEvaに乗るのかを常に悩んでいた。

「頑張れば褒めてくれる」

ついこの間のシンクロテストでシンジはシンクロ率でアスカに初めて勝って有頂天になり、自分が出した結論がそれだった。

加持の言う「安全なシェルター」という言葉に抵抗感があったが自分が何を悩み、そして拘っていたのか、余りに現実に無知な自分の存在に気が付き始めていた。そして何よりもあれほど嫌っていたEvaという入れ物を降りたことでようやく一人の人間という立場を共有する気がしていた。

何なんだろう…僕…今…加持さんから言われた言葉に腹が立ってるのに…でも…僕…今まで知らなかった世界に触れた気が…する…

じわりじわりと自己嫌悪に陥りつつあった。沈黙するしかなかった。

加持は殆んど沈んで僅かに西の空に残る夕焼けを見ていた。

「Evaを降りて初めて分かる事もある…自分の足で大地に立って初めて嗅ぐ匂いがある…そしてモニターではなくその目で見る本当の真実ってやつがある…追い求める答えって言うのは…いつも自分の中にあるとは…限らないんだぜ…」

シンジは俯いていた。

「シンジ君…自分の限界や乗り越えられない壁ってやつはどうしてできると思う?」

「どうしてって…世の中には出来ない事が多すぎて…僕なんか…みんなから必要とされているかどうか…それもこれも加持さんがさっき言ってたヒトが弱いから…ですか?」

「まあ…40点くらいの回答かな…ヒトがなぜ弱いのか…ヒトは知恵を持ち、そして科学という力を生み出した。それでも限界や壁は新しく生まれてくる。まるで宿命の様にね…」

加持はシンジを振り返るとにこっと微笑みかけてきた。

「だがヒトは限界や壁から逃れられないんじゃない…何故ならそれを作り出しているのは自分自身だからだよ…」

「自分…自身…ですか…」

このフレーズ…どこかで聞いた様な気がする…

「そう…限界は必ず自分自身が作っているんだ…だから常に付きまとう…決して宿命なんかじゃない…宿命なのは「死」だけなんだよ…絶対的なものは死だけ…死に触れる時…ヒトは気が付くことが出来る…死以外に真理はないと…ね…」

アスカだ…夢の中でアスカが言っていた言葉だ…

「だからヒトは死から逃れることが出来るものをアンチテーゼとして、それを真理と考えるんだ…だが…それを手に入れた後のヒトは果たして幸せなのか…「死」と向き合う事は「希望」を生み出す事に繋がる。「死」に背を向ければ「希望」以外の新しい何かが必要になる…」

その何か…元に戻るのではなく新たなフェーズに移行する…それがまさに碇ゲンドウの考える「人類の補完」…何を持って「希望」を代替しうるのか…

「シンジ君…君はその何かを手に入れることになるかもしれないな…なぜなら…君がこれから向かおうとしているところは…紛れもなく戦場だからさ…」

「戦場…」

「そう…地上で最も「死」と向き合う場所…それは戦場さ…ネルフの中にいるとリアルなゲームみたいに錯覚することもあるだろうが…明日…いや…今夜半…ここは戦場になるだろうな…」

加持はポケットから新しいタバコを取り出すと火を着けた。煙を勢いよく吐くとうな垂れているシンジの肩に手を置き再び優しく微笑みかけた。

「一つ君に伝えたい事がある。自分勝手でわがままし放題だからアスカを嫌う人も結構多いが…」

「アスカ…ですか…?」

「あの子は10歳の時からある意味、戦場の中で一人で生きてきた。常に「死」と向き合ってきたんだ」

「…」

「だから俺はいつもアスカに言ってきた事がある…ヒトは「死」を越えられない…だから…生きろ…とことんまで生きろ…生きてこそ…死の意味が分かる…てね。なぜなら、死の意味を知る事…それがその人の人生だからだよ。単純なものさ…真理ってのは…苦労して手に入れるような代物じゃないって事だな…俺から言わせれば…」

僕は…今まで何をしていたんだろう…そうか…だからミサトさんも「しっかり生きて、それから死ね」と言ったのか…だから「生と死は等価値」なのか…

「シンジ君…どちらにしてももう少し日が落ちないと参号機のところには近づけないだろうから一旦、宿に入ろう。この先に俺が松代で定宿にしている知り合いの家がある。よかったらそこに一緒に行かないかい?それに…もう少しお互いに知っていることを詳しく話した方がいいだろう…」

「宜しくお願いします…」

「よかった…じゃあ…俺はアスカのことを君に教えるよ…」

「アスカのこと…ですか…?」

「ああ…少なくとも誕生日とか好きな男性のタイプとか…そんな楽しいお話じゃない事は確かだな…」

これでいい…これで俺も真っ向勝負が出来る…マルドゥックとな…心残りがないといえばウソになるが…な…






Ep#07_(13) 完 / つづく


(改定履歴)
21st April, 2009 / 脱字修正
6th June, 2010 / 表現修正
PR
ブログ内検索
カウンター
since 7th Nov. 2008
Copyright ©  -- der Erlkönig --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Material by White Board

powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]