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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第3部 My blood for my country 名誉ある敗走


(あらすじ)

帰国を明日に控えたゲンドウは第一支部の回線を遣って幹部会議を招集し、第12使徒戦の戦後処理の裁定を下す。ゲンドウの決定に幹部たちは驚きの声を上げる。
また、フィフスチルドレンの着任が2週間後と発表される中、ミサトは加持が何故リツコにアスカの素性を暴露したのか、その理由を考えていた。
ま、まさか…加持…あんた…それを足がかりにマルドゥックに迫る気なんじゃ…
周到で緻密な準備をする加持に似つかわしくない荒っぽい計画に加持の身を案じるミサトは

(本文)

第12使徒戦後の第三東京市立ち入り制限区域は市内の実に46%にも及んでいた。

それだけ今回の使徒攻囲作戦が広範に及んでいた事を示す証左だったが、実際問題として初号機が自力で脱出した時に噴出した使徒の鮮血や残留物の除去作業の方が困難を極めていた。

もはやネルフ作戦部の人員だけでは24時間3シフトを組んでもとても対応が追いつかない状況だった。更に追い討ちをかける様にジオフロントに設置されている使徒専用の処分施設のキャパシティーを僅か一日で超えてしまうという誤算も生じていた。

除去作業と処分作業のいたちごっこが地上と地底で繰り返される始末だった。

ミサトは使徒戦始まって以来となる国連軍との共同復旧作業を即断、実施していた。この共同復旧作業の実施はリツコを中心にした技術部、総務部系の関連部局から相当の反対の声が上がっていたが、ミサトは有事におけるネルフ序列システムの通常指揮権を盾に頑としてこれらの動きを撥ね付けていた。

ミサトとリツコの対立構造は深まる一方だった。





第三東京市の中心街、集光ビルのほど近くに設営された国連軍とネルフの共同復旧作業合同本部の仮設テントは集光ビルを取り囲む中央緑地公園のほぼ全域を占有していた。

ミサトは使徒撃破後の2日間をこの仮設テントで過ごしていた。ジオフロントにはまったく姿を見せなかった。

自分のマンションからも至便ということもあってミサトはシンジのママチャリで家からここまで通っていた。

そんなミサトに今回の使徒撃滅で一階級進級した国連軍対使徒作戦最高司令官のマクダウェル少将から朗報がもたらされたのは市内に朝靄がかかる3日目の朝だった。





仮設テント群の一角でささやかなセレモニーが厳かに営まれていた。

ミサトは国連軍陸軍から今般の使徒撃滅作戦の功労に対して国連軍十字勲章1等級とアメリカ軍から功労章(Legion of Merit)レジオネールがマクダウェル少将から授与されていた。

ミサトは始め勲章の授与を当初の使徒撃滅作戦の失敗を理由に固辞し続けていたが少将の粘り強い説得についに根負けしたのだった。

ネルフ側で列席したのは地上に展開していた作戦部と保安部と一部の技術部員だった。部長以上の幹部の出席は由良保安部長くらいのもので他の者の姿はないという異様な風景になっていた。

式典にネルフの軍礼装ではなく国連軍礼装で現れたミサトを見た副官の日向は一瞬ギョッとした。

ネルフの礼装を着用しないという事は勲章を国連軍の資格で受けると言う事を意味しており、一種のネルフに対する反発、下手をすれば背信の表れと言えなくもなかった。

特務機関ネルフは国連の軍事組織の一つとして発足したものの研究機関がそのままスライドしたという経緯もあって国連軍正規階級はネルフ内では1階級上位に扱うのが通例となっていた。ミサトの階級は三佐だがネルフ内ではニ佐相当の扱いだった。

気勢を張ったところでネルフ内には戦闘のプロ集団である国連軍に対してコンプレックスが根強く存在していた。

色々な部分でネルフは歪を持っていたがその象徴的な部分が対使徒戦の立役者である作戦部とネルフ唯一にして最強の兵器Evaを管理する技術部、グレードSのマターを統括する司令長官室との確執だった。

断りきれなかったと言う事情はあるにしても…赤木博士との関係が悪い中でこれが付入る隙にならなければいいけどな…分かっていたらネルフ礼装を勧めたんだけどな…

日向は仮設の授与台の上に立っているミサトの勇姿を複雑な思いで眺めていた。
 




翌日。ミサトは4日ぶりに本部に姿を現した。定例の部長会議に出席するためだった。

ミサトが国連軍から勲章を授与された事で本部は祝賀ムードに包まれる一方、異様な淀んだ空気も同居しているのをネルフの職員は敏感に感じていた。

ゲンドウは国連総会の全日程を先週一杯で終えてニューヨークから第一支部のあるマサチューセッツに移動していた。明日、至近の米空軍基地から参号機空輸団に便乗して帰国する予定になっていた。

ゲンドウは冬月と共に第一支部の回線を使って定例の幹部会を招集していた。

「留守中の第12使徒迎撃ご苦労だった。各位の働きにまずは敬意を表したい」

ゲンドウが重々しく口を開く。ねぎらいの言葉とは裏腹に幹部会は冒頭から重々しい雰囲気に包まれていく。

「今回の第12使徒は先ほど委員会より正式に「レリエル」と命名された。今後の公式記録にはそう記載する様に」

「レリエル…」

キリスト教の伝承によれば「夜」を司る天使…皮肉なものね…

リツコは遠い目をする。

「まずレリエルに取り込まれた初号機だが…洗浄滅菌処理は既にセントラルドグマで完了しているとの報告を受けているが、細部に渡る徹底的な調査を指示する。この指揮監督は引き続き赤木博士に任せる…」

「分かりました」

「次に…初号機パイロットだが経過は良好で今日にも退院という報告を作戦部から受けているが…」

ゲンドウの目が一瞬鋭くなる。

「DNA検査等を含む第一種検疫入院への切り替えを指示する。全ての検査結果が出揃うまで本部出勤及びEvaへの搭乗を停止するように」

ミサトはさすがに口を開かずにはいられなかった。

「司令。お言葉ですが初号機パイロットは…」

「却下する」

荒々しくゲンドウがミサトの言葉を遮った。第一中学校への登校はこの限りに無いとしたが殆ど意味のない付け足しだった。

「さて、各部局からの定例報告の前に人事及び改組の通達を行う。まず志摩前情報諜報部長解任後、同部は暫定的に司令長官室の傘下に入っていたがこのうち旧情報課を戦略情報部として独立、昇格させる。同課課長の和泉を同部部長に昇格させる事とする。諜報課はそのまま司令長官室所属とする」

この措置には眉をひそめる者がちらほらと現れた。

何故…諜報課を司令長官の直属組織にする必要があるんだろう…元々曰く付きの連中ではあったけど…これじゃほとんど大本営の憲兵隊ね…

ミサトは先日、アスカを連行していく諜報課員と揉み合いになったことを思い出していた。

そうか…こういう含みがあったから司令長官室長の決裁が云々とか言っていたのか…気に入らないわ…この改組…何か網紀引き締めというか…

「次に葛城作戦部長…」

「は、はい…」

「レリエル殲滅作戦においてMAGIが解析した使徒情報を国連軍に提供を指示した事は極めて遺憾だ」

「お言葉ですが司令。あれは必要不可欠な措置であったと確信します。使徒による本部強襲の恐れがあった以上、国連軍による攻囲作戦をPlan Bとして選択する事は妥当で…」

「ネルフにPlan Bはあり得ない」

このゲンドウの言葉に会議室は水を打ったように静まり返った。部屋の空気がどんどん張り詰めていくのが分かる。

「加えて使徒戦後の残留物処分等の戦後処理は特務機関ネルフで完結すべき重要任務の一つだ。これに国連軍の助勢が公然と実施され、更にその申し入れを我々の側から行ったと言うのは重大な判断ミスといわざるを得ない」

「しかし!司令!市内の半分近くの都市機能が未だに停止しており市民生活への影響は甚大です!これをネルフのみのリソースで処置すると言うのはあまりにも現実的な感覚から乖離し…」

「君の意見は聞いていない。守秘義務違反及びネルフ作戦行動指針規定違反。そして第12使徒第一次殲滅作戦の失敗と部下の監督不行き届き。以上のことから懲罰規定に基づき作戦部長の任を解き、作戦課長への降格処分を相当とする」

「バカな…」

この決定に幹部たちから驚きの声が上がった。

使徒に市内中心部まで踏み込まれて極めて厳しい作戦環境下で囮という今までの使徒の行動からは到底想像出来ない様な危機に遭遇しながら卓越した作戦指揮により人類の危機を回避した、そういう解釈で国連軍から一等級の勲功章が授与されたミサトに正反対の過酷な懲罰を加えるゲンドウに幹部たちの視線が集中する。

「あり得ねえ…」

巨躯の持ち主である由良保安部長がミサトの隣で思わず唸る。逆にミサトは身動ぎ一つせず黙ってゲンドウの言葉を聞いていた。

「作戦部長は空位として暫定的に冬月副司令を作戦本部長に任命して作戦部を統括するものとする」

更迭人事ではあったが使徒戦における実務オペレーションの指揮は依然としてミサトが第一線で取る体制に変わりはなかった。

誰の目にもミサトの戦術手腕をまだ必要としている様にしか見えなかった。ミサトは静かに目を閉じる。

これであたしもセキュリティーレベルがGrade Bか…相当行動範囲が狭まるわね…でもそれ以上に…事実上、あたしはシンジ君とアスカの二人の保護者と言う立場を維持出来なくなる…今はその事の方が遥かに辛いわ…

更に幹部たちを驚愕させたのはフォースチルドレンの着任が1週間後、そしてフィフスチルドレンが2週間後という通達だった。

会議室のあちこちからフィフスチルドレンの必要性を訝しがる声が漏れた。ミサトも思わず眉間に皺を寄せる。

参号機パイロットのフォースチルドレンは分かるけど、フィフスまで必要と言うのは一体どういうこと…?確かにこの前のシンクロテストでは不調だったし、加持との同居でスパイの嫌疑がかかって拘留中ではあるけど…だからといってセカンド解任はあたしの処分と違って明らかに行き過ぎだわ…まさかとは思うけどアスカの加持とのバイトがバレたってこと?…

加持…あんたがリツコに与えた情報が司令の耳に入ったら当然懸念材料として噴出するわ…ずっと引っ掛かっていたけど一体どういう狙いがあってアスカ・ツェッペリンのことを…

ミサトは以前にアスカとの第三支部時代の馴れ初めの話をリツコにしたことを今更ながらに後悔していたが、それ以上に結婚式の二次会に向かう車中で加持がミサトとリツコの二人にアスカ・ツェッペリンの話をした真意を未だに理解出来ていなかった。

確かにあの時はあたしもまさかこんなことになるとは思わなかったから興味本位で聞いてしまった部分はあるけど…ズィーベンステルネという謎の組織が絡んで記憶を取り戻す鍵も握っているなんてリツコに話して…どうかしてるわ…あんた…

でも…意味のないおしゃべりをする様な男じゃない…それはあたしが一番よく分かってる…あんたはあの情報を囮に使ったのよ…

その加持はネルフを除籍処分にされた途端に雲隠れしていた。ミサトも加持とターミナルドグマで会って以来一向に連絡が付かない状態が続いていた。

いずれにしてもゲンドウがアスカにも警戒の目を向けていることだけは明白だった。

用済みになればあの子…絶対まともな目には遭わない…逃がすことを考えないと…ターミナルドグマの状況を確認した後、あんたはアスカをあの農園に連れて行くつもりだったものね…後、二週間か…加持に連絡を何とか取らないといけないわね…

ミサトはクロスのペンダントを無意識のうちに右手で握り締めていた。暫く考えていたミサトはハッとする。

ま、まさか…加持…あんた…マルドゥックに!いくらなんでも無茶よ…あんた一人で…確かにマルドゥックの流れが掴めれば一気にネルフの秘密のヴェールが剥がれるわ…ネルフが外から見て分かりにくいのはマルドゥックというマトリクスに翻弄されて実態を掴むことが出来ないからよ…普段はなりを潜めているけど動きを見せる時が3つある…

一つはチルドレンの選任。二つ目はEvaのパーツの支部間調達。三つ目はセキュリティーレベルがGrade Sのマターを動かす時…2つ目、3つ目はあんたから仕掛けることが出来ないからモニターするタイミングが図れない…だからあんたはわざとあの情報をリツコに流して…アスカの交代を促してそこからマルドゥックに迫るつもりなのね…考えたわね…

でも…もしそうなら用意周到なあんたらしくなく今回は派手に動いてるわ…もしかしてあんたも焦ってたんじゃないの…あんたが焦る理由って何よ…

会議が終わると各部長は降格になったミサトに同情の視線を送っていた。

その中に刺す様な鋭い視線が混ざっていることにミサトは気が付いた。

リツコだった。

リツコ…これであんたとは全面戦争に突入したって訳ね…あんたは限度ってモンを知らない女ね…でも…あたしにも限度はないわよ…葛城家は八代前から続く江戸っ子なんだからね。売られた喧嘩は全て買うってのがあたしの信条。覚えておくことね。ぶっ潰してやるわ!あんたがそこまでして守ろうとするものを!死なば諸共よ!

ミサトもリツコに鋭い視線をぶつけると諜報課員に促されて幹部会議室を後にした。

加持…いつもRitter気取りのあんただけどさ…少しは残される人間の身にもなりなさいよね…死ぬ時は…一緒よ…あんたがいない世界にいても仕方がないもんね…







Ep#07_(3) 完 / つづく
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