新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第16部 The Angel with broken wing 翼を下さい…(Part-1)
(あらすじ)
カヲルはシンジと再会する少し前に技術本部でレイの姿を見かける。地底湖を見ながら小さくため息をつくレイに語りかけるカヲル。一方、ミサトは完成までに2年の歳月を費やしていた「波号404プラン」という軍事基本戦略が再審議に回されたという連絡を受けていた。
やっと巡ってきた幸運か…破滅の罠か…いずれにしてもサイは投げられた…
翼をください
リツコの研究室を訪問したカヲルだったがリツコの姿はなかった。
「これで義理は果たしたな…」
カヲルはリツコの机の上にメモを残すと再び来た道を戻り始めた。
技術部の界隈はまるで働き蜂の巣の様に騒々しかった。自動販売機が置いてある各休憩スペースでは徹夜続きの職員達があちこちで仮眠を取っていた。
カヲルは物珍しそうに技術部員達の動きを見ていたがふと遠目に第一中学校の制服を着た少女が部屋から出てくるのを見かける。
綾波レイだった。
「リリス…」
レイは小脇に大き目の薬袋を抱えて技術本部を後にしていた。
カヲルもレイの後について行く。
レイが出てきた部屋をそれとなくカヲルはチェックする。部屋には「第3技術研究室」というプラスティックのプレートが付けられていた。
レイは技術本部を離れて厚生ビルの方に向かって歩いていた。
そして地上3階同士を繋ぐ連絡通路の中ほどで立ち止まると薬袋を抱えたままでガラス窓から本部の敷地を眺め始めた。
レイが小さく一つため息をついていると自分のすぐ横で人の気配がした。
「君でも…いや…君だからこそ悩むのかな…僕と違って」
カヲルはレイの横に並んで目の前の手すりに両手をかけた。
レイは視線だけをカヲルに向ける。
以前の様な邪険な雰囲気はなくなっていた。
少し警戒していたカヲルはレイの変化に気が付いたのかにっこりと微笑む。
「どうやら…ようやく僕のことを思い出してくれたみたいだね…」
「…あなたはフィフス…第五の適格者…それだけのことだもの…」
レイはそういうと再び視線を正面に戻した。地上の明りを受けて輝いている地底湖が見える。
ネルフ所属の原子力潜水艦がそこに停泊していた。ジオフロントの地底湖は太平洋に抜ける地下水路と通じており、この水路の存在はネルフ関係者の間でも一部しか知らなかった。
「今日…学校だろ?」
「これから行くわ…午前中に本部に寄るように指示されただけから…」
「それを貰うためにかい?」
レイは何も答えない。チラッとレイの横顔を見たカヲルは小さく肩を竦めると手すりに腰掛けた。
「そういえば初めて君に会った時から一つ疑問に思っていたことがあったんだ。聞いてもいいかい?」
カヲルは笑みを湛えたままでレイの顔を見る。
「何?」
「なぜ君は翼を開いていないのに地上に堕(おと)されたのか…君が罰を受ける理由はない筈だ…僕の知る君はいつも聡明だったしね…」
レイはカヲルの方を向く。
「あなたは前にわたしと会った時に…」
カヲルは大きく伸びをするとおどけた表情をレイに見せる。
「まして僕の本心というわけでもない…ただ…適当な事を言って君の関心を引いたに過ぎない…」
「そんな小細工…あなたらしくないわね…」
「ほら…やっぱり君は殆ど自分を取り戻している。なのに知恵者の君らしくなく何故従順になろうとするのか…僕には理解できないよ…君は翼を開いていない…という事は他に何か罪を犯してしまったということか…それともその姿は仮初というわけか…いずれにしても一度覚醒した僕とは違う理由の筈なんだ」
「…残念だけど…あなたのその質問に答える必要は無いわ…」
レイは突き放すような目をカヲルに向けていた。
「なるほど…どうやら君は僕とは違う複雑な事情でここに居るらしい。君らしいよ、リリス」
「その呼び方は止めて…わたしがあなたをフィフスと呼ぶ様にあなたも…」
カヲルがレイを遮る様にして言葉を被せてきた。
「ファースト…あるいは綾波レイと呼べというわけか…名前とは便利なものだね…呼び方を変えるだけであたかも別の存在になるというわけか…」
レイがカヲルを見る目を僅かに細める。
「あなたに他人の事をとやかく言える資格があるのかしら…」
「どういうことだい?」
「わたしにはアダムと名乗る一方でアスカには自分はアインだと言う…それは…なぜ?」
レイは手すりの上に白い紙の薬袋を静かに置く。カヲルは少しの間黙っていたが腕組みをしてレイの方を見た。
「それは…僕が名乗ればアスカの眠らされている記憶が蘇った時に自分の運命を受け入れることが難しくなるからさ…」
「名乗らなくても…あなたは結局アスカを傷つけてしまった…約束とはいえ…やっぱりあなたは会うべきではなかったんじゃないかしら…」
「相変わらず手厳しいな…確かに再び巡り合うと約束はしたよ…だが…約束を履行するためにここに来た訳じゃない…心無き僕は自分の運命に従う他に運命を統(す)べる術(すべ)をしらない…運命が巡り合わせたんだ…僕とアスカ…そして…僕と君をね…碇ゲンドウ…シンジ君のお父さんという運命がね…」
カヲルは手を伸ばすと手すりの上のレイの手をそっと握った。
「あの人が…あなたをここに呼んだのね…」
レイは暫くカヲルの白い手を見ていたが静かにもう片方の手でカヲルの手を解いた。
「そうさ…何故かは知らない…僕以外にも候補はいた筈なんだ…委員会は初め彼をここに派遣するつもりだったらしいけど…光栄にもご指名に預かったというわけさ…今の君の主なる人によってね」
レイはカヲルの言葉を聞きながら静かに目を閉じた。胸の前でしきりに両手を摩っている。
「もう一つ君に聞きたかったんだ…シンジ君のお父さんは何を目指しているんだい?まさか本当に主なる人になろうとしているのかな?」
レイは小さくため息をつく。
「わたしには…分からない…仮に分かっていたとしてもあなたに話す必要はないわ…」
「それは欺瞞(ぎまん)だね…シンジ君のお父さんはカードを全て握っている…神…すなわち主なる人(第一始祖民族)に近づく全てをね…その近くにいる君が彼の心を知らない筈はない…つまり…君は君で何か考えているんじゃないのかい?」
「…」
「ヒト…リリンはものを知れば知るほどもっともっと知りたがる…際限なくね…でも知った後のことは不思議と何も考えてはいない…あるいは知る事自体に満足するだけの存在なのかもしれない…だが…知るということは同時に手に入れることでもある…その手に一度取ってしまったものには責任が生じるものだよ…それが神との約束というものだ…だから知恵を選んだ君なら分かる筈なんだ…僕のこの話の意味がね…」
レイは無言だった。それに構うことなくカヲルは続ける。
「だから君は主なる人の元から去ったんだ。君は自分の責任の重さに自ら気が付いてね。ヒトの始祖たる君は知っていた。この世界に陰陽がある様にヒトの命にも善なるものと悪なるものの相反する2つの要素が生じる事をね…ヒト(性善なる存在)はリリン(後天的悪)という種族を生み出しえる存在でもある…そのリリンが知恵を継承して尚且つ生命の究極に迫ろうとすればどうなるか…君はその不遜の芽を断つ為に楽園を…いや自ら生命の樹から離れた…主なる人の怒りを一身に背負ってまでもね」
二人の目の前を3人の女性職員が談笑しながら通り過ぎていく。カヲルは職員達をやり過ごした後で再びレイの方に顔を向けた。
相変わらずカヲルの口元は綻んでいた。
「知恵を手に入れた者は主なる人に初めのうちは従順であってもいずれは反逆する宿命を背負う。なぜなら知恵とは新しきものが古きを駆逐する事によって発展するものだからだ。それは自ら運命を切り拓く事に通じ…やがては未来という名の希望を紡ぐ事にもなる…事実、君は主なる人の元を去った」
カヲルはややレイの表情を探るような素振りを見せた。レイはそれを意に介することなく黙ったままだった。
「だから…やがて神の道を歩もうとする人の元からも去る事になる…君と違って真の生命の継承者の生き方は主なる人の思し召しに従って生きること。愚直なまでにね。この道から外れることは許されない」
「あなた…よく…しゃべるのね…」
レイはため息混じりに呟いた。
「まあね…他人の世話ばかり焼いて…おっちょこちょいで…そしていとも簡単に他人から騙されてしまう…性分なんだろうね、これは…僕のママのね…でも…大好きなのさ…僕はこの星に生まれて来て本当に良かった…こうして君にも会えた…」
手すりの上に置いてあった薬袋に手を伸ばしていたレイの手が一瞬止まる。レイが目を上げるとカヲルがレイの方に一歩を踏み出すのが見えた。レイにしては珍しく慌てた様な所作で薬袋を掴むとカヲルに背を向けた。
「わたし…帰るわ…」
「その袋…何が入ってるんだい?」
カヲルは背中を向けたレイに声をかけた。
「薬よ…いつもの…」
「いつものって…それBRだろ?どうするつもり?意味することが分かっていながらリリンの指示に従うってわけかい?反逆の宿命者の君らしくない生き方じゃないか?ははは」
カヲルは愉快そうに笑い始めた。
「わたしはレイ…だから…」
「確かに致命傷でなければ時間はかかるが自己再生も出来なくはない。それとも…替わりはいくらでもいるって言いたいのかい?」
カヲルの言葉にレイはハッとして思わず振り返った。カヲルはレイのすぐ後ろに立っていた。
「でも…今の君のままでも十分…綾波レイ…だろ?」
カヲルはレイの左肩に右手を置いた。レイが右手とカヲルの顔を交互に見る。
「この瞬間…僕の目の前にいる君の替わりなんていない…僕の中ではリリスは…リリスでしかない…」
「…」
「これは…僕が預かっておくよ…リリス…こんなものを逃避に使うなんてますます君らしくない…自らを封印する事で知恵者にしてヒトの始祖たるリリスが運命に従順に生きようとするとはね…それは何かの皮肉のつもりなのか…」
「そんなわけ…」
「しかし…君は君だよ…」
そういうとカヲルは左手でレイが手に持っていた薬袋をそっと取り上げた。
「じゃあまた。学校に行くならフォースに宜しく」
「フィフス…」
呆然と背中を見詰めるレイを残してカヲルは再び司令棟に向かって歩き始めた。
通路を曲がってレイの姿が見えなくなるとカヲルはレイの薬袋を自分の前に向かって放り投げた。そして小さく助走するとサッカーのフリーキックの様に思いっきり薬袋を蹴った。
ガチャーン
白い紙の薬袋は大きな放物線を描いて10メートル先の空き缶入れの中に狙い済ました様にスッポリと納まった。
カヲルはサッカーヲタだった。
「ええ、さっき司令長官室長(リツコの兼務役職)から指示を受けましたので総務としては次回以降の部長会議の議案として上程することになりました。ついては発案者である葛城部長の諒解を頂きたいと思いましてね」
「リツコが…一体どういう風の吹き回しだか…」
ミサトは北上総務部長からの内線を聞きながら思わず呟いていた。
波号プラン404とは作戦部、いやミサトがネルフに入省して以来、暖め続けていた計画書のコードネームで正式名称は「特務機関ネルフにおける軍事的初動体制並びに対人防衛体制の整備に係る中期的展望とその対策」で、実に完成までに2年の歳月をかけた軍人としてのミサトの集大成と言ってもよかった。
どういう事だ?今まで却下された案が取り上げられた事なんか一度としてなかった…ましてあのプランは…
波号404と略称されるそれはあまりの内容の過激さからネルフ首脳部と旧ゲヒルンの流れを汲む技術部、総務部系の主流派の不興を買って廃案になった曰くつきのものだった。
ミサトは第三支部から本部に帰任と同時に一気に司令長官付武官から作戦部長に抜擢された。ゲヒルンは研究者と諜報員を中心にした組織であり想定される相手が使徒という超科学的な存在とはいえ実戦指揮官不足は深刻な状態だった。
特務機関ネルフの武官でありながら同時に(人類補完)委員会の推薦を受けて国連軍に所属したミサトは国連陸軍最精鋭部隊ゴールデンイーグルで指揮官としての能力を如何なく発揮して「女Thor(トール)」の二つ名が与えられるほどであった。
それを見込んだゲンドウからドイツから帰任したミサトに対使徒戦争の実戦指揮権の委譲を受けるという破格の待遇で今日に至っていた。
しかし、作戦部長としてのミサトの初仕事は意外な方向で発現する。
使徒の襲来とその迎撃の指揮だけを本務とする専守防衛というネルフの体制にすぐに疑義を呈し、波号404と共に包括的軍事組織への移行を提言したのである。
波号404は単なる軍備拡張計画ではなかった。
そのため少なからずゲンドウやリツコらと軋轢を生じて前身組織ゲヒルンの関係者(ミサトは葛城ヒデアキの縁者としてゲヒルンから学費や失声症の治療費の援助を受けていた縁がある)でありながら例外的に非主流派に甘んじていたのである。
それを再審議に回すとは…気位の高いうち(ネルフ首脳部)らしくないじゃないの…あれ(波号404)を検討する事は従来の専守防衛体制からの脱却にも踏み込む、言うなれば特務機関ネルフそのもののあり方を問うことを意味する…その覚悟と準備が出来たという意思表示なのか…いずれにしてもあの辞令が流れを変えたことは間違いない…
やっと巡ってきた幸運か…それとも破滅の罠か…加持の件はあたしにとってもアキレス腱だしな…しかし…例えこれが滅びの道への誘(いざな)いだったとしても…あたしの胎は既に固まっている…答えはこれしかねえだろ…
「分かりました。波号404が再審議に付されるというのは小官にとっても願ってもないことです。その件、諒解しました」
ミサトは北上総務部長の内線電話を置くと顎に手を当てて考え始めた。
とはいうものの…入省当時と現在の状況には相当な開きがある…首脳部の関心が軍事に向いただけも格段の進歩とすべきだが、残念ながら今更あれをそのまま使うわけにも行かない…それに計画実行工程も半年…いや加持の遺したデータ通りならXデーまでは三ヶ月ちょい…それまでに出来ることに集中するしか…
「くそ!忌々しい!」
ダン!!
ミサトは左の拳で思いっきりデスクを殴り付けていた。
使徒と違って人間同士の戦いってのは…開戦前に9割が決まるのが現代の戦争なんだ…戦場で帰趨を占うのは中世までなんだよ…先軍主義を敷いて国際社会でのうのうと出来る時代じゃねえことは今までの歴史が物語ってる…
戦いの要諦は地政学に根ざした軍事均衡と国家生産力の極大化に軸足を置いたシビリアン(文民統制)との黄金比にある…戦争とは政治的手段の一つであり総合力の最たるものだ…遅きに失した感は否めない…
それに敵は少ないに越した事はないがあたし達だけで世界を敵に回すのは例えEvaが4体あろうと無謀だ…軍略面での不利は拭えない…最低でも勝たなくても負けない戦いを展開するしかない…想定国(仮想敵国)が長門さん(戦略自衛隊総司令)であるという部分は一先ず使える…か…
「いずれにしてもサイは投げられた…ズボラなあたしだけど戦場では無様に死ぬわけには行かない…」
ミサトは作戦部の幹部に緊急呼集をかけた後で自分のデスクから愛銃の自動式拳銃 コルトM1911A1を取り出す。
手入れが行き届いたそれはしっかりと手に馴染む。
Evaを実戦兵器と見るミサトとあくまで使徒殲滅という特殊かつ限定的な存在と見るゲンドウとリツコの間で生じる軋轢はこれまで主流派、非主流派という対立の構図を生み、ある意味でネルフを二分していたとも言える。
その思想の相違は当然にパイロットの扱い方にも差異を生じていた。
ミサトは被害管理の観点でパイロットの保護と戦闘能力の維持を最優先していたがゲンドウはパイロットを消耗品と見ている節が多分に見受けられた。
これはコード707(第一中学校)とネルフ青少年育成基金というEvaパイロットの調達システムの存在があるからだろう…なぜ母親の命を奪うのかはよく分からないが…口封じの類か…
それが弐号機とアスカに対する非情な扱いに通じている様にミサトの目には映っていた。
結局…シンジ君のパイロット起用もゼロナインシステムとも揶揄(やゆ)された初号機を唯一起動できるからに過ぎない…子供を戦場に駆り立てる「ならず者国家」そのままじゃねえか…その首領があたしってわけか…どっちに転んだとしても様ないねえ…
軍人としてまた使徒復讐に私怨に近い感情を抱いていたミサトは戦友あるいは近親者に近い感情をアスカに抱く一方で加持という存在を巡って複雑化した心境とあいまって両天秤にかけていた時期もあった。
しかし、刻一刻と死の淵へと追い詰められていく加持とその男の覚悟に触れ、また後事を託された形になったミサトはそのジレンマから完全に解放されていた。
ミサトのゲンドウに対する反発は先鋭化に拍車をかけていた。そこに発露された冬月の真情の吐露(とろ)。
私もセカンドには同情を禁じえない一人だ…
ミサトにとってそれは小さくない衝撃だった。
アスカの軟禁直後に実力行使も辞さずとまで一時は思い詰めていたミサトだったがネルフの命運がある意味で自分の双肩にかかっている事を自覚して以降、自身を厳しく律して今まで以上に淡々と日々の業務をソツなくこなしていた。
猪突猛進に見えて沈着冷静、ズボラに見えて緻密な一面を見せる現実主義者のミサトは一見して推し量り難い人間ではあったがその深奥には今、静かな黒い炎が燻(くすぶ)り始めていたのである。
カシャン
人気のない部屋で乾いた鈍い音が響く。ミサトは安全装置を外して静かに構えていた。
かつてA. ヒトラーを生み出したドイツだが旧ドイツ帝国出身の軍人を中心にして「ヒトラー暗殺計画」が一度ならず画図された…ナチスによる未曾有のジェノサイド(民族浄化)という悪夢を大戦中の軍部が阻止しようとした良心が働いていた事実を歴史は何も語らない(注:彼らの多くは粛清された)…
世の中は勘違いしている…例え究極の民主的組織であっても「理性による統制」と「善意に基づく自浄能力」の存在なくして世の中の不幸は防げない…「人間の闘争精神の完全否定」が「平和」に繋がると考えるのは浅はかな知恵でしかない…
重要な事は「闘争本能」という人類共通の暗部から目を逸らす事でも、まして現実逃避という無責任な思考停止をすることでもない…理性と自浄…これこそが本質なんだ…所詮は自分で自分の姿が見えぬ愚かで下らない群体か…
重要な事は「闘争本能」という人類共通の暗部から目を逸らす事でも、まして現実逃避という無責任な思考停止をすることでもない…理性と自浄…これこそが本質なんだ…所詮は自分で自分の姿が見えぬ愚かで下らない群体か…
あたしは女である事を捨てた…男の闘いとは己(おの)が信ずる道に逝くことである…
「我もかくあるべし…」
職員1300名の命と…そして…かつて女であったあたしが愛した人が命を賭(と)す…人類の相互補完という救いのために…
ミサトはホルスターを取り出すと掌中の鈍色のコルトを静かに仕舞った。
Ep#08_(16) 完 / つづく
(改定履歴)
31st July, 2009 / 表現修正
6th June, 2010 / 表現修正
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