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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第9部 Jeux interdits 禁じられた遊び (Part-3)  / 大人たちの事情

(あらすじ)

松代騒乱事件の合同調査会議で戦自介入の追及が不首尾に終わったミサトは狙いすましたように現れた加持と再会する。そこでミサトは加持がベルリンに旅立つことを聞かされる。ミサトの手には加持から渡されたメモリスティックが握られていた…

※ ブログエントリー容量オーバーでかなりカット(A計画言及シーンなど)しました。それらは次回以降、編集しながら補足します。

George Winston / Longing Love
アスカがオペレーションルームを飛び出した後、ほどなくしてミサトが現れた。

日向からアスカの様子が急変したことを告げられたミサトは何も言わずにそのままミーティングを始めた。

ミーティングの内容はアスカの予想通り戦術兵装研究課がプロダクションタイプ向けの
G兵装(輸送機から滑空して空からの作戦地域の制圧を目的としたもの)の試作に成功したことを受けてそのテスト要領と日程がメインの話題になっていた。

また、作戦部の改組についても同様に説明が行われたがそのほとんどにアスカが絡んでいたために後味の悪さだけが残った。

作戦部のミーティング終了後、休憩を挟んで技術部のシンクロテストが予定されていた。

チルドレンが日向と青葉の引率に従って第二実験エリアに向かっている途中で日向がアスカの身柄を確保したという連絡を保安部から受けていた。

「分かりました。はい。それじゃ後で医療部の方に身柄を引き受けに…」

日向がため息混じりに職員携帯をポケットに仕舞う。

「アスカちゃん、見つかったのか?」

「ん?ああ…やっとな…」

シンジは場の雰囲気を和まそうとするトウジのお喋りを遠くで聞きながら目の前を歩く青葉と日向の話に耳を傾けていた。意外な事にトウジのジョークに一番楽しそうに反応しているのはレイだった。

「随分と時間がかかったみたいだが何処にいたんだ?」

「それがどういう訳か…第
3ケージに向かおうとしていたところを保安3課(軍事監察)の連中が5人がかりで取り押さえたらしい…」

「第
3ケージ?何でまた…」

青葉が日向の言葉に僅かに眉をひそめる。

「さあな…顔を真っ青にしていて…捕まえると同時にいきなり吐いたらしい…とにかく(保安)
3課に付き添われて医療棟に向かっているそうだ…ワリーな、シゲル…最後に回せば今日のシンクロテストには間に合うとは思うけどさ…」

「…俺たちはデータが取れれば別にいつでも構わないが…その…大丈夫なのか?アスカちゃんは。少し休ませた方がいいんじゃないのか?バルディエル戦から間も無いし…それに…この前のこともあるしな」

「俺もそう言ったんだけど…ミサトさんがなあ…甘やかすなってバッサリだから…」

日向は大きく伸びをすると頭の後ろで手を組んでいた。

「そうか…甘やかすとは少し違う気もするが…時々鬼だからな、葛城三…じゃ無かった…葛城一佐は」

シンジは俯き加減で歩く。

3ケージ…あそこには……アスカ…会いたかったのか…弐号機に…

第二実験エリアに着くとエントリープラグが
4つ並んでいるのが見えた。左から零号機、初号機、弐号機、そして参号機用のエントリープラグだった。

マヤとリツコは
MAGIによるシンクロシミュレーターの設定を行っていたが、一行が到着するとリツコのところに日向と青葉が真っ先に向かう。アスカの事を説明しているのだろう。リツコが何度も頷いていた。

「仕方がないわね…アスカのテストは後に回すとしてとりあえずカヲル君が弐号機の(エントリー)プラグに入って頂戴」

「分かりました」

カヲルはにっこりとリツコに向かって微笑みを返すとエントリーエリアに向かって行った。リツコはカヲルの背中に刺す様な視線を送っていた。

「先輩…いいんですか?弐号機のプラグは…アスカ向けの設定のままですけど…」

疑うことを知らない子供たちが部屋から出て行った後でおずおずとマヤが口を開いた。リツコは腕を組む。

「構わないわ。第三支部で伍号機と六号機のテストパイロットをしていたという実力を見せてもらいましょ?」

「は、はい…」

鳴り物入りで登場した委員会の秘蔵っ子…パーソナルデータの書き換えなしでどんなシンクロを見せるのか…それによって得られる情報は多いわ…

リツコはカヲルの姿が視認出来なくなると今度はモニターに視線を向けていた。後ろの方で人の気配がした。

「ごめんね…リツコ…うちの子がまたやらかしちゃったみたいでさ…」

白衣を着たリツコの隣に顔を見ることなくミサトが並ぶ。二人とも弐号機のエントリープラグに乗り込むカヲルの姿が映し出されているモニター画面を見ていた。

ミサトの顔が途端に厳しくなる。

「弐号機のパーソナルデータはどうなってんの?」

「デフォルト(アスカ向け)よ…」

リツコの言葉にミサトがモニターから視線を外すことなく小さく頷いていた。

「ねえ、初めてじゃないの?あたし達の意見が完全に一致したのって…」

「そうかも…ね…」

二人は口元に僅かに笑みを浮かべていた。

この日のシンクロ率はカヲルが
99.755%を記録した他、シンジが初めての大台となる90.05%をマークしていた。

「なるほどね…これであたしの自信は確信に変わったってわけね…」

そう言い残すとミサトは第
3クールの測定を待たずに部屋を後にした。
 





「デスク!ちょっといいすか?」

デスクと呼ばれた男は面倒臭そうに手元に届いたばかりの夕刊のゲラ稿から目だけを上げて声のする方向を見た。

新東京日日新聞の政治部記者の阿部悠太郎がパーテーションの入り口に立っていた。

「何だ…ベッチーじゃねえか…テメーの話はいつも長げえからなあ…」

言い終わる前に阿部はデスクの机に腰を下ろすなり腕を組んだ。

「何で俺らの記事がボツなんすか?」

「いきなり何の話だ?」

「おとぼけは無しですよ、ヤマさん。まだ耄碌(もうろく)するには早いんじゃないすか?」

度のきつそうな眼鏡をかけたデスクは
50後半の冴えないサラリーマンに見えた。挑みかかる様な阿部を尻目にゲラを自分の机に放り投げるとすっかり冷めた日本茶の入った湯のみをすすり始めた。

「はあ…最近の若いやつのネタ(記事)は全然なってねえなあ…平気のへいでネットから引っ張ってきやがる。ベッチー…お前さんもさあ、もう
33だろ?どうだい?そろそろ後輩を本気で育てねえか?」

「どういうことですか?そりゃあ…」

「いや、だからよ…少し若い連中に現場を任せてだな…キャップでもやらねえかってことよ…」

「キャップ?」

「ああ、昇進だよ。悪い話じゃねえだろ?」

「そんな話には興味ありませんよ。そんなことよりこの前の「仁義なき松代大戦争」の特集記事なんすけど…」

「おいおい。お前も少しは大人になれよ」

デスクは小さい体を椅子に預けるとヨレヨレになったワイシャツの胸ポケットから曲がりくねったタバコを取り出して火を付けた。ヘビースモーカーのデスクが吐く銀の煙がパーテーションの中に立ち込めていく。

「大人っていうか、俺は現場が性に合ってるんでいらんスよ。そんな話をしにきたんじゃないんで。どうでもいいスけど、この前の俺とよっちゃんの…」

「だからよ…ありゃあダメだっていったろ…ボツネタにいちいち構ってるほど俺は暇じゃ…」


ドン


阿部はいきなり右の拳を机に付き立てた。一瞬、編集室が静まり返るがまた少しずつ喧騒が戻っていく。

パーテーションの中では阿部とデスクのにらみ合いが続いていた。

「ちょいヤマさん…何、ヒヨッてんよ?こんどはどこよ?部長?それとも社主?」

「少しは言葉を慎んだらどうなんだ?
33にもなってテメエはよ…」

「そんなの俺、全然関係ないっすから。ガチであのネタはゼッテーきますよ。大反響間違いなしっすから」

デスクは殆どフィルターだけになったタバコを荒々しく灰皿に押し付ける。

「だから…大人になれって言ってんだよ、ベッチー…お前の気持ちは分かるけどよ、悪い事はいわねえ…ここらが潮だぜ…」

「お断りっすね。ヤマさんが逃げるんなら俺はあのネタは他に投げてもいいスけどね?俺的には」

デスクはじろっと鋭く目の前にいる阿部を睨みつける。

「何だと?てめえトチ狂ったのか?」

「へっ!よく言うぜ!特攻(ぶっこみ)の山口と呼ばれるあんたがこんな腰抜けとは思わなかったよ。いつから老後のことを考えるようになりやがったんだ。この大嘘つきが!見損なったぜ!」

「黙って聞いてりゃいい気になりやがって!テメーはよ!いい加減にしろってんだ!この若造が!」

デスクはいきなり立ち上がると目の前にいる阿部の胸倉を掴む。阿部はそれに怯むことなく目に一層の力を込める。猛禽類を思わせる様な血走った目でデスクを睨みつけていた。

「悪い事はいわねえ…このヤマ(ネルフ)はもう止めとけ…前のスクープで十分だ…祭りは終わったんだよ…家に帰ってちょっくら頭を冷やせや…」

「ウザいんだよ、じじい…今度はお説教かよ…テメーこそあれだけのネタを出さねえつうのはどういうことよ…ガチなのは分かってんだろがよ…」

デスクはため息を付くと再び阿部を威嚇するように睨む。

「今までのことはこの前のスクープに免じて許してやる…俺はな…ブン屋を
40年以上やってんだ…テメーがおしめを履いてママのおっぱい飲んでる時からな…だから分かんだよ…引き際ってやつがな…とっとと帰って寝ろっつってんだよ…」

「引き際だあ?やっぱヒヨってんじゃねえかよ。そんな話は聞きたくねえよ。とっとと荷物まとめて帰った方がいいのはあんたの方じゃねえのかよ、ヤマさん。孫の面倒でもみたらどうよ」

デスクはまるで自分を落ち着かせるかのようにゆっくりと、しかし低いどすの聞いた声で話し始めた。

「悠太郎…これはな…お前の死んだ親父さんが追っかけていたのと同じヤマにぶち当たるかもしれねえ事は俺も認める…プンプン匂うぜ…だがな…押すだけが記者じゃねえ…時機を見て一旦引くってのもネタを掴むのと同じくらい重要なんだ…分かるだろ?この意味が…進退は男の一大事だぜ…」

「俺には
2009年の3月が全てなんすよ。せっかく掴んだ手がかりなんだ。引くに引けないとこなんです。それを分かってないのはヤマさんの方だろ?理解者面しやがって一緒になってネタ潰ししやがる。こうなったら俺は一人でもやりますよ。止めても無駄っすから」

その言葉にデスクがカッと目を見開くと思いっきり阿部の右頬を殴りつける。


ガシャーン!ガラガラガラ!


「この大バカヤロウが!!まだわかんねーのか!!」

「うるせえよ!!くそじじい!!親父風吹かしやがって!!」

取っ組み合いを始めた二人に驚いて記者達が次々に止めに入る。

「ベッチさん!
山口デスク!落ち着いて!」

「ちょっと!やめて下さいよ!こんなところで二人とも!新聞が他にネタ提供してどうするんスか!」

二人はもみくちゃにされながらようやく引き離される。

「ふざけんじゃねえぞ!こっちはあのネタに命をはってんだよ!ヤマさん!あんた!親父の葬式で言ったじゃねえかよ!あれはウソだったのかよ!!」

「阿部!一遍頭冷やして来い!いいか!今日はまっすぐ帰れ!バカ野郎!」

「ちぃ!」


ガーン!


阿部はスチール製のキャビネットを思いっきり殴りつけると編集室のドアを飛び出していった。

「ったく…何て石頭だ…頑固なところはオヤジにそっくりだ…」

デスクは肩で息をしながらパーテーションの壁に無造作に押しピンで留めてある一枚のスナップ写真に目をやる。若かりし頃の山口と肩を組む阿部の父親と少年時代の悠太郎の姿があった。

山口は新しいタバコを咥える。

「早まるんじゃねえぞ…悠太郎…耐えて耐えて耐え抜いたネタだけが本物の歴史を作るんだよ…歴史を刻めるのは新聞だけだぜ…それがネットとの決定的な違いなんだ…ネットと同化する新聞に明日はない…テメエがやってることは新聞じゃねえ…そこらのブロガーと変わらねえぞ…」

同じ頃、身長
185センチの大男が地下鉄のホームで人目を憚らず大粒の涙を零していた。

「ちきしょう…一緒にネルフを潰すって…言ってくれたじゃねえかよ…ヤマさん…」

切れた唇を舐めながら阿部は財布から古い紙幣の様になった新聞記事を取り出していた。


                  2009323日。新東京日日新聞記者変死。
当局は自殺の可能性を示唆。


親父は京都で起こった
20081230日の那智サナエのひき逃げ事故と2003年の通常国会(バレンタイン国会)で憤死した鋼鉄宰相(出雲重光)との関係を追っていた…遺品の整理で親父の取材記録が出てきた…出雲重光は那智サナエとの間にサチコという娘をもうけていた…20014月に京都市内で出産…初めは単なる政治家のスキャンダルとして追っていたネタだが出雲重光の周りにネルフの影があることを掴んだ…そして…その途端…親父は…口を封じられたんだ…

「絶対に尻尾を掴んでやるぜ…碇…ゲンドウ…」

やがて阿部は街の雑踏の中に紛れて行った。
 






松代騒乱事件から一週間後。

総選挙の公示が行われて異様な熱気に包まれる第二東京市で特務機関ネルフ、国連軍、そして日本政府国防省戦自総司令部の三者による極秘会談が新市ヶ谷の国防省ビルで行われた。

ネルフ作戦部長に復職したミサトは全権代表の資格でこの会議に臨んでいた。

国連軍の代表はマクダウェル少将、戦略自衛隊は総司令官の長門忠興陸将捕、そしてオブザーバーとしてシュワルツェンベック中将という顔ぶれだった。

会議はのっけから重苦しい雰囲気に包まれていた。既に定刻を
10分ほど回っていたが誰も口を開かない。

異様な空気にシュワルツェンベックは一人不敵な笑みを浮かべて会議の様子を眺めていた。

やれやれ…折角…久し振りに顔を合わせたというのに…まあ…同窓会じゃあるまいしな…笑顔で握手を交わすという場でもない…か…ロキとミサト…これも何かの因縁か…

長門はミサトよりも入省年度が
6期年長だったが共に日本政府国防省の外局で戦歴をスタートさせていた。新東京大学卒者は国防省内局(スーツ組)勤務が多いにも関わらずミサトは自ら外局を志望したため入省当初から一際目立つ存在だった。

女性初の統幕本部メンバーの呼び声も高かったが特務機関ネルフの発足と同時に全ての栄誉を捨て去ってその身を投じた。

その時の直属の上司が当時の国防省戦術研究課長の長門だったのである。

袂を分かった二人はドイツ某所(
N-30)で国連軍とネルフの共同軍事演習で再会していた。長門はValentine Councilの観戦武官として世界初となるEvaによる実戦訓練に参加していた。

圧倒的な攻撃力の前に度肝を抜かれた各国代表はこぞってネルフが提案する
Eva開発費の追加負担に唯々諾々と応じたが、唯一、長門だけが制約条件の多いEvaの兵器としての運用に疑問を投げかけていた。

「見事なものだが私に特殊部隊が
2個中隊もあればEvaが何体あろうと勝利出来るでしょう」

「バカな!ミスター長門。高度な索敵能力とまだ未完とはいえ各種兵装が整えば
2個中隊どころか2個師団あってもEvaには歯が立たないでしょうな。まあ貴下の部隊(戦自)はいざとなったらカミカゼ攻撃でも仕掛けるのでしょうがな」

各国代表から失笑が漏れる。長門はそれ以上は何も言わず一人黙ってほくそ笑んでいた。長門のパフォーマンスだと各国代表から受け止められていたがミサトだけが長門の発言の真意を悟っていた。

E型決戦兵器(S2機関を装備しないEva)の運用は後方部隊への依存度が極めて高い。司令部を含む補給線を叩いてしまえば屑鉄も同然と言外に指摘していたのである。

その後に発表された戦自の中期防衛計画はまさにその言葉を裏付ける様に徹底した重装重火器主義から対人戦闘部隊への転向が行われていた。

戦自は特務機関ネルフを対象国(仮想敵国)に設定して動いている…

国防省出身のミサトには長門と戦自の意図が手に取るように分かった。

そこでミサトが先手を打って計画したのが国連軍半個師団のジオフロント常駐案だったが、これは内外から様々な理由を付けられて徹底的な反対に遭い、結局実現には至らなかった。ミサトはこの一連の動きの裏に長門の影があることを敏感に察知していた。

ある意味でネルフの発足以来、長門とミサトの水面下での駆け引きは続いていたのである。


 
閑話休題。

ロキ(
Loki
とは北欧神話に出てくる主神オーディンの義兄弟で謀略、奸智に長けた神とされている。やがてロキの悪事に耐えかねた神々が結託してロキを捉えて洞穴の中の巨大な岩に縛りつけて幽閉する。

ロキに遺恨を持つ女巨人
スカジ(北欧の国々があるスカンジナビア半島の語源とも言われている)がロキの頭上に毒蛇を巻き付けてその毒がロキの顔に滴る様に細工をした。普段はロキの妻であるシギュンが器で顔に毒がかかるのを防いでいるが、器が毒で満たされるとそれを捨てに走るため一時的に毒蛇の毒がロキにかかる。

地震はこの時のロキの苦痛の叫び声とも言われている。

北欧神話における神々の黄昏と呼ばれる終末戦争でロキは光の神
ヘイムダルと、雷神トールはロキの息子である世界蛇ヨルムンガントと戦って共に合い討ちとなることが知られている。フェンリルはオーディンを飲み込むがその息子であるヴィーザルに討たれる。

ちなみにフェンリルを討ち果たしたヴィーザルは異母兄弟
ヴァーリ(司法神)と共にラグナロクを生き残って新しい世界を作る一柱となるといわれている。
 


 
合同会議の終了後、ミサトは荒れに荒れていた。

その怒りの波動に作戦部長補佐とミサトの参謀官を兼ねる事になった能面男と揶揄される東雲カズト三佐(前ネルフ作戦部戦術兵装研究課長)も思わず距離を置くほどだった。

「くそ…あのやろう…のらりくらりと…」

松代騒乱事件に関連した戦自の不当介入を理詰めで糾弾しようとしていたミサトだったが、徹底的な現場調査にも関わらず結局、戦自と第二実験場を襲った部隊との関連性を裏付けるような物証は発見できず状況証拠のみという弱みが祟って長門に悉くかわされていた。

やはり捕虜全員に死なれたのが痛かった…あいつら雇われ兵みたいに忠誠心の欠片もなかったからな…ちょっと捻りあげれば洗いざらいゲロった筈なんだ!それを…

「ちきしょう!!」


ゴッ!!


ミサトは吊っていない反対側の手で拳を固めると思いっきり国防省ビルの玄関の壁を殴り付けていた。流石に生身でそれは無理があった。

「つぅ…なんでこんなに固てえんだ!うがー!」

涙目になったミサトは思わずしゃがみこむ。とばっちりを食らわない様にミサトの後ろを数歩離れて歩いていた東雲以下の作戦部の男たちがおずおずと走り寄って来た。

「あの…部長…大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけないでしょ…くっそ…」

ミサトは制服の袖で涙を拭きながらようやく立ち上がる。国防省の玄関にはネルフの公用車が止まっているのが見えた。

それにしても不思議だ…捕虜達が全員…狙い済ましたように一斉に血を流すとは…何か仕掛けられていたのか…捕虜の一人がうわ言の様に「ローレライの魔物」と言っていたらしいが…結局…解剖してもなにも出てこなかった…共通しているのはその死に様だ…鼻腔から脳漿にかけて破裂したような痕跡があったらしいが…世間に認知されていないような口封じか…

だが…

ドッグタグもなくゴミくずの様に死んでいったあいつら…敵とはいえこれはあまりにも惨すぎるぞ…大半が職にあぶれて自暴自棄になって傭兵になった無軌道な連中だがそれぞれに還るべき故郷を持っているはずなんだ…兵士は確かに消耗品だ…だが…何人にもその魂を蔑ろにする権利は無いはずだ…

「サトルちゃん…」

「はい」

筑摩三佐(作戦五課長留任後方支援担当)が一歩ミサトの前に歩み出る。

「一応、松代騒乱事件も一区切り付いたしさ…解剖に回されて放置されている敵側の遺体だが、このまま放って置けば国連軍の規程に基いて産廃同然に処分されてしまう。本部に帰着次第、あれを管理している国連軍にうち(ネルフ)側で引き取ると通達を出して」

「え?解剖に付された遺体をですか?」

その場にいた全員が訝しそうにミサトを見る。

「武士の情けだ。ジオフロントの適当な場所に共同墓地を作って埋葬することにする」

「そういう事ですか…了解しました」

「頼んだわよ」

迎えに来ていた公用車に乗り込もうとした瞬間、視力
2.0のミサトは国防省ビルの前にある大通りを挟んだ向かい側にある男の姿を認めた。

か、加持…ば、バカな…こんなところをうろつくなんて…なに考えてんの…

加持はじっとミサトの姿を見つめていた。ミサトが自分に気が付いたとわかるとにっこりと微笑む。

「どうかなさったのですか?」

「あ、ああ…ちょっと用事を思い出したからあたしはここに残る。あんた達は先に本部に戻っといて」

「え?し、しかし…」

「何よ、子供じゃあるまいしあたし一人で帰れるわよ。そんなことよりも
G兵装のテストが近いし、そうじゃなくても仕事が閊(つか)えてんだから!東雲さん、あとは頼んだわよ」

「分かりました」

今日の合同会議にミサトの業務状況をほぼ全般にわたって把握している日向が同席していなかった事が幸いしていた。業務遂行を第一優先する東雲は全くミサトを疑うこともなく他の部員達を促して車に乗り込むとその場を後にした。

周りに人影がなくなったことを確認したミサトは国防省の敷地を出るとそのまま大通りを歩き始めた。

ミサトの姿に呼応するように反対側の歩道を加持が歩き始めた。そのまま暫く二人は
500メートルほど歩く。

加持…一体これからどうするつもり…

ミサトがちらっと視線だけを反対側に向けると加持が何事も無かったように地下鉄駅の入り口に入っていくのが見えた。

なるほどね…地下鉄駅で落ち合えば不自然ではないってわけね…

ミサトもそのまま歩いてやがて目の前に現れた地下鉄駅の階段を下って行った。雑踏の中から加持を見つけたミサトが近づこうとするといきなり加持は携帯を取り出すと自動改札をくぐって行った。

「ちょ、ちょっと…」

普段、車通勤のミサトは地下鉄などの公共移動手段をノーコインで利用するためのツールを全く持っていなかった。加持と同様に携帯で次々と自動改札をくぐる人の波を外れて一駅分の切符を慌てて買うと同様に改札を通り抜けた。

新麹町の地下鉄駅はホームの両脇に列車が止まるようになっていた。

なるほど…そういうことか…

暫くすると上り列車が加持とミサトの前に止まって二人とも乗り込んだ。つり革を持ったミサトは横目で隣の車両にいる加持を見た。

相変わらず飄々とした表情をしている。

出発の合図がなり扉が閉まろうとした瞬間、加持とミサトは器用に身体をずらして駆け込み乗車の客をかわしてホームに飛び出た。それを見た数人の男達が慌てて列車から降りようとしたがそのまま扉が閉まる。

列車は何事もなかったかの様にゆっくりと動き始めた。ミサトが制服のズボンについた埃を払っているとその傍らに加持が立つ。

「いよ!葛城。ちょっと見ない間にえらく出世したみたいだな。その制服…ネルフの一佐以上が着用するやつだろ?司令と副司令以外、着ているやつを見たことが無い」

「そんな事より何処まで行くのよ?こっちは怪我人なんだからさ。ちょっとは気を遣って欲しいものね」

ミサトが立ち上がると同時に今度はホームに下り列車が入って来た。

「ははは。そいつは失礼した。つい葛城が相手だと不死身と錯覚してしまうみたいでね。まずはこいつに乗ってから決めるとするか。それにしても久し振りだな?地下鉄を使ったデートは」

「そうね…新駒場の般教(一般教養)以来かな…あの頃ですらあんたは授業にまともに来なかったものね…待ち合わせが大変だったわ…」

「おいおい…いきなり歴史捏造か?講義の板書のこと…まさか忘れたんじゃないだろうな…」

「ひひひ!思い出したてきたわ!試験前になって二人のノートを結集させても意味が分かんなかったからリツコのところに土下座しに行ったんだったわ」

「そうだ。それを世の中では五十歩百歩というんだぜ」

「それって威張る事かしら」

列車が勢いよく乗客を吐き出し始めていた。
 





「え?ベルリンに?」

「ああ…危険は承知の上だ」

ミサトの声に境内にいた鳩が驚いて飛び立っていく。松本城の北稜にある松本神社は人影もまばらだった。第二東京市の整備拡張計画が持ち上がるたびに何度と無く松本城と共に移転取り壊しが取り沙汰されていたがその度に旧松本市の住民による運動によって現在も変わらぬ姿を留めていた。

「どうあっても行くつもりね…知ってるわ。あんたの性分は。どうせ止めても行くんでしょ?」

「昔からするなといわれれば余計やりたくなるんでね」

ミサトの胸に鈍い痛みが走った。

「そっか…
生きて帰れないかもね…」

「あるいはな…」

ミサトは木製のベンチに腰を下ろした。境内に住み着いているらしい野良猫を構っていた加持もゆっくりとミサトの隣に座る。

「期待しないで待ってるわ
その方が傷つかないから

「すまん
だが…やるしかない…」

「知ってるでしょ?内務省の松代にあったアジトのこと…」

「ああ…」

松代騒乱事件後、住宅地の中にあった松代オペレーションセンターと呼称されていた木造住宅がネルフの保安部と諜報課によって家宅捜索を受けていた。ネルフが踏み込んだ時には家の中はもぬけの殻になっていたが捜索の結果、この家から旧松代大本営を経由して第二実験場まで伸びる長大な地下通路の存在が確認された。

そして一時的にネルフのポート
707に侵入を試みていた場所である事も明らかになっていた。

「噂には聞いていたけど…まさか…あんたが内務省の特報局員だったとはね…」

「ポート
707とはネルフコード707の第三東京市立第一中学校と関係がある件…そして、シンジ君たちの学校で保険医として勤務する如月という人物がネルフの技術部三研室長という事実…更に…京都のとある財団法人が主宰するネルフ青少年育成基金を巡る不可思議な動き…これらは全てマルドゥックへと通じていた」

「ポート707をセキュリティーホールにするためにあんたはアスカを利用したって訳ね…」

「ああ…いい訳はしない…結果的には俺のミスだった…」

加持はすっかり錆び付いた灰皿を引き寄せるとタバコに火を付けた。

「それはともかく、特に今回収穫だったのはネルフ青少年育成基金だ…こいつは全国の小中学生の就学児童を抱える母子家庭を対象にしているんだが、これに申し込んだ家庭はほぼ例外なく
1年以内に母親が不慮の死を遂げている。そして後に残された子供達のほぼ全員が第三東京市の第一中学校や小学校に編入している。その中の一人に鈴原トウジがいた」

「鈴原…トウジ…それって…」

「ああ…葛城の部下であるフォースチルドレンだ…彼の母親もまたこの奨学金に申し込みをしていた。その前後で新型結核の様態が突如として悪化した事になっているが…この死亡診断書を書いた人間がやはりマルドゥックの息がかかっていた…まあ確たる物証はないが状況が見事に物語っている…」

「ちっ!綺麗事を言うつもりは無いけど…反吐が出そうだ…」

「かなり核心に近づいては来たが…こっちも無傷ではないからな…これを成果というかは難しいところだよ…ポート
707に仕掛けられたセーフティーに引っ掛かって俺たちは松代のアジトを失ってしまったし…残念ながら内務省のファイアウォールはものの見事に破られてしまって洗いざらいばっさりやられてしまった…あまりにもその代償は大きかった…」

「え?ちょっと…それは…」

ミサトが驚いて加持の横顔を見た。加持はタバコを咥えたまま遠い目をしていた。

「言葉通りだ…特報局員のデータも全てネルフに奪われてしまった…全員…遅かれ早かれ殺(や)られるだろう…マルドゥックから逃げおおせた者はいない…」

「加持…あんた…」

「松代オペレーションセンターに勤務していたサツキさんも中野さんもみんな…この一週間で事故死している…」

「そんな…まさか…」

高かった日もすっかり傾いている。松林に囲まれた神社の敷地に一足早く帳が降り始めていた。

「だから…同じ苦難ならば待っているよりも攻めに行った方がいい…その方が俺の性(しょう)にもあってるしな…」

「加持…あんたって…本当にバカよ…何のために…」

「好奇心だと言ったらシンジ君に怒られたよ…そんなことのために加持さんはミサトさんやアスカを悲しませるんですかってね…確かに男ってやつはどうしようもない…そんなバカな理由で本当にやってしまうんだからな…だが、少し格好をつけると…俺は信じたいんだ…人類の相互補完という救いをな…」

加持は一瞬遠い目をするとフィルターだけになったタバコを灰皿に押し付けた。ゆっくり立ち上がると加持はミサトにメモリスティックを手渡した。

「葛城の求めていたものだ…どうにか納期には間に合ったかな…」

「あんたってどうしようもない大バカね…どうしてあたしは…あんたみたいな危なっかしいヤツに…」

ミサトは無言のままメモリスティックを握り締めていた。

「じゃあな…生きていたらまた会おう…葛城…真実は君と共にある…」

加持は夕日に向かって歩き始めた。ミサトは追いかけて行きたい衝動を必死になって抑えていたため涙腺のケアはおろそかになっていた。

ぬるい涙が次から次に溢れてきていた。


真実よりも…愛しているという一言が何故言えない…それが多分…大人の事情ってやつさ…大人のそれは禁じられた遊びでもある…

加持は目頭を一瞬押さえると、すぐに神社の境内を大通りに向けて歩き始めた。遠くの方で選挙カーの垂れ流す絶叫に近い声が響いていた。




 
Ep#08 _(9) 完 / つづく
 

(改定履歴)
30th June, 2009 / 表現修正
01st July, 2009 / 表現修正
6th Jun, 2010 / 表現修正
24th Jun, 2010 / ハイパーリンクのリンク先を修正
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