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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第4部 Last words 遺志


(あらすじ)

謀略の手に掛かって無念の死を遂げた豊田だったが強かにVTACのデータを内閣官房保安室の愛宕に送っていた。愛宕は豊田が内閣官房副長官の川内(せんだい)と死ぬ前にコンタクトしていた事実を知る。通常では考えられない二人の接点を訝しがる愛宕だったが…
今から遡ること一ヶ月前の未明。

まてよ、念には念を入れよ、だな・・・
 



内閣官房保安室の参事官である愛宕聖に一通のメールが届いていた。

差出人は国防省情報作戦部長の豊田からだった。愛宕聖は豊田とはいわば同期の桜だった。

内閣官房保安室とは日本の安全保障政策全般を管轄する政策部局でこの室のメンバーは内務省と国防省からの出向者で構成されている。愛宕は国防省からこの保安室に出向していた。

早朝、いつもの様に愛宕は自分のデスクに出勤してくるとラップトップの電源を入れた。そしてそのままコーヒーを取りに席を離れる。

保安室で一番早く出勤するのはいつも愛宕だった。しかし、部屋には昨日終電を逃した愛宕の同僚たちがそこかしこで惰眠を貪っており早い遅いはほとんど意味のない議論といえた。

愛宕がブラックコーヒーを飲みながらデスクに戻ると既に50通近い未読メールが届いていた。その中に一際目を引くメールが一通だけあった。

「珍しい奴からメールだな・・・新六本木に来いってか?ふふふ」

口元に笑みを浮かべつつ愛宕は豊田のメールを開く。

送信時刻は午前1時23分・・・

しかし、愛宕の期待とは裏腹に豊田のメールは全く本文が書かれていない空メールだった。容量の大きな添付ファイルだけが貼り付けてある以外に何もなかった。

豊田の奴・・・誤送信か?だよな・・・あいつが俺にメールを送ってくる筈無いしな・・・

愛宕と豊田は普段の連絡に一切メールを使わないでお互いの携帯でやり取りをしてきていた。出向以来、豊田が愛宕の保安室のアドレスにメールを送ってきた験は一度としてなかった。

愛宕は添付ファイルをクリックした。

しかし、PCがアプリケーションを特定できずに直ぐに開く事は出来なかった。

一体どういうつもりだ・・・それに何なんだこのやたら重いファイルは・・・

愛宕が思案に暮れていたその時だった。

「おはよう!精が出るな、諸君!」

入り口から室長の三笠が室員に挨拶をしながら入ってきた。愛宕は慌てて豊田のメールを閉じた。

今日は臨時国会の初日だ。保安室の眠れぬ日々が始まりを告げた瞬間だった。
 



臨時国会はまさに波乱の幕開けとなった。

使徒戦の余波そのままに与党の無策を野党が吊るし上げる一方的な展開で法案審議の見通しすら立たない前代未聞の様相を呈していた。さらに先日の陸奥首相の総裁選当時の公約倒れ報道も未だに追及される始末で政府与党は防戦一方に立たされていた。

戦自法改正と日米共同技術開発協定の批准を今国会で国防省と目指す三笠の機嫌は頗る悪いようだった。愛宕の隣でしきりに貧乏ゆすりをしている。

愛宕は腕時計を見ながらため息を付いた。

たまんねーな・・・全く・・・使徒のことを国会で取り上げても仕方がねーだろが・・・

愛宕は三笠の隣に侍っていたが突然、胸に入れていた携帯のバイブレーションが動き出す。

ちっ誰だよ・・・臨国中なのは分かってるだろうに・・・

愛宕が面倒臭そうに携帯を取り出すと出向元の本省、しかも内局政策部からだった。シビリアンコントロールの要である。

ただ事じゃねーな、こりゃ・・・

愛宕は三笠に耳打ちで本省からの緊急電であることを告げて審議室を後にした。

「もしもし愛宕ですが・・・」

「愛宕君かい?久しぶりだね。鬼怒川だけど」

国防政策局長の鬼怒川猛だった。出向前の愛宕の上司で将来の事務次官の呼び声も高い実力者だった。愛宕はこの鬼怒川を「キヌさん」と呼んで慕っており、鬼怒川も公私に渡って何かと目をかけていた。

「キヌさん!どうされたんですか?私に御自ら連絡なんて・・・番号が政策部だったもんで何かあるとは思ってましたけど・・・」

「ことは急を要する。君?今周りに誰か居るか?」

国会の審議室の前では愛宕以外に多くの官僚たちが携帯で本省と連絡を取り合っていた。

「ちょっと待ってください。場所を移動しますんで」

「分かった。じゃあ君は喋らず移動しろ。こちらからまず用件を話す。昨日、豊田君が自殺した」

「ええっ!ま、まさか・・・」

「残念だが本当だ。新市ヶ谷のビルのトイレで首をつっているのが今朝見つかった。遺書はまだ見つかっていないが・・・」

「そんな・・・」

愛宕は思わず携帯を取り落としそうになる。人影もまばらな廊下まで移動してようやく呼吸を落ち着けるために努めて深い息使いをした。

「ショックなのは分かるが事実だ。今夜は通夜になる。場所は追ってメールする。君も臨国でご苦労だが参列しない訳にはいかんだろう。ここからは他言無用だが・・・少々この自殺には不審な点がある」

「不審・・・不審とおっしゃいますとまさか他殺・・・」

「分からん。断定は出来んが。そもそも豊田君が首をつる動機がまず無い。それから君も知ってるだろうが先日の内閣合同情報会議に出席してネルフの情報を流した途端だ。それに彼は川内さんとそれに先立って非公式に会談していたらしいぞ。君知ってるか?」

「えっ?川内ってうちの大ボス(副長官)とですか?」

いくら豊田がエリートとはいえ局長でもない部長クラスの人間が内閣官房副長官と会談するという事は普通に考えてあり得なかった。

二人の接点は一体なんなんだ・・・解せない・・・

「そうだ。しかも昼行灯の彼らしくなく結構、制服側であちこち動いていたらしい形跡がみられる」

「それでキヌさんが動いている理由がやっと分かりました」

「内局としてはこの制服内の動きには表立って立ち入る心算は無いが旧自と戦自のバランスという観点で考えれば君の室の動きも重要な情報源になる」

「それに内務省の動きもってことですよね」

「察しがいいな。その通りだ。場合によっては三笠君にも動いてもらうかも知れんしな」

「分かりました」

「愛宕君、こんな時に本当にドライで申し訳ないが感傷に浸っている余裕は残念だがない。豊田君の死を無駄にしないためにも気を張ってもらいたい。それじゃ・・・」

「あっキヌさん。一ついいですか?」

「・・・なんだ?」

「豊田の事は今朝の新聞には載ってませんでしたが?」

「豊田君はどうも日づけが変わっているから今日になるが午前1時から2時くらいの間に自殺したようだ。これは内務省の警察局の知り合いに手を回して確認済みだ。一般には恐らく今日の夕方頃ニュースになるんじゃないか?」

「午前1時から2時ですか!」

「どうした?何か心当たりでもあるのか?」

「今朝気付いたんですが、豊田から今日の午前1時半に添付ファイル付の空メールが届いていたんです。何のファイルかまでは分からなかったんですが・・・」

「何だって?それは本当か?」

「はい。間違いありません」

「そうか・・・愛宕君。すまんがそのことは絶対に口外するな。あまりにも微妙だ」

「分かりました」

「それから今日は僕も午後の予定を全てキャンセルして豊田君の通夜に出る事にする」

「ええっ!キヌさんが!内局が行くと目立ちますよ!」

「そんなことは構ってはおれん。そのときに君、その添付ファイルを僕に渡してくれ。その方が絶対に確実だ。君と僕が一緒にいてもそんなに違和感は無いだろう」

「わかりました」

「それじゃ」

愛宕は国会の窓から厳しい日差しを睨んでいた。

「豊田・・・」




 
愛宕は急いで控え室に置いてあるブリーフケースの中から自分のラップトップを引き出した。そしてそれをもってトイレに駆け出していく。荒々しくトイレに入ると個室に鍵をかけ、便器に座り込んでパソコンの電源を入れた。

豊田・・・お前の仇は絶対に俺が取ってやるからな・・・

愛宕は荒々しくポケットからUSBメモリを取り出すとパソコンに差し込む。そして問題のメールを再び開く。

そしてデスクトップに添付ファイルとメール自体をファイルとして保存するとUSBが空であることを確認した上で保存した。メールはパソコンから削除して添付ファイルのプロパティーを確認する。

拡張子がvtcと表示されているのを見て愛宕の顔からみるみる血の気が失せて行く。

VTAC(国防省最高機密情報通信の暗号コード)じゃないか!なぜこれが僕のところに!

自分でも心臓麻痺を起こしかけていると錯覚するくらい胸が苦しかった。やはりトイレで確認して正解だった。

豊田・・・何でこんなものを特殊回線とはいえ保安室に送ってきたんだ・・・お前は・・・

完全な内規違反だった。出世を第一に考えてきた豊田とは思えない異常な行動だった。死亡推定時刻、そしてこの常軌を逸した豊田のメール、それらを総合して考えられる事はただ一つ。

ダイイングメッセージ・・・

あるいはもう少し楽観的に考えてもリスクヘッジ。

いずれにしても豊田は内閣官房に確実にこの情報を送りたかったのだ。愛宕は空調が利いているはずの新国会議事堂でかく筈の無い汗をまるで滝の様にかいていた。

落ち着け・・・落ち着くんだ・・・ここで取り乱したら一巻の終わりだぞ・・・

愛宕は必死になって冷静になろうとした。友人の死を聞いた直後にVTACを送りつけられていることに気が付いて冷静に対処できる人間など居る筈がなかった。人間は弱い生き物だ。それでも愛宕は理性を働かせようとする。

キヌさんは豊田が川内さんに死ぬ前に会っていたと言っていたな・・・そしてこれを僕に送ってきているということは、豊田と川内さんの間で何かしらの密約あったということだろう・・・であればこれは・・・内閣官房と国防省内局のマターで進めても支障はない筈だ・・・

やはり豊田が口を封じられた可能性は高いと見るべきだった。愛宕はハンカチをズボンのポケットから取り出すと汗を荒々しく拭った。

しかし誰に・・・

川内は荒唐無稽な理想論者ではないが、系統からすればPSI時代における「国連第一主義」一辺倒の論調に異議を唱える「守旧主義の穏健派」と見られていた。

学生時代からの付き合いだった豊田自身はといえばクラウゼウィッツに傾倒してわざわざドイツ、ポーランド、ロシアにその足跡を求める旅に出ている「愛国者」だった。シビリアン・コントロールの戦略的整備こそが重要と一席を打っていた豊田は川内と同じ陣営だとみて間違いが無い気がした。すると・・・

うち(保安室)でいえば内務省と戦自サイドもやはり豊田に近い筈だが・・・

内務省と戦自を一括りにするのはあまりにも荒っぽいがどちらもいうなれば「守旧主義」の中では過激派だ。その「守旧主義」の完全に対極にあるのは外務省とあえて挙げれば「旧自(国連軍日本支部)」ということになるが、

この筋(国連主義者)がこんな謀略めいた事をするはずが無い・・・とすると・・・

このラインに近い過激派となれば「ネルフ」ということになる。

コンコン

「ひっ」

愛宕が入っているトイレの個室をノックする音が聞こえてきた。

愛宕は慌てて水を流すとパソコンを持ってトイレから出る。そこには初老の紺色のスーツを着た白髪の混じった男が立っていた。如何にも官僚という雰囲気だ。いきなり愛宕が出てきてビックリしているようだった。

「すみません・・・どうぞ・・・」

愛宕はそういうと急いで自分の控え室に向かって行った。歩きながら思っていた。

僕は日本で一番安全な場所に居る事が幸いしていたんだ・・・ここから一歩でも出たら命は無い・・・
 



「・・・従って、今の政府与党の一連の使徒戦におけます無策無能ぶりは目に余るものがあり、早急なる救済法を制定せしめ、一刻も早く国民の期待に応える努力を・・・」

壇上には野党国民党党首の生駒が上がっていた。それを審議室の末席で腕を組んで皮肉交じりに三笠は眺めていた。

「へっ!よく言うよ、全く。左派連中を取り込んでここまで来たのはいいけど元を糺せばアンタもこっち側の人間じゃねーか・・・」

生駒は元々与党自由党の幹事長も務めた事もある極右のナショナリストで知られていたが政界編成の波で徒党を率いて新党を結成して下野し、保守一辺倒の時代を突き崩した「暴れん坊」の方が今ではイメージが強い。

それが紆余曲折を経て生駒とは対極の位置にあるはずのリベラル系野党を次々に吸収統合して現在の国民党の党首に納まっていた。極右から中道右派という形に見事に転身していたが、未だに発言の節々に右的な思想が見え隠れする。

バレンタイン条約の発効に伴って旧自と戦自を分ける「戦略自衛隊基本法」の制定の時は本音と建前を使い分けてリベラル寄りに展開した為、与党は結局最後の最後まで戦自の組織化で散々生駒に振り回された事があった。その苦い経験を三笠は今でも若い室員に戒めとしてよく話していた。

三笠が苦々しく壇上の生駒を見ていると顔面蒼白になった愛宕が隣に戻ってきた。一時間は外に居た事になる。その只ならぬ雰囲気に三笠は直感的に「有事」の匂いを嗅ぎ付けていた。

「愛宕。お前遅かったな・・・」

「す、すみません。室長・・・」

「本省の誰からだったんだ?」

少しの間、考える素振りを見せていた愛宕は意を決した様に三笠に応える。

「内局の鬼怒川さんです・・・」

「なんだと?」

腕を組んで椅子の上にふんぞり返っていた三笠が思わず上体を起こした。

「室長、ちょっと相談したい事が・・・」

愛宕は今にも倒れそうな表情をしていた。

「もう少し待て、愛宕。生駒の野郎の演説が終われば閉会になる」
 



「・・・そうか。豊田の野郎め。生き急ぎやがって・・・」

新国会議事堂の地下にある喫茶室で愛宕と三笠は向かい合わせて座っていた。二人が注文したブレンドコーヒーは完全に冷めていた。

「室長、自分は・・・」

「待て、愛宕。お前は完全に舞い上がっちまっているから自分がどれほど危険な状態に置かれているか、まだしっかり分かってねえみてーだな」

三笠は自分のポケットから荒々しくタバコを取り出すと火を付けようとした愛宕を制して自分で火をつけた。灰皿は三笠の吸殻で既に一杯になっている。

「いいか。まずお前と鬼怒川局長は非常に危険な状態だ。特にお前だ。お前、携帯電話で豊田からメールを死ぬ前に受け取ったと鬼怒川局長に喋ったろ?」

「は、はい・・・」

「それはもう傍受されてると考えた方がいい。それから豊田の通夜で二人でコンタクトする事も喋ってるしな。二人ともアウトだな」

「そ、そんな・・・まさか・・・この携帯で局長とは・・・」

そういうと愛宕は懐から黒い日本政府が支給している防諜対応携帯を取り出して三笠に見せた。

「ふん。甘いぞ、愛宕。お前何年この仕事で飯食ってるんだ。いくら俺たちが政府支給の防諜携帯を使ってても逃れられねえ宿命があるのは国防省のお前なら分かる筈だ」

「オリハルコン・・・」

「分かってるじゃねーか。オリハルコンはネルフのMAGIほどじゃないにしてもそこらの防諜なんざイチコロだろうがよ。まあ、ノコノコとお前さん達が通夜会場に現れたら拉致られて身包み剥がされて終わりだろうな」

「・・・」

「だから今日の通夜は代理を立ててお前は行くな。それから鬼怒川局長もな。みすみす捕まりに行くようなもんだぜ。同じ入省組で辛いだろうが仕方がねえ。それよりかは豊田がお前に託したものを守ることの方が先決だぜ」

「・・・分かりました。室長・・・」

「それから愛宕。もう一つ仕事してくれ」

「え?何ですか?」

「通夜をキャンセルすることを鬼怒川局長に連絡するときに大至急で官邸に来いと伝えろ」

「分かりました。用件はどうします?」

「川内さんと緊急会議だと言えばすっ飛んでくる」

「副長官とですか!」
 
愛宕は思わず正面に座っている三笠の顔を見た。
 


Ep#04_(4) 完 / つづく 

(改定履歴)
11th July, 2010 / 表現修正
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