新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第5部 Where there is a will, there is a way. 鋼鉄宰相
(あらすじ)
官邸に向かう車中で三笠が語る「日本政府とネルフ」「バレンタイン条約と戦略自衛隊」の話に愛宕は驚くほか無かった。ネルフ本部を巡る日本政府内の権謀が見え始めていた。「静かなる者」を主導した鋼鉄宰相、出雲重光が目指した世界とは何か?出雲の後継者である川内は果たしてネルフの味方か?あるいは敵なのか?国民党党首、生駒率いる嵐世会とは?そしてSeeleの手足となって動いている長門はこれらとどう関わってくるのか…
鋼鉄宰相 ← モデルは この人 だったりします…
静かなる者の政策 ← モデルは こちら になります。
戦略自衛隊を巡る設定 ← モデルになったのは こちら になります。
(本文)
三笠と愛宕は公用車で官邸に向かっていた。
内局の鬼怒川は最初渋っていたが川内との緊急会議があると言われると直ぐに行くと言って来た。
内局の鬼怒川は最初渋っていたが川内との緊急会議があると言われると直ぐに行くと言って来た。
「極限状態にしちゃあ、お前はよく考えたな。大したもんだがさっき議事堂で聞いた話にコメントさせてもらうとだな・・・」
三笠は車内で2本目のタバコを取り出して火をつけた。三笠はヘビースモーカーで有名だった。
「お前さんの怪しい奴リストからネルフは外せ」
「えっ!」
「ほぼ間違いない」
「ど、どうしてですか?自分は本命かと思ってました」
やれやれという顔を三笠がする。タバコの煙を外に向けてふうっと吹くと愛宕に向き直る。
「お前、日本がなぜアメリカに睨まれてまでもネルフ本部を第三東京市に置く事にしたのか、分かってるのか?」
「ネルフ本部の受け入れは外務省主導で進めたものですよね・・・バレンタイン条約の批准もして・・・」
世間の認識とさほど大差がないことを三笠に言った。愛宕の担当は日米安全協定に関する政策だったため、国連マターに近いネルフ関係は正直なところあまり詳しくなかった。
「そうだ。バレンタイン条約への参加とネルフ本部の受け入れは外務省としては安全保障理事国の常任国入りという悲願達成を担保するためだったんだ。これと似たような動きを当時したのがドイツってわけだ。まあ結局、バレンタイン体制反対の急先鋒だったアメリカが折れてからというものなし崩し的に批准の動きは世界で広がったんで結果的には意味があまりなかったがな」
三笠はタバコの灰をすかした車の窓からせわしく落とす。
「だがバレンタイン体制は日独米という3国中心に整備が進んでネルフは無事発足。日本、ドイツ、アメリカの3つに大規模な拠点を構えて今日に至るってわけよ。世界中にある小さい拠点を数えるとキリがねえけどな…とにかく、アメリカに2つ支部があるのはネルフとアメリカの間に特に何らかの密約が存在している為だといわれている。まあ、歴史的に見てネルフは日本政府としては子供にあたるってわけだ…もっともその子供ってのは鬼子だった訳だがな。ところがバカなことに外務省はドイツやアメリカとは異なってネルフの受け入れに対して殆ど何の野心も持ってなかったんだよ。笑っちまうけどよ。単に常任国になる、それしか外務省の連中は本当に考えてなかったんだ。ネルフにとっちゃさぞかし御しやすかったろうな・・・内閣官房はもっと別のことを考えていたんだが外務省があれじゃあなあ…」
三笠は自嘲気味な笑いを浮かべながらタバコを車に備え付けられている灰皿に荒々しく押し付けると愛宕の顔を見た。
「これでわかっただろ?ネルフが日本に手を出すわけがないってことが」
「はい・・・」
「俺たちはやつらの中では大バカ野郎ってことよ・・・」
三笠はまた懐中からタバコの箱を取り出す。
「お前、ネルフの司令長官が日本人なのは知ってるよな?」
「確か、碇ゲンドウ司令ですよね?」
「そうだよ。碇は昔の名前を六分儀というんだが彼の親父さんは国立新技術創造研究所でS2理論の研究をしていた学者だった。まあ爆発事故で亡くなったんだがな、この先生は。生きてればノーベル賞候補とも言われていたんだ。その手伝いをしていたのが葛城博士なんだよ。」
「葛城博士は有名ですよね。S2理論を完成したのはその方ですよね?確か・・・」
「そうだ。もっとも当時はキチガイ扱いされたがな。誰にも受け入れられなかったんだ。おまけに葛城博士はセカンドインパクトの発生後に行方不明よ・・・」
三笠は一瞬遠い目をした。
「それは兎も角としてよ。この研究所はバレンタイン条約の批准と同時に国連に接収されて人工進化研究所として箱根に新たに組織された。箱根はいわずもがな、今の第三東京市ってわけよ。偶然にしちゃあ上出来だろ?そこの技術を軸にして日独米中心にエヴァを開発して運用していくというのが条約批准後の体制が目指す基本骨子だ。つまりあの条約はネルフ発足の足がかりだったってことよ。ネルフが胴元かまでは知らねーぜ?」
愛宕は初めて聞くネルフの情報に聞き入っていた。
「ネルフがらみで日本の話をするとだな・・・逆説的によ、世界で一番エヴァ研究で先んじていた様に見えた日本がよ。何でわざわざ他の国に技術を公開してなおかつ不拡散の枠組みの中に自ら入るのかっていう話に繫がるわけだ。この論調の急先鋒が「守旧派」よ。実はこの部分は日本の政界がネルフに一番、影響を与えられた部分だ。バレンタイン体制に組み込まれるに当たっちゃそれは、当時は激しい与野党の攻防が繰り広げられた。第二の安保闘争さながらの勢いだった。審議中の乱闘騒ぎでよ、新議事堂になって初の議員の重傷者が出たんだぜ。びっくりしたよ、俺は・・・日本人もまだこんなに熱かったのか、てな・・・」
三笠は遠い目をしながらタバコの煙を外に吹く。
「その時にあわせて戦自基本法のいざこざもあったんですよね・・・」
「そうだ。同じ話をする心算は無いが今の陸奥総理から数えて3代前の出雲さんの時だ。出雲内閣の肝煎り政策がバレンタイン条約への参加と常任国入りだったってわけよ。ところがその時に「守旧派」と「国連派」で政界編成が巻き起こって生駒の野郎が派閥を率いて下野しやがった。長年の盟友だった出雲さんと袂を分けてまでな。超タカ派の生駒からしてみりゃバレンタイン条約批准後の世界秩序ってのは飼い殺しに見えたんだろうなあ。お陰で与野党の衆院での議席数は逆転しちまったんだ。共産党を含めてだがな」
「でも、結局は辛くもバレンタイン条約の批准は出来たわけですよね」
「実はそれにはからくりがあったんだよ。その時に出雲さんと生駒さん率いる野党「嵐世会」との間で密約が交わされた。それが戦略自衛隊の設立だったわけだ」
「ええ?戦略自衛隊は与党から出たものじゃなかったんですか?」
「元与党から出た話だよ。これには自由党の中でも同調者が多かったからな。世間では誤解する向きが多いが日米同盟を機軸とする生駒が終始陰で主導してたんだよ。結局、それがバーターになってバレンタイン条約は与党と嵐世会の賛成多数で批准、同時に戦略自衛隊基本法も怒号が飛び交う中でそのまま可決したんだ。出雲さんとしては実はあれは痛恨劇だったんだよ。何たって自分の代で長年の問題になっていた自衛隊問題にあと少しで終止符が打たれるところだったんだぜ?国連軍に再編されれば表向き上、日本は固有の戦力を持たない事になるだろ?そうすれば万事あれは国連ですでいい訳だ。それを生駒の野郎がややこしいものを残しやがった。勿論、その一年前の南沙諸島の有事が勃発していたという事情が当時はあったにせよな・・・」
「それが戦自だったってわけですか・・・」
「その審議後に出雲さんは急死しちまった。ありゃ憤死に近かったろうな・・・その時に出雲さんの側近として最後まで侍っていたのが当時、内務省から首相秘書官として出向していた川内さんだったんだ。いうなれば川内さんは出雲さんの遺志を受け継いだ後継者なんだよ。だから川内さんを単なる守旧派とみるのは間違いなんだ。あの人の根っこはどっちかっていうと「国連派」なんだ。その川内さんがなぜ守旧派と見られるかといえば「国連一辺倒」を強くけん制するからだ。あの人は良識ある国家として長いものに巻かれろじゃなくてよ、自分をしっかり持って他に依存しないバレンタイン体制の中で日本人が生きる事を望んでいるんだ」
「そ、そうだったんですか・・・自分はすっかり誤解していました・・・」
「まあお前さんが誤解するのは当然だ。川内さんは自分の腹を絶対に見せないからな。周りに思われるに任せてる。本物だよ、あの人は・・・でも人間の魂っていうか、多少でもそんな泥臭さをデジタルや理論を抜きにして分かってたらあの人の本質を見誤らないだろうけどな」
「じゃあ豊田は・・・」
「まあ故人を悪く言うつもりはねえが川内さんの方が一枚役者は上手だったってことだろうな。もっともそのデータの中身が何かにもよるがな・・・」
三笠は愛宕がひざの上に抱えているブリーフケースを顎でしゃくった。
「いつもこの話をすると俺自身がいまいち話が見えてこねえから腹が立つんだがよ。そもそもネルフって何なんだってことがぜんぜん分からなねえってことよ。それから国連という枠組みをどう捉えるかってことにもよるが、あいつら国連機関の割に国連そのものとの距離間隔がどうもしっくりこない。それから利害関係者が実はネルフを巡って多いんじゃないかってのが最大の懸念材料なんだ。その懸念が恐らくそのまま川内さんのネルフ観だろうな・・・」
「一ついいですか?室長・・・」
「何だよ・・・」
「どうして室長はそんなにネルフに拘っておられるんですか?」
「そりゃ・・・どうしてもネルフから足を洗わせてえヤツがいるからだよ・・・」
三笠は遠い目をしながら新霞ヶ関のビルを眺めていた。
官邸に戻ると三笠は川内に連絡を取るが出かける途中だと言う秘書官が一向に取り合おうとしない。荒々しく三笠はデスクの電話を投げつける様に置くとずかずかと部屋を出て行く。
「愛宕行くぞ!」
「えっ!副長官へのアポがあったんじゃないんですか?」
「ねえよ。これから直談判だ!」
「じょ、冗談ですよね?」
「早くしねえと鬼怒川さんが来ちまう!」
「ま、まさか・・・行き当たりばったりで僕に局長を呼び出させたんですか?!冗談キツイっすよ!室長!」
三笠は官邸の廊下を肩を怒らせながら歩いていく。
「もう滅茶苦茶だ・・・」
その後を愛宕が着いていく。
副長官室の前に着くと多くの秘書官に付き添われながら部屋から川内が出てくるところだった。
「副長官!」
川内は官邸に安保室の三笠が来ていることに驚いた顔をしていた。
「三笠君、どうしたんだ。君、いつ官邸に来たのかね?」
「緊急の事案があります。お時間を願えませんか?」
秘書官が仰天して三笠を慌てて制止しようとする。三笠は秘書官と揉み合いながら尚も川内に近づいていく。まるでラグビーの様に三笠は秘書官たちに取り囲まれていく。
「愛宕!」
「は、はい!」
「かまやしねえ!こいつらを投げ飛ばせ!」
「は、はい!」
体格のいい愛宕は小柄な三笠を羽交い絞めしようとしていた秘書官の一人を逆に羽交い絞めにする。
「副長官!お願いです!何卒お時間を!」
「三笠君、いい加減にしたまえ!君ともあろう者が!今日から国会が始まってるのは知っておるだろ!何だね!この狼藉騒ぎは!」
騒ぎを聞きつけた複数の警備官が現れて忽ち三笠と愛宕は揉みくちゃにされながら取り押えられる。しかし、尚も三笠は抵抗しながら川内に近づこうとする。
「副長官!お願いです!10分、いや5分だけでも!出雲閣下に関わるお話です!どうか!」
川内の顔が思わず引きつった。
「出雲先生の・・・だと・・・?」
その場に居合わせた全員が三笠の言葉に凍りつく。PSI時代を迎えた混迷の世界の中で日本の進むべき方向性を指導した「鋼鉄宰相」と言われた出雲とその非業の最期をこの官邸で知らないものは居なかった。
そしてここに居る川内がその薫風を受けてここに至っている事も。
「三笠!おのれ貴様!狼藉の上に苦し紛れに適当な事をいうと容赦せんぞ!」
川内が激昂する。その剣幕に近くにいた女性職員が思わず持っていた書類を床に落して座り込んだ。しかし、怯むことなく三笠は平然と川内を見上げる。
「適当でどうしてこんな事が言えますか!バレンタイン国会の無念をお忘れですか!」
川内は取り押さえられて官邸の大理石の床に押し付けられている三笠を睨み付けていたがやがてため息を一つ付いた。
「分かった・・・部屋に来給え・・・」
「ありがとうございます!」
川内の言葉で三笠と愛宕はようやく警備官から解放される。川内の近くに居た秘書官が溜まらず川内に取りすがる。
「ふ、副長官!お待ち下さい!こ、これから総理と会談が・・・」
「だまらっしゃい!」
「ひっ!」
秘書官は川内の一喝を受けて腰を抜かさんばかりに驚いてしゃがみこんだ。川内はようやく立ち上がった三笠に向き直ると眼光鋭く睨む。愛宕は心臓が今にも破裂しそうだった。
「三笠!貴様には10分…いや15分くれてやる。手短に用件を言え!」
「分かりました!ありがとうございます!」
ちょうどその時、官邸の入口から鬼怒川が入ってきたところだった。
「室長はずぼらなのか凄いのか・・・全然分からない・・・」
愛宕は呆然と呟いていた。
Ep#04_(5) 完 / つづく
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