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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第5部 Warning Shots 警告


(あらすじ)

フランクフルター・ツァイツンク…
それはかつて世界を震撼させたスパイ「ゾルゲ」が隠れ蓑に使っていたドイツの新聞社の名前だった。加持はリツコからこれ以上、ゲンドウの周りを嗅ぎ回るなという警告と理解していた。
一方、国防省の豊田は統合幕僚メンバーの長門の突然の来訪を受けていた。

静かなる者が動けば不幸になる、とは如何なる意味か…


(本文)




加持はホテルのベッドでタバコを咥えていた。隣ではミサトがいびきをかいて眠っている。

相変わらずこのいびきは健在だな・・・

加持は苦笑いを浮かべる。

ラウンジではすっかり興が冷めてしまったがミサトには雰囲気というものは関係ない様だった。

「あんたのことだから部屋くらい用意してあるんでしょ?」

加持がラウンジでクレジットカードを財布から取り出している時にミサトから切り出してきた。加持はそれには答えずポケットからホテルの部屋のキーを取り出すとミサトに渡した。

「用意周到ね」

そういうとミサトは加持の腕を取ってきた。

昔からあまり細かいところに拘らない性格だったが・・・

さすがに加持の方が鼻白んでいた。加持はベッドのサイドテーブルに置いてある灰皿に灰を落す。そしてゆっくりとタバコの煙を吐きながらリツコの伝言の意味をかみ締めていた。

フランクフルター・ツァイトゥンクか…
りっちゃんもなかなか上手いことを言うな…





第二次世界大戦中、世界を震撼させるスパイ事件が日本で発生した。世に言う「ゾルゲ事件」である。

フランクフルター・ツァイトゥンクはこのゾルゲが隠れ蓑に使っていた新聞社が発刊していた新聞の名前だった。

リチャード・ゾルゲ。

ドイツ人の父とロシア人の母の間でカスピ海の西岸にあるバクーに生まれた。

幼少期をベルリンで過ごし、第一次世界大戦で軍隊に志願、1920年にドイツ共産党に入党、1929年にソ連赤軍の諜報員となって翌年中国の上海に入った。そしてそこで朝日新聞の特派員である尾崎秀実と知り合い、32年まで活動してドイツに帰国。

翌年に件の「フランクフルター・ツァイトゥンク」紙の特派員として来日し、駐日ドイツ大使の私設情報官としてドイツ大使館に出入りする様になった。

そして1941年にスパイ活動が露見して検挙され、巣鴨拘置所で尾崎と共に処刑されたのである。

ゾルゲの特徴は二重スパイというところにある。第二次世界大戦というきな臭い時代にあちらこちらに出没して諜報活動を行ってきた。

ゾルゲのお陰で日本とドイツは完全に対ソ戦で翻弄されたと言ってもいい。結局、ドイツ軍はソ連侵攻の失敗が響いて欧州戦線で敗走を続ける羽目に陥り、極東戦線では敗色濃厚な日本に対してソ連軍が突如として攻勢を仕掛けてきたためあえなく満州に駐留していた関東軍は壊滅した。全ては情報戦の成果だった。

しかし・・・最後にゾルゲは日本で検挙されて処刑・・・か・・・

つまり、リツコの伝えんとするところは・・・碇ゲンドウは加持がスパイであることに気が付いており、それが分かった上で泳がせていること、そしていずれは始末する心算だということだった。これ以上関わるなと警告を発して来ていると考えてほぼ間違いなかった。

それにしても、ゾルゲに模されるとはな。
こりゃ光栄の至り・・・とでもいうべきかな・・・

加持はミサトに毛布をかけ直すとタバコの火をもみ消した。加持はミサトの肩越しに第二東京市の夜景を見ていた。その視線の先には新市ヶ谷の国防省ビルを捉えていた。
 



ゾルゲに模された加持がホテルの部屋から国防省を傍観しているのと同時刻。

豊田は自分の執務室にいた。

「そうか、間違いないな」

豊田は情報作戦局第3部の部員から夜半に電話を受けていた。時計の針は既に午前1時を回っていた。

「はい。ファラオがゴーストとコンタクトしたことを視認。画像も押さえました」

「そうか、よくやった!すぐに俺のところにVTAC(国防省最高機密情報通信の暗号コード)で送れ」

「了解」

豊田はいつになく高揚している自分を感じていた。

俺はついにピラミッドとゴーストの関係を暴いた・・・これで俺も次期統合幕僚ポスト間違いなしだ・・・

後はこれを日本の官僚機構の帝王である川内に手渡せばいい。豊田のデスクの上にあるラップトップがVTAC通信を受信していることを告げる音が鳴る。

まてよ、念には念を入れよ、だな・・・

豊田が画面を操作する。操作しながら豊田は回想する。

セカンドインパクトの発生により世界の勢力図が大きく塗り換わった時、誰もがこの時代に生まれ当たったことを嘆いていた。地獄の様な時代・・・それが流行語になっていた。

しかし、自分は違った。チャンスだと思った。日本が世界の舞台に踊り出るまたと無い機会だと思った。豊田はあえて防衛省(当時)を選んだ。同窓生の多くが国連主義時代の到来を睨み、外務省や国連機関を目指す中、自分は静かに燃える愛国心を胸に日本の復権を目指したのだ。

国威の高揚には力を持つ必要がある。その力とは軍隊に他ならない。戦争論を著したクラウゼウィッツは戦争とは最終的な政治的手段の最たるものであると説いた。現代におけるCivilian Controlはこのクラウゼウィッツの思想を脈々と受け継いでいる。

豊田は川内との繋がりを軸に更なるステップに思いをめぐらせていた。ナポレオン・ボナパルトに戦術で敗れ続けたクラウゼウィッツだが軍政家として不朽の名著をこの地上に残していた。学生時代にクラウゼウィッツに陶酔する豊田はわざわざドイツにまでその足跡を求める旅にまで出ていた。

俺がこの日本を守る。その為には何が何でも力が必要だ。ありとあらゆる力が・・・

統合幕僚ポストはあくまでその通過点に過ぎない。史上最年少記録の部長就任で甘んじているわけには行かなかった。更に上があるならそれを目指すだけだった。

そしてSeeleとネルフが相互に仕掛ける下らない戦いに終止符を打ってネルフをも押さえ込む。得体の知れないSeeleが暗躍する国際社会をもあるべき方向に正すためやがて政界への道を模索することになるだろう。

コンコン

豊田の執務室をノックする音が聞こえてきた。豊田はふと自身に帰る。

誰だ、今頃・・・

豊田が画面に目を走らせる。VTACの受信完了、すなわち勝利の瞬間まであと少しだった。緊張が走る。豊田はデスクの中にあるピストルの安全装置を外す。

「豊田君。僕だ。長門だ」

何だ、長門さんか・・・

豊田はピストルをデスクの中に仕舞う。長門がドアを開けて入ってくる。

「長門さん。こんな夜遅くまで。一体どうしたんですか?」

「いや、このところ内務省の連中がうるさくてね。夜中まで続く会議につき合わされるのは堪らんよ」

自嘲気味に長門は肩を竦める。豊田は長門に席を勧めつつ、デスクの上にあるラップトップの画面が長門から見えない様に微妙にずらした。

「長門さんも大変ですね。で?こんな時間にどうされたんです?」

「単刀直入に用件を言おう。君が今、受信しているVTACのデータを貰い受けに来たんだ」

「な・・・」

豊田は絶句した。

なぜ長門さんがそのことを知っているんだ・・・

しかし、豊田は驚きをおくびにも出さずに長門に明るく声をかける。

「何のことをおっしゃっておられるのか分かりませんね。勘違いをされているんじゃないですか?」

長門は笑顔を崩さない。

「いや、君がファラオとゴーストのコンタクトを押さえたというデータだよ」

豊田は顔面蒼白になる。

「ば、ばかな・・・」

「豊田君。実に残念だよ・・・僕は君の才覚を高く評価していたんだがね。君なら帝王に手を回さなくてもそのうち統合本部のメンバーにもなれただろう。いや本部長にだってね」

長門は消音装置を取り付けたピストルの銃口を豊田に向けた。

「ど、どうして・・・」

「豊田君。PSI時代における日本の台頭を願っているのは何も君だけじゃない。僕もその中の一人なんだよ。しかしね。その新世界の枠組みの軸を何にするかは少々意見が分かれるところではあるがね。それに・・・」

豊田がデスクの中にあるピストルを取り出そうとした瞬間、長門の銃が先に火を噴いた。

「ぐ・・・」

豊田がそのままデスクの後に仰向けに倒れた。長門はすっと立ち上がると豊田のデスクに近づいていく。豊田は全身がしびれて動きが取れなくなっていた。叫ぼうとしても声も出なかった。

その時だった。

ピー

VTAC通信が完了したことを伝える音がパソコンから聞こえてきた。

「それにね。君と川内さんはTIPの発生を未然に防ぐことを第一義としている様だが私の考えはそれとも少し違っていてね・・・」

長門は豊田の方を見ることなく受信したばかりのVTACのデータをメモリスティックにダウンロードし始める。操作が終わると豊田の椅子に腰を下ろして倒れて動きが取れない豊田を見下ろした。

「僕はTIPを起こした上で新世界をこの地上に作ることを目指しているんだ。ゴーストと共にね。それから冥土の土産といっては何だがいいことを教えてあげよう。君の洞察力には本当に感服するが訂正すべき部分がいくつかある。まず、戦自の行け行け組を扇動しているのは内務省ではない。この僕なんだ。それに使徒とEvaで対立の構図と考えるのもなかなか興味深いが少なくとも使徒とゴーストは無関係だ。君が考えるより非常に奥が深いんだよ。人類と使徒の戦いはね…」

「!!」

豊田は涙を流していた。必死に抵抗するが他人の体のように言うことを聞かない。

「それからもう一つ。君たちはTIPの本質がまるで分かっていない。ただの大爆発だと思っているだろう?それじゃ核兵器と何らも替わるところが無いじゃないか。N2が主流の世の中なのに。TIPで人類は相互に補完されるんだよ。それも完璧にね。文字通りそこから楽園が出来上がるんだ。かつてアダムとイブが犯した原罪で楽園を負われた人類が再び楽園に還る時が来るんだ」

豊田は長門のTIPの話がまるで理解できなかった。しかし長門はそれを全く気にすることなく話を続ける。

「それから最後にピラミッドの掃除を君と川内さんは深く憂慮している様だがそんなことは一切関係ないんだよ。全てがリセットされるんだからね。TIPでね。日本だ、アメリカだ、国連だ、と言ったところでそれはナンセンスというものだよ、君。もっとも僕は戦自の出る幕が無いことを願っているがね。ファラオが愚かな暴走をしない限りはね」

豊田は悟った。自分の考えに固執しすぎて全体を見誤っていたことを。本当の敵は外にあるのではなかった。自分の足元にあったのだ。

「怖いのかい?君、体が小刻みに震えているよ。ははは。安心し給え。僕は人を殺めたりはしない。まして僕の可愛い部下だからね、君は。これは強力な麻酔銃だよ。ドイツ特性のね。今は死にはしない」

長門はUSBのメモリスティックを豊田のパソコンから引き抜くと椅子からすっと立ち上がる。そして凍りつきそうな冷たく鋭い視線を豊田に送ってきた。

「しかし、残念だが君には自殺してもらわないといけない。その工作が得意なゲストに今日は来てもらっている」

長門が指を鳴らすと3人の長身の外国人の男たちが入ってきた。青い瞳に金髪。典型的なゲルマン人だった。

「希望があれば聞いて置くが・・・」

豊田は必死で体を動かそうとするが完全に自由が利かない。まるで芋虫の様にその場で小刻みに体を揺するしかなかった。

「そうか・・・リクエストは出来なかったね。ははは。じゃあ彼らのリコメンドでお願いしよう。これはあり難く頂くよ。残念だが川内さんの目には入らないがね。それじゃあ豊田君。Tschüss!」

長門が部屋から去っていくと3人の男たちが豊田を抱える。そして何事かを会話し始める。

ドイツ語だ・・・

学生時代にドイツ語を勉強していた豊田は薄れゆく意識の中で彼らの言葉を夢うつつで聞いていた。

「東洋人は久しぶりだな」

「いつ以来だったかな?」

「ツェッペリンじゃないか?」
 
 



シンクロ試験の翌日。

葛城家で一番の早起きはアスカだ。

アスカはミサトとシンジを起こすとそのまま玄関に向かって行った。新聞受けに届く新東京日日新聞の朝刊を引き抜くとそのままキッチンのテーブルの上に放り投げた。

日本語がほとんど読めないアスカがこの新聞を読むことは滅多にないが同居人の為に取りに行くのが日課の一つになっていた。放り投げられた新聞は無造作にテーブルの上で二つ折りの状態になる。新聞の一面に小さい見出しが載っていた。

「国防省職員首吊り。領海侵犯問題追及を苦に自殺か!?」




Ep#02_(5) 完 / 静かなる者たち おわり




(次回の予告)

Episode#03 イラスト男



(改定履歴)
23rd April, 2009 / 表現修正 
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