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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第1部 Looking for my blue bird... 幸せになりたい


(あらすじ)

アスカとヒカリが学校の昼休憩に廊下を歩いていると一冊のスケッチブックが落ちていた。そのスケッチブックにはアスカをモデルにした見事なイラストが描かれていた。
「すてき・・・これが・・・アタシ・・・」
すると如何にも内気そうなアスカよりも背が低い太った少年がアスカの目の前に立っていた。
「このスケッチブック、アンタの?」
「はい…」
少年をじっと見るアスカ。アスカの取った意外な行動とは?

オリキャラ阿武隈が登場。 


 この歌 知ってる人は一体どれだけいるだろう・・・

(本文)


4時限目の授業の終わりを告げるチャイムの音でアスカは目を覚ました。

長いと思っていた夏休みもあっという間に終わり、再び学校が始まっている。

一年中が夏の日本では既に夏休みという言葉は死語と化しつつあり専ら第一休暇(夏休み)、第二休暇(冬休み)、第三休暇(春休み)という方が若い世代の間ではむしろ通りがよかった。

「んー、やっと午前中の授業が終わったわ・・・」

アスカは両手を高々と上げて大きく伸びをした。涙交じりに目を開けるとすぐ目の前に男子生徒の制服があるのに気が付いた。シンジが両手に赤い巾着袋に入った弁当箱を持って立っていた。

「はい、お弁当・・・」

アスカは暫くシンジをじっと見ていたがひったくる様に受け取った。

「ふん!」

そしてそのまま立ち上がるとヒカリに声をかけた。いつも校庭に出て昼食を取っている二人は教室の出入り口に向かう。

シンジはアスカの席の前で心なしか肩を怒らせている様に見えるアスカの後姿を見送る。アスカは教室の扉をくぐると不意に振り向いた。

シンジと視線がぶつかる。

アスカはいきなりベーッと赤い舌を出してそのまま廊下に出ていってしまった。

シンジは小さくため息を付く。

「まだ今朝の事、怒ってるのかな・・・」

そのしょぼくれた背中を見かねたのか、トウジがシンジの肩に手を置いた。

「気にしなや・・・センセ。惣流の不機嫌はいつものことやで」

「・・・まあ、そうなんだけど・・・」

「そんなことより!飯や飯!」

シンジはトウジに促されてケンスケのいる席に向かっていく。

今日のアスカは特に機嫌が悪かった。
 



 
アスカとヒカリが廊下を通って階段をまさに降りようとした瞬間だった。

バサ!

上から一冊のA3サイズのスケッチブックがヒカリの目の前に落ちてきた。

アスカは上を見上げる。

「危ないわね!頭にでも当たったらどうする心算かしら!ったく、3年生にもなって落ち着き無いんだから!」

上の階は3年生の教室になっている。階段の上の方で男子生徒たちのふざけ合っている声が複数聞こえる。

「スケッチブックだわ」

ヒカリがしゃがみこんで拾い上げた。アスカはスケッチブックを無視して降りようとしていたがヒカリが拾い上げるのを見て足を止めた。

「あら?これって・・・」

ヒカリがスケッチブックを開いて見ていた。ヒカリの方をアスカは見る。

「どうかしたの?」

ヒカリはにっこり笑ってアスカにスケッチブックを見せる。

「これってモデルはアスカよね?」

「えっ?アタシ?」

アスカは開かれたページを見る。そこには若干アニメ風にデフォルメされていたが一目でアスカと分かる人物画が描かれていた。

「すごく上手ね!あらこれなんてすっごくかわいいじゃない」

ヒカリはぱらぱらとページを捲る。アスカも思わず覗き込む。するとヒカリとアスカを取り囲むようにしてクラスの女子生徒たちが集まってきた。

「ほんと!すごーい」

「きれい。これって全部惣流さんよね!」

少女たちは口々に絵を絶賛する。

「ほんと、素敵・・・これがアタシ・・・」

アスカもその完成度の高さにびっくりしていた。

「これって誰が書いたのかしら?」

ヒカリがスケッチブックの表紙を調べる。

「名前がかいてあるの?」

アスカが覗き込む。マジックでかなりへたくそな字が書いてある。アスカは眉間に皺を寄せる。

「・・・読めないわ。3年A組は分かるけど・・・」

「阿武隈卓郎って書いてあるわ」

「ヒカリ、知ってるの?」

「ううん、聞いたこと無いわ」

女子生徒も一様に頷く。

すると3年生らしき男子生徒4人が勢いよく階段を駆け下りてきた。アスカたちはスケッチブックを持ったままぎょっとしてその方向を見る。

「あっやべ」
「あちゃー」

3人の男子生徒は口々に言う。アスカの存在を確認するとバツが悪そうにまた駆け上がって行った。

「何かしら?あの連中・・・」

アスカが3人の男子生徒の背中を見送る。

そして正面に視線を戻すとアスカより背が低くてよく太った男子生徒が埃だらけになってアスカたちの目の前に立ち尽くしているのが見えた。大人しそうな雰囲気だ。

アスカはスケッチブックの名前(アスカは漢字を図形的に認識する)と目の前の少年の名札の名前が同じであることに気が付く。

この子がアタシのことを・・・

「ヒカリ、そのスケッチブックかして」

「えっ?ええ・・・」

アスカはヒカリからスケッチブックを受け取ると小脇に抱えて目の前の少年に近づいていく。階段の踊り場や階段には3年生の男子の多くがこの様子を興味津々で見物していた。

アスカはこれまで校内に出回る自分の写真や創作物に対して頑なに拒否の姿勢を貫いてきた。特に版権無視が著しいケンスケに対して実力の制裁を加えているのは公の秘密だった。

ほぼそこに居合わせた全員がアスカの抗議を少年が受けるものと想像しているようだった。特に3年生の男子生徒たちはスケッチブックで頭の一つでも殴られることを期待している雰囲気がある。

アスカも階段で見ているギャラリーたちの面々をチラッと見たがすぐに少年に視線を戻す。制服はその辺を引きずり回されたのか掃除のモップのように塵に塗れて汚れている。絵の主が苛められていることは一目瞭然だった。

アスカは少年と向かい合わせに立つ。

「これアンタの?」

少年はアスカに声をかけられてビクッとしたが小さく答えた。

「ひゃいっ」

裏返った声が返ってきた。クスクスとギャラリーから笑い声が漏れる。

アスカはじっと少年を見ていたがスケッチブックを渡す。

「アンタ、絵が上手なのね。これは返すわ」

少年はアスカの顔とスケッチブックを交互に見た。アスカはにっこり微笑むと少年の名札に白い手を伸ばした。

「アンタ名前は?アタシは漢字が読めないのよ。」

「あっ阿武隈卓郎です・・・」

「そんなに緊張しないでよ。別に殴ったりしないわよ」

「・・・」

「お願いがあるんだけど?阿武隈」

アスカは真剣な表情で少年の目を見る。

「ひゃい!」

また声が裏返る。

「アタシに一枚書いてくれない?」

「えっ!」

この言葉にその場にいた全員が驚愕した。

阿武隈はアスカから受け取ったスケッチブックを両腕抱きしめていたがそのうち意を決した様に言った。

「わっ分かりました!」

「ホント?ありがとう。出来たら教えて。取りに行くわ。3年A組でしょ?」

「ひゃいっ」

アスカは小さく阿武隈に手を振るとヒカリの方に歩いて行った。阿武隈はスケッチブックを両手に持ったまま直立不動で階段を下りていくアスカを見送っていた。

アスカが残した仄かなフローラルのコロンの香りがした。




 
アスカとヒカリはテニスコート近くにあるポプラ並木の下に設置されているベンチに腰掛けていた。

「でも一寸びっくりしたわ」

ヒカリがアスカに話しかける。

「何が?」

アスカはシンジが作った弁当のおにぎりに箸を突き刺しているところだった。

「だってアスカが阿武隈先輩だっけ?絵を描いて欲しいって頼むなんて。どうしちゃったのかなって・・・」

アスカはヒカリに話しかけられるまで弁当をつつきながらシンジのことを考えてムカムカしていたところだった。

今朝、アスカはミサトのマンションを出るときにシンジに言われた一言がきっかけで玄関先でケンカをしたのだ。

アスカの弁当箱はシンジがいつも自分の弁当と一緒に学校に持って行っていき、昼休憩になるとそれをアスカの席まで届けてくれるというのがユニゾン特訓以来続いている共同生活のリズムになっていた。また一方で密かにアスカはそれを言葉が分からなくて授業などつまらないことが多い学校での楽しみの一つにしていたのだ。

ところが今朝、シンジから「アスカ、自分のお弁当くらい自分でもって行ってよ・・・」と言われて頭に血が上ったと言うのがケンカの経緯である。

しかし、それ以上にアスカはショックを受けていた。

アタシのお弁当を持っていくのを面倒くさいってずっと思いながら運んでいたんだわ。
それをアタシったら!一人で嬉しがっていたんだ!
これじゃアタシがまるでバカみたいじゃないの!!

正直なところアスカの心とプライドは傷ついていた。

そんな時に阿武隈の絵を見て少し心が和んだ。とてもきれいに描かれていて素直に感動したのだ。

「アタシ、あの絵を見てちょっと嬉しかったの・・・だって勿論かわいいってのもあったけどあそこに描かれているアタシはとっても幸せそうだったから・・・ああなりたいなって思ったの」

「アスカ・・・」

ヒカリの心配そうな視線にアスカは気が付いて焦る。

「あっゴメンゴメン、ヒカリ。何か雰囲気が暗くなっちゃったかしら」

アスカはわざと明るい声を出した。今日は風が強く吹いていた。教室よりも外の方が涼しく感じられる。そんな昼下がりだった。





ヒカリとの昼食を終えて教室に帰ってきたアスカは弁当箱を自分のカバンの中に荒々しく放り込んだ。

するとシンジが自分の席からゆっくりとアスカの席の横にやってきた。

「あの、アスカ・・・」

「なによ」

ジロッとアスカは横目使いでシンジの顔を見る。

アスカの視線にシンジは怯む。

「あの、お弁当箱・・・」

ダンっ!

アスカが両手で机の上を叩いて勢いよく立ち上がっていた。シンジはビクッとして一歩後退する。突然の大きな音にクラスメートも一斉にアスカとシンジに視線を向ける。

アスカはキッとシンジの顔を見る。

「結構よ!アンタに言われた通りこれからは自分で持っていくし、持っても帰ります!どう?これで満足?」

予鈴は既に鳴っていたがアスカは再び教室の外に飛び出して行った。

シンジはその場に立ち尽くすしかなかった。

レイはちらっと二人のやり取りに視線を送っていたが、すぐにまた読書を再開した。





それ以来、アスカはシンジがマンションでお弁当を作り終わるや否や赤い巾着袋の中にそれを放り込むとカバンの中に入れてどかどか足音をならして玄関を出て行くようになった。

シンジは二人分の弁当箱を運んでいた時は確かに面倒くさく感じていたのだが、運ばなくなればなったでアスカに教室で話しかける口実がなくなり少し寂しくもあった。

シンジはエプロンを脱ぐと小さいため息を付いて自分の弁当箱を学校のカバンの中に入れた。
 
 
 


Ep#03_(1) 完 / つづく
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