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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第6部 Game is over... 儚い夢


(あらすじ)

阿武隈のオタクデートは大成功を収める。アスカは阿武隈の身上話を聞いている時に不意に頭痛に襲われる。アスカは母親の死と幼少期の記憶を奪われていた。
「昔のことを考えると決まってこの頭痛がする…」
それはアスカが過去を捨てEvaに拘り続けなければならない理由の一つだった。
そんな折、第三東京市に帰って来た二人に3人の不良高校生が絡んでくる。


折角ですからちょっと ゲーム しませんか?
 

(本文)

二人はGAMEDOMを後にして再び歩行者天国に出た。

「楽しかったわ。正直、アタシあんまり今日のこと期待してなかったのよね。でも、アンタなかなかいいアレンジメントするわね」

「ほ、ホントですか!?」

「うん。面白くなかったら午前中で帰ろうと思ってたから合格ね」

自分でお礼をしたいといっておきながらかなり勝手な事を言うアスカに対して阿武隈は低姿勢だった。初めての女の子とのデートを無事にクリアしなければならないという緊張の方が強いためだろう。

しかし、新アキバという自分のホームグラウンドということとアスカに合格と言われたことでその緊張も和らいできていた。阿武隈はデートということは勿論あったが基本的に自分も新アキバに来たかったため「自分の興味を最優先するマイペース」ぶりを発揮しつつあった。

「それでは・・・一寸早いですが・・・お食事タイムということで・・・」

「いいわね!ランチタイムで混み始めると面倒くさいしさ。丁度いいかもね。で、何食べるの?」

アスカが心配そうに阿武隈を見る。食事の場所をコーディネート役がなかなか決められないで彷徨い続ける扱いしか受けたことのないアスカはまるで保護者の様に不安そうなまなざしを阿武隈に送っていた。

しかし、予想に反して阿武隈は即答する。

「ズバリ、あれです!」

「あれ?」

阿武隈が自信満々でアスカの後ろを指差す。アスカが振り返るとそこには「牛丼の吉田」があった。

「ま、まさか、牛丼屋・・・」

第三東京市にももちろん店舗がある大型チェーン店だ。アスカは実際に今までに入ったことがなかったが牛丼屋に対してあまりいいイメージを持っていなかった。



それは夏祭りよりも前に遡る。

水着を買いに行こうと思い立ったアスカがシンジを無理やりショッピングモールの買い物に付き合わせた事があった。アスカはシンジを誘うよりも先に加持の携帯を鳴らしたが一向に連絡が付かなかったからだ。

仕方ない…シンジを誘うか…荷物もちくらいには使えるし・・・

赤と白のストライプのビキニを買い終わってもアスカは次々にお気に入りのブランドショップに入っていく。その度ごとにシンジに選ばせていたが、狙った様にシンジはアスカのチョイスの逆ばかりを選ぶ。アスカのイライラは時間と共に増大していた。

「ねえ…こっちのワンピとこっち…どっちがいいと思う?」

アスカはかなり短い丈のものとごく普通の面白みのないものを選んでいた。露骨に当て馬を持っていた。しかし、シンジは眉間に皺を寄せてうなり始める。アスカの表情が引きつる。

「う~ん…こっちかな…」

アスカはシンジが指差した瞬間、二つとも荒々しく近くにいた店員に渡すと無言のまま店を出て行く。

「あれ?アスカ買わないの?」

「・・・気が変わったのよ…それよりアンタお腹空かない?」

「うん。そうだね。そろそろお昼だね。アスカは何が食べたい?」

「アタシは何でもいいわよ。Ladyをエスコートするのは男の役目でしょ?アンタが選んで!」

「えっ?ぼ、僕が?そんな…急に言われても思いつかないしさ…」

「じゃあ…フードコートの案内のところまで行けばいいでしょ!」

「そうだね!いいアイデアだね!それ」

シンジはフードコートの案内板のところで再び長考に入る。

「決まった?」

「う、う~ん…や、やっぱりお店の名前だけみても分かりにくいよね・・・」

「じゃあ、お店をぐるっと回ってみて雰囲気とかメニューとか見て決めればいいじゃないのよ!」

「あ、そうだね。それいいね!」

更にシンジはそこからあちこちアスカをつれ回すが一向に入る気配を見せない。既に二人の周回は4ラップ目に入っていた。アスカのこめかみには青筋が出来ていた。

駄目…もう駄目…アタシ・・・これ以上ムリだ…

我慢に我慢を重ねていたアスカがシンジの背中に向かっていきなり怒鳴りつける。

「ちょっと!アンタいい加減にどこにするのかさっさと決めなさいよ!何これ?F1?バカじゃないの?アンタ!」

シンジはビックリして思わず振り向く。

「じゃ、じゃあ…こ、ここにしようか・・・」

アスカが怒鳴った途端にシンジがアスカに提案した場所は「牛丼の吉田」だった。それも二人がたまたま店の前にいた時だった。
 
アスカがふとシンジの肩越しに店内をのぞくと飾り気のないカウンターにサラリーマンやアルバイト風の男性、土木作業員など10名ほどの男性が威嚇し合いながら座っていて殺伐とした雰囲気を漂わせているのが見えた。

とても男女のカップルが入って行って和気藹々と談笑しながら食事をするような場所ではない。

アスカの怒りは頂点に達する。

「アンタばかぁ?Ladyを食事に誘うのに散々迷った挙句にここ?ふざけないでよ!もういいわ!アンタなんか!」

明らかにその場凌ぎで片付けようというシンジの態度に傷ついたアスカはシンジをその場に残して一人でハンバーガーのファーストフード店「ザクザクバーガー」に入った。

その時、アスカは共同生活の解消を決意していた。

が、奇しくもその一週間後に第8使徒戦が浅間山で勃発。再び考え直した・・・という経緯があった。




ちっ!また嫌なこと思い出してしまった…

アスカがふと我に返ると阿武隈がそんなアスカに構うことなくずんずんと店に向かっていくのが目に飛び込んできた。

「マジ…?ちょ、ちょっと!阿武隈!待ってよ!」

阿武隈は意外とマイペースだった。

アスカが慌てて阿武隈の後に付いていくと阿武隈はいきなりアスカの方を振りかえる。

「アスカたん。やっぱり牛丼は外せません。牛丼ならやはり味的に吉田じゃないと駄目ですね。吉田以外の牛丼は食べないことにしてまして。アスカたんへのお勧めは並盛つゆだくですね。ごぼうサラダもなかなか乙です」

「ゴ、ゴボー?!」

ゴボーって…確か…あの木の根っこみたいなやつか…

アスカは戸惑いながら阿武隈の顔を見る。その顔は自信に満ちていた。

言っていることはよく分かんなかったけど…とにかく凄い自信だわ…アンタって・・・牛丼が本当に好きで適当じゃなくてちゃんと考えてるのね・・・

「OK、じゃあアンタのリコメンドを頂くわ。早く行きましょ!」

アスカは阿武隈と並んで既に戦場と化しつつある牛丼屋に入っていった。

牛丼ってアタシ初めてだけど…まあ何でも挑戦ね!アスカ、行くわよ!




 
牛丼屋を後にした二人はフィギュアの専門店に入り、アニメ同人誌専門店、声優専門のCDショップ、漫画専門店を立て続けに巡った。アスカはようやく阿武隈がナップサックを背負ってきた理由を理解した。

「アンタがバックパックを持って来ていたのはそういうことだったのね・・・」

「はい・・・手提げだと大変ですから・・・」

阿武隈のナップサックは既にパンパンになっていた。

二人は「ザクザクバーガー」で向かい合わせに座ってドリンクを飲んでいた。阿武隈はじっとバニラシェイクを飲みながらアスカの横顔を見つめていた。アスカは片手で頬杖をついて窓の外を見ていた。アスカの耳には小さい銀のイヤリングが光っている。

阿武隈は今、学校のアイドルであるアスカと自分が一緒にいることが未だに信じられなかった。アスカの人気ぶりは阿武隈もよく知っている。

転校当初は毎日溢れるほどラブレターが下足箱の中に入っていた。最近はこなれてきたようだがそれでも週に平均して5通は届く。アスカは全てそのまま封も切らずに焼却炉の中に入れて処分することでも有名だったがそれでもラブレターが途絶えることは無い。

これまでにアスカと首尾よくデートに漕ぎ着けたのは2人でその全てが縁故を頼ったものでしかない。何の伝もなくデートまでしたのは偶然とはいえ阿武隈が初めてだった。

いつも苛められ続けていた自分にそっと手を差し伸べる女神・・・

「あ、あのう・・・アスカたん・・・」

「ん?なあに?」

2階の窓から歩行者天国の行きかう人の流れを見ていたアスカは阿武隈の方を向いた。

「き、今日は楽しんで頂けましたか・・・」

阿武隈は少しうつむき加減でアスカに話しかけてきた。アスカは両肘をテーブルについて阿武隈に少し顔を近づけた。そしてにっこりと微笑んだ。

「今までで一番楽しいデートだったわ。ありがと。阿武隈」

「ほ、本当ですか?」

「ええ、すっごく楽しかったわ。最近、浮かない事が多かったから特にね」

阿武隈は顔を真っ赤にしていた。

アスカたん・・・

「ねえ、阿武隈・・・」

「は、はうあ!」

不意にアスカに呼ばれた阿武隈は変な返事をした。

「気を悪くしないで欲しいんだけど・・・質問してもいい?」

「な、何でしょうか・・・」

「アンタ、ゲーセンでぶっ倒れた時に"天国のお母さんが見えた"って言ってたけど・・・」

阿武隈はうつむいてシェイクを飲んでいたが、意を決したようにアスカの顔を見た。

「僕の母親は・・・セカンドインパクトの時に・・・僕を助けて・・・亡くなりました・・・」

アスカはテーブルに置いていた阿武隈の左手にそっと自分の右手を重ねた。

「そうだったの・・・ごめんね。悪いことを聞いちゃって・・・ちょっと気になったから・・・」

「いえ・・・いいんです・・・もう慣れましたから。僕は今・・・一人で第三東京市に住んでいます・・・父親は商社マンでニューヨークにいます・・・」

「・・・そう」

何処と無くアスカは遠い目をして独り言のように呟いた。

「でも・・・アタシには前にしか道が無いのよね・・・振り返ることは決して許されない・・・」

するといきなりアスカはテーブルの上に突っ伏した。ガタッ!アスカが飲んでいたジンジャエールはほとんど氷だけだったが店の床に落ちて転がっていく。

「うっ・・・」

「あ、アスカたん!」

アスカは頭を抱えて必死に苦痛に堪えているようだった。阿武隈はビックリしてアスカの隣に駆け寄ってアスカのか細い両肩を掴んで揺する。

「アスカたん!大丈夫?」

「・・・だ、大丈夫・・・ちょっと頭痛がしただけ・・・はあ・・・はあ・・・」

まただ・・・また昔のことを思い出そうとすると頭痛が・・・それもママが自殺した時のことを考えると必ずこうなる・・・

「ゴメンね・・・阿武隈・・・もう大丈夫だから。外の空気をちょっと吸えば気分がよくなるわ・・・きっと」

「は、はい!」

阿武隈はテーブルと床を片付けるとゴミ箱の方に向かっていく。それをアスカは目で追いながらゆっくりと頭を押さえて立ち上がった。

何なのかしら・・・この頭痛は一体・・・やっぱり尋常じゃない・・・

それはアスカが過去を振り返らずただ目の前の事のみに没頭し、そしてエヴァにこだわり続けなければならない理由の一つだった。

アスカは幼少期の記憶を奪われていた。この喪失感を常に一人で抱えて生きていくしかなかった。




 
二人は新秋葉原の駅に向かって歩いていた。

アスカはすっかり元気を取り戻していた。既に新秋葉原の駅周辺では夕刻特有の喧騒が始まっていた。人ごみの中を二人はまっすぐ駅を目指す。

通り過ぎる人の殆どが阿武隈と一緒に並んで歩いているアスカを振り返っていた。もう今日一日こんな状況が続いていたため二人は気にすることなく新秋葉原の駅ビルに入っていった。

自販機コーナーの一角に新アキバ観光記念と銘打つプリクラが無造作に置かれているのがふとアスカの目に留まった。アスカはプリクラを少しの間じっと見ていたが阿武隈のふくよかな背中を白い指で突いた。

「阿武隈」

「は、はい?」

「プリクラ撮るわよ」

阿武隈は驚いてアスカの方を振り向く。

「えっ!?ぷ、ぷりくらですか?」

「そうよ。何よ。アンタ嫌なの?」

「ま、まさか・・・光栄でございます・・・」

「ふふふ。そうでしょ?早く行くわよ!」

二人がフレームをのぞくとアスカの方が阿武隈より10cm以上背が高いためバランスがかなり悪かった。

アスカはきょろきょろと辺りを見回すとプリクラの隣にあるジュースの自販機のくず入れの横に空のコーヒーのロング缶が6本ほど積み上げられているのを見つけた。

「阿武隈!ちょっと待って!」

アスカはロング缶を4本持ってくると阿武隈の足元に置く。

「アンタ、この上に乗んなさいよ」

「ええ!こ、この上にですか・・・」

「そうよ。こうすればアタシと同じくらいになってバランスがいいじゃないの」

「はい」

阿武隈は恐る恐るロング缶の上に乗る。アスカと阿武隈はほとんど同じ背の高さになってアスカが睨んだ通り初めよりかなりよくなった。しかし、冗談みたいに阿武隈はコーヒー缶であつらえたひな壇の上でグラグラし始める。

「ちょっと!アンタ、バランス感覚悪すぎよ!4本もあるのに!」

この調子じゃ6本にしたところで改善しないわね・・・ちっ・・・仕方ない・・・

「阿武隈。ちょっとだけだったらアタシの肩を持っててもいいわよ」

「は、はい・・・それでは・・・お言葉に甘えまして・・・」

阿武隈の右手がアスカの左肩を掴む。ロボットとネジのフレームに囲まれた二人はそのままプリクラを撮った。出てきたプリクラをアスカは取り出し口から引っ手繰る様に取って出来栄えを早速確認する。

プリクラの中で二人の笑顔が並んでいた。二人は見ようによっては肩を組んで仲睦まじく見える。

やっぱり・・・肩を持たせると危惧した通りの絵面になるわね・・・まあいっか・・・世に出回るものじゃないし…

アスカはチェーンで本体とつなげられているハサミで2つに切って半分を阿武隈に渡す。

「今までデートでプリクラなんて撮った事無かったけど今日は楽しかったから特別よ」

「あ、ありがとうございます・・・アスカたん。い、一生の家宝に致します・・・」

「いやね、アンタ。オーバーなのよ」

ホームにモノレールが入ってきた。




 
二人が第三東京市のリニア駅に戻ってきた頃にはすっかり日が傾いていた。アスカが駅のお手洗いの洗面所で手を洗うと左腕の小さな銀の時計を見る。薄いピンクの文字盤の上で針は既に5時を回っていた。

結構遅くなったわね・・・

アスカはこれまで知り合いから頼まれて仕方が無くデートしていた事もあって出来るだけ早く切り上げて帰るようにしていた。だいたい3時位には帰っていただろうか。一度、そのパターンでシンジがチェロを弾いているところに出くわした事もあった。

第二東京市と少し足を伸ばしたということもあるが、帰りが遅いとそれだけ意味深長に取られかねない。

早く帰らなきゃ・・・

アスカの脳裏には今朝のシンジの目が浮かんでいた。アスカがハンカチで手を拭いて駅のお手洗いから出てくると待っている筈の阿武隈の姿が見えなかった。

「あれ?阿武隈?」

南口のロータリーに出ても阿武隈の姿は見えなかった。

何処行っちゃったのかしら?もしかして先に帰っちゃったとか・・・家が近いって言ってたし・・・

アスカはロータリーの外れにあるコンビニまで阿武隈の姿を捜し求めていた。

コンビニがテナントに入っているビルと別のビルの路地の暗がりにアスカが差し掛かった時、ラッパー風のファッションをした如何にも厳つい感じの3人に阿武隈が路地の中ほどで文字通り囲まれているのを見つけた。

3人はアスカよりも背が高いところからみて高校生と見てよかった。

一人は鼻にピアスをしており阿武隈の右側を固め、もう一人はむさ苦しい感じのロン毛で左にいた。そして3人目は茶髪で無精ひげを生やしていて阿武隈のナップサックの中を物色していた。

アスカの頭に血が上る。思わず怒りが込み上げてきた。全身に鳥肌が立っていた。

「阿武隈!」

「あ、アスカたん!来ちゃ駄目れす・・・」

アスカは臆することなくずかずかと路地の中に入って行き3人に近づいていく。

「ちょっと!アンタ達、阿武隈を放しなさいよ!」

「な、なんだお前は?ブタの連れか?」

「放せって言ってるのよ!」

「女の癖に何言ってんのよ。おねーちゃん、大人しく消えた方が身のためよ」

3人がアスカの姿を舐めるように見てにたにたと笑う。そしてアスカを無視してロン毛が阿武隈を羽交い絞めにする。その途端、茶髪が阿武隈の腹に鋭く拳で一撃を加えた。

「ひ、ひぐ・・・」

阿武隈がくぐもった声をだす。

「あ、阿武隈!よくも!」

アスカは我慢の限界だった。履いていた左足のサンダルのスナップを外して裸足になる。

茶髪が阿武隈の五分わけの前髪を掴む。

「おい、ブタ!出すもの出せっつーのよ!」

「うっうー・・・」

阿武隈が涙を流している。

アスカは右のサンダルも荒々しく脱ぎ捨てると阿武隈と自分との間を遮っているピアス目掛けて猛然と走り出した。そして次の瞬間、素早くピアスの懐に入ると白い拳を鳩尾に正確に打ち込む。

「ぐっ!」

思わずピアスが前かがみになったところで思いっきりアスカはピアスの顎に膝蹴りを入れた。

ごっ!

鈍い音がする。溜まらずピアスはその場に崩れ落ちる。

信じられないという目でそれを見ていたロン毛と茶髪は阿武隈を放して仲間のピアスのところに駆け寄る。

「おいシュウ!大丈夫かよ!」

「この女!俺たちを舐めてんのかよ!」

茶髪がそのままアスカに殴りかかってくる。アスカは茶髪の腕を取るとそのまま体を流して流れる様に左肘を茶髪の顔面にめり込ませた。

そして、ロン毛が仲間を介抱していて襲ってこないことを横目で確認する。茶髪が鼻を押さえて膝を落した時、アスカは振り向きざまに高々と脚を頭の上まで一直線に掲げると躊躇なく茶髪の後頭部にかかとを振り下ろした。

鈍い音が路地に響いて茶髪は文字通り地面に沈む。

「おいおい・・・マジかよ・・・」

ロン毛はピアスを抱き起こしていたが、アスカの大技に心底驚いていた。そしてこの乱闘騒ぎを聞きつけて人が集まり始めたのに気が付いた様だった。

「こりゃやべえ・・・」

ロン毛はアスカには目もくれずに二人を抱き起こしてその場を後にする。

阿武隈が腹を押さえてナップサックの横に膝を付いていた。

「阿武隈!大丈夫?」

アスカが裸足で駆け寄る。阿武隈は鼻水と涙を流してうな垂れていたがアスカの姿を見るとこくっと頷いた。

アスカは阿武隈の肩に手をやる。すると阿武隈はいきなり嗚咽を漏らし始めてアスカに抱きついてきた。

「もう大丈夫だから・・・あいつらはどっかに行ったわ・・・」

辺りには今日、二人が新秋葉原で買った同人誌とフィギュアが散らばっている。

アスカはこの時に足の裏にズキッとした痛みを覚えた。夢中で気が付かなかったが右足の裏から血が溢れていた。路地に落ちていたガラス片で切ったらしい。

「アタシたち・・・ボロボロね・・・」

阿武隈がアスカの胸でしゃくり上げて泣いている。丁度、騒ぎに気が付いたコンビニの店員が警察を連れて路地の入り口から入ってくるところだった。
 
 


Ep#03_(6) 完 / つづく

(改定履歴)
12th July, 2009 / 表現修正
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