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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第10部 Impression on the hearts 心の扉を

(あらすじ)
アスカはシンジの部屋を訪れてこれから当分の間、一緒に時代劇を見て自分に日本語を教える様にシンジにお願い(命令)する。始めは警戒していたシンジだったがいつになくアスカの申し出を快諾する。
こんな…嬉しい気持ち…初めてかもしれない…
目を輝かせているアスカ。
シンジはシンジでそんなアスカを見て共同生活を始めた当初のアスカに対して持っていた違和感のことを思い出していた…

Ave Maria / Giulio Caccini


(本文)

ドン!ドン!ドン!
 
ベッドに寝転んで週刊の漫画雑誌を読んでいたシンジは自分の部屋のドアが荒々しくノックされる音に驚いて飛び起きた。

時刻は夜の9時を指していた。

アスカがお風呂に入ったのは8時過ぎだった。その後、間もなくミサトが久しぶりにマンションに帰ってきた。シンジはミサトが着替えてキッチンに来たところで缶ビールを渡して近況をミサトに話してこの部屋に来たのだ。アスカは長風呂だから時間的に丁度風呂から上がったタイミングだろうと思い当たる。

シンジは自分の隣に置いていた下着類を手に取ると急いでドアを開けた。そこには赤いタオルを頭に巻いて寝間着のタンクトップとショートパンツに身を包んだアスカが立っていた。少し顔が上気している様に見えた。

シンジはてっきり風呂の順番を伝えに来たものだとばかり思っていたが、アスカの顔を見るとどうもそれだけではなさそうだった。ジロッとアスカがシンジの方を見る。

「入ってもいいかしら?」

「ど、どうぞ・・・」

アスカはズカズカとシンジの部屋に入ると両膝を折ってベッドの前辺りにしゃがみこんだ。慌ててシンジは勉強机の椅子からクッションを取るとアスカに手渡す。

「ドアを閉めて頂戴!」

「え?ど、ドアを!し、閉めるの?」

シンジは驚いた。アスカがシンジの部屋を訪れるのは今までにも度々あったが、アスカの訪問中はドアを開け放しておくというのが二人の間では通例になっていたからだ。

アスカがこの家に引っ越してきて初めてシンジの部屋を訪れた時にシンジがアスカを部屋に通した後でドアを閉めてこっ酷く怒られたことにこの習慣は端を発していた。

「ちょっと!アンタばかぁ?紳士はLadyを部屋に入れた時はドアを閉めないのよ!」

「え、そうなの?ご、ごめん・・・」

「ったく!この家にはZivilisation(独: 文明)というものは存在するのかしら!」

以来、シンジはアスカが部屋にいる時は必ず開けることにしていたのだ。

それを・・・

ドアを自ら閉めろというのはやはり尋常ではない…咄嗟にシンジは思った。体を硬くしてドアの前で下着を抱えておずおずと正座した。

「ちょっと…アンタさあ・・・オバケじゃないんだから。そんなに緊張すること無いじゃん」

「う、うん・・・でも・・・何か・・・ドアを閉めろとか・・・その・・・どうしたのかなって思って・・・」

「実はアンタに内緒のお願いがあるのっ」

えー!お願いって・・・また無理難題を押し付けられたらどうしよう・・・

シンジは警戒する。

「え、な、なに?僕に出来ること…だよね…」

「もちろん!明日から当分の間、アンタはアタシと一緒に学校から帰ってこの家で過ごすのよ。分かった?」

アスカはビシッとシンジに向かって指を指す。その姿を見てシンジの脳裏にはアスカのプラグスーツを強制的に着せられた時の記憶がフラッシュバックする。

それってお願いっていうか…すでに命令してるじゃないか…もう決定みたいな感じだしさ…

シンジはアスカのお願いに対して基本的に拒否権がないことを常々不満に思っていた。正確に言えば「否定」も「肯定」も明確にしたことがないだけだったがシンジの中ではアスカのわがままにしか思えなかったのだ。

今も何も言わない。ただ、押し付けられているという思いしかなかった。いつもそれでアスカがイライラして判断を迫るため、シンジはもっとも無難な「Yes」を選択するのが常だった。

アスカはそんなシンジの態度や気持ちに既に気が付いていた。自分に対してはっきり何も言ってくれない、その態度に触れる度にアスカはいつも傷ついていた。心の中でアスカは呟く。

まただ…アンタはそんなハッキリしない態度をアタシに取るくせに…そんなアンタは…嫌い!!それって…どんなに言葉で取り繕ったとしても関心がない、て言うことと同意じゃないの…

いや、うそね。アタシ…目を背けてることがある…ホントは…知ってる…シンジの秘密…

最近、そんなシンジのモジモジした態度を見るとアスカは鳥肌を立てる様になっていた。アスカがシンジに対してこの種の感慨を持つきっかけになったのは偶然目撃したあるシンジの姿を見た時からだった。

アンタがアタシに関心を持つ時って…アタシに隠れてこそこそ妄想している時だけ…そのくせ…アタシを見ようともしない…触れようともしない…アンタは罪(七つの大罪の一つの意)を犯してるのよ…アタシを汚してるの…

でも…

あのが…アタシを何も言えなくさせる…アタシの心に入ってくる…残酷…アンタって…

アスカはシンジの困惑しきった視線に気が付いて内省を中断してシンジを睨む。

バカ…バカよ…アンタって…ホント、バカ…

「大したことじゃないわよ…アタシと一緒に時代劇を見て、そこで使われている日本語をアタシに教えるのがアンタの使命よ」

シンジはアスカの口から意外な言葉が飛び出してビックリしたが同時に少し肩透かしを食ったような気持ちだった。

「時代劇?アスカ、時代劇なんか見るの?」

アスカはさっきミサトに散々バカにされた為、日本人に時代劇のことを話すとバカにされるかもしれないという警戒心も芽生えていた。シンジに対しては色々な意味で威嚇気味だった。

「そうよ!悪い?アタシはね、今日、すっごく面白いプログラムを発見したの!いい?分かった?」

シンジは想像していたほどアスカのお願い(命令)の内容が難しくなかったため、いつになく気が楽になっていた。アスカの予想を裏切って意外にも渋々ではなくポジティブな反応を見せた。

「うん。分かった。それならいいよ」

「えっ!?」

アスカにとっては嬉しい誤算の筈だったが予想外の即答(シンジにしては)に逆に驚く。

「ほ、ホントに?約束よ。すっぽかしたらタダじゃ置かないわよ!」

「うん。大丈夫だよ。当番があるときは仕方が無いけど、それ以外だったらアスカに付き合うよ。僕」

シンジ…何か信じられない…こんなアンタ…初めて感じたかも…

アスカは悪意を始めから持ってシンジを見ていたことに対して胸が痛くなってきていた。しかし、素直になるのも癪だったため複雑な心境に陥る。

「あ、あのさ・・・アンタ知ってる?ショーグン ヨシムネって…」

「ヨシムネって・・・あの・・・徳川吉宗だよね・・・ああ!"将軍吉宗が往く"だね」

シンジは少し考える素振りを見せたがすぐに手を打つ。恐らく日本人の間では一番知名度の高い時代劇の名前だった。

「そう!それ!カッコいいんだから!一人で何百人もやっつけるのよ!ニンジャも出てくるしさ!」

アスカの中ではどんどんヨシムネに対するポジティブイメージが増長している様だった。既にチャンバラのスケールは一大スペクタクルの規模になっていた。

いや、それ以上に今のアスカは何か充足感に似た様なものを感じていた。それがいつになくアスカを浮き浮きさせていた。

こんな…嬉しい気持ち…初めてかもしれない…

「な、何百人?そ、そんなに切られ役の人っていたかなあ・・・でも、確かにアスカは見たこと無いだろうから興味深いかもしれないね。時代劇・・・」

「そうなの。アタシ感動しちゃったの。でも使われている言葉が難しくってさ・・・」

「そうだよね。それは分かるよ。古い言葉を使うからね」

「でさあ。さっきミサトに話したら古過ぎて現代人には分からないって言われたのよ?例えば・・・えっと・・・なんだったけ・・・そうよ!キョウエツシゴクはラテン語と同じだっていうのよ?アンタ知ってる?キョウエツシゴク」

「え?キョウエツシゴクって恐悦至極だよね・・・確かに口語じゃないけど意味がまるで分からない言葉じゃないと思うけど・・・」

「でしょ?でしょ?ほら御覧なさい。あの女!いい加減な事をいうんだから!何がラテン語と同じよ!」

アスカは一瞬凶悪な目つきをすると壁の向こうのミサトを睨んだ。

「ラテン語?いくら口語じゃなくてもラテン語は・・・よく分からないけど・・・」

シンジはラテン語の言語としての位置関係や今日的な使われ方についてはさっぱり分からなかったが、少なくともアスカが時代劇を通して日本語や日本文化を勉強したいらしい事は理解した。そういうアスカの気持ちはシンジも大切にしたかった。

「うん。いいよ。僕でよければ・・・一緒にアスカの勉強に付き合うよ」

「ホント?ありがとう!すっごく嬉しいわ!」

アスカは思わずシンジの方に近づいて行って両手を握り締めてきた。

僕の言ったことで…こんなに喜ぶアスカを見るのは初めてかもしれないなあ・・・

シンジは目を輝かせているアスカを見てなぜかドキドキしていた。





アスカがシンジの部屋を意気揚々と引き上げた後、シンジは下着を持って浴室に向かった。

ミサトはリビングに移動して自分がDVDレコーダーで自動予約していた番組をチェックしていた。今はこの前やっていた世界無差別格闘技の対戦を見てしきりに歓声を上げている。葛城家で格闘技系の番組が好きなのはミサトだけだった。

シンジは入浴しながら初めてアスカがこの家に来た頃の入浴の事を思い出していた・・・
 



アスカは今では長風呂で入浴すると40分は出てこないが、共同生活をスタートした当初は湯船に浸かるのを極端に嫌がってシャワーだけで過ごしていたため20分位で出てきていた。

ヨーロッパではバスタブすらない家やホテルも多くて基本的に湯に浸かる習慣がない、と加持から国連軍の空母の艦上で紀行譚として聞いていたシンジはその延長かと思っていた。

しかし、それはある日のことだった。

湯船に浸かる事をミサトから勧められたアスカは終始明るく振舞って勧められるまま浴室に入っていたが、お風呂の準備をすることが多いシンジはすぐに異変に気が付いた。アスカの異常な入浴時間の長さとガスの操作パネルの表示だった。

アスカはミサトが一度浸かった湯を抜いて改めて湯を張り直していたのだ。

風呂の湯を張り替えるという行為は幾らなんでも尋常では無かった。アスカがクォーターで日本の入浴の風習に慣れていないとしても常軌を逸していた。

その時にシンジはアスカの内面に初めて触れた気がした。その明るさの奥に潜むアスカの翳を何と無く感じたのだ。

ただの神経質とか潔癖症とは何と無く違う気がするんだよな・・・

シンジはその内、共同生活を通してアスカの「異常」は風呂に限った事ではないことに色々気が付いていった。
 
アスカは共同生活開始からある意味で現在でもだが葛城家の家長とは異なり、自分のことは基本的に自分でした。共同生活当初はそれが細部に渡って徹底していた。

アスカは洗濯、掃除、アイロンがけ等に他人のものが混ざることも同居人が関わる事も嫌がっていた。始めのうちシンジは、

しっかりしてるんだな、アスカは・・・ミサトさんが増えなくてよかった・・・

と感心したものだが、不可抗力で衣類に手が触れたとしても容赦なく激怒して再度洗濯する様なところがあって驚かされた記憶がある。

ミサトよりもアスカと接する時間が長いシンジは次第にアスカの行動の節々に違和感を覚える事が多くなっていった。

その最たる例が食事だった。

アスカは日本食には全然問題はなかったが、"同じ釜の飯"には相当の抵抗感を持っていた。

大皿に盛ったおかずを取り分けたり、漬物を同じところから取る様な事を頑なに拒んだ。取り分けることに抵抗の無い日本の食卓に置かれる中でアスカはユニゾン特訓の激しい運動のせいもあって見る見るうちに痩せていった。

そんなアスカを見るに見かねてシンジがアスカの為に考案した苦肉の策がワンプレート方式だった。大きなお皿にご飯、漬物、おかず、そしてサラダを一つに纏めるというもので、これでアスカはようやくまともに食事をする様になったのだ。

ヨーロッパでは料理のシェアというのは確かに一般的ではないが、アスカの態度はそういう文化的な摩擦というよりも精神的な摩擦の方が強いような印象があった。

その徹底振りが飲料にまで及んでいたからだ。

シンジはアスカ用に共同の麦茶とは別に専用の入れ物を用意した。麦茶もアスカは自分で必ず作っていた。そして自分が使う食器を他人が洗うという事すら拒んでいた。迂闊に洗おうものなら翌日からアスカはその食器を使わなかったほどだ。
 
しかし、ユニゾンの特訓を経てそのままなし崩し的に共同生活が続いていく内にアスカの様子は少しずつではあるが次第に変化して行った。

当初、アスカはまるで目の敵の様にシンジに接していたが第8使徒戦以降、急に態度が軟化し始めたのだ。

その象徴的な出来事の一つが、

アスカに初めて頼まれたものが学校のブラウスのアイロンがけだったよな・・・

ある休日の昼下がり…

シンジはいつもの様にリビングで自分の開襟シャツとミサトのネルフの制服のシャツにノリをつけて丁寧にプレスをしていた。すると、

「アタシのもついでにやってくれない?」

アスカが顔を真っ赤にしてブラウスを持ってシンジの後ろに立っていた。シンジの手がブラウスに触れるとそのままぱっとアスカは事の顛末を見ずに走って自分の部屋に行ってしまった。

それ以来、シンジが洗濯物に触れても怒る事もましてや再洗濯するようなこともなくなり、麦茶も別々の容器に作らなくてもよくなった。そしてどんどんとアスカの同居人に対するバリアは無くなっていき、第9使徒戦の頃にはワンプレート方式もなくなっていったのだ。

そして夏祭りを迎えた。

僕たち・・・間接キスをしたんだよな・・・

人が口を付けた直後のコップでアスカが飲むという事はあり得なかった。人がアスカの食器を洗うだけで使わなかった位なのだ。

ちょっとしたことだが今までのアスカを知るシンジにとってはまさに「異常事態」だった。考えてみればチンピラに引き千切られたボタンを付けるのに自分がついさっきまで着ていたブラウスをシンジの手に託したというのもアスカにとっては、

僕は意識して言った事じゃなかったけど・・・考えてみたら凄いことだったんだ・・・

自分の「汚れ物」をシンジに渡したことになる。一般人でも比較的これはハードルの高い領域になるだろう。

こうしてみると共同生活当初から残っている習慣は唯一この「一番風呂」くらいのものだった。今はアスカとの共同生活に対してシンジがストレスに感じる事は殆どなくなっていた。

戸惑う事があるとすればそれは性差や異文化コミュニケーションに根ざす物が大半といえた。シンジは湯船の中でつらつらと考えていた。

アスカはいつの間にか共同生活を通してどんどんと自分のハードルを飛び越えて成長して行ったんだ・・・習慣でも・・・気持ちの面でも・・・僕だけだな・・・全然進歩が無いのは・・・

「うわ…ちょっとヤバイ…」

のぼせそうになったシンジは急いで湯から上がる。

シンジが自分のバスタオルが少し湿っているのに気が付いて不機嫌になるのはもう少し後の事である。
 
  
  
  

 Ep#04_(10) 完 / つづく
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