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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第6部 The Knights of the Round Table 志士

(あらすじ)

豊田の遺したデータは膨大なネルフの利害関係を調査した情報だった。しかし、大半はオリハルコンによる解析を待たなければならなかった。画像ファイルを中心に話をする川内、鬼怒川、三笠、愛宕だったが少なくとも誤報と公式発表していた第11使徒戦後に碇ゲンドウがベルリンを訪れていた事実を突き止めていた。
鋼鉄宰相亡き後、沈黙し続けていた「静かなる者」の後継者、川内がついに動く決意を固める。


Chopin Etude Op.10 no.12 "Revolutionary"

(本文)


「豊田君が首吊りだと・・・」

「はい、副長官。単刀直入にお話しますがまずはこれをお納め下さい」

三笠はそう言うと愛宕からUSBメモリを受取って川内の前に置いた。

「これは何かね?」

「豊田君の遺品です」

「・・・」

川内はそれを凝視するのみで口を開こうとはしない。

「ちょっと失礼します」

鬼怒川が川内の横から手を伸ばしてUSBメモリを持参したラップトップに差込む。そしてVTAC暗号解読ソフトで豊田の添付ファイルを開く。

「パスワードが掛けられているが・・・」

鬼怒川が三笠と愛宕の二人を交互に見る。

「まいったな・・・俺は見当が付かんぞ・・・」

三笠はソファの上で頭を抱える。その横で愛宕が沈痛な面持ちで囁くように言う。

「鬼怒川さん。Vom Kriegeと入れてもらえませんか?」

「Vom Kriege?愛宕。何だそりゃ?」

鬼怒川がパソコンを操作しながら三笠に言う。

「ドイツ語で"戦争論"だ、三笠。クラウゼウィッツの著書だよ」

内閣官房の室長と本省局長は同格だが鬼怒川の入省暦の方が1期長かった。

「戦争論・・・そうか、そういう事か・・・豊田らしいな・・・」

「ふむ…どうやらビンゴの様だな…これですな・・・」

4人が鬼怒川のPCの画面を食い入る様にして見る。いくつもの画像ファイルがそこにはあった。一つ一つを閲覧ソフトで4人は確認していく。愛宕が液晶画面を指差しながら言う。

「これはドイツのベルリンの風景ですね。遠くにブランデンブルク門が見えますから」

鬼怒川が操作しながら三笠に質問した。

「ここに移っている日本人の集団は誰かね?全員の名前は本省に帰ったらオリハルコンで全て照会をかけるとして・・・」

「少なくともこの2名は・・・ネルフ司令の碇ゲンドウとこちらが冬月副司令ですね」

三笠が答える。

「なるほど・・・」

鬼怒川が呻く様に呟いた。

「次の写真は・・・これはSeeleの出先機関のオフィスと注釈が入れてあるぞ。住所的にはフンボルト大学の近くらしいな・・・」

三笠は画面を見ながらスーツのポケットをまさぐってタバコを探し始めた。

「そして・・・ネルフ御一行様が到着して中に入る、と・・・」

「ざっと、大まかにはこんなところですな・・・後はオリハルコンに解析させなければ意味が分からないでしょうからここではこれくらいですが・・・」

「これで十分なんじゃないですか?ちょっと失礼します・・・」

三笠がパソコンの画面から目を離すとソファに座りなおしてタバコに火をつけた。

「どういうことかね?」

初めて川内が口を開いた。視線は三笠に注がれている。

「日付的に第11使徒がピラミッド内に侵入した可能性が取り沙汰されていた後です。侵入を許した廉で召喚を受けたという事では?もっとも公式にピラミッド側からは誤報だったと伝えられていますがね…」

「いや、それであれば問題があるぞ。第一にネルフは国連機関だ。国連機関の司令が召喚されるのであれば組織論から言って国連関係であるべきだ。ニューヨークには行ってもベルリンじゃないだろう。第二にそもそもこのSeeleとは一体何者だ?ドイツ語で"魂"という意味だろ?なぜわざわざネルフの最高幹部がベルリン市内のこんな普通の企業の様な事務所に入るのかね?あまりに不自然だろう」

鬼怒川が三笠の意見に疑義を唱えた。

「じゃあ単にふらりと寄ったという事ですかね?そうするとこの画像は意味のない写真という事になります。それをVTACで送って直後に自殺ですか?今の状況だけだと公式に認めるかどうかは別にして他殺の線が濃厚と思いますが・・・ということはやはりこのSeeleというものに非常に大きな意味がないとつじつまが合いませんよ」

三笠が灰を落とす。

「それに第11使徒侵入の件は日本政府だけじゃない。国連にも誤報と報告されていることは確認済みですよ。ところが実態としてはどうか…内閣合同情報会議の席上でぶち上げられた情報とピラミッドの公式見解が真逆だったらどう思いますかね?豊田がこの情報をどこまでばら撒いたか分かりませんよ?もし、意図的に広範囲にリークしていたとしたら、なまじっか碇ゲンドウが誤報だと言えと仮に言っていたとしたら?黒幕同士が腹を探り合うってのも話としてはありじゃないですか?」

と三笠が言うと部屋にはしばしの沈黙が訪れた。そして三笠は口数の少ない川内に向き直る。

三笠は川内が首相秘書官だった時から内閣官房でしばしば出雲内閣の政策策定でよく会っていた。お互いに気心は知れていた。三笠は胆力と政策手腕を川内に買われて川内が官房副長官就任すると同時に室長に抜擢されていた。

腹をなかなか割らねえ人なのはよく分かってますが…日本、いやPSI時代の世界をお一人で背負い込むのはさすがに無理ですよ…川内さん…今は一人でも多くの手足が必要なんじゃないですか?俺の勘が正しけりゃ…川内さん…生駒の野郎と全面戦争になりますぜ…

「副長官。お願いします。この事をご存知なのは副長官だけです」

「・・・」

「副長官。ここに居る者たちはこのまま生きられるか分かりません。明日には新東京湾に浮かんでいるかもしれません」

愛宕と鬼怒川の顔が同時に引きつっていく。

「事情を話していただいて出来うる限りの対策を打たなければ、出雲閣下の無念は晴れないのではないですか?」

「分かった・・・」

川内は手をかざして三笠を制した。そして重い口を開いた。

「豊田君がここに来たのは丁度一週間くらい前、まさに第11使徒戦のあったであろうその日だ。その時に彼はオリハルコンの解析結果でネルフの碇ゲンドウとそこの写真にある通りSeele、政府関係者の間ではゴーストのコードネームの方が通りはいい筈だがネルフの利害関係者の一人であることを突き止めたと言っていた」

「Seeleがネルフの利害関係者のひとつだと・・・」

三笠がうめく様に呟いた。

そうか…ゴーストとはSeeleということなのか…人工進化研究所になる前の新技術創造研究所はあまりにも不自然な金の流れがあって内務省の連中が鵜の目鷹の目状態だったからな…その金の出所がまるで掴めない…まるでゴーストみたいだって言うんでゴースト…ネルフを取り巻く影…今まで確証が無かったから黙ってたが…そうか、それを豊田が掴んだってことか…じゃあ口を封じたのはSeeleサイドってこともありうるな…

「そうだ。そしてこの両者の仲は必ずしも一枚岩ではない可能性が高いということを言っていた。その証拠を掴む為、彼は一計を案じてネルフの利害関係者と思しき筋にほぼ同時にオリハルコンで掴んだ第11使徒侵入の情報を流した。そうすることで利害関係者同士が接触を必ず試みると踏んでいた。まあ、オリハルコンの情報は完全にそれを掴んでいたわけではなく多分に推定情報だったのだが結果的には策が当たってこうしてコンタクトしていることを押さえた、というところだろう。豊田君には実に気の毒な事をしたがこれが命がけの仕事になってしまったわけだ・・・」

そういうと川内は瞑目する。

「そうか。それで納得がいきました。なぜあの豊田君が内閣合同情報会議で第11使徒戦のオリハルコン情報を流したのかが・・・」

鬼怒川が川内を見ながら得心した様に言った。

「それから・・・これからは絶対他言無用だが使徒をピラミッドに送りつけているのはこの写真からほぼゴーストと考えて間違いがないと豊田君が言っておった」

「な、何ですって!!」

三笠は驚いて危うく咥えていたタバコを落しそうになった。

「どういう事なんですか・・・?」

対照的に鬼怒川が川内の顔を凝視する。

「それは僕にも分からん…おそらく豊田君にはよほどの確信があったのだろうが…ここにある写真だけではよく分からん…彼はそれを僕に伝えようとして口を封じられたのだろう…少なくとも豊田君はピラミッドに使徒が侵入して何らかの事が発生すればTIPを誘発すると言う事が間違いない以上、ピラミッドとゴーストの間でTIPを綱引きし合っているというのがこの使徒戦の姿、と言っておった」

「まさか・・・」

一同が鎮痛な面持ちになり、三笠は思わず呻くように呟いていた。愛宕がいきなり立ち上がって叫ぶ。

「そんなことがあっていいんですか!一体、日本を何だと思っているんだ!じゃあ、バレンタイン体制のどこに正義があったって言うんですか!!」

その勢いに三笠と鬼怒川は驚いて愛宕を見上げたが、川内は眉間に皺を寄せて瞑目したままだった。まるで批判は甘んじて受けるしかないと納得している様に。

その時だった。

「愛宕、貴様!口を慎め!この大バカ野郎が!」

突然、三笠が弾かれた様に立ち上がって愛宕の右頬を思いっきり殴りつけた。愛宕がソファから副長官室のドアの方に吹っ飛んで行く。

三笠の肩は激しく上下していた。

「テメーみたいなヒヨッ子が今度、川内さんの前でそんな舐めた口を聞いてみろ!この俺がただじゃおかねーぞ!」

その時、瞑目していた川内が静かに目を開いた。

「三笠君、それくらいにして置きたまえ。愛宕君の感情は彼ら若者の世代からすれば当然だよ。僕たち大人があまりに不甲斐無かったんだよ・・・多くを失ったというのにな・・・それなのに…僕はまだおめおめと生きている・・・今の現実はあまりにも出雲先生の理念とはかけ離れてしまったのにな・・・僕はあの世で先生に合わせる顔が無い・・・」

「副長官・・・」

三笠は川内の無念を知っているだけに思わず目頭を押さえた。愛宕はその場で座り直すと思わず3人に向かって土下座する。

「す、済みませんでした!!しかし・・・しかし・・・自分は・・・じ、自分は・・・」

盟友の豊田を失った悲しみとあまりに過酷な現実に愛宕は思わず慟哭していた。赤いカーペットに幾つもの涙のシミを作っていく。

「愛宕・・・もういい・・・」

三笠もまた腕で目を押さえながら呻くように呟いた。

「済まんが今日はもうこれ以上、この件に時間を割く余裕がない。また改めてこのメンバーで集まって話をしようじゃないか。時間は追って連絡する。豊田君亡き後、この仕事は諸君らの双肩に掛かっていることを僕は確信した。出雲さんが指導した"静なる者の政策"は未だこの川内の胸の中で息づいておる。その路線が完全に潰えてしまう時、今以上に日本、いや世界は不幸になるだろう。愛宕君の世代に続く子供たち(チルドレン)が本当に幸せになる世の中を作らねばならん。それが引いては出雲先生の仇討にもなるだろう。諸君・・・この通りだ、よろしく頼む・・・」

川内が深々と鬼怒川、三笠、愛宕に頭を下げた。3人は川内に向かって敬礼した。

約束の15分は遥かに過ぎていた。




 
三笠は新千葉市の自宅に珍しく終電前に帰宅した。

「ただいま・・・」

「あら、あなたお帰りなさい。どうしたの?国会期間中に帰ってくるなんて珍しいわね」

「ああ・・・使徒のお陰だな。当分、政策審議に入りそうにもねえからさ。国会に行ってても仕方がないし・・・昔に比べればずいぶん楽になったもんだよ」

三笠はかばんとよれよれのグレーのスーツの上着を妻のカズエに手渡す。

「ふーん、それは喜んでいいのかしら?」

「どうだかな・・・」

三笠はネクタイを緩めながらキッチンに入ってくると冷蔵庫からボアビールのロング缶を取り出すと荒々しく食卓のいすに腰を下ろした。

「それはそうとあなた、ミサちゃんから干物の詰め合わせが届いてるわよ」

「え?ミサトのやつからか?」

「そうよ。メッセージと写真も入ってたわよ。テーブルの上に置いてるでしょ?あの子ももう29じゃない?仕事なんか辞めちゃってさあ、早く結婚すればいいのにねえ・・・」

「おいおい・・・またお前は余計な事を言うなよな・・・早く結婚しろとか言うとすぐあいつはふくれるからなあ・・・」

三笠は缶ビール片手にメッセージを手に取る。

差出人の欄には「葛城ミサト」と書いてあった。




 
          前略
                   三笠の叔父様 叔母様
                   先般は誠にご愁傷様でした。
                   どうかお疲れが出ません様に。
                   私の方はお陰様で病気一つせず元気です。
                   お体にはくれぐれもお気をつけてご自愛の程。
                   それではまたお目にかかれる時を楽しみにしております。
                                                                  
                      
かしこ
                                                      葛城ミサト
 
                   PS
                   先日、金魚の品評会に出品したところ見事に全国大会で
                   技術研究奨励賞を受賞しました。
                   その時の写真を送ります。
 



同封されていた写真には30cmを超える巨大な和金の入った水槽の前で中央にミサト、その左右に日向と青葉、トロフィーを持って得意そうに掲げるアスカと賞状の両端をそれぞれ持ったシンジとレイが映っていた。

シンジは手製と思われるみすぼらしい「チームネルフ」のゼッケンを首から所在無げに下げていた。

「ミサトよ・・・俺たち大人がしっかりしねえから、お前ら若えモンが俺たちの通った血塗られた道を後から後からそのまま歩いてきやがる。あの時の国会でもう少し気張ってたらよ。日本、いや世界の歴史は変わってたかも知れねえ・・・そうすりゃお前もそんな所にいねえで普通にOLとかしてたろうによ・・・葛城の奴に合わす顔がねえや・・・」

天下の川内を向こうに回しても恐れぬ内閣官房保安室長の三笠の目に涙が溢れていた。
 
 
 
 
 
Ep#04 (6) 完 / つづく

(改定履歴)
28th May, 2010 / ハイパーリンク先の修正 
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