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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第7部 The Typhoon Approaching 嵐の夜に


(あらすじ)

第三東京市に大型の台風が近づいていた。零号機の暴走後、アスカは先日の乱闘事件の停職処分が始まっていた。初めてEvaから遠ざかる生活を送るアスカ。微妙な心境の変化が起こりつつあった。
「結婚…か…」
アタシ…そんなこと今まで考えたことも無かった…
生きていくことすら危うい状態なのに…
黒い雲の流れが速くなっているのが分かる。

シンジはベランダから不安そうに空の様子を眺めていた。時折突風も吹く。そのうち雨も降ってくるだろう。

「今年は本当に台風が多いなあ・・・」

セカンドインパクト以降、日本の四季が失われて久しい。

四方を海に囲まれる日本諸島は台風の通過点としてその猛威に晒されることが決して少なくない。今年はこの台風で既に5つ目の上陸になる。

怖がりのシンジにとってはまさに「地震、雷、火事、オヤジ」に次ぐ存在だ。

「明日学校に行くの、面倒臭いなあ・・・ずぶぬれになっちゃうよ・・・」

シンジがあれこれ考えていると後ろから忍び足で近づいて来たアスカにいきなり大きな声を浴びせられた。

「わっ!」

「う、うわー!」

シンジは飛び上がらんばかりに驚いて思わずその場にしゃがみ込む。その情けない姿を見てアスカはため息を大げさに一つ付いた。

「まったく…アンタは男の癖にホントに怖がりよね。そんなことでちゃんといざという時にLadyを守れるのかしら!頼りないわね…」

「あ、アスカ!ビックリするじゃないか!ひどいよ・・・」

「ひどくないわよ。アタシはね。アンタをこうして日々訓練してるわけ。ちょっとは感謝しなさいよ。でも・・・」

アスカは右手に持っていたミサトのビーチサンダルをベランダの上にぽんと置くとシンジの隣にやって来て空を見上げた。

「またタイフーンが来るのね!ねえ、嵐の前って何かワクワクしない?」

屈託の無い笑顔をシンジに向けてきた。

「そ、そうかな・・・面倒臭いし、危ないし・・・あんまり楽しいとは・・・」

「アンタの場合はそれに加えて怖いでしょ?」

「うっ・・・」

アスカはまたシンジから空に視線を戻してしきりに流れる雲を珍しそうに見ている。

「早く来ないかなあ。ルルルルルルン、ルルルルルルン・・・」

アスカはベートヴェンの
ピアノソナタ第10番の冒頭部分を口ずさんでいた。

「来ない方がいいと思っている人は多いと思うよ・・・多分・・・」




 
シンジは夕食の準備をするときは必ず国営放送のチャンネルに合わせて天気予報をチェックする事にしている。

葛城家のTVのチャンネルはアスカによって完全に支配されているがこの時間帯だけは他のチャンネル変えたりしない。恐らく自分が興味のある番組が無いからだろう。

キャスターがさっきからしきりに首都近辺への上陸を強調している。

「やっぱりこっちに来てるんだ・・・」

第三東京市の背後には箱根の山がある。もっともセカンドインパクト発生以降は海面の上昇に伴って海抜は相対的に低くなってはいるが、それでもこのお陰もあって第三東京市は台風が近くを掠めることはあっても直撃を受けた事はシンジが引っ越してきて以来一度も無かった。

今回の台風はかなり勢力が強い状態で日本に迫ってきている。シンジがエプロンを着たままTVを見ていると葛城家の固定電話が鳴り始める。

シンジは時間的にミサトの帰るコール辺りを想定しながら受話器を取る。

「もしもし、葛城ですが・・・」

「もしもし、碇君?」

電話の声はヒカリだった。シンジは今日は本部待機の当番だったためヒカリの声を懐かしく感じていた。明日は零号機の定期メンテナンスが午前中に入っていたから午後からレイが当番で出勤することになっている。

今週と来週の当番はアスカの停職処分が始まったためシンジとレイの二人で対応しなければならず過密スケジュールになっていた。

「ああ、委員長。どうしたの?アスカに用事?」

「アスカにだけって訳じゃないけど緊急連絡網よ」

「緊急連絡網?」

「そう。さっき担任の最上先生から電話があってね、明日は学校が休校になるんですって」

「えっ休校になるの?」

「そうよ。だってリニアやモノレールって風が強くなるとすぐ止まっちゃうでしょ?午前中はよくても午後から帰れなくなる人が出てくるかもしれないじゃない」

「そうか・・・分かった。ありがとう。じゃあまた・・・」

「あっ!碇君まだ切らないで」

「え?何?」

「だから・・・緊急連絡網なんだからこの伝言を次の人に回してもらわないと・・・碇君は緊急連絡網でこのグループのトップなんだし・・・」

シンジのクラスの連絡網は3つのグループに分かれていてそのうちの一つでシンジはトップになっていた。ちなみにレイは他のグループでトップになっていた。

「あ、ああ。そうか・・・僕、あ行だもんね」

「・・・そうよ。次は遠藤さんだからよろしくね」

「え、遠藤さんだね・・・うん分かった」

電話の向こうで明らかにヒカリがあきれているのが分かる。

ついさっきベランダでアスカに頼りないと指摘を受けたばかりだったシンジはどこかで名誉挽回を考える。そして一つの妙案が浮かぶ。

「あ、そうだ。委員長」

「何?」

「アスカと話す?」

「今?今はいいわよ・・・だって、この電話を使うと碇君が遠藤さんに連絡できないでしょ?」

「・・・そうだよね」

シンジは気を利かせたつもりだったがヒカリに指摘されて自分の愚問に気が付く。

「それじゃ頼んだわよ!遠藤さんだからね!絶対忘れないでね!じゃあ、アスカにもよろしく」

ヒカリはシンジに何度も念を押してそれでも信用できないのか次の連絡先の電話番号まで言って電話を切った。

「僕ってやっぱり・・・同世代の女の子から見ると頼りないんだろうな・・・」

シンジは受話器を持ったまま呟くと電話台の引き出しから2年A組の緊急連絡表をごそごそと取り出した。




 
キッチンでシンジがミートソースを温めていると後ろからアスカが近づいて来た。

「今日の献立はなーにかなあ?Mein Chef (私の料理長さま)?」

アスカはそういうとシンジ背中から肩越しにひょいっと手元を覗き込む。アスカは少し照れながら「Mein Chef」と表現していたが、シンジには2つの語が合わさったネイティブな発音は聞き取れなかった。

「え?ぱ、パスタだけど…」

アスカの「Mein」はあっさりと虚無の中に消えていく。シンジの両肩に置こうとしていたアスカの手は止まり、そして音も無くゆっくりと降ろされていった。

「ふーん…で、どんなパスタなの?」

キッチンに入ってきた時よりも少し声のトーンが下がっていた。アスカはシンジの背後から隣にやってきてグラスを手に取る。

「どんなって言われても・・・パスタはパスタだけど・・・」

そういってシンジはお湯を沸かしている鍋の隣に置いていた棒状の麺をアスカに見せた。それをチラッと見たアスカはすぐに視線を外してグラスを手に持ったまま冷蔵庫に向かう。

「何よ・・・もったいぶって感じ悪いわね…ちゃんとスパゲッティって言えばいいじゃないのよ…」

「そ、そうだね・・・スパゲッティとも言うよね・・・」

「言うよね、じゃないわよ。これはスパゲッティ以外の何者でも無いわよ。アンタが言っているのはさ。例えばアタシが日本の麺を食べに行こうってアンタに言ったら困るでしょ?ソバなのかウドンなのか分からないじゃないの。それと同じことよ」

「そ、そう言われるとそうなのかな・・・」

「パスタ(pasta)っていうのはね、イタリア語で麺類の総称なの。だからパスタだけだったらラビオリなんだかペンネなんだかスパゲッティなんだか分からないの。パスタとスパゲッティが完全にイコールじゃないんだから。アンタがさっきからアタシに言ってるのは麺、麺、麺なわけ。もう…分かって使ってるのかしらアンタって・・・」

「そ、そうなんだ・・・初めて知ったよ・・・」

アスカは悪戯っぽく笑うと冷蔵庫からコーラのペットボトルを取り出してコップに勢いよく注いだ。

「ちなみにドイツに行ったら迂闊にパスタって言わない方がいいわよ」

「ど、どうして?」

「歯磨き粉(die Zahnpasta)が出てくるかもね。ドイツではラビオリはラビオリでスパゲティはスパゲティってちゃんと言わないとアンタ困るわよ。ふふふ」

シンジは二人分のスパゲッティをおずおずと鍋の中に入る。

シンジはアスカとはよく些細な事で言い合いになる。その大半はこうした文化風習的なギャップによるものだが自己主張の苦手なシンジには結構な負担になっていた。

シンジは今日のことも軽く受け流していた。

だが…今日のやりとりは今までのそれとは少し異質なものを含んでいた。アスカのシンジに対する別の感情からイライラした結果で言い合いはもたらされていた。

別な感情…

アスカはおくびにも見せないがEvaから遠ざかってすぐに一人でいることが苦痛になり始めていた。不安な気持ちが時間の経過と共に大きくなる、そんな弱さを見せたくないという気持ちとの葛藤がアスカの中では始まっていた。

同居人が気が付かない微妙な変化。その一つが「mein」の一語に含まれていた…

停職処分が始まったアスカをミサトもシンジももちろん心配していた。今日の当番の時にパイロット控え室にわざわざミサトがやって来てアスカの様子をしきりに聞いてきたことでも窺える。

処分が始まったばかりということもあるだろうがアスカの様子に今のところ不審な点は見られないとシンジがミサトに言うと納得してミサトは再び仕事に戻っていったが・・・
 
シンジは鍋の中のスパゲッティを丁寧にかき回していた。




「えっ?明日、休みなの?」

アスカが思わずシンジのほうを見る。

二人は食卓で向かい合ってスパゲッティを食べていた。シンジが緊急連絡網の話と今日もミサトが帰ってこない事をアスカに話ししているところだった。

「うん、さっき委員長から電話で連絡があったんだ」

「ラッキー!学校なんて面倒臭いだけだし丁度よかったわ!」

アスカはそういうと目の前のスパゲッティに勢いよくフォークを突き刺す。

「それから今日もまたミサトさんは帰って来れないみたい・・・」

「ふーん…そうなの…」

アスカは興味なさそうに返事をした。シンジもフォークを刺してクルクルと丁寧に皿の中で回す。

今日も二人…なのか…親を亡くしたもの同士の共同生活だけど…何か…最近、シンジと二人で生活してるみたいだ…

ミサトは先日、第3射出エリアで行ったシンクロテストの時に零号機が暴走して以来、殆ど家に帰らずに本部内の職員専用宿舎で寝泊りする日々を送っていた。

2日前に着替えを取りに一旦帰宅したらしいがシンジたちは学校に行っていた為すれ違いで顔を合わせていなかった。葛城家は3人の共同生活でスタートしたが使徒戦や今回のような事故が発生するとミサトは帰ってこない事が多い。シンジとアスカの二人で生活する事の方がこの頃ではつとに多くなってきていた。

「ねえ。ヨーロッパではね、男女が結婚しないまま子供まで作って同棲するケースが結構多いって知ってた?ドイツでも教会にお金を払いたくないっていう理由だけで結婚しない人もいるのよ」

アスカがスパゲッティを突きながらぼそっと話し始めた。パルメザンチーズをかけていたシンジはいきなり話しかけられて思わず手を止めた。

「えっ?そうなの?」

「そうよ。日本に来てアタシびっくりしたんだけどさ。日本て逆に結婚しない方がおかしいって思われるみたいね。正式な家族と社会的にも見なされないみたいだし」

「ヨーロッパは違うの?」

「国によって微妙に差はあるけど基本的にちゃんと家族として成り立ってたら結婚関係が無くてもきちんと権利を保障されるわ。昔は確かにちょっと苦労してたみたいだけど。だから同棲って家族の一つのあり方として社会的に認知されてるのよ」

「ふーん、そうなんだ・・・」

シンジはチーズの缶を心なしかアスカの近くに置いた。アスカは促されるように缶を手に取る。

「ヒカリと話してて思ったんだけどさ…日本てすっごい高いお金払ってホテルとかで結婚式するのね。面白いのがホテルの中にチャペルがあって仏教徒なのに結婚式だけはチャペルだったりするらしいじゃない?なんでもありって感じね、ふふふ」

「確かに・・・和洋折衷かもしれないね」

「ワヨ・・・?アンタ今何て言ったの?」

ワヨウセッチュウだよ。後でまた漢字を教えるけど日本の文化とヨーロッパの文化を混合わせることだよ」

「ふーん、そうなの。でさ、それはそれで一度に色々経験できるから案外面白いのかもね」

元々、日本語はかなり喋れるアスカだったがそれでも共同生活当初は言葉の節々に英語やドイツ語が混じる事が多かった。

最近ではシンジに合わせて殆ど日本語だけで話せるくらいに上達していたし、難しい言葉も操れるようになってきていた。但し、ケンカなどをして感情的になるとシンジは時折ドイツ語や英語でよく怒鳴られる。

中学生用の辞書を引いてもそんな時にアスカが使う英語は全然載っていないから意味がまるで分からない。音から想像して相当ひどいことを言われているような感じだけは伝わるが。

「あのさ…アスカは…どうなの?」

「え?何が?」

「いや・・・だから・・・将来的に・・・その・・・結婚したいとか、したくないとかさ・・・」

「結婚…か…」

アスカは思わずフォークを動かす手を止めた。

アタシ…そんなこと今まで考えたことも無かった…ドレスを着て…神父様の前に行って…マリア様に愛を誓う…そんなことがあるのかしら…停職処分が始まって…生きていくことすら危うい状態…結婚って何…?アタシを護ってくれるもの…?何のためにそんな事をするのよ…意味無いじゃない…

予想外のアスカの長考にシンジはだんだん内心穏やかではなくなってきていた。

何か…僕…誤解させるようなこと…言ったかな…?女の子にいきなり聞くような話じゃなかったかもしれないし…

アスカがふと顔を上げると心配そうに見つめるシンジがいた。色白の顔の中にあるつぶらな大きな黒い瞳…長いまつげ…

アスカは慌ててシンジから目を逸らした。

また…またその目で見る…アンタにそんな顔されると何も言えなくなる…
で、でも何か言わないとこのままだと変に思われる…
どうしよう…

「あ、アタシは・・・特に拘りは無いわよ・・・でも…日本だったらしないと駄目なんでしょ?逆に…何も気楽だから同棲するって訳じゃないし・・・」

そこまでアスカは言った時、はっとシンジの方を見る。

「か、勘違いしないでよね!別にアンタとアタシが今、同棲してるって言いたい訳じゃないんだから!」

「え・・・い、いや・・・そ、そんなつもりは・・・」

アスカの頬は少し赤く染まっていた。

アンタが…アンタがあんな目をするから…調子が狂ったじゃない・・・

「スケベ!」

「な、なんでいきなりスケベなんだよ!」

シンジはアスカの言葉に動揺してフォークを皿の上に取り落とす。色々思い当たることがあるらしい。アスカはフォークをスパゲッティの皿の中に荒々しく突っ込むと腕を組んだ。

「言っとくけどアタシは一応、カトリックなんだからね。アンタ、アタシを襲ったりしたら一生恨むわよ!責任取れるの?アンタ!」

「せ、責任とか言われても・・・いきなりそんな・・・」

「だいたい、アンタは前科者なんだしさ!」

「ぜ、前科・・・もの・・・?」

シンジはアスカの口から予想外の言葉が飛び出して不必要に焦る。

どこでアスカはこんな言葉を覚えるんだろう・・・この前は貞操とか言うし・・・雑誌かな・・・でも漢字はあんまり読めない筈なんだけど・・・

「そうよ!この前アタシのこと押し倒したじゃない!忘れたとは言わせないわよ!」

「あ、あれは事故じゃないか!」

「ふん!何が事故よ!怪しいモノね」

外の風は勢いをさらに増し、雨が混じり始めていた。
 
 
 

 
Ep#04_(7) 完 / つづく

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