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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第8部 with strong determination in your bosom 加持の決意

(あらすじ)
嵐の夜に加持は逗留しているエンペラーホテルの部屋に内務省の旗風を迎えていた。旗風は日本政府が方針転換をして「静かなる者の政策」を捨ててA801発令の閣議決定を視野に入れて活動していることを加持に告げる。
もしこれが本当なら…ネルフは血の海と化す…
加持は決意を迫られていた。


(本文)

壁紙もなくただコンクリートがむき出しの殺風景な部屋に綾波レイは一人フローリングの床に直に座ってガラス戸に打ち付けられる雨を見ていた。時折吹く風がガラス戸を押し、金属が軋む様な音を立てていた。

電気を付けていない部屋はガラス戸から差し込む外の街灯の明かるさだけだった。

コンクリートの床とすっかりワックスも剥がれてささくれ立ったフローリングは容赦なくレイの体から熱を奪い続けていた。それは飽くことを知らず永遠に続くような気さえした。

「・・・冷たい・・・生きる事は・・・冷たい事・・・?」

ガラス戸の雨だれは次第に増えていき点が線になり、そして線が幾重にも連なっていつしか全面を濡らしていた。

音の無い世界で生活しているレイは時々訪れる騒がしい夜に戸惑っていた。

「こんな夜は・・・これで5回目・・・何をあなたは話しかけているの・・・」

やがてレイはその場に横たわり静かな寝息を立て始めた。
 


 
「えっ?ファーストと連絡が付かないの?」

洗い物をしていたシンジはリビングから聞こえるアスカの声に思わず振り向いた。アスカはネルフから支給されている携帯でさっきからヒカリと電話をしている。

「オッケー、それじゃこっちから連絡してみるわ!ありがと、ヒカリ!Danke!Tschüss!」

パチッという携帯の閉じた音が聞こえてきた。

「ったく、何やってんのかしら!」

「綾波がどうかしたの?」

アスカがジロッとシンジの顔を見ると大げさにため息を付いた。

「ファーストに緊急連絡網でヒカリがさっきから何回も電話してるのにぜんぜん出ないらしいのよ!シカトしてんじゃないの?あの女!全く!」

「そうなんだ・・・それじゃ綾波のグループだけ連絡が行き届かないんじゃ・・・」

「ヒカリがファーストの次の子に連絡して回してるからA組で連絡が付いていないのはファーストだけよ!」

アスカはそういうとヒカリの電話を取る為にミュートにしていたTVにリモコンを向ける。息せき切ったようにTVから音が流れ始める。

「そ、そうなんだ・・・それじゃ綾波が困るよね・・・明日は当番だけど午後からだから…午前中はそのまま学校に行くと思うし…」

「ほっとけばいいのよ!電話に出ないのが悪いのよ!」

「でもさ・・・そういう訳には行かないんじゃ・・・」

「知らないわよ!そんなの!明日一人で学校に行けばいいのよ!」

「僕、電話してみるよ・・・」

チャンネルを忙しく操作していたアスカの手の動きが止まる。

「・・・随分、優しいのね・・・ファーストに・・・」

「え・・・そ、そうかな?」

アスカはキッとシンジを睨む。

「アタシは知らないわよ!アンタしたいんなら勝手にすればいいじゃないのよ!ふん!」

そういい残すとアスカはTVを消してシンジの横を荒々しく通り過ぎて自分の部屋に入っていった。部屋に入ったアスカは勢いよく襖を閉めるとそこにもたれかかって部屋の床に視線を落す。

「なによ・・・ファーストなんかに・・・優しくして・・・」
 


 
シンジは自分の部屋に行き、置いてあったネルフの携帯からレイの携帯を呼び出した。

ネルフ同士の連絡の場合は相手が電源を切っていても自動的に電源が入って圏外でも無い限り呼び出すことが可能になっていた。

5回、6回、7回とコールするがやはりレイは出ない。12コール目にシンジが諦めて電話を置こうとしたその時レイの声が聞こえてきた。

シンジは慌てて電話を耳元に戻す。

「もしもし?綾波?」

「こんばんは、碇君・・・」

「あ、あのさ・・・明日なんだけど、台風が近づいて来てるから学校がお休みになるんだ」

「・・・」

「あ、綾波?聞いてる?」

「・・・台風・・・」

「うん、とっても大きな台風が来てるんだ」

「・・・」

「な、何かさ・・・委員長が綾波に何回も連絡してたらしいんだけどさ・・・その・・・」

「・・・ごめんなさい・・・」

「えっ・・・」

「・・・ごめんなさい・・・」

「そ、そうなんだ・・・気が付かなかったんだね、きっと。明日はお休みだから・・・」

「・・・分かったわ」

「じゃあ、切るよ・・・」

「碇君・・・」

「な、何?綾波・・・」

「生きる事は・・・冷たい事・・・?」

「つ、冷たい事?・・・ち、違うと思うよ。どっちかというと暖かい事だと思うけど・・・」

「暖かい事・・・ぬくもり・・・安らぎ・・・」

「うん・・・きっとそうだと思う」

「・・・そう・・・ありがとう・・・」

「じゃあ、おやすみ」

「ごきげんよう・・・」

綾波・・・あの部屋で一人何やってるのかな・・・

シンジはネルフの携帯を自分の机の上に置きながら殺伐としたレイの部屋を思い出していた。
 


 
「珍しいですな。旗風さんの方から訪ねて来るなんて・・・」

加持は逗留している第二東京市内のエンペラーホテルの部屋に不意の来客を持っていた。内務省公安調査局の旗風だった。

日本の内務省は極めて大きな組織体だった。セカンドインパクトの発生に伴い混沌とする海外情勢と国内統治の強化が矢継ぎ早に打ち出され、省庁再編がまさに垂直立ち上げで行われたという背景があった。

内務省は旧警察庁、旧公安庁、旧海上保安庁などが統合され、PSI時代において主に国内の治安維持、警備、そして諜報活動を担当していた。

このPSI時代のもう一つの特徴は内閣官房の機能が大きく拡充していることも挙げられる。各省庁はPSI時代前のようにばらばらに官邸に出入りする事が出雲内閣以降激減しており、内閣官房との関係がキーになっていた。

「加持君。君に折り入って頼みがある。時間も無いので単刀直入に言うがネルフの中に何があるのかね?知ってることを教えてもらえないか?」

「本当にいきなりですね。もう少し事情をお伺いしても宜しいですか?」

「君も知っているように我々としてはバレンタイン条約発効後の現在の情勢を深く憂慮している。使徒しかり、ネルフしかりだ」

「まあ、そうでしょうな・・・」

「バレンタイン体制は当時の出雲内閣において外務省と内閣官房主導の中で進められた。我々のところや国防省は基本的に蚊帳の外で、そのうちに出来てしまったものなんだ。今でも折に触れて痛恨劇として紹介される事案だからね」

それはそうだろう・・・鋼鉄宰相が強力に押し進めた"静かなる者の政策"の基本的な考え方じゃないか・・・国連に偏りすぎず、さりとて日米関係に支配されない、まさに新時代を独立独歩で生き抜く国家を作るという骨太の方針を骨抜きにしようとする国内勢力を排除した結果に過ぎん・・・それを痛恨劇とはな・・・どこまで犬に成り下がる心算だか・・・

加持は旗風の話を聞きながら心の中でそう呟いていた。口元に僅かに嘲りの笑みが浮かぶ。

「ネルフでEvaが独占的に開発、運用されることは条約で担保されている。しかし、その活動が始動した途端に使徒戦が勃発して日本は未曾有の危機に瀕している。係る状況は国民を初めとして政界でも非常に懸念しているんだ」

というよりもあんた達が国益省益に囚われ過ぎってことでしょう・・・PSI時代の幕開けと共に混乱の坩堝と化して弱り果てた世界を弱いもの同士が本質的に補完し合う路線を否定し、これに乗じて覇権を火事場泥棒よろしく列強と競い合おうとした・・・その新時代の抑止力としてEvaを位置づけていたのにそれをみすみす世界に提供した世紀の愚か者とあんた達が事有る毎に罵っている「出雲重光」の理念は一生あんたがたには理解できんだろうな・・・だが、もう一人、この理念を理解していない御山の大将がいるがな・・・

「我々としてはバレンタイン体制の抜本的な見直し時期に来ていると考えている」

加持は旗風の言葉にピクッと反応して目を向けた。

「つまり、静かなる者の政策をお捨てになると・・・」

「まあそう思ってもらってもいい。いわゆるA801発令の閣議決定を視野に入れている」

A801発令だと?!何とまあ奴さん本気なのか・・・日本政府は何処まで考えているんだ・・・A801発令は日、独、米だけじゃない、いわゆるValentine Councilと呼ばれる人類補完委員会の委員を出している国の政府だけが有するネルフに対する唯一にして最強の制裁措置…

だがそれ故に発令には高いハードルがある…A801発令はその国の主権範囲におけるネルフの指揮権剥奪と排除をも可能とするが、人類補完委員会の事前承認とその政府機関の承認、日本では閣議決定だが、この二つが必要要件になる。例え、人類補完委員会がA801発令を勧告してもその国の政府が承認しなければ絵に描いた餅・・・

「それは旗風さんの腹案ですか?」

「既に僕だけのレベルに留まっていない、とだけ言っておこう」

「なるほど・・・」

これはどこまでの話なのか・・・探る必要があるな。しかし、根が深そうだ・・・日本が路線転向となると益々世界はきな臭くなる・・・いやその前にネルフ自体が危険に・・・

「君から提供されるネルフ関連情報は我々としても非常にあり難く思っている。なんと言っても国防省が誇るオリハルコンでも入手できない情報も多いからね。そこで君には是非とも調べて欲しいことが2つある。一つは、使徒がTIPを起こすことを目指して襲来しているというが、具体的にはネルフの中の何を目標としているのか、ということだ。公式にはアダムを拘留しているということだがどこまで信用していいのか分からんのだ」

やはりネルフは目の上のコブってことですね・・・今のネルフを潰してもTIPを防げるかどうかのケーススタディーをするつもりなんだろう・・・こいつは人類補完委員会、いやゴーストとどこまで話が付いているんだか・・・

「それからもう一つは、現在、日本国内にあるEva3体はA801発令後は日本政府が接収する方向で考えたい。ついてはその為には何を何処まで用意するべきかという事を事前に知っておきたいんだ」

「!!」

「まあ僕個人としてはネルフ解体論まで踏み込めたらとは思っているがね」

コイツ・・・ブラフか?なぜ俺にここまで・・・まさか利害関係者間で既に密約が成ったとは思えんが・・・ということはやはり単なる指揮権の委譲だけではない・・・本部施設の排除をも視野に入れている・・・

静かなる者の政策はネルフ本部、いや碇ゲンドウが出雲重光、すなわち今の自由党政権と交わした密約によってA801発令を2016年3月31日まで日本政府は留保するということになっている。だからこそ碇ゲンドウは人類補完委員会と例え仲たがいしても直ちに危険にさらされることがないと踏んでいるんだ…


アダム、ロンギヌスの槍、Eva、たとえカードを多く持っていたとしても対人攻撃に対してあまりにも脆弱なネルフの現状は分かっている筈だ。それはひとえに静かなる者の政策に頼っているに過ぎん…それが崩れると言うことか…もしこれが事実だとすると…碇ゲンドウ…果たしてこれでもあなたのシナリオ通りですか?俺はそうは思わない…これは明らかにあんたの誤算になるはずだ…そしてネルフは…

血の海と化す…

加持は感情を一切表に出すことなく屈託の無さそうな笑顔を作って旗風の顔を見た。

「はっはっはっは。こりゃ参った!旗風さん、どういうおつもりですか?仮にも僕は今、ネルフの人間ですよ?その僕にネルフ解体論はないでしょう。失業者にでもなれって仰るんですか?」

「君さえよければうち(内務省)に帰ってきてもらってもいいんだがね…僕からうちの大将(事務次官)にとりなしてもいい・・・」

旗風は加持からルームサービスで運ばれてきたコーヒーに目を落し、クリームを大量に入れた。

「これはこれは・・・不肖の私をヘッドハントして頂けると?」

旗風はコーヒーカップを口元に持っていくと威嚇するように加持を見た。

「加持君。僕は本気なんだ。君も冗談なんかを言っている場合じゃないと思うがね」

「これは失敬・・・」

「僕が言っているのは君もそろそろ態度を明らかにする時期じゃないか、ということだよ…ゾルゲごっこもそろそろ終わりにした方がいい」

「・・・仰るとおりで」

加持は目を閉じるとタバコを懐から取り出し火を付けた。

言う事を聞かなければ警察局外事部(対諜報員活動担当)マターってことですかね・・・

加持がガラス戸の外に目をやると第二東京市は大荒れだった。激しく雨がホテルのベランダに振り込んできていた。

やれやれ…また…厄介な仕事が増えそうだな…俺も覚悟を決めなくちゃならない様だ…





シンジが自分の部屋を起き出したのは11時前だった。

今日は平日の木曜日だったが台風の接近で学校が休校になっていた。休みの日は用事が無い限りアスカは同居人を起こしに来ないから自分で起きなければならない。

すっかり遅くなっちゃったなあ・・・

シンジは寝ぼけ眼を擦りながらキッチンに向かっていく。リビングを覗くとのソファの端からアスカの白い足が見える。

「おはよう、アスカ」

返事は無かった。シンジがソファに近づいて行くと雑誌を読んでいるうちに寝入ったらしいアスカの姿があった。アスカは紫のキャミソールと珍しくジーンズの短パンを穿いている。

窓の外は風雨が激しくガラス戸が軋み、叩きつけられる雨の音が聞こえている。台風が最接近している頃合だった。

こんな騒がしい中でよく寝てるなあ・・・

シンジはリビングのクロゼットの中からタオルケットを出すとそれをアスカにそっとかけた。そして朝食を摂る為にキッチンに向かう。

そこでシンジはハッとする。

アスカは休みの日の朝食を一人で簡単に済ませるが、トーストの買い置きを使うかあるいはそれが無い場合は炊飯器の中の白米にふりかけなどをかけて食べていた。

ところが今日はトーストの買い置きがなかった筈で、しかも昨日の夕食はスパゲッティだったためシンジは白米も炊いていなかった。

アスカは白米の炊き方を知らなかったから…

朝から何も食べていないんだ・・・でも、どうして僕を起こさなかったのかなあ・・・

今日の様にトーストも白米も休日の朝に無いというケースはこれまでにも何回かあり、その時は容赦なくアスカはシンジを起こして炊事させていたのだ。

悪いことをしちゃったなあ・・・お昼も近いしとにかくご飯を炊かなきゃ・・・

シンジは早速、炊飯の準備に取り掛かる。手際よく洗米すると炊飯器をセットした。そして冷蔵庫を開けると近くのコンビニで売っているミックスサンドとパックのコーヒー牛乳が入っている事に気が付いた。

あれ?何でこんなものが・・・

シンジがミックスサンドを取り出すとそこにはマジックで「ばかしんじ」と書かれてある。シンジは更にコーヒー牛乳も取り出すとやはり同様のことが書かれてあった。

ま、まさか・・・この嵐の中を外に買いに行ったんだ!

シンジはビックリした。台風の最中という事もあるがアスカが今までに葛城家の住人の為にこんな事をした事は無かったからだ。そしてアスカがなぜショートパンツではなくジーンズを穿いているのかもやっと分かった。

びしょびしょになったから服を着替えたんだ・・・

アスカがどうして今日に限ってこんなことをしたのかシンジには全く理解出来なかった。ともかく、せっかくの好意に甘える事にしてシンジはミックスサンドのビニールを開けた。
 


 
Ep#04_(8) 完 / つづく
 
 
 

(改定履歴)
22nd April, 2009 / ハイパーリンク先の修正
28th May, 2010 / ハイパーリンク先の修正
3rd Sept, 2011 / ハイパーリンク先の修正
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