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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第1部 der Faust メフィスト・フェレスの亡霊


(あらすじ)

アスカの停職処分が始まる直前、冬月は志摩情報諜報部長を伴ってアメリカ政府を公式訪問していた。そこで第二支部消失事故と参号機接収を特務機関ネルフの権限として通告。事実上のアメリカ政府との断行交渉になっていた。これに伴い、ミサトは日向をアメリカに派遣して国連軍による空輸の手配を急がせることになる。
一方、加持はその模様を志摩から聞き、Evaの技術を巡る事情を志摩に話し始める。
(本文)

話はアスカの停職処分が始まる直前まで遡る…


冬月がシンクロテスト時に零号機が突然暴走を始めて本部の第三射出エリアが大破したということを知らされたのは志摩情報諜報部長を筆頭とするネルフの情報部員らと米国政府と国連を巡る出張から帰国した直後だった。

第二新東京国際空港(別名:新羽田/旧松本空港)の到着ゲートを潜り、冬月が携帯に電源を入れた途端、間髪いれず携帯メールを次々と受信していくのが分かる。

冬月は大袈裟に肩をすくめて苦笑いを浮かべた。その光景を見ていた志摩が冬月に話しかけてきた。

「副司令もお忙しいですな」

「まあ人気者というよりも貧乏暇なしといった所かな」

冬月がポケットに携帯を仕舞おうとしたその瞬間、今度は電話がなり始めた。

「やれやれ少しは年寄りを労わって欲しいものだよ・・・」

志摩を始めとする米国派遣団の一同が出張の緊張から解放された時だった。冬月のぼやきは笑いを誘った。

「もしもし、冬月だが・・・」

電話の相手はネルフ本部の北上総務部長だった。しかもいきなりLevel S通信だった。

「副司令、ご帰国早々申し訳ないのですが明日、緊急幹部会が招集されましてお疲れのところを申し訳ないのですがご出席を頂きたいのですが?」

「緊急幹部会かね?穏やかじゃないね。何があったのかね?」

「それが・・・Eva零号機がシンクロ試験中に突然暴走したと作戦部からの報告を聞いております。被害の詳細は不明ですが少なくとも第三射出エリアは大破状態でして・・・」

「何だって?それはいつのことだね!」

「副司令が移動中の時です。既に離陸された後だったので御連絡が今になりましたが・・・」

電話の向こうで北上が恐縮しているのが分かる。冬月は小さくため息をついた。

「わかった・・・こんなタイミングで連絡をもらうとはまさに天佑とでもいうべきかな・・・今日、自宅で確認しておくから詳しい内容と結果を送っておいてくれ給え」

「わかりました。ご配慮深謝致します」

冬月は不安そうな顔をしている志摩たちを見た。

「明日は緊急幹部会が招集されるそうだ。君も出ない訳にはいかんだろうな」

「本当ですか!一体何が・・・」

「それは帰りの車の中で話した方がいいだろう。どうせお迎えも多いだろうしな・・・」

冬月が到着ロビーに姿を見せると多くの記者たちが既に集まっておりたちまち一行は揉みくちゃにされる。

「冬月さん!今回のアメリカで起こった大規模な事故についてアメリカ政府は何と?」

「ネルフが条約に基づいてEvaをアメリカから引き上げることに関してサラトガ国務長官が遺憾の意を表明していますが!それについてはどうお考えですか?!」

「国連から公式発表があった通りだ。特にここで何も話すことはない」

「冬月さん!お願いしますよ!何か一言!」

「お願いします!世論はネルフに対して厳しい目を向けていますよ!説明責任があるんじゃないですか?第三東京市が安全であるという保証は?」

追いすがる記者たちを押しのけながら保安部の用意していた車に乗り込んだ。車の中で一息ついた冬月は隣に座っている志摩に手短に零号機の暴走の件を話した。

そして話し終わると自嘲気味に笑みを浮かべた。

「説明責任か…全く便利な言葉だね…いつからこんな潰しの効くような言葉になったのか…知ったところでなんになる…人類と使徒との戦いは我々にしかできん…」

冬月は志摩の心配そうな表情に気が付くと肩を竦めてわざとおどけて見せた。

「全く、私が海外出張に行くと良からぬことばかりが起こるな・・・」

「そんな事はありませんよ。たまたまじゃないですか?」

「しかし、2回立て続けに起こるとね・・・さすがに・・・」

前回は第二支部の事故直後に渡米して米国の危機管理対策庁、国家安全保障庁、国防総省、CIA、そして最後にサラトガ国務長官らと次々に非公式会談をもって想定される事故原因を説明して回っていた。

当然に通り一辺倒な調査結果と事故に伴う参号機の接収通達にアメリカが納得する筈もなく非常にタフな出張になった。そして帰国した直後にアスカが起こした乱闘事件に対する査問委員長就任をゲンドウから指示されたという報に触れたのだ。

今回のシンクロテスト時における零号機暴走の報で二例目だ。

「御払いでもしてもらいますか?副司令・・・」

その言葉に驚いて冬月は窓の外に向けていた視線を志摩の顔に向けた。

「・・・君、本気で言っているのかね?」

「ええ・・・私も最近ろくな事が無いのでずっと考えていたものですから・・・」

冬月は少しの間、思案顔をしていたがやがて運転手をしている保安部員に話しかけた。

「君、済まんがこれから近くの神社に寄ってもらえんかね?」

「了解しました。本当は箱根神社がネルフとしては定番なのですが今からですと一寸遠いですから第二東京市近くの新川崎大師が宜しいかと・・・あの、ところで副司令・・・」

「ん?何かね?」

「その・・・自分もご一緒しても宜しいでしょうか?」

「そりゃ構わんが・・・君も何か心配事かね?」

「はあ・・・ろくな事が無いもんですから・・・」

「何だ、君もかね?やれやれ、どうやらネルフ全体でお払いした方がいいらしいな・・・」

冬月を乗せた車は記者たちの車を引き連れて新首都高を北上して行った。

「新川崎大師ねぇ…長野の上に昔の東京をそのまま作るつもりなのか・・・くだらん連中だ…なぜそれほどまでに東京に拘る必要がある…私には分からんよ…それほど先に進むのではなくもとの姿に戻る事に固執するのか…老人たちと一緒だな…」

冬月は嘲りの笑みを口元に浮かべていた。

 


冬月の出勤はいつも早い。

そのため冬月の秘書は冬月本人よりも早く出勤しなければならなかった。一番遅いミサトとは対極にあると言ってもいいが、優雅なひと時を過ごす様な暇は冬月になかった。

絶対君主として君臨しているゲンドウに対しての取り成し事から些細な業務上の相談事に至るまで冬月は面倒臭がらずに気軽に応対していたため、面会を求める者が冬月の出勤時間に合わせて長蛇の列を作るのが毎朝の風景になっていた。

それらをゲンドウとの打ち合わせ時間が来るまで淡々と捌いていた冬月はやがて席を立って司令長官室に向かっていった。

第二支部の事故と今回は公式に伝えたEva参号機の「接収」問題は志摩の危惧通り極めて深刻な溝をアメリカとの間に作った。

事実上の「決裂」、いや「手切れ」と言ってもよかった。

その善後策についてゲンドウと協議する必要があった。冬月は司令秘書に案内されてゲンドウの執務室に入る。

「ご苦労だった、冬月」

ゲンドウはいつもの様にデスクに座ったまま冬月を迎えた。

「今回ばかりは少し老体には応える仕事だったよ」

二人だけになるのを確認すると珍しくゲンドウから話を切り出してきた。

「今日の緊急幹部会の前に話しておきたい事がある。例のPhase2 プログラムの件だが・・・」

「Phase2?ダミーシステムかね?本部内での暴走の話は聞いたぞ。あれは大幅に見直しをかける必要があるだろうな」

「いや・・・既に赤木博士には指示済みだがレイを使うことにする」

「レイ…ファーストチルドレンを…碇・・・本気なのか?」

「我々には時間が無い・・・止むを得ん…Seeleよりも開発を急がせる必要がある」

「確かに零号機のコアは異質のものだ。シンジ君が乗り込んで暴走したとしても不思議ではない。元々が無謀だったのだよ。しかし、だからといってファーストチルドレンをベースにしたとしても万全とはいえんだろう?第一、レイの出自を考えれば初号機を恒常的に動かせれるかどうか…今回ばかりは碇、私も君の意見には同意できんぞ…」

ゲンドウは視線だけを冬月に向けた。

「言った筈ですよ・・・先生・・・手を止める訳には行かないんですよ…」

「それは分かっている。私もそれは十分承知の上で言っているんだ。だが制御出来ん様ではどうにもならん。我々が滅びる事になる」

「どちらに転んでも大勢に影響はないじゃないですか?」

「何だと?」

ゲンドウはデスクから立ち上がると司令室の端に置かれている木目調のダッシュボードの引き戸を開けて冷蔵庫から炭酸水のペットボトルを取り出してタンブラーに注いだ。

「座して死を選ぶかあるいは進むか、結局はその程度でしかない。何もしないというのは愚か者のすることだよ」

「碇、君はダミーシステムになぜそんなに固執するのかね?」

「現在のチルドレンに何らかの理由で欠員が生じたとしても著しい戦力劣化に繋がらない、というのは一つの理由だ…」

炭酸水の入ったタンブラーを二つ打ち合わせ用のテーブルの上に置くと一つを手にとってもう一つを冬月に勧めた。

「それから暴走という事象そのものを掘り下げれば人間の精神というものに極めて不確定な要素が多いことが挙げられる。条件を一定に保つ事が難しい以上、現状に於いてその揺らぎを最小限に食い止める効果が期待できる」

冬月は打ち合わせテーブルの椅子を引き出して座るとタンブラーを手に取った。

「しかし、それはあくまでダミープラグに用いるベースが理想的である場合に限るだろう。それがファーストチルドレンであるという確証はいかな君でも得られまい」

「確証は無い。だがn数は少ないもののシンクロ率的に希望が持てるデータは得られている。やるしかない。Mental duplicationを」

「悪夢が再び訪れなければいいがな・・・私にはこれ以上言葉が無い・・・」

冬月はタンブラーを煽ると再びゲンドウの方を見た。ゲンドウは自分のデスクに座ってそこから壁にかけているセフィロトの樹の版画を見つめていた。

「ところでアメリカの件だが・・・」

「奴らの反応は想定の範囲内だ。取るに足らんよ」

「そうか・・・しかし、もしアメリカがSeeleと組んで我々の包囲網を作ると厄介だぞ…」

「それまでに計画を完成すれば問題ない…シナリオ通りに進める…」

「シナリオ通り…か…では後ほど幹部会で・・・」

冬月はタンブラーをテーブルに置くとそのまま司令長官室を後にした。

君はシナリオ通りというがシナリオ通りに行った歴史はないぞ…碇…何故だか分かるかね?人間自体が未完なものだからだよ…君はアナログ的なものを軽視するが、それは人間の情愛、本質から目を背けているに過ぎん…それがシンジ君に対する厳しい接し方に繋がっているんじゃないのかね…

君は平静を装っているが…私にも何かを隠している…君とゲオルグとの間に何があるのかね…それがアスカ君に対する酷薄な扱いに繋がっていると思う私は穿ち過ぎかね?…

自分の部屋に戻ってきた冬月の顔色は優れなかった。

しかし…Mental duplicationをまた行う事になろうとは・・・リツコ君が既にあそこで始めているんだろう…ユイ君・・・結局、碇を諌めることが出来たのは君だけということか・・・

足取りが重そうに戻ってくる冬月の姿を見とめると女性秘書が自分のデスクから立ち上がって声をかけてきた。冬月はその声で現実に引き戻される。

「あの副司令・・・」

「ん?ああ、何かね?」

「お言い付けの通りにお札をお部屋に貼って置きました」

「そうかね。それはどうもありがとう」

ボトッ!

冬月が部屋に入ってドアを閉めた途端、昨日志摩たちと新川崎大師でお払いをしてもらった後で購入した「安全祈願」のお札が冬月のデスクの上に勢いよく落ちてきた。

「・・・」

「す、済みませんでした!かなり強力な両面テープで貼っていたんですけど・・・」

「すまんが保安部か作戦部の腕利きに声をかけて釘で打ち付けて置いてくれんか・・・」

「は、はい!」

居た堪れなくなったのか女性秘書は走って部屋を後にした。冬月の顔は引きつっていた。




暫くして緊急幹部会が招集された。

その席上でミサトは日向が作成した技術部と作戦部を中心に構成された先遣隊名簿を各部長に配布、日向を筆頭に先遣隊をEva参号機空輸の手配のために派遣することをゲンドウから承認された。


 

志摩と加持は情報諜報部の志摩の執務室で今般のアメリカ側との折衝の状況について意見交換をしていた。

志摩は片腕の加持を今回の渡米団の筆頭にリストしていたが本部長の冬月からゲンドウの許可が得られなかったと聞いて少なからず落胆していた。

「それでは実質的にはアメリカとの交渉は決裂ですな」

加持が不敵な笑みを浮かべていた。

「そうだ。残念ながらな。僕と君が危惧していた通りの展開になったよ。僕としては極力このIssueは穏便に済ませたかったんだけどな。司令があの調子では・・・」

ファラオはついにアメリカに絶縁状を叩き付けた。しかも今回は正式にだ・・・もう後戻りは出来ない。これで米独の機軸で動き出すのは間違いないな・・・しかし、歴史的にゴーストとアメリカがどう組むか・・・この状況次第では本部が危険になるかもしれん・・・

静かなる者の政策がある限りネルフ本部の最大の弱点である直接占拠は回避できるが…世論はネルフに厳しいのも事実だ…自由党が支持を失っているにも拘らず解散を渋っているお陰でどうにかなっているようなものだが…この前提が崩れれば下手をすれば全員ファラオと心中・・・

どこまでも業な男だ・・・一体、何人の人間を不幸にすればあんたは満足するんだ・・・メフィストフェレスの亡霊め・・・俺もこんなところでうかうかしてはおれんな・・・

加持は心の中で呟いていた。

「ところで部長。今回の件は事故と接収を同時に進行して一見して分かり難くなっていますが、これはカモフラージュと思っていた方が大局を見誤らないで済むと思いますよ。まず司令の腹は別々だと思っておられた方がいいでしょうな」

「えっ?加持君、そりゃ一体どういうことだい?事故に伴って参号機接収をワンパックというのが司令の方針なのは君も知ってるだろ?」

「第二支部の事故は起こってしまった事ですから仕方がありませんが、本部からしてみればむしろ好都合な部分もあります。ネルフ発足時の密約の中身はアメリカに実質的な基礎研究所として機能していた第二支部とアッセンブリーを軸にしている第一支部を置くことでした。これに双方が合意してバレンタイン条約反対の急先鋒だったアメリカがお得意の不節操で賛成に方針転換し、体制は完成しました。バレンタイン体制発足後、アメリカはこのお陰でEvaの開発製造においてかなり実利を得ましたからね。にも拘らずますますアメリカが勝手なことを始めたとしたら司令としても面白くないでしょうな。つまり司令にとっては勝手に吹っ飛んだもの等はどうでもよくて、むしろ好都合だった、というのが本音じゃないですか」

「なるほどな・・・確かにアメリカと本部は事あるごとに牽制し合って来た経緯もあるしね。君の意見は一理ある。それじゃ、参号機の接収についてはどう見ているのかね?」

「司令としては技術拡散防止以外に無い・・・でしょうな・・・」

「技術拡散?そりゃ考えすぎだろう。第一、Evaの動力機関に関しては全ての支部に情報開示しているじゃないか?彼らも作ろうと思えば簡単に作れるだろ。それを今更、支部間で拡散防止なんて・・・」

ふふふ。世界はみんなそう考える。当事者同士を除いてな・・・

「それがさにあらず・・・ちゃんとブラックボックスが動力機関にはあるんですよ」

「何だって?ブラックボックスだって?そんなものは今まで一度も聞いた事も無いぞ・・・」

さて、ここから本題ですよ、部長・・・しっかり聞いておいて下さいよ・・・

「部長。言うまでもありませんがEvaの動力機関は電気等の外部エネルギーを得てそれを内部消費可能なエネルギーに変換してEvaの生体動力、いわゆる素体に送ります。簡単に言えばEvaの心臓です。また、エントリープラグ内の信号をL.C.L.を介してコアに伝え、コアから動力機関に信号が送られ、その信号に基づき機体制御を行うこともおぼろげながらも理解されている筈です。ところがもう一つこれらに加えて重要な役割があったとしたら・・・ここまではさすがに限られた人間までしか理解していません」

加持は志摩の様子を注意深く伺った。そして少し哀れむ様な目をした。

志摩部長…今まで不肖の私をお引き立て頂きありがとうございました・・・これまでのご高恩に報いる意味でこの情報をお教えしますよ。もっともあなたにとっては悪魔との契約になるかもしれませんがね・・・

「コア自体に自分を維持、制御する力が無いとしたらどうします?」

「え!それは・・・一体どういうことかね・・・?」

志摩は思わずビックリして加持の顔をまじまじと凝視する。

「コアはあくまでパイロットの思考(魂)をEvaに伝える脳の様な仲介役の役割をしています。つまりパイロットの思考を読み取り、また逆にEvaの状況を神経回路を介してパイロットに伝える。いわゆる機体とパイロット間での精神的物理的な同期状態(ハーモニクス)を作る。これがシンクロと呼ばれる現象です。ところが人間でもそうですが脳の内部にエネルギー源はない。脳が自分自身を維持出来る様にエネルギーを注入してやり、尚且つその量が過不足なく適切になる様に制御してやる必要がある。いわばコアの生命維持装置の役割を同時に動力機関は担っているんですよ」

「そんな・・・バカな・・・だって、君、コアの書き換え等、コア絡みの作業は普通に行っているじゃないか・・・コアは独立したものじゃないのかね?その理屈ならコアを巡る作業と言うのはあまりにも危険…」

「おっしゃる通りです。ふふふ。コアの書き換えというのには限界があります。非常に簡易的な作業ですよ。パイロットに合わせたコアを用意するとなるとコアのサルベージが必要になる。こいつが極めて危険なんです。何故なら動力機関の制御から一旦切り離すからですよ。この時にコアが何らかのきっかけを与えられて臨界事故を起こせば今回の様な事を引き起こす訳ですよ」

・・・もっとも、コアの種類によってその危険度は異なるが・・・な・・・それに逆を言えば動力機関の暴走で爆発を引き起こすことも可能・・・それがコアの臨界現象を引き起こす直接的な原因にもなるというわけだ。この理屈を利用すれば・・・セカンドインパクトは究極の動力機関と究極のコアの組合せで起こったと考えてもいい・・・四号機の臨界事故が大きかったのは恐らくS2機関特殊なコアによるものが原因・・・だが、ここまではあなたが知る必要は無い・・・

加持は志摩とは対照的に平然と言葉を続けた。

「お分かりになりましたか?これがEvaの動力機関の中にあるブラックボックスの機能なんです。このコンポーネントなくしてEvaはEva足りえない。つまりコアと動力機関は別ちがたく結びついているんですよ。司令の技術拡散防止はこのブラックボックスの秘密保全に他ならない。だからアメリカ政府とのJDPをご破算にしてもこのブラックボックスをバーターに使えば周辺の状況をまだ有利に運ぶ事が出来る、とまあこんなところじゃないですかね?司令の腹の中は。むしろ「接収」の方が極めて高い関心ごとでしょうな。事故よりも・・・」

そしてこのブラックボックスを巡ってバレンタイン体制は綱引きを繰り返していた・・・

「か、加持君。君、そんなことを一体何処で・・・」

「私はネルフの各支部に非常に太いパイプがありますからね。私が今話したことはこのメモリスティックの中にデータが入っています。これはお渡しします。しかし、部長・・・」

「な、なにかね?」

志摩は加持が差し出した紫色のメモリスティックを見ていたが顔面蒼白だった。

「このお話は司令や副司令にはなさらない方が御身の為ですよ。警戒されてしまいます・・・私の様に・・・」

「じゃ、じゃあ・・・君はどうしてそんな話を私にするのかね?」

「なぜって・・・それはあなたが私の上司だからですよ。はっはっは!」

志摩はまるで目の前に悪魔が現れたかの様に加持に恐怖を感じていた。

司令が警戒するのも分かる気がする・・・どうりで監視を怠るなと仰る訳だ・・・しかし、この慧眼・・・やはり危険かもしれないがネルフには必要な人材だ・・・

加持は志摩に一礼すると情報諜報部にある志摩の執務室を辞去して行った。

御神体の状況を確認次第、俺はここから引き上げた方がよさそうだな・・・後は頼みましたよ。部長殿・・・ふふふ・・・
 
加持はネルフ本部にある職員専用の駐車場に駐車してあった先日買ったばかりの赤いクワトロに乗り込んだ。5つ先にはまだミサトのプジョーが止まったままになっている。新車の加持の車とは対照的に洗車した形跡すら見られない上にあちこち凹みや傷がついていた。

第三使徒襲来時にシンジを迎えに行って爆風でひっくり返ったと加持はミサトから聞いていた。それに加えて泥と塵に塗れて汚れきっている。車を買うまではミサトの車に同乗していた加持だったが、あまりの汚さにドアを開けるのも正直なところ億劫だった。

「やれやれ…少しは手入れをしろよ…葛城…どうせ俺にまた洗わせるつもりなんだろうがな…」

自嘲気味に笑うと加持はエンジンキーを回す。カーステレオからラジオの音が聞こえてくる。第三東京市に今年に入って5つ目の大型台風が接近しているというニュースだった。

「今週の水曜か木曜あたりに来るのか。大人しくしてろってことかな…」





Ep#05_(1) 完 / つづく

(改定履歴)
02nd July, 2009 / 表現修正
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