新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第10部 Sweet and Bitter 追憶
(あらすじ)
ミサトとリツコの二人は二次会の後でショットバーに入っていた。グラスに写る自分の顔を見つめながら過去に思いを馳せるミサト…
セカンドインパクトの現場を目撃したミサトは嫌悪していた父親、そして、深く関わることで傷つくことを恐れていた加持のことを考えていた。
「あんたって何考えてるの」
「俺を信じろ。昔のままなんだ」
人影のない静まり返ったオフィス街に映る加持とミサトの影が重なる。
(あらすじ)
ミサトとリツコの二人は二次会の後でショットバーに入っていた。グラスに写る自分の顔を見つめながら過去に思いを馳せるミサト…
セカンドインパクトの現場を目撃したミサトは嫌悪していた父親、そして、深く関わることで傷つくことを恐れていた加持のことを考えていた。
「あんたって何考えてるの」
「俺を信じろ。昔のままなんだ」
人影のない静まり返ったオフィス街に映る加持とミサトの影が重なる。
(本文)
「今日のマユミは綺麗だったわね…」
「そうね…」
「これで同級生の中で結婚してないのってさあ。あんたとあたしだけなんじゃないの?」
「残念だけどまだユミカとアミがいるわ」
「…」
ミサトは結婚に関して話を振ってもいつも興味が無い様な素振りを見せるリツコが同級生の結婚の状況を正確に把握していることに少なからず驚いた。
リツコの視線はどことなく虚ろだった。
思えばリツコもあたしも家族に関しては本当に縁がないわね…ネルフがまだ前身組織だった時にリツコは唯一の肉親だった母親を失ってるし、あたしは南極調査隊に加わって目の前で父さんを亡くした…シンちゃんもアスカだって…あたしの周りにいる人間はみんなそれぞれ家族に対して深い傷を負っている…
ミサトはマティーニを一気に飲み干すとグラスの底に残ったオリーブを口に放り込んだ。そして空になったグラスをバーテンに差し出すとお替りを注文した。
「ミサト…あなた…今日はやけにハイペースね」
リツコがミサトの横顔を見ていた。
「べっつにぃ。今日は何か飲みたい気分なのよ」
「そう、ならいいけど…もしかして今日のアスカの話のせいかしら?」
「アスカは関係ないわよ…誰しも多かれ少なかれ心に傷を持っているものだもの。そんな事をいちいち気にしていたら使徒となんか戦えないわよ。あんただってそうでしょ?」
「そうね…」
バーテンダーが新しいマティーニをミサトの前に恭しく置く。ミサトはそっとマティーニグラスを手に取ると水面に写る自分の顔を見つめる。
人間は大切なものに背を向けて生きている…失って初めて気が付くのよ…愚かで…弱くて…自分勝手で…所詮は出来損ないの群体…
だから…人は…心の隙間に苦しむ…都合が悪くなれば誰かを求め…利用する…あたしは卑怯な女・・・
一人では生きられないことは分かっているのに…大切に出来ない…
お父さん…
加持君…
ミサトは15歳の時に父親の南極調査隊に同行し、そこで人類史上最大の災厄に遭遇していた。
2000年9月13日。
南極でセカンドインパクトが発生し、ミサトは奇跡的に一命を取り留めた。
ミサトは家庭や自分のことを一切顧みずにひたすら研究に没頭していた父親を嫌悪していた。その父親に救われた。爆風で吹き荒れ、雪に混じってコンクリート片などが飛礫の様に降り注ぐ。
最後の別れになることがお互いに分かっていた。しかし、遂に交わす言葉を見つけることが出来なかった。不器用だった父親が言葉の代わりにミサトに託したもの…それがクロスのペンダントだった。
日本政府所属の調査船のカプセル型非難ボートはミサトだけを乗せて荒れ狂う南極海を漂流した。
2日後。アメリカ海軍の南極急派艦隊にミサトは救助された。アメリカ艦隊は始め救助したミサトから南極で起こったことや葛城調査隊が行おうとしていたことなどを聞き出そうとした。
ハワイ出身の日系4世の若い男性士官が流暢な日本語で話しかけていたがミサトは一言も発することが出来なかった。ミサトの様子が単に黙秘しているのとは異なることに気が付いたその士官は日本語の筆談でようやくミサトが喋りたくても喋れない状態にあることを理解した。
精神的なショックからミサトは言葉を喋ることが出来なくなっていた。士官はすぐに船医と相談してミサトは失声症とそこで診断されたのだ。
ミサトは所持品をほとんど持っていなかったが父親が最期にミサトに託したクロスのペンダント以外に小型デジタルレコーダーを懐中に隠し持っていた。父親の形見になったものを奪われたくない。その一心でミサトはひたすらこれらの品々の存在を隠し続けた。
やがて日本に帰国したミサトは小田原(後の新横須賀)に急遽移転していた米軍基地から日本の外務省に引き渡された。そして叔父の三笠が内閣官房に勤めていたこともあって異例の速さで三笠の家に引き取られた。
ミサト生還の事実は何故か完全に秘匿された。三笠の家で学校にも行かず与えられた部屋に篭ったまま失意の日々を送っていたミサトにとってはむしろ好都合だった。
そんなミサトの代わりに世間の注目を集めたのがアメリカ政府調査隊の生き残りであるジュリア・ホーネットという女性研究者だった。ミサトも国連が管理していた南極の調査エリアで何度か出会ったことがあったが好奇心旺盛な男勝りな性格をした好感の持てる若い研究者だった。
ジュリア・ホーネットは驚くべきリポートをアメリカのCMNネットワークに持ち込んで一躍時代の寵児になっていた。それが「光の巨人」だった。
生きていても仕方がない…死のう…
常にそう思いつめていたミサトはジュリアの衝撃的なこの告発に衝撃を受けた。
光の巨人…
それはまさにミサトが救命カプセルから目撃した光景そのままだったからだ。まだ幼いミサトはそれがただの大爆発の火柱のようなもので人の形に見えるのは偶然だと思っていた。いや思いたかったのだ。
ジュリアの告発は世界中のマスコミを驚愕させて連日連夜の特番が日本でも組まれるようになっていた。ミサトはこの時に世間とは全く違った感慨を抱いていた。
そして突然涙した。
嫌いだった父親に助けられて九死に一生を得たことに思い至って思わず涙がこみ上げてきたのだ。叔父夫婦はようやく自室から出て来られる様になったミサトを見て我が事の様に喜んでいたが、ミサトのこの涙をみてTVのチャンネルをそっと変えた。
しかし、ジュリアは突然の悲劇に襲われた。イギリスのBBB放送に生出演するためにロンドンに向かう途中、ロンドンのヒースロー空港で暴漢に襲われてあっけなくこの世を去ったのだ。
ジュリアの死を知ったミサトは直感的に身の危険を感じてますます自分の殻に閉じ篭る様になった。そして反動のように持ち帰っていたデジタルレコーダーに亡き父親の姿を求めるようになっていた。
その父親がミサトを南極に伴って行ったのは親子関係の悪化を修復したかったということをデジタルレコーダーで知った。ミサトはそれから毎日デジタルレコーダーに記録されているデータを三笠の家のパソコンで見る様になっていた。
ある日のこと。いつもの様に叔父夫婦が仕事に出かけた後でミサトはデジタルレコーダーをUSBポートに挿し込んだ。膨大な量のデータフォルダを一つ一つ確認していたミサトはパスワードでロックされたフォルダーが大半を占める事に気がついた。
パスワードの入力を要求するポップアップ画面にミサトは「TAISHI」と入力した。男の子が欲しかった父親がもしミサトが息子だったら付けるつもりだった名前をよくパスワードに使うことを知っていた。
予想通りフォルダーが開く。そして…
こ…これは…光る巨人…
ミサトは自分が持っているものが途轍もなく恐ろしいデータを含んでいることにこの時初めて気が付いた。父親の面影を求めて見ていたデータはミサトの想像を絶するものだった。
死のうと思っていたミサトだったがジュリアの死に触れて死に対する恐怖を感じた。
生きよう…父さんが助けてくれたのに…あたしにはまだやることがある・・・
ミサトは一念発起してこのデジタルレコーダーを父親の勤務先だった国立新技術創造研究所に送り届ける決心をした。父親が何故未曾有の大爆発に巻き込まれて死ななければならなかったのか、その真実を掴むために藁にもすがる思いで研究所がある松代に向かった。
訪ねてきたミサトを始めに応対してくれたのがシンジを既に身籠っていた碇ユイだった。ユイはうちしがれていたミサトに終始優しく接してくれた。
その15年後にミサトは三鷹市の親戚に預けられていたシンジを駅まで迎えに行くことになる。ミサトはシンジの顔を見て思わずこみ上げるものがあった。
あまりにもその時のシンジの眼差しが碇ユイにそっくりだったからだ。
運命って本当に分からないものね…シンちゃんのお母さんに初めて会った時にシンちゃんはお腹の中にいたのよ…そのシンちゃんをあたしは使徒への復讐の道具として使っている…アスカだってそう…あたしが教官として直接育てたあたしの妹みたいな子よ…その二人とあたしは今家族になっているのに…現実はどうなの?あまりにも酷いわ…
ミサトは碇ユイと会った時にやはりリツコの母親である赤木ナオコとも出会っていた。所長である碇ゲンドウは出掛けていて不在ということだった。
ミサトはそこで使徒という超科学的な人類の敵が南極に眠っていたものに葛城調査隊が遭遇して爆発に巻き込まれたという説明を受けた。
使徒…光の巨人が使徒…使徒が父さんを…殺した…許せない…
以来、ミサトは使徒を倒して父の敵を討つことに固執する様になった。
今までとは人が違ったように引き篭もるのを突然止めて学校に通うようになった。あまりの替わりように叔父夫婦は始め驚きを隠さなかったが、理由はともかくミサトの社会復帰を手放しで喜んだ。
勉強に打ち込み有数の進学高校に進みそのまま日本の最高学府へと順調に駒を進めていった。
「ミサト!テメーが仇討ちだって言っても葛城のやつは決して喜びなんかしねーぜ!お前が静かに幸せな家庭を築くことを願ってるに決まってらあ!この大バカ野郎が!」
三笠は食卓から立ち上がるといきなりミサトの頬を平手で殴りつけた。
ガシャーン!
酒好きの三笠とミサトは二人でよく晩酌をしていた。そのグラスが床に落ちて大きな音を立てて割れた。
ミサトはそれに怯む事無く三笠の顔を睨みつけていた。
「叔父さんにあたしの気持ちなんて分かる訳ないのよ!あたしはネルフに入る!そこで使徒を倒すのよ!」
「この親不孝モンが!まだ分からねーのか!」
三笠はミサトのTシャツの襟を掴むとまた平手で殴る。更に続けて殴ろうとした三笠の腕を後ろから叔母のカズエが必死に押さえる。
「あなた!止めて!ミサちゃんは女の子なのよ!殴ることないじゃないの!」
「テメーはすっこんでろい!ミサト!ネルフなんざあ、この俺が絶対に許さねーぞ!」
三笠は鬼の形相でミサトを睨みつける。ミサトは殴られて鼻と口から血を垂らしていたがそれを拭こうともしなかった。
「幾らでも気が済むまで殴ればいいじゃない!あたしは絶対にお父さんの仇を討つんだから!始めからこんな命なんて捨てる覚悟よ!」
ミサトは立ち上がるとテーブルの上に置いてあった自分の財布とネルフ入省内定書を掴むとTシャツとジーパンのまま土砂降りの雨の中を傘も差さずに飛び出して行った。
「こらあ!ミサト!待ちやがれ!」
後ろから裸足のままで甚平を着た三笠もミサトを追っていくが若いミサトの足には到底追いつけなかった。夜の雨の中で三笠はついにミサトの姿を見失った。
「ミサトぉ!!このバカ野郎があ!」
三笠は雨に打たれながら男泣きに泣いていた。
後ろから聞こえる三笠の叫び声を聞きながらミサトも泣いていた。心の中で三笠に詫びながら…
しかし、ミサトは決して振り返ることなく新千葉市の三笠の家を後にした。ずぶぬれの状態でミサトは新千葉駅前から第三東京市に向かう深夜バスに乗り込んだ。
叔父様…叔母様…ごめんなさい…あたしにはこんな生き方しか出来ないの…
ミサトは父親の死後、親戚の三笠家に預けられることになりそこで高校、大学時代、そして国防省に入省していた2年を含めて9年間を三笠の元で過ごしていた。
三笠家にはミサトのいとこにあたる一人息子がいたが既に独立して親元を離れていたこともあり、叔父夫婦はミサトをわが娘の様に可愛がった。その愛情に絆されてミサトの失語症は高校を卒業するころにはすっかり回復していた。
叔父夫婦はミサトの就職の世話までしてくれようとしたが、ミサトが選んだ道は国防省、そして2010年に発足した国連直属の特務機関ネルフだった。
内閣官房に奉職していた三笠はミサトの国防省入省までは黙っていたが、ネルフに入省するという話を聞いた瞬間激怒したのだった。
やがてミサトを乗せた夜行バスは第三東京市駅に到着した。ミサトはネルフ保安部の厳重なセキュリティーチェックを受けてジオフロントに向かうリニアに乗り込んだ。
そしてネルフの門を文字通り体一つで叩いていた。
使徒に対する復讐の一心を胸に…
「ミサト…あなた、靴を脱いだ状態でそうやってると男を誘うサインになるわよ…」
「ほえ?そうなの?」
「そうよ。西洋ではそういう意味のゼスチャーよ。安い女と思われるわよ」
「安い女ねえ…そうかもね…」
運命のめぐり合わせか、ミサトはネルフで大学の同窓生である加持とリツコと再会を果たした。その時にミサトが以前に松代で会った碇ユイと赤城ナオコが既に亡くなっているという事実も知った。
学生時代に付き合っていた加持との再会は思いがけないものだった。
加持の女癖の悪さから結局別れた二人だった。元々他人とは深い付き合いをしないミサトは加持に対して憎悪の様な感情はなかったもののやはり人並みの気まずさはあった。
ミサトは国防省の戦術研究課員だったという経験を買われて作戦部に配属され、そこでEvaのプロトタイプから量産タイプへの移行プロジェクトに携わることになった。
そしてミサトはベルリンにあるネルフ第三支部への赴任が下命された。ネルフとしては初の量産機に当たる弐号機の開発がドイツで進められているため、その量産タイプにおける兵装開発と専門訓練を受けた専属パイロットの養成という使命を持って旅立つことになった。
ミサトは第三支部がマルドゥック機関を通して集めた第二期選抜の戦略パイロット候補生リストを受け取って第二新東京国際空港を後にしていたが着任して早々欠員が1名生じたという連絡を受けた。
ミサトの後を追いかけるかの様に赴任してきた加持が途方に暮れていたミサトに有望な候補者がいるといってファイルを渡してきた。その候補者の名前は惣流・アスカ・ラングレーという日本人とドイツ人のクォーターだった。
「ラッキー!丁度、欠員が出て困ってたのよね。恩に着るわ、加持。あんたもたまには役に立つことをするじゃん!」
「おいおい、葛城。俺はいつだってお前の助けになろうと思ってるんだぞ」
「本当に?」
「当たり前だろ。俺はお前のことをちゃんと見てる」
加持がミサトにキスしようとした瞬間、ミサトは加持の鼻をかじった。
「いたっ!」
「へへーんだ。今のは昔の借りを返してやったのよ。あたしじゃなかったらあんたは今頃背中から刺されて死んでるわよ。それともあんたみたいな女の敵は世界の女のために殺しておいた方がよかったかしらね」
「女の敵とは手厳しいな…」
加持が苦笑いを浮かべて頭を掻いていると今度はミサトの方から加持に抱きついてキスをした。
「これはファイルのお礼よ」
そう言い残すとミサトは加持に軽くウィンクをしてその場を後にした。そしてミサトは候補者を迎えに行く為にレンタカーのメルセデスでアウトバーンを一路、ゲッティンゲンに向けて走って行ったのだ。
まさか4年前のあの出来事が巡り巡って今に至ってるとはねえ…あたしは本当に何も考えずにそのままアスカを迎えに行った…本当に安っぽい女だわ…あたしって…
ミサトはそう考えると加持の口車に簡単に乗った自分が腹立たしかった。ミサトは一気にタンブラーの中のバーボンを飲み干す。
「ふう…」
「ミサト、そろそろ場所を変えない?」
「えっ?もうそんなにこの店にいたっけ?」
ミサトが思わず腕時計を見る。
銀色の小さな時計は既に夜の10時半を回っていた。この時計もミサトが適当にアスカのジュエリーボックスを漁って持ってきたものだ。
「いっけなーい。ごめん。リツコ。ちょっちこれから別件があるのよね。悪いけどまた今度ね」
「そう。あなたも忙しいのね。それじゃまたね」
「じゃあね、リツコ」
リツコはミサトの後姿を横目で見ていたが直ぐに琥珀色のバーボンの中に鎮座している透明の氷に視線を落としていた。
「ふっ。男ね…」
リツコは一気にバーボンを煽るとバーテンにチェックを頼んだ。
「ひひひ。加持ぃ。あんたさあ、あたしを待っている間、誰と一緒に飲んでいたのよぉ」
「おいおい。そりゃ随分なご挨拶だな。俺はせっかくの土曜日の夜だっていうのにお前の送迎のために一滴も飲んでないんだぞ。ふふふ」
「うそだぁ。あんたはアスカにも手を出す様な男だもんねぇ。ひひひ。女だったら誰でもいいでしょ?あんたはあたしを利用する事ばかり考えてさあ。あたしもアスカもさあ、あんたの手の平で転がされてるんでしょ?どうせあたしは安い女ですよーだ…」
加持は思わずミサトの横顔を見る。
ミサトの目には薄っすらと涙が浮かんでいる様に見えた。
「葛城…」
ミサトは腕を取っていた加持の手を振り解くと一人で覚束ない足取りで加持よりも2歩、3歩と離れて前を歩き始めた。
「あんたってさあ…何を考えてるわけ?」
「葛城…俺は…俺は何もお前のことを利用しようとなんか…それにアスカは…」
加持がミサトの後を追いかけようとして一歩を踏み出した瞬間だった。ミサトは加持の方をきっと向き直ると鋭い視線をぶつけてきた。
「それ以上近づかないでよ!あたし…あたし…こんなのが…こんなのが嫌だから今まで誰とも深く関わろうなんて思わなかったのに!!」
ミサトはそういうといきなり片方のハイヒールを加持に投げつけた。
ハイヒールは加持の右腕に当たると遥か後ろの方に飛んで行った。
誰もいないビルの谷間でハイヒールの乾いた音が幾重にも反響する。
「葛城。もういい。よせ…」
加持はミサトを思いっきり抱き寄せるとそのままミサトの唇を塞いだ。
「葛城。俺を信じろ。俺たちは何も変わっちゃいない。昔のままなんだ…」
ミサトは加持に抱かれたままそのまま深い眠りの中に落ちていった。
(改定履歴)
02nd July, 2009 / 表現修正
28th July, 2009 / 表現修正
25th May, 2010 / 表現修正
同じ頃、新赤坂のショットバーにミサトとリツコの姿があった。二人の前にはドライマティーニが置かれている。
「今日のマユミは綺麗だったわね…」
「そうね…」
「これで同級生の中で結婚してないのってさあ。あんたとあたしだけなんじゃないの?」
「残念だけどまだユミカとアミがいるわ」
「…」
ミサトは結婚に関して話を振ってもいつも興味が無い様な素振りを見せるリツコが同級生の結婚の状況を正確に把握していることに少なからず驚いた。
リツコの視線はどことなく虚ろだった。
思えばリツコもあたしも家族に関しては本当に縁がないわね…ネルフがまだ前身組織だった時にリツコは唯一の肉親だった母親を失ってるし、あたしは南極調査隊に加わって目の前で父さんを亡くした…シンちゃんもアスカだって…あたしの周りにいる人間はみんなそれぞれ家族に対して深い傷を負っている…
ミサトはマティーニを一気に飲み干すとグラスの底に残ったオリーブを口に放り込んだ。そして空になったグラスをバーテンに差し出すとお替りを注文した。
「ミサト…あなた…今日はやけにハイペースね」
リツコがミサトの横顔を見ていた。
「べっつにぃ。今日は何か飲みたい気分なのよ」
「そう、ならいいけど…もしかして今日のアスカの話のせいかしら?」
「アスカは関係ないわよ…誰しも多かれ少なかれ心に傷を持っているものだもの。そんな事をいちいち気にしていたら使徒となんか戦えないわよ。あんただってそうでしょ?」
「そうね…」
バーテンダーが新しいマティーニをミサトの前に恭しく置く。ミサトはそっとマティーニグラスを手に取ると水面に写る自分の顔を見つめる。
人間は大切なものに背を向けて生きている…失って初めて気が付くのよ…愚かで…弱くて…自分勝手で…所詮は出来損ないの群体…
だから…人は…心の隙間に苦しむ…都合が悪くなれば誰かを求め…利用する…あたしは卑怯な女・・・
一人では生きられないことは分かっているのに…大切に出来ない…
お父さん…
加持君…
ミサトは15歳の時に父親の南極調査隊に同行し、そこで人類史上最大の災厄に遭遇していた。
2000年9月13日。
南極でセカンドインパクトが発生し、ミサトは奇跡的に一命を取り留めた。
ミサトは家庭や自分のことを一切顧みずにひたすら研究に没頭していた父親を嫌悪していた。その父親に救われた。爆風で吹き荒れ、雪に混じってコンクリート片などが飛礫の様に降り注ぐ。
最後の別れになることがお互いに分かっていた。しかし、遂に交わす言葉を見つけることが出来なかった。不器用だった父親が言葉の代わりにミサトに託したもの…それがクロスのペンダントだった。
日本政府所属の調査船のカプセル型非難ボートはミサトだけを乗せて荒れ狂う南極海を漂流した。
2日後。アメリカ海軍の南極急派艦隊にミサトは救助された。アメリカ艦隊は始め救助したミサトから南極で起こったことや葛城調査隊が行おうとしていたことなどを聞き出そうとした。
ハワイ出身の日系4世の若い男性士官が流暢な日本語で話しかけていたがミサトは一言も発することが出来なかった。ミサトの様子が単に黙秘しているのとは異なることに気が付いたその士官は日本語の筆談でようやくミサトが喋りたくても喋れない状態にあることを理解した。
精神的なショックからミサトは言葉を喋ることが出来なくなっていた。士官はすぐに船医と相談してミサトは失声症とそこで診断されたのだ。
ミサトは所持品をほとんど持っていなかったが父親が最期にミサトに託したクロスのペンダント以外に小型デジタルレコーダーを懐中に隠し持っていた。父親の形見になったものを奪われたくない。その一心でミサトはひたすらこれらの品々の存在を隠し続けた。
やがて日本に帰国したミサトは小田原(後の新横須賀)に急遽移転していた米軍基地から日本の外務省に引き渡された。そして叔父の三笠が内閣官房に勤めていたこともあって異例の速さで三笠の家に引き取られた。
ミサト生還の事実は何故か完全に秘匿された。三笠の家で学校にも行かず与えられた部屋に篭ったまま失意の日々を送っていたミサトにとってはむしろ好都合だった。
そんなミサトの代わりに世間の注目を集めたのがアメリカ政府調査隊の生き残りであるジュリア・ホーネットという女性研究者だった。ミサトも国連が管理していた南極の調査エリアで何度か出会ったことがあったが好奇心旺盛な男勝りな性格をした好感の持てる若い研究者だった。
ジュリア・ホーネットは驚くべきリポートをアメリカのCMNネットワークに持ち込んで一躍時代の寵児になっていた。それが「光の巨人」だった。
生きていても仕方がない…死のう…
常にそう思いつめていたミサトはジュリアの衝撃的なこの告発に衝撃を受けた。
光の巨人…
それはまさにミサトが救命カプセルから目撃した光景そのままだったからだ。まだ幼いミサトはそれがただの大爆発の火柱のようなもので人の形に見えるのは偶然だと思っていた。いや思いたかったのだ。
ジュリアの告発は世界中のマスコミを驚愕させて連日連夜の特番が日本でも組まれるようになっていた。ミサトはこの時に世間とは全く違った感慨を抱いていた。
そして突然涙した。
嫌いだった父親に助けられて九死に一生を得たことに思い至って思わず涙がこみ上げてきたのだ。叔父夫婦はようやく自室から出て来られる様になったミサトを見て我が事の様に喜んでいたが、ミサトのこの涙をみてTVのチャンネルをそっと変えた。
しかし、ジュリアは突然の悲劇に襲われた。イギリスのBBB放送に生出演するためにロンドンに向かう途中、ロンドンのヒースロー空港で暴漢に襲われてあっけなくこの世を去ったのだ。
ジュリアの死を知ったミサトは直感的に身の危険を感じてますます自分の殻に閉じ篭る様になった。そして反動のように持ち帰っていたデジタルレコーダーに亡き父親の姿を求めるようになっていた。
その父親がミサトを南極に伴って行ったのは親子関係の悪化を修復したかったということをデジタルレコーダーで知った。ミサトはそれから毎日デジタルレコーダーに記録されているデータを三笠の家のパソコンで見る様になっていた。
ある日のこと。いつもの様に叔父夫婦が仕事に出かけた後でミサトはデジタルレコーダーをUSBポートに挿し込んだ。膨大な量のデータフォルダを一つ一つ確認していたミサトはパスワードでロックされたフォルダーが大半を占める事に気がついた。
パスワードの入力を要求するポップアップ画面にミサトは「TAISHI」と入力した。男の子が欲しかった父親がもしミサトが息子だったら付けるつもりだった名前をよくパスワードに使うことを知っていた。
予想通りフォルダーが開く。そして…
こ…これは…光る巨人…
ミサトは自分が持っているものが途轍もなく恐ろしいデータを含んでいることにこの時初めて気が付いた。父親の面影を求めて見ていたデータはミサトの想像を絶するものだった。
死のうと思っていたミサトだったがジュリアの死に触れて死に対する恐怖を感じた。
生きよう…父さんが助けてくれたのに…あたしにはまだやることがある・・・
ミサトは一念発起してこのデジタルレコーダーを父親の勤務先だった国立新技術創造研究所に送り届ける決心をした。父親が何故未曾有の大爆発に巻き込まれて死ななければならなかったのか、その真実を掴むために藁にもすがる思いで研究所がある松代に向かった。
訪ねてきたミサトを始めに応対してくれたのがシンジを既に身籠っていた碇ユイだった。ユイはうちしがれていたミサトに終始優しく接してくれた。
その15年後にミサトは三鷹市の親戚に預けられていたシンジを駅まで迎えに行くことになる。ミサトはシンジの顔を見て思わずこみ上げるものがあった。
あまりにもその時のシンジの眼差しが碇ユイにそっくりだったからだ。
運命って本当に分からないものね…シンちゃんのお母さんに初めて会った時にシンちゃんはお腹の中にいたのよ…そのシンちゃんをあたしは使徒への復讐の道具として使っている…アスカだってそう…あたしが教官として直接育てたあたしの妹みたいな子よ…その二人とあたしは今家族になっているのに…現実はどうなの?あまりにも酷いわ…
ミサトは碇ユイと会った時にやはりリツコの母親である赤木ナオコとも出会っていた。所長である碇ゲンドウは出掛けていて不在ということだった。
ミサトはそこで使徒という超科学的な人類の敵が南極に眠っていたものに葛城調査隊が遭遇して爆発に巻き込まれたという説明を受けた。
使徒…光の巨人が使徒…使徒が父さんを…殺した…許せない…
以来、ミサトは使徒を倒して父の敵を討つことに固執する様になった。
今までとは人が違ったように引き篭もるのを突然止めて学校に通うようになった。あまりの替わりように叔父夫婦は始め驚きを隠さなかったが、理由はともかくミサトの社会復帰を手放しで喜んだ。
勉強に打ち込み有数の進学高校に進みそのまま日本の最高学府へと順調に駒を進めていった。
そして…2010年のある嵐の日。
「ミサト!テメーが仇討ちだって言っても葛城のやつは決して喜びなんかしねーぜ!お前が静かに幸せな家庭を築くことを願ってるに決まってらあ!この大バカ野郎が!」
三笠は食卓から立ち上がるといきなりミサトの頬を平手で殴りつけた。
ガシャーン!
酒好きの三笠とミサトは二人でよく晩酌をしていた。そのグラスが床に落ちて大きな音を立てて割れた。
ミサトはそれに怯む事無く三笠の顔を睨みつけていた。
「叔父さんにあたしの気持ちなんて分かる訳ないのよ!あたしはネルフに入る!そこで使徒を倒すのよ!」
「この親不孝モンが!まだ分からねーのか!」
三笠はミサトのTシャツの襟を掴むとまた平手で殴る。更に続けて殴ろうとした三笠の腕を後ろから叔母のカズエが必死に押さえる。
「あなた!止めて!ミサちゃんは女の子なのよ!殴ることないじゃないの!」
「テメーはすっこんでろい!ミサト!ネルフなんざあ、この俺が絶対に許さねーぞ!」
三笠は鬼の形相でミサトを睨みつける。ミサトは殴られて鼻と口から血を垂らしていたがそれを拭こうともしなかった。
「幾らでも気が済むまで殴ればいいじゃない!あたしは絶対にお父さんの仇を討つんだから!始めからこんな命なんて捨てる覚悟よ!」
ミサトは立ち上がるとテーブルの上に置いてあった自分の財布とネルフ入省内定書を掴むとTシャツとジーパンのまま土砂降りの雨の中を傘も差さずに飛び出して行った。
「こらあ!ミサト!待ちやがれ!」
後ろから裸足のままで甚平を着た三笠もミサトを追っていくが若いミサトの足には到底追いつけなかった。夜の雨の中で三笠はついにミサトの姿を見失った。
「ミサトぉ!!このバカ野郎があ!」
三笠は雨に打たれながら男泣きに泣いていた。
後ろから聞こえる三笠の叫び声を聞きながらミサトも泣いていた。心の中で三笠に詫びながら…
しかし、ミサトは決して振り返ることなく新千葉市の三笠の家を後にした。ずぶぬれの状態でミサトは新千葉駅前から第三東京市に向かう深夜バスに乗り込んだ。
叔父様…叔母様…ごめんなさい…あたしにはこんな生き方しか出来ないの…
ミサトは父親の死後、親戚の三笠家に預けられることになりそこで高校、大学時代、そして国防省に入省していた2年を含めて9年間を三笠の元で過ごしていた。
三笠家にはミサトのいとこにあたる一人息子がいたが既に独立して親元を離れていたこともあり、叔父夫婦はミサトをわが娘の様に可愛がった。その愛情に絆されてミサトの失語症は高校を卒業するころにはすっかり回復していた。
叔父夫婦はミサトの就職の世話までしてくれようとしたが、ミサトが選んだ道は国防省、そして2010年に発足した国連直属の特務機関ネルフだった。
内閣官房に奉職していた三笠はミサトの国防省入省までは黙っていたが、ネルフに入省するという話を聞いた瞬間激怒したのだった。
やがてミサトを乗せた夜行バスは第三東京市駅に到着した。ミサトはネルフ保安部の厳重なセキュリティーチェックを受けてジオフロントに向かうリニアに乗り込んだ。
そしてネルフの門を文字通り体一つで叩いていた。
使徒に対する復讐の一心を胸に…
ミサトとリツコは二人でバーボンをロックで飲んでいた。二人の酒量にさすがのバーテンダーも鼻白んでいた。
ミサトは黒いハイヒールをカウンターの下に脱ぎ捨てて足をプラプラさせていた。
ミサトは黒いハイヒールをカウンターの下に脱ぎ捨てて足をプラプラさせていた。
「ミサト…あなた、靴を脱いだ状態でそうやってると男を誘うサインになるわよ…」
「ほえ?そうなの?」
「そうよ。西洋ではそういう意味のゼスチャーよ。安い女と思われるわよ」
「安い女ねえ…そうかもね…」
運命のめぐり合わせか、ミサトはネルフで大学の同窓生である加持とリツコと再会を果たした。その時にミサトが以前に松代で会った碇ユイと赤城ナオコが既に亡くなっているという事実も知った。
学生時代に付き合っていた加持との再会は思いがけないものだった。
加持の女癖の悪さから結局別れた二人だった。元々他人とは深い付き合いをしないミサトは加持に対して憎悪の様な感情はなかったもののやはり人並みの気まずさはあった。
ミサトは国防省の戦術研究課員だったという経験を買われて作戦部に配属され、そこでEvaのプロトタイプから量産タイプへの移行プロジェクトに携わることになった。
そしてミサトはベルリンにあるネルフ第三支部への赴任が下命された。ネルフとしては初の量産機に当たる弐号機の開発がドイツで進められているため、その量産タイプにおける兵装開発と専門訓練を受けた専属パイロットの養成という使命を持って旅立つことになった。
ミサトは第三支部がマルドゥック機関を通して集めた第二期選抜の戦略パイロット候補生リストを受け取って第二新東京国際空港を後にしていたが着任して早々欠員が1名生じたという連絡を受けた。
ミサトの後を追いかけるかの様に赴任してきた加持が途方に暮れていたミサトに有望な候補者がいるといってファイルを渡してきた。その候補者の名前は惣流・アスカ・ラングレーという日本人とドイツ人のクォーターだった。
「ラッキー!丁度、欠員が出て困ってたのよね。恩に着るわ、加持。あんたもたまには役に立つことをするじゃん!」
「おいおい、葛城。俺はいつだってお前の助けになろうと思ってるんだぞ」
「本当に?」
「当たり前だろ。俺はお前のことをちゃんと見てる」
加持がミサトにキスしようとした瞬間、ミサトは加持の鼻をかじった。
「いたっ!」
「へへーんだ。今のは昔の借りを返してやったのよ。あたしじゃなかったらあんたは今頃背中から刺されて死んでるわよ。それともあんたみたいな女の敵は世界の女のために殺しておいた方がよかったかしらね」
「女の敵とは手厳しいな…」
加持が苦笑いを浮かべて頭を掻いていると今度はミサトの方から加持に抱きついてキスをした。
「これはファイルのお礼よ」
そう言い残すとミサトは加持に軽くウィンクをしてその場を後にした。そしてミサトは候補者を迎えに行く為にレンタカーのメルセデスでアウトバーンを一路、ゲッティンゲンに向けて走って行ったのだ。
まさか4年前のあの出来事が巡り巡って今に至ってるとはねえ…あたしは本当に何も考えずにそのままアスカを迎えに行った…本当に安っぽい女だわ…あたしって…
ミサトはそう考えると加持の口車に簡単に乗った自分が腹立たしかった。ミサトは一気にタンブラーの中のバーボンを飲み干す。
「ふう…」
「ミサト、そろそろ場所を変えない?」
「えっ?もうそんなにこの店にいたっけ?」
ミサトが思わず腕時計を見る。
銀色の小さな時計は既に夜の10時半を回っていた。この時計もミサトが適当にアスカのジュエリーボックスを漁って持ってきたものだ。
「いっけなーい。ごめん。リツコ。ちょっちこれから別件があるのよね。悪いけどまた今度ね」
リツコは始め怪訝な顔つきをしたがすぐに口元に笑みを浮かべた。
「そう。あなたも忙しいのね。それじゃまたね」
「じゃあね、リツコ」
リツコはミサトの後姿を横目で見ていたが直ぐに琥珀色のバーボンの中に鎮座している透明の氷に視線を落としていた。
「ふっ。男ね…」
リツコは一気にバーボンを煽るとバーテンにチェックを頼んだ。
ミサトと加持は二人並んで夜の新日比谷のオフィス街の中を歩いていた。
車も人影も殆ど無くひっそりと静まり返っている。その中をミサトはふらふらと千鳥足で両手にハイヒールを持って裸足で歩いていた。
時折ふらついて倒れそうになるミサトを加持が腕を取って転ばない様にエスコートしていた。
車も人影も殆ど無くひっそりと静まり返っている。その中をミサトはふらふらと千鳥足で両手にハイヒールを持って裸足で歩いていた。
時折ふらついて倒れそうになるミサトを加持が腕を取って転ばない様にエスコートしていた。
「ひひひ。加持ぃ。あんたさあ、あたしを待っている間、誰と一緒に飲んでいたのよぉ」
「おいおい。そりゃ随分なご挨拶だな。俺はせっかくの土曜日の夜だっていうのにお前の送迎のために一滴も飲んでないんだぞ。ふふふ」
「うそだぁ。あんたはアスカにも手を出す様な男だもんねぇ。ひひひ。女だったら誰でもいいでしょ?あんたはあたしを利用する事ばかり考えてさあ。あたしもアスカもさあ、あんたの手の平で転がされてるんでしょ?どうせあたしは安い女ですよーだ…」
加持は思わずミサトの横顔を見る。
ミサトの目には薄っすらと涙が浮かんでいる様に見えた。
「葛城…」
ミサトは腕を取っていた加持の手を振り解くと一人で覚束ない足取りで加持よりも2歩、3歩と離れて前を歩き始めた。
「あんたってさあ…何を考えてるわけ?」
「葛城…俺は…俺は何もお前のことを利用しようとなんか…それにアスカは…」
加持がミサトの後を追いかけようとして一歩を踏み出した瞬間だった。ミサトは加持の方をきっと向き直ると鋭い視線をぶつけてきた。
「それ以上近づかないでよ!あたし…あたし…こんなのが…こんなのが嫌だから今まで誰とも深く関わろうなんて思わなかったのに!!」
ミサトはそういうといきなり片方のハイヒールを加持に投げつけた。
ハイヒールは加持の右腕に当たると遥か後ろの方に飛んで行った。
誰もいないビルの谷間でハイヒールの乾いた音が幾重にも反響する。
「葛城。もういい。よせ…」
加持はミサトを思いっきり抱き寄せるとそのままミサトの唇を塞いだ。
「葛城。俺を信じろ。俺たちは何も変わっちゃいない。昔のままなんだ…」
ミサトは加持に抱かれたままそのまま深い眠りの中に落ちていった。
Ep#05_(10) 完 / つづく
(改定履歴)
02nd July, 2009 / 表現修正
28th July, 2009 / 表現修正
25th May, 2010 / 表現修正
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