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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第11部 The Crossroads 野薔薇 と ます


(あらすじ)

酔い潰れたミサトを加持がマンションまで送って来た。加持は同居人に引き渡すと足早に去っていく。帰り際に加持は目を合わせようとしないアスカを見る。
これから先の道は…アスカ…君が選ぶんだ…

Schubert "Heidenroslein" / 野ばら

Schbert "Barenboim" / ます

ピンポーン。

突然のチャイムの音にシンジは自室のベッドの中で目を覚ます。

ミサトさんが帰って来たのかな…今何時だろ?

すっかり寝惚けている。シンジは目を何度も擦るがぼやけて目覚まし時計の針がよく見えない。ようやくの事で時計を引き寄せると12時半過ぎを指していた。

シンジは上体を起こすと半分寝ぼけた状態でリビングに出る。廊下の方からアスカの声が聞こえてきた。既にドアフォンを取って誰かと話をしている。

シンジは緩慢な動作でリビングを突っ切って廊下に出ると玄関先にアスカが背中を向けて立っていた。

アスカはヘッドセットをしていなかった。留められていない亜麻色の髪を見てシンジは思わずハッとする。

綺麗な…綺麗な髪をしていたんだ…

何も髪留めをつけていないアスカの髪を見るのは勿論シンジにとってはこれが初めてではない。

葛城家の住人以外の人間がこんなアスカの姿を見ることはない。せいぜいアスカが時々泊まりに行くヒカリくらいのものだろう。

ある意味で学校ではシンジだけが知るもう一つのアスカの姿だった。シンジは今までこんなにアスカを意識した事はなかった。

リビングの入り口付近に思わず立ち止まる。アスカが受話器を不意に置くと起き出したシンジに気が付いた。

二人の視線がぶつかる。

どちらからということなく二人は視線を外す。

「アンタ起きてたの?その…ミサトを送って…加持さんがマンションまで来てるのよ…何かミサトが酔いつぶれてるらしいわ…」

アスカの口から意外な言葉が飛び出してシンジはふと現実に引き戻される。慌ててシンジはアスカの方を見る。

「えっ…?み、ミサトさんが?酔い潰れてるの?」

「そうよ…ミサトが酔い潰れるなんて…信じられないけどさ…」

アスカはシンジの方を見ようとしない。視線は自分の足元に注がれている。

「そうなんだ…な、なんか珍しいね…」

どうしてだろう…別に…僕たち…喧嘩したわけじゃないのに…どうしてこんなに話し辛いんだろう…気まずい事なんて…何もない筈なのに…

重苦しい空気が流れる。

べ、別に…何かヘンなことをした訳じゃないのに…ダメだ…マトモにシンジの顔を見ることが出来ない…ちょっと!何よこれ!アタシが何で恥ずかしがらないといけないのよ!あり得ない!シンジの方が平然としてるなんて…Damn!

「あーあ!これだから酒飲みはイヤなのよね!全く!雪でも降るんじゃないの!」

いきなりアスカは吐き捨てる様にいうとシンジの背を向けて玄関先に向かっていく。

シンジもそれにつられるように廊下に向かった。二人が玄関に着いたところで見計らったかのようにドアを小さくノックする音が聞こえてきた。

アスカがスイッチを押してドアを開けるとミサトを負ぶった加持が立っていた。

「よお!夜遅くに起こしてしまってごめんな、二人とも。ちょっと上がってもいいかい?」

「こんばんは、加持さん…」

シンジがぺこっと頭を下げる。

アスカは心なしかシンジのやや後ろに立って俯いた。まるで身を隠すような素振りだった。

「やあシンジ君。久しぶりだな。元気にしてたかい?ちょっと待ってくれよ。女王陛下を部屋に運ぶからな」

加持はおもむろに足だけで靴を脱ぐとシンジの先導に従ってミサトを部屋まで運ぶ。

ミサトを負ぶった加持がアスカの目の前をまるでスローモーションの様に横切っていく。アスカは顔を上げようとしなかった。

加持とシンジはミサトの部屋に入っていく。加持は静かにミサトを万年床状態の布団の上に寝かせると直ぐに部屋から出てきた。

「加持さん、ありがとうございました。あの…麦茶かなんか飲みますか?」

シンジが加持に遠慮がちに話しかける。加持は少しの間、シンジの顔をじっと見ていたがやがてにっこりと笑顔を浮かべた。

「いや。気を使わないでいいよ、シンジ君。俺はこのまま退散するから」

「そうですか…」

大好きな筈の加持が来たのに素っ気無いアスカの態度にシンジは違和感を覚えていたが、心のどこかで何故かほっとしている自分もいることに気が付いていた。

加持は視線をシンジから玄関先で俯いて立っているアスカに向ける。加持の視線が自分に注がれているのにアスカは気が付く。

「あ、アタシ、ミサトを介抱しなくちゃ!」

アスカは慌ててミサトの部屋に入っていく。ワンピースの背中のチャックを開け始めた。

加持とシンジはミサトの部屋の前から離れる。一通りのことが済むと布団をミサトにかけて再びアスカは部屋から出てきた。

やはりアスカは加持と目を合わせようとしない。

加持は口元に優しい笑みを浮かべると無言のまま右手をポンとアスカの頭の上に置く。

「忘れ物を届けにきたよ」

そう言って加持は玄関先に置いていた花柄のトートバッグと白い帽子をアスカの方に持って来た。それを見たアスカの顔が一瞬強張ったが直ぐに差し出された帽子とバッグを受け取る。

「大切なもの…だろ?」

ふっと加持の方からミサトの付けていた香水が仄かに香ってきた。

アスカは目を閉じて小さくコクッと頷いた。

「…ありがとう…加持さん…」

そして…さようなら…

その様子をじっと加持は見ていた。

アスカ…これから先の道は…君が選ぶんだ…

加持は不意にシンジの方を見る。

「シンジ君」

「は、はい」

大人の男性と普段あまり接する機会がないシンジは明らかに緊張していた。

「シンジ君はチェロを弾くんだろ?」

「はい…あまり上手くありませんけど…」

「シューベルトの”ます”はピアノだけじゃなくてアンサンブルでもよく演奏されるね」

「え…シューベルトの”ます”ですか?」

アスカは加持の言葉に思わず顔を上げる。シンジは加持の言葉にきょとんとした様な表情を浮かべていた。

加持さん…ど、どうして急にそんなことをシンジの前で…シンジはアタシのことをまだ知らないのに!

「俺もドイツにいた時に市民コンサートで聞いたことがあるがなかなかいい曲だよ。機会があれば是非チャレンジしてごらん。ピアノとチェロのコラボというのも綺麗なんだろうなあ」

加持はアスカの顔を見るとにっこり微笑む。

そしてドイツ語で話しかけてきた。

「”野ばら(das Heidenröslein)”か”ます(die Lachsforelle)”のどちらかを選ぶ時が来る。とにかく生きるんだ」

加持はアスカとシンジを交互に見るとまた笑顔を見せた。

「それじゃまたな!葛城の面倒はすまんがよろしく頼む。じゃあ俺はこれで」

加持はそのままいそいそとマンションを後にした。加持の後姿を見送りながらシンジは首を傾げていた。

加持さん…何でいきなりぼくのチェロの事なんか…

シンジがふと玄関に背を向けるといつの間にか自分に注がれていたアスカの視線に気が付く。アスカの青い瞳には不安な色が宿っている。

アスカはシンジと目が合うとパッと視線を逸らして無言のまま帽子とバッグを手に持って自分の部屋に戻って行った。

アスカも…一体…何なんだろう…ドイツ語で何を加持さんは言っていたんだろう…

シンジの逡巡はミサトの部屋に入っていくアスカの足音でかき消された。

シンジは廊下から開け放されたミサトの部屋を見る。そしてミサトを介抱するアスカの後姿に目を留めた。

アスカの亜麻色の長い髪をシンジはいつまでも見つめていた。
 
 
 
 
 
Ep#05_(11) 完 / つづく

(改定履歴)
22nd April, 2009 / ハイパーリンクの追加
28th May, 2010 / ハイパーリンク先の修正
3rd Sept, 2011 / ハイパーリンク先の修正
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