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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第6部 der Alptraum まごころを… / 
R‐15指定
 

(あらすじ)
MAGIの定期メンテナンスが実施されるため本部待機の当番はキャンセルとなり久し振りにレイ、アスカ、シンジの三人は学校で一同に会する事に。結婚式の二次会でミサトと加持が出かける事に心中が穏やかではないアスカ。
「早く整理をつけなきゃ…」
そんなアスカの心境とは裏腹にシンジは掃除当番が一緒だったレイが雑巾を絞る姿を見て「母さんとそっくりだ」と口走ってしまう。その様子の一部始終を廊下で見ていたアスカは激怒し、自分の荷物を持って校庭に飛び出す。そこに運悪くサッカーボールの流れ弾がアスカに直撃し、そのまま気を失う。そしてアスカは自分の内面世界にいた…




(お断り)
一般に流布するものと比べると過激な内容ではないと考えていますが、各人によってその基準はまちまちであることと、慎重なサイト運営の観点でやや安全サイドに年齢制限の措置を取ることとしました。皆様のご理解とご協力をお願いします。
(本文)

アスカはヒカリと並んで第一中学校の正門をくぐっていた。アスカたちの数メーター先をシンジはトウジとケンスケに囲まれて歩いている。

三人はトウジが手に持っている新しいゲームソフトの攻略本を真剣なまなざしで見入っていた。

「まったく…朝っぱらからたかがゲームで盛り上がって…お子ちゃまねえ…」

「そうね。でも、なんか可愛らしいかもね」

ヒカリの視線がトウジの背中に注がれているのに気が付いてアスカは思わず顔を引きつらせる。

し、信じたくないけど…ヒカリって…鈴原の事が本当に好きなのかしら…駄目よ、ヒカリ…男は他にも腐って腐葉土になるほどいるのよ…20
億分の1の人がよりによってあのバカって…ぶっちゃけ有り得ないわ…お願いだから自分を大切にして…

しかし、いつもに比べて今日のアスカは言葉少なだった。正直を言えば、昨日ミサトから結婚式の二次会のことを聞いて気分が優れなかった。アスカは心の中の葛藤を表に出すことなくいつもと変わらない様子を見せる様に努めていたがヒカリに対してでさえ何処かぎこちなかった。

アスカがヒカリと教室に入ると本部待機の当番だったレイが学校に来ているのを見て驚く。

「ちょっと!ファースト!何でアンタが学校にいるのよ?今日は当番の筈でしょ?」

レイは教室の窓から外の景色を眺めていたがちらっと視線だけをアスカに送る。

「今日はMAGIの定期メンテナンスの残件対応が入るから当番はキャンセルになってるわ」

「キャンセル…そ、そう…どうせミサトがアップデートを忘れてたんでしょ!」

「…」

アスカはレイが何事かを答えようとするのが見えたがわざと無視してそのまま自分の席に向かっていく。

アタシが停職食らってる間に…アタシだけ知らない事が…アンタやシンジだけが知っててアタシだけが…

それだけでアスカは胸に鋭い痛みを感じていた。

これ以上…アンタから何も聞きたくない…ただでさえ気分が沈みがちなのに!




 
アスカはヒカリと昼食を摂った後、用事があると言って一人で学校のプールの近くまで歩いて来ていた。

一人になりたい心境だった。

足元の小石をポンと蹴った。小石はそのままチューリップを植えた花壇の中に飛び込んでいく。

アタシ、加持さんに憧れていたのね…いつも優しくしてくれたし…でもドイツにいた時、ずっとアタシたち一緒に生活してたじゃない…アタシ…加持さんの望む事…なんでもしたわ…加持さんの言う通りにちゃんとしてきたのに…それなのに…もう終わりなんて…

プールでは午後の授業の前に教師の目を盗んで水遊びをしている生徒たちの黄色い声が聞こえてきていた。

でも、こうなるのはどこかで分かってた…自分のものにならないかもしれないって…それでもいつかはって思ってた…バカだったって事よね…アタシ、頭の悪い女ね…

アスカは思いっきり伸びをする。

「早く…気持ちの整理をつけなくちゃ…次のシンクロテストは勝負なんだから…」

アタシらしくなかった…妥協してた…全てがアタシのものにならないと本当は堪らなく嫌なくせに…アタシだけをいつも包み込んで欲しい筈なのに…自分を大切にしていなかったのはアタシの方だ…

それでも今まで耐えてこれたのに…どうしてだろう…日本に来てからそれが切り裂かれるみたいに痛くなってきた…もう、アタシだけがバカみたいに待ち続けて・・・追いかけるのは・・・嫌だよ・・・

いつの間にかアスカは校庭の端まで歩いて来ていた。目の前に自分の背丈よりも遥かに高い金網のフェンスがあった。その向こうには道路を挟んでEva
の第20射出ゲートになっている丘陵地が見えた。

アタシはまだあのゲートから出た事ないけど・・・初号機が確か出たって記録にあったわね・・・初号機が・・・シンジが・・・

そのままアスカは校庭を左手に見ながら校舎の方にフェンスに沿って歩き始めた。

アタシはシンジに恋してる・・・それはアタシも認める・・・でも・・・アイツは・・・シンジは・・・アタシの事をどう思っているっていうのよ?屈辱的な事にファーストの方が好きって言われたら…アタシ立ち直れない…体育の後で髪すら梳かない女なのに…負けたらアタシがバカみたいじゃない!シンジの全てがアタシのものにならないなら何もいらない!中途半端が一番嫌なのよ!

アタシが・・・アタシが・・・寂しくなるだけじゃない・・・どうせいつも一人なんだって絶望して我慢して・・・でも、今度は・・・もう・・・アタシ・・・それに一人で耐える自信が無い・・・

アスカは校舎に上がる階段までやって来た。校庭をほとんど一周したことになる。あと少しで予鈴がなる頃だ。校庭で遊んでいた生徒たちが次々とアスカの横を通って階段を駆け上がっていく。時折、生徒たちはアスカの方をチラチラ横目で伺いながら通り過ぎていく。

シンジ・・・ひたすらアタシに優しくして・・・アタシ嬉しいけど同時にそれは残酷でもあるわ・・・アンタは自分の気持ちを何も示さない・・・周りに居る人の顔色ばかり見て、その場で最適だと思うことをするのよ・・・例えそれが自分自身を裏切ることであってもね・・・

でも、アンタのその裏切りは鋭く深くアタシを切り刻むの・・・アタシはそれにこれからも耐えて生きなくちゃ・・・でないとアンタと一緒にはいられない・・・アタシが独りよがりでそれを選んで傷つき過ぎて動けなくなったら、アンタはそんなアタシから今度は何を奪うつもり?アタシのプライド?居場所?命?

アタシにだって気持ちがあるし、心がある・・・アンタを待ち続けてアンタの都合がいい時だけアンタのことを受け入れて・・・アタシの全てをアンタに捧げるなんて・・・そんな女には・・・アタシは残念だけど絶対になれない・・・アンタにとってアタシは何処までも都合のよくない女ね…

アスカの体はわなわなと小刻みに震えていた。そして眼光鋭く足元のコンクリート製の階段を睨みつける。恐ろしいほどの形相だった。まるでその場に親の敵でもいるかの様に。

行き着くとこまで行き着けばアタシたち・・・絶対憎しみ合う様になる・・・そうなればアタシがアンタを受け入れる事は未来永劫無い・・・例えアタシの命が無くなったとしてもね・・・だから・・・だからこそ・・・アタシは知りたいのよ。今の本当のアンタの気持ちが・・・

そうなる前に…アンタのことが少しでも好きなうちに…アンタのことが知りたいの…

遠くの方で予鈴が聞こえていた。

今のうちに謝っておくわ…ごめんね…シンジ…アンタのこと好きになって…




 
五時限目の授業が終わると同時に一斉に学校中で掃除が始まった。

「ちょっと!男子たち!ちゃんと掃除しなさいよ!」

ヒカリはモップとほうきでふざけ合うトウジ、ケンスケ、シンジの三人に注意をする。その剣幕に驚いた三人は取り繕うかの様に無意味に自分たちの足元を慌てて掃き始めた。

「もう!あんたたちもっとしっかりしてよ!」

「委員長、わしらちゃんとやっとるやないか。そんなガミガミ言わんでもええんとちゃうか?」

トウジがほうきで掃きながらヒカリに言う。ヒカリは手を腰に当ててトウジを睨む。

「あたしがいなかったらいつまでもバカみたいにチャンバラするんでしょ!綾波さんにだけやらせて可哀想とか思わないの?あんたたち!」

シンジはヒカリの逆鱗に触れるまでふざけていたことを少し後悔しつつ、いつも通り嵐が自然に過ぎ去るのを首をすくめて待っていた。

「ほら!碇君もぼーっとしてないでちゃんとモップ掛けしてよ!アスカに言いつけるわよ!」

「ひっ!ご、ごめんよ・・・委員長・・・」

ヒカリの怒りの矛先が自分に向いたシンジは慌ててごしごしと一帯を掃除し始める。

「ひひひ。シンジ!お前にとって惣流に言いつけるは本当に最高の脅し文句だよな?」

ケンスケはシンジがモップがけしながら前を横切る時にシンジの脇に肘を入れてきた。

「うるさいな・・・」

シンジはケンスケを横目で一睨みすると再び教室の端に向かってモップを走らせる。割り当て地区の掃除を終えたクラスメートたちが教室の前にちらほらと帰って来ていた。アスカの班も遅々として進まないシンジ班の様子を他のクラスメートと喋りながら廊下から見物し始めた。

アスカは忙しく赤いバンドの時計をさっきから何回も見ている。

全く何やってんのかしら!シンジの班は。これだけ人が居るのにまだ終わってないなんて・・・ホントにグズね!ヨシムネに遅れたらただじゃ置かないんだから! 

レイは一人で黙々と雑巾で机や窓の桟を拭いていた。シンジがモップがけをしながらレイの近くを通った時、汚れた雑巾をバケツに入れてレイは白い手で真剣なまなざしで絞り始めた。

シンジは手を止めて思わずその光景を凝視した。その様子はじっと廊下でシンジの姿を目で追っていたアスカの目にも留まっていた。

シンジのヤツ・・・どうしてファーストのことをじっと見てるのかしら?いやらしいわ…

するとシンジがレイに向き直って話しかけた。

「何か・・・綾波の絞り方って・・・僕のかあさんに似てるね・・・」

「・・・えっ・・・・」

レイは思わずシンジの顔を見てビックリした様な目つきをし、やがて頬を赤くして思わずシンジから目を逸らした。それを見たシンジは慌てる。

「ご、ごめん!綾波・・・変なことを言うつもりは・・・その、なかったんだ・・・」

クラスメートの誰もがシンジとレイのやり取りに全く気が付かずに思い思いに雑談に花を咲かせていたが、アスカは二人のやり取りの一部始終をつぶさに見ていた。そしてアスカの怒りは頂点に達しようとしていた。

なっ!何言ってるのよ!ばっかじゃないの!なにが僕のママみたいよ!ふざけるんじゃないわよ!バカシンジ!気持ちわる!

アスカはいきなり廊下側の窓辺で頬杖をついていたが上体をバッと起こすとシンジの方に凶悪な視線を送る。その異様な雰囲気にアスカの両隣にいた女子生徒がビックリして体を仰け反らせた。

シンジは自分に送られてくる殺気にハッと気が付いて顔を上げるとシンジの網膜がアスカの放っている強烈な視線に焼かれていく。

アっアスカ・・・いつの間にそんなところに・・・

アスカはシンジと目が合うとある感情が爆発した。いきなり掃除の終わっていない教室にズカズカと音を立てて入って来た。クラスメートの全員が驚いてアスカの方を見る。

アスカはシンジの顔を思いっきり睨みつけると今度はそれをレイにもぶつけた。レイは相変わらず平然とアスカの顔を見る。

「ふん!」

アスカはレイから視線を外すと自分の席に向かい、机の横にかけてあった自分の学生カバンをひったくる様にして取って教室の外に飛び出して行った。

「あ、アスカ・・・どうしちゃったのかしら・・・?」

ヒカリが思わずアスカの後を追って駆け出していく。

教室ではシンジが立ち尽くしていた。





「もう!サイテー!何でアタシが・・・アタシがあんなヤツのことを!」

アスカは下足箱まで一気に降りると自分の革靴を引き出して床に叩き付ける様に置く。パーンと乾いた音が辺りに広がる。下足箱の奥にはまた性懲りもなくラブレターが一通入っているのが目に入る。

しかし、アスカはそれに構うことなく上履きを荒々しく下足箱に放り込むと勢いよく蓋を閉める。そしてまるで弾丸の様に校舎を飛び出していった。外は茹だる様な暑さだったが構わず校庭の横を歩き始める。

何よ!何よ!シンジのヤツ!ファーストに僕のママみた~い、だって!キモイわ!きもすぎ!アンタは結局、女なら誰でもいいのよ!甘えたいだけなのよ!アタシの事なんてどうせ!

アスカは胸が苦しくなるのを感じていた。今にも張裂けそうなこんな気持ちは初めてだった。ムカムカしながら歩いていると後ろからヒカリの声が聞こえてくる。

「アスカー!待ってよ!」

アスカはヒカリの声でふと現実に引き戻される。思わず後ろを振り返ってヒカリの方を見た。ヒカリが走って自分の方にやって来るのが見える。

「あれ?ヒカリ?どうしたの?」

しかし、次の瞬間、ヒカリの顔がみるみる緊張していく。

「あ!アスカ!危ない!後ろ!」

「え?何?今度は後ろって?」

アスカがパッと向き直るともうすぐそこにサッカーボールが音を立てながら顔面目掛けて向かってくるのが目に入った。ヒカリを振り返った分だけ気が付くのが遅れていた。

さすがのアスカでもこの至近距離ではとても避けられない。反射的にアスカはボールに向けて右手をかざして顔を庇った。

「ATフィールド!」

…が…出来たらよかったのに・・・

叫び声は空しく響きボールは無情にもアスカの右手を弾き飛ばして顔面を直撃する。左目に激痛が走った。

「あぐう!」

「あ、アスカー!」

アスカは気が遠くなっていくのを感じていた。目の前に白い9つの星がゆっくりと旋回しているのが見えた。星は回りながらアスカの方に向かって来るように見えた。

あれ?くるくるくるくる…お星様?アタシとした事が…ちくしょう…こんな事でやられてたまるか…バカシンジのせいで…

バカシンジなんかあてに出来ないのに…

アタシの事を何とも思っていない…いつも傷つけるだけ…アタシをこんな目に遭わしたヤツは…

「I'll kill all of you...I'll kill all of you...(アンタ達皆殺してやる)」

意味不明なうめき声を上げながらアスカは左目を押さえて空を見上げていたが、ついに力尽きてその場にガクッと膝を落した。そしてそのまま地面にばたっと仰向けに倒れてしまった。

まるでヨガのストレッチの姿勢の様に膝を折った状態で仰向けになっていた。ヒカリは急いでアスカの隣に駆け寄って来る。

「う、うそでしょ?アスカ?アスカ?ちょっと・・・しっかりして!」

ヒカリはその場にしゃがみ込んでアスカを抱え起こす。そしてアスカの身体を左右に揺さぶったがアスカは目を覚まさない。完全に気を失っている様だった。アスカは遠くでヒカリの声を聞きながら闇の中に落ちていった。

「だ、誰か!医務室に!急いで!お願い!アスカが!アスカが!」

校庭ではアスカとヒカリを二重三重に取り囲む人の群れが出来ていた。



悲しみの向こうへ  【MAD】

 
気が付くとアスカは制服を着たまま真冬の街角に立っていた。辺りは薄っすらと雪が積もっていたが半そでのブラウスを着ているのに全然寒く無い。

ここは一体・・・アタシは何でこんなところに・・・

どこか懐かしい見覚えのある風景だった。細かいパウダーの様な雪が舞っていた。遠くで教会の鐘の音が聞こえてくる。

ど、どうして…?ここはベルリンだ…モルトケストラッセの6番地…このアパルトメントは・・・ま、まさか!ママが借りていたベルリンの家だわ!ウソ・・・どうして・・・

すると通りの向こう側から一人の女性が歩いてくるのが見える。茶色のロングブーツとジーンズをはいて黒い皮のロングコートを羽織っている。アスカの目が大きく見開かれる。

マ・・・ママ・・・

アスカは思わず駆け出していった。紛れもなくそれはキョウコ・ツェッペリンその人だった。抱きつこうとした瞬間アスカの体はキョウコの体を通り抜けてしまう。

「ママ!アタシよ!ママ!」

しかし、キョウコにアスカの叫び声は聞こえていない様だった。そのまま何事もなかったように通りを横切ってアパルトメントに向かっていく。

アスカは何度となくキョウコの体を掴もうとするがホログラムの様に触れることが出来ない。

「ママ…ママ…アタシよ…ねえ…アタシ会いに来たの…ママと一緒にクリスマスをお祝いしに来たのよ…アタシ、ズィーベンステルネの見張りをまいて来たんだから…だから…心配しないで…今日は二人でお祝い…ねえ…ママ…」

何かを警戒するかの様に左右を確認して中に入っていく。アスカはキョウコに付いてアパルトメントの中に入る。キョウコは共同の階段を登って3階に上がっていく。

間違いない…ママは3階の一番手前の部屋を借りていた…寄宿舎からアタシは誰にも言わずに内緒でママに会いに来た…せめてクリスマスくらい二人で過ごしたかったの…一日だけ…一時間でもいいから…

白いペンキで塗った質素な木製のドアをキョウコは開けて中に入っていく。アスカもドアのノブに手をかけて中に飛び込もうとした瞬間、激しく言い争う男女の声が聞こえてきた。

アスカが耳を済ませると会話は日本語だった。

に、日本語?ベルリンのど真ん中で?誰…この声はどこかで…

「ツェッペリン!お前は自分がしたことを分かっているのか!」

「私は科学者として当然のことをしただけですわ!それよりもあなたの指示の方が問題なのではないですか?」

「なんだと?」

「分かっておられる筈です。Eva
の動力機関の中にあるイスカリオテI/F-M(インターフェースモジュール)ですわ。α機(テストタイプ)やβ機(プロトタイプ)と弐号機は取扱いが違います。プロダクションタイプなのです!」

「ゲヒルンにとってEva
はどれもEvaだ。違いなど取るに足らん。計画通りに進めたまえ」

「いいえ!Seele
E計画をいずれはS計画にアップグレードすることをシナリオに明記しています。弐号機はいわばEvaシリーズを見越したテスト機です。S計画のためにはボトルネックとなるイスカリオテI/F-Mを改良するのは当然です」

「余計な思案だ!ツェッペリン…悪く思うな…俺はこの計画のために世界の全てを敵に回したのだ!」

「うぐ…」

盗み聞きしていたアスカはくぐもったキョウコの声を聞いて思わず叫んだ。

「ママ!」

バタン!

ドアを開け放った瞬間、一人の男が仁王立ちしていた。アスカはその顔を見て驚いた。

「し、司令…どうして…ここに…」

「親子揃って余計なことばかりしおって…地獄に墜ちるがいい…」

ゲンドウはアスカの喉笛を右手で掴むと鬼気迫る勢いでアスカの背後にある階段まで押す。突き落とそうとしていることが分かった。

「し…司令…待って…下さい…話を」

「貴様は所詮は捨て駒だ…」

「お、おねが…あぐ…」

アスカはゲンドウに腹を蹴り上げられるとそのまま暗闇の中に落下していく。

「いや!ママー!」




 
アスカがふっと覚ますとそこは見慣れたミサトのマンションだった。しかし、白黒映画の様になぜか部屋は色が全く抜け落ちている。

ど、どうして?アタシは今、確かに…どうしてミサトのマンションなの?ママは?

アスカは辺りをきょろきょろとキョウコの姿を求めて眺め回した。誰もいなかった。アスカは廊下を通ってリビングに入る。

「ママ?いるんでしょ?返事をして。アタシ…会いたかったんだから…」

自分の背後で人の気配がして思わずアスカは振り返る。

「マ、ママ?」

そこには虚ろな目をしたシンジが立っていた。シンジは意普段通りジーンズと綿シャツを着ていた。

「シ、シンジ…ちょうどよかったわ!ねえ?アンタ、アタシのママを見なかった?」

シンジは無言で何も答えない。アスカがシンジの右肩を掴む

「ねえ!ちょっと何黙ってるのよ、アンタ?何とか言いなさいよ!」

アスカはひんやりした感触を左手に感じて思わずシンジから手を離す。そして自分の手を見ると血の様な黒っぽい液体で濡れている。

「あ、アンタ!ちょっと怪我してるの?見せてみなさいよ!い、いや…これ血じゃないわ…何?コーヒー?これ…」

するとシンジはいきなりアスカの首を絞めてきた。

「・・・うっ・・・ぐっ・・・」

自分の首を絞めるシンジの両手からは明らかな殺意を感じた。アスカは戦慄する。

ア、アタシ・・・シンジに殺されるの・・・?じょ、冗談じゃないわ!殺されるのはまっぴらよ!

アスカはシンジの手首を両手で掴んで抵抗しようとした瞬間、シンジがリビングの床にアスカを押し倒してきた。物凄い力だった。シンジが片手で首を絞めながらもう片方の手で荒々しくブラウスを引き千切る。

「ゲホ…ゲホ…」

アスカが抵抗してもシンジの体は鉛のように重たい。制服はまるで紙のようにいとも簡単に破れいく。呼吸を整えるのがやっとで声が出ない。

い、いやよ…いくらなんでも…こんなの…いや…

気が付くとほとんど下着だけのような状態だった。

「ゴホ…や、やめて・・・お願い・・・ど、どうして・・・シンジ・・・」

するとシンジが初めて口を開く。

「アスカじゃないと駄目なんだ…一緒にいたいんだよ…」

「ハア…ハア…一緒にって…な、何言ってんのよ!アンタ!こんな事・・・こんなのって酷いじゃない!いやよ!アタシを何だと思ってんのよ!アタシはアンタの慰み物じゃないわ!!都合のいい時だけそうやって甘えてこないでよ!」

「僕を一人にしないでよ…僕を殺さないでよ…」

首を絞めていたシンジの片方の手がアスカの左胸を鷲掴みにする。その瞬間、アスカは全身に悪寒を感じる。

アンタはアタシの気持ちを分かろうともしないで…いつもいつも自分ばかり…自分しかいないのよ…なのに…その自分ですら好きになったことがない…好きでもないのに…アタシを求めてこないで!

アスカがシンジの胸を押して右足をシンジとの間に入れる。そして思いっきりシンジを突き飛ばす。ようやくシンジの体がアスカから離れる。

「ゴホ…ゴホ…はあ…はあ…」

アスカは右手で自分の喉をさすりながら自分の下着だけにされた姿を見て愕然とする。

酷い…あんまりだ…自分の都合だけでアタシを…アタシを…

しかし、またシンジはアスカに向かってくる。恐怖を感じたアスカは首を押さえながら半裸の状態でシンジから逃れる様にキッチンに向かう。シンジがみるみる内にアスカとの距離を縮めてくる。

シンジの手がアスカのブラジャーにかかる。それも無残に引き剥がされる。

そしてアスカはついにキッチンの角に追い詰められた。振り返るとすぐ目の前にシンジが立っている。

「や、やめて・・・アンタはいつも・・・いつもアタシに優しくしてくれてたじゃない・・・いやよ・・・こんなのって・・・こんなのいや!」

「無駄だよ・・・僕たちは・・・一つになるんだ・・・」

アスカは咄嗟にキッチンのシンクにあった文化包丁を震える手で持ってシンジに向ける。

「ふざけないで!アタシの事好きでもないアンタとなんか一緒になれるもんですか!それ以上近づくとアンタを刺すわよ!」

シンジが不気味な笑みを浮かべてどんどん近づいて来る。

「ア、アタシは本気よ!」

「アスカ・・・君には僕を殺せない・・・運命なんだ・・・この世に二人しかいなくなるんだ・・・もう誰もいなくなる・・・未来も過去も関係ないんだ・・・」

「な、何の話をしてるの・・・?いや・・・それ以上・・・それ以上、アタシに近づかないで・・・」

シンジは嘲笑う様に歩みを止めようとしない。そしてアスカの目前にまで迫ってきた。

「ア、アタシは・・・アンタの事・・・好きだったのに・・アンタがアタシのことをいつまでも見てくれないからじゃない!アタシの心を殺したのはアンタよ!許さないわよ!一生!」

シンジがアスカの肩に手をかけた瞬間、アスカは反射的にシンジの腹に包丁を突き立てた。

「ぐ、ぐわああ!!」

シンジはそのまま悶えながら仰向けにキッチンに倒れていく。アスカはシンジの原部から迸る返り血を浴びて白い裸体を深紅に染めていく。

思わずアスカは両手で顔を押さえた。体中の震えが止まらない。

こんなのって…アタシ達は傷つけ合うだけ…こんなに近くにいるのに…お互いがまるで見えてない…

暫くするとシンジの腹の裂け目から白い巨大な影がゆらりと現れた。

「な、何・・・」

白い影は天井を突き破って空に高く伸びていき9
つの白い柱のようにアスカの前に聳え立つ。そしてアスカはたちまち9つの柱に取り囲まれる。白い柱の先端はやがて恐ろしい悪魔のような形相を現してアスカ目掛けて一斉に襲ってきた。

「きゃあああ。い、いやー!!」

逃げようとしたアスカを9つの悪魔は押さえ付けるとアスカの腹を切り裂いた。

「あぐうう・・・」

アスカは生きながらに腹を割かれる恐怖に戦慄する。

た、助けて・・・誰か・・・

白い悪魔は臓物を引き出して貪る様に捕食し始めた。

「う・・・」

アスカは声も出なかった。やがて9つの柱はゆっくりと舞い上がるとまるでハゲワシの様にアスカの上空をくるくると何度も旋回していく。

ア、アタシはこのまま・・・死ぬの?・・・どうせならひと思いに・・・殺して・・・

誰かの視線を感じてその方向を見るとプラグスーツに身を包んだレイがアスカを見下ろしていた。

ファースト・・・どうしてアンタがこんなところに・・・

「セカンド・・・アナタは碇君を殺してしまったの?永遠にを失ってしまったの?」

アスカは声を出そうとするが喉から血が溢れて声にならない。倒れたまま何も出来なかった。

シ、シンジが・・・シンジが悪いんじゃない…ア、アンタは…あのままシンジの思い通りに…シンジに求められるままに…弄ばれればよかったっていうの…アイツにアタシの全てを捧げろって言うわけ…まっぴらだわ…そんな絆なら…いるものか!徹底的にアイツを拒否するわ!

「セカンド・・・碇君の絆を消し去ったあなた・・・あたしは碇君に会いたい・・・」

そういうとレイは突然現れた零号機に吸い込まれていった。

ファ…ファースト…アンタ…何をするつもり…

アスカから離れていくと使徒を思わせる巨大な光るリングに目掛けて特攻していく。

ま、まさか・・・アンタ・・・自爆?

そのまま目の前が真っ白になったかと思うと強烈な爆風が押し寄せる。アスカもその猛烈な勢いに巻き込まれて吹き飛ばされる。

遠くの方で自分の名前を呼ぶ声をアスカは聞いていた。

誰?アタシを呼んでいるのは・・・もう・・・アタシは死んで・・・




 
「・・・スカ!アスカ!」

アスカはふっと目を覚ました。

目を開けると学校の医務室の天井が見えた。すぐ横にはヒカリの顔が見えていた。

「え・・・ゆ、夢?」

「アスカ!気が付いたのね!よかったわ・・・本当に心配したのよ?随分魘されていたみたいだけど・・・」

「夢…ホントに夢?よかった・・・夢で・・・すっごい嫌な夢を見たわ・・・」

アスカは安堵の吐息を漏らした。

「そうだったの・・・でももう大丈夫よ・・・」

上体を起こそうとしたその時、左目に激痛が走るのを感じた。

見え難いと思っていたらいつの間にか左目に眼帯をしている。右の薬指と小指に包帯が巻かれていた。

アスカは全身にしっとりと寝汗をかいているのに気が付いた。不快感が増していく。

何だったのかしら・・・夢にしてはリアルすぎたけど・・・

暫く放心状態が続いていた。

何なのよ…アタシの存在って…それに…

何が絆よ…嫌な言葉…




 
Ep#05_(6) 完 / つづく

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