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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第6部 You are the No.1. それぞれの道


(あらすじ)

ブリーフィングが重々しく始まった。そしてシンクロテストの結果が発表される。その時、それぞれの中で何かが始まっていた。
リツコはため息をつく。
アスカ…女としては同情するけど…あなたとはいずれはお別れしないといけないわね…

(本文)

カードを配り終わった日向が同じように来月のシフト表をチルドレンたちの前に置き、続いて技術部所掌の実験手順書、新型兵器のテスト要領、対使徒戦作戦オペレーションデータ、パイロットの定期健診日程表などが一纏めになったファイルと同様の内容が記録されているメモリカードが置かれた。

ネルフから配布される資料関係はこの定期シンクロテスト後のブリーフィングが回を重ねるごとに増える傾向にあった。

情報機関の人間にとってはまさに垂涎のデータばかりだったがこれまでシンジはまともに読んでいなかった。

ただ、怒られない様にする為にシンジは自分の名前もしくはEVA-1の略称が書かれた箇所と日程だけは几帳面にチェックして管理していた。

ブリーフィングの時に積極的に質問をして自分の意見を言うのは決まってアスカだった。時々、それに鋭い突込みをポツッと入れるのがレイで、シンジはまともに発言はおろか質問すらした事もなかった。

こんなもの渡されても…でも…読んで無い事がバレると怒られるし…それにしてもどうしてアスカも綾波も…こんな難しいものが分かるんだろう…

この一種の疎外感も今までのシンクロテストでシンジのモチベーションが上がらない理由の一つになっていた。

だが、今日のシンジはいつもと違っていた。

負けてたまるか…僕だって…僕にだって出来るんだ…

確かな根拠があるわけではなかったがシンジは何か手ごたえの様なものを感じていた。

何か…自信がある…今日は…いい結果が出てる気がする…

「じゃあ、おっぱじめるわよ」

ミサトが手元のリモコンで部屋の照明を落してプロジェクターにシフト表を投影していた。





シンクロ率はEvaのパイロットにとって唯一絶対的なパフォーマンス上の指標になっていた。

あらゆるモニター値を総合的に勘案したマクロ指標ではあったが、逆を言えばそれだけにパイロットとしての資質を多面的に見通しているとも言えるからだ。

値の意味としては相対的だが、パイロットとして、チルドレンとしての価値を示す絶対値…それがシンクロ率に対するネルフの位置づけだった。

シンクロ率の実際上の効果は?といえば、この値が高いほどEvaの機体を効率よく制御する事が出来るということに尽きた。理論的にはシンクロ率100%の時、Evaの動作とそれに対する消費エネルギーが等価になることを同時に意味していた。

つまり高シンクロ率を出す事の出来るパイロットはEvaでの行動で無駄なエネルギー消費が無いため「空吹かしの少ない燃費のいいパイロット」ということになる。

内部電源の活動限界は5分と言われているが、この算出根拠はパイロットのシンクロ率が100%近傍にある場合のエネルギー消費量を元にしており、実際の活動時間(限界)はシンクロ率の高低により変化することになる。単純に50%であれば活動限界は2分30秒というイメージになる。

アンビリカルケーブルによる外部エネルギー供給が常に受けられるとは限らないEvaにとって内部電源だけでの戦闘を強いられるケースもあるため、より高いシンクロ率の発現をパイロットに求めるのは当然の流れだった。

活動限界に絞るとシンクロ率1%でも300秒(5分)の100分の1に相当する3秒は動かせることになるが、Evaを語る上でもう一つの重要な視点が「活動(起動)係数」である。

シンクロ率12.5%の壁と呼ばれる、パイロット選抜上の足切りライン、ともいえるEva起動に最低限必要なシンクロ率。それが「活動係数」だった。

Evaの生体動力とコアを制御する動力機関を起動するために必要な信号をパイロットが送る際に要求される信号強度がシンクロ率12.5%に相当していることがその根拠になっていた。

Eva内部の寄生抵抗に打ち勝つボーダーライン…そのため実質的にEvaのキーロックと言ってもよかった。

この活動係数を上回って始めて「シンクロ率の極大化」、更にその後に続く「特殊訓練」の意味が出てくることになる。

活動係数以上のある任意のシンクロ率が発現される場合において、パイロットの持つ思考(知識)と身体能力(スキル)が加わる時にEvaは実戦兵器としてその力を発揮することが可能なのである。

兵器としてみた場合、運用可能なシンクロ率が発現すればよく、シンクロ率の極限、すなわち碇ユイがほぼ完成させたといわれている「Eva基本理論」の究極を目指す必要は必ずしも無かった。

だが、選抜のクリア、あるいは適格者と認定されたパイロットを要してもシンクロ率の断続的な極大化は今もネルフ内で続いていた。

究極を目指す方向と、ある任意のシンクロ率においてEvaを兵器として運用するという方向は似てはいるが相容れない部分も少なくなかった。

共通しているのは「より高いシンクロ率を発現するパイロット」を求めている事だけで、それに加えて搭乗させるパイロットに「何を」求めるか…

まさにその一点が「実戦兵器(究極には次世代抑止力兵器足りえる)Eva」と、「それ以外の目的を持ったEva」、の分かれ道になっていた。

前者を求めるか、あるいは後者か?その命題が今のネルフの複雑な内情を形作っている、とも言えた。





「それじゃ、シフト表を確認してもらえるかしら。今月は結構な労作になってるわよ」

ミサトは明らかに淀んだ空気を漂わせているレイ、アスカ、シンジのことなどまるで意に介さないかのように淡々と今月の当番のシフト表の説明を始めた。

日向、レイ、アスカ、シンジの4人はミサトが配ったシフト表に目を走らせる。シフト表に限らず各資料は英語と日本語の両方で書かれていた。

ざっと目を通し終わったアスカは小さくため息をついた。

今日の結果…どうだったんだろう…結局…測定中にオペレーションルームから何の指示もなかった…誰も…アタシに語りかけてこなかった…

それが何を意味しているのか、今のアスカにとっては全てを悪く考えればネガティブなサインが自分に送られている様にも取れた。

みんな…嫌いだ…

アスカはちらっと横目でシンジの顔を見、続いてプロジェクターに投影されたシフト表で今月に予定されている技術部職掌の各種試験の日程を説明しているミサトを見た。

でも…一番嫌いなのは…情けないアタシ自身…

アスカは自己嫌悪に陥っている反面、自分を避けて結局昨日は帰ってこなかったミサトが気遣いなしに淡々と説明する態度が気に入らなかった。

全てを壊してしまったのはこのアタシ…アタシを戦友とまで言ってくれたミサトを裏切った…自分の気持ちを抑えられなかったから?いや…一人が嫌だったから…暖かさに…温もりに縋ったバカ女…

そして、昨日の夕食の時に言い争ったシンジに対しても複雑な気持ちを持っていた。

自分のことを棚に上げておいて一方的にアタシが…結局、アタシのものにはならないアンタ…本気で好きで…何もかもアタシのものにしたいほど好きで…いつまでも優しさに包まれていたい…そう思っても…この手からすり抜けていく…それを追いかけて行くだけの無様なアタシ…

「呆れるほど…バカバカしいわ…」

「えっ?」

アスカの隣に座っていた日向は思わずプロジェクターの投影画面からアスカに目を移していた。

アスカは腕を組んだまま正面の何処か一点を見ていた。無意識に言葉が口を継いだようなそんな感じだった。

アスカちゃん…僕もアメリカに出張してたから久し振りにあったけど…何かあったのかな…シゲルのヤツ…何にも言わねえし…

暫くアスカの横顔を見ていた日向が再び正面に向き直った瞬間だった。

「何よ…労作とか言って結局、リツコの試験日程に従っただけじゃん…そういうのって日本ではタリキホンガンっていうんじゃなかったっけ?」

皮肉を込めてオペレーションルームの末席からアスカがミサトに鋭く言葉をぶつける。

「あ、アスカちゃん!?」

日向は腰を抜かさんばかりに驚いていた。

続いてシンジが、おもむろにレイがアスカの方を見る。ジロッとアスカを睨むとミサトは険のある声で反応した。

「何か言った?アスカ?」

「!」

日向はある意味でアスカの発言以上にミサトのこの反応に驚いた。普段なら笑って聞き流すはずのミサトがアスカに厳しかった。

み、ミサトさん…?どうしちゃったんですか…アスカちゃんも…二人ともおかしいよ!

アスカとミサトがお互いに鋭い視線を交差させている。

「別に!」

ミサトもアスカのシンクロ率の結果が最悪だったことに自責の念があるものの、自分が受けた傷を元にしたアスカに対する精神的斥力の方が遥かに勝っていた。

何に対して心が痛むのか…あたし自身分からない…でも…何か…気に食わない…

ミサトも一言では言い表せられない葛藤が胸の中に渦巻いていた。少なくとも加持とアスカの事だけが引っ掛かっている訳ではなかった。

二人とも…あたしにとっては…

軽い人付き合いしかしないミサトにとって、例外的に重ねた時間が長い特別な存在だ。

しかし、人は弱い生き物だった。

「説明中に余計なことを言わないでくれない?時間の無駄よ」

「だから別にって言ってるでしょ!ちょっとジョークを飛ばしただけじゃん。何よ!そんなにムキになること?」

「今はあなたの冗談に付き合ってる暇は無いわ」

「それはそれは…申し訳ございませんでしたね!」

だ、ダメだ!これ以上…この二人を争わせたら…

見たことの無い二人の険悪な雰囲気に思わず日向が立ち上がって仲裁に入ろうとしたその時だった。

突然、シミュレーションルームのゲートが開いてリツコとマヤが入って来る。

ゲストの登場に二人ともそのまま静かになる。

「とんだ道草を食ったわ…」

「ふん!」

ミサトが吐き捨てるように言うとスケジュールの説明を再開した。

日向はおずおずと自分の席に着く。

こんなブリーフィングの雰囲気…初めてだよ…参ったな…この状態で…あのシンクロテストの結果を発表するのかよ…救い様が無いぜ…

マヤが日向の正面に座る。目が合った瞬間、マヤは小さく日向に手を振ってにっこり微笑む。

マヤちゃんもいるってのにさ…

日向はその瞬間ハッとしたような顔をする。

そうか!シゲルのヤツ!アイツ…こうなる事を読んで逃げやがったんだ…汚ねえ…汚ねえぞ…仕方が無い…いざとなったら僕が盾になるしかない…

日向は汚れてもいないメガネを外すとハンカチで拭き始めた。

ミサトのスケジュールの説明が終わるとリツコとマヤが立ち上がる。いよいよ今日のシンクロテストの結果発表される。

よーし…吹っ飛ぶ覚悟は…出来た…多分…

日向はいつでも飛び出していける様に椅子の位置を気づかれない様に調整し始める。

「それじゃ今日のシンクロテストの結果を発表するわね。まず今日のトップはシンジ君ね。おめでとう。これで2回連続の自己ベスト更新よ」

リツコがシンジに珍しく微笑みかける。

「え!ほ、本当ですか!」

「今日は特に凄かったわよ。よかったわね。おめでとう」

マヤがシンクロ率のチャートをシンジに渡しながら軽くウィンクする。シンジは飛び上がる勢いの喜び様だった。

僕、初めてだ…頑張れば結果が出るんだ…僕も認められるんだ…Evaに乗ればみんなが褒めてくれるんだ!やれば出来るじゃないか!

シンジは無意識のうちに拳を握り締めていた。

続けて…

レイが呼ばれた。

その瞬間、アスカは膝の上でギュッと両手を握り締め、堅く目を閉じた。

終わったんだ…

体がわなわなと震えている。

日向は殺気にも似た雰囲気を感じて思わずアスカの方に向き直る。

「あ、アス…」

日向は言葉を呑んだ。アスカの顔は顔面蒼白だった。日向はその痛々しい状態に言葉を失ってしまった。今、何を言ってもそれはアスカを傷つける事になると悟ったのだ。

レイは普段と変わらず無表情に受け取るとそのまま何の反応も示さずに席に付く。

「それから次ね…」

「リツコ!もういいわ!」

突然のアスカの声にリツコの隣にいたマヤが驚いて思わずシンクロチャートを取り落とした。

「ご、ごめんなさい…」

マヤが付いてもいないほこりを払う素振りを見せたが、その動作が終わる前にリツコがマヤからチャートを引っ手繰るとアスカの方に無造作に用紙を向けた。

「じゃあこれね。取りにいらっしゃい。結果は結果よ。何があったかは知らないけれど…」

アスカはずかずかとリツコの前に来ると引き千切る勢いでそれを持って行く。

「アスカ?分かっていると思うけど次はUltimatum(最後通牒)よ」

リツコはアスカの背中にぶっきらぼうにぶつけた。

肝心の部分だけに英語を使ったのはリツコなりの配慮だったが日英独の3ヶ国語を操るクォーターにとってはかえって嫌味にも取れた。

アスカは立ち止まるとジロッとリツコの方を見る。

「Genau(独語: You are rightの意)」

リツコも鋭く冷たい視線をアスカに注ぐ。

シミュレーションルームにまるで真冬の様な張り詰めた空気が流れる。さすがのミサトも一発触発の気配を嗅ぎ付けて場を盛り上げるために唯一明るい表情をしているシンジの方を向いた。

「それにしてもシンちゃん。今日は絶好調だったわね。You are the No.1ね」

「えっ?あ、ありがとうございます…」

急に自分に振られたシンジは始めこそ戸惑いを見せたもののすぐに口元を綻ばせる。シンジにしては珍しく周囲の目を気にするよりも喜びの方が勝っていた。

日向は思わず頭を抱える。

フォローになってないっすよ…ミサトさん…

アスカはデータチャートと配られた資料を小脇に抱えると弾かれた様にずかずかとシミュレーションルームの出口に向かっていく。

アタシはアンタにおめでとうっていうべきかしらね…シンジ…そう言えば…アンタにまるで中身がないロボットみたいって言ったことあったけど…中身がなくて…結局…何もなかったのは…

アスカは出口で一旦立ち止まるとミサトを横目で睨む。

「ミサト…ブリーフィングは以上でしょ?アタシ…上がってもいい?」

「えっ?ええ…まあ、そうね…」

アスカは冷たい青い瞳を閉じるとスッと出て行った。

何も無いのはアタシの方だった…情けない…これがアタシって存在…惣流・アスカ・ラングレーにこだわる理由はこれでほぼ潰えてしまった…

セカンドチルドレンたる資格なし…

ネルフ職員の命どころか、独立独歩で生きることさえも難しい…そして…アタシには帰る場所も…迎えてくれる人もいなくなってしまった…

その雰囲気にとても誰も声をかけることが出来なかった。

「アスカ…」

マヤは遠ざかっていく赤いプラグスーツの背中を見詰めながら思わず口に手を当てていた。チルドレンの資格要件を熟知しているマヤは次のシンクロテストの結果がラストチャンスになることを知っていた。

一時的とはいえそれだけ活動係数の割り込みの事実は重たかった。恐らくMAGIは次期適格者の選定を推奨するはずだったからだ。

リツコは大袈裟にため息をつく。

これでフィフスの選定は確実に始まるわね…委員会が先か…マルドゥックか…このところやけに委員会のチルドレン選抜に対する口出しは露骨だし…あの人はどうするつもりかしら…それにしても…

この期に及んでも留まっているミサトに既に不快感すら感じていた。

「いいの?ミサト…あのままあの子を行かせても…」

「あたしに…何が出来るっていうのよ…」

「そうね…あなたがEvaに乗るわけではないものね…でも一つ言っておくわ。このままだとあの子を見殺しにした人間の一人は間違いなくあなたになるわよ…」

そう言い放つとリツコはシミュレーションルームを足早に去っていった。マヤがやや遅れてリツコの後について行く。

リツコは白衣のポケットに手を入れる。またタバコの箱を弄んでいた。

「二人目はこのあたし…三人目は加持君…そしてあと一人…強いてあげればシンジ君ね…親子揃って女をあまり悲しませるもんじゃないわよ…」

アスカ…女としては同情するけど…あなたとはいずれはお別れしないといけないわね…いつまでも懸念材料の多いあなたをここにおいて置くわけには行かない…あの人がたまたま留守だったというのがあなたには幸いしたわね…

それに…

ミサトもどこまで和製ゾルゲ(加持)やアスカに絡んでるんだか…判断が難しいところね…使徒戦が終わるまではミサトは出来れば切りたくない…あの作戦手腕と実戦経験は何にも代え難いし…

 

Ep#06_(6) 完 / つづく

(改定履歴)
02nd July, 2009 / 表現修正
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