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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第7部 Under the Ground ターミナルドグマ(Part-1)


(あらすじ)

ミサトはブリーフィングの後、アスカの姿を求めてセントラルドグマ内を当ても無く彷徨っていた。
「アスカ…ゴメン…あたしがバカだった…あんたまで…失いたくない…」
ターミナルドグマに通じる連絡路に差し掛かった時、ある人影を見つけてミサトは驚愕する。
か、加持!!何であんたがこんなところに!!
シンクロテスト前の幹部会で加持が除籍処分になって追捕の手が伸びている事を知っていたミサト。
人は大切なものを失うまでそれに気が付く事が出来ないのか…
アスカ、加持、そしてミサト。誰も知らない地球の底で繰り広げられる三者三様の想い。
(本文)

20:05

ミサトは一人でアスカの姿を求めてセントラルドグマ内をさ迷っていた。

「全く!何処行ったのよ!」

ブリーフィング終了後、シミュレーションルームでボーっとしていたミサトは今までの逡巡を吹き飛ばすかの様に作戦本部棟にあるアスカの個室を訪れた。

しかし、そこにはアスカがいたことを示す痕跡があるのみでアスカ自身はいなかった。争った跡があった訳ではないが…

何だろう…あたしの第6感が…すっごい嫌な予感がする…

ミサトは走りながら思わず右手に握り締めていたアスカの携帯を見つめる。携帯のディスプレーには「着信あり25件」と表示されていた。25件の全てはミサトがかけたものだった。

ミサトは今朝とは全く違う感慨を持っていた。

「早まるんじゃないわよ!ほんとに!」





ミサトは先日のアスカのカミングアウトで激しく動揺した。これまでアスカを同性の女と意識したことはなかったからだ。

いくら女好きの加持でも未成年の少女と同居して関係するとは考えにくかったが、一年の間に全く間違いが無かったという保証もなかった。

年齢の割にアスカの発育はよかったし、何よりもアスカは異性に対して積極的で性に対する関心も高い様に見えた。あの強引な性格でアスカの方から誘惑することも十分に考えられる。

ましてアスカが第三支部時代から加持に対して一方ならぬ感情を抱いていたことはミサトでも、いやミサトだからこそ勘付いていた。

30目前の男と14歳の少女との男女関係なんて…
吐き気がするほど気持ち悪いわ…

それもミサトの偽らざる心境、の一つだった。

アスカに対するケアを放棄することでカタルシスになっていることをミサト自身も自覚していた。

二股が発覚した場合、本来であればその男の不節操が責められて然るべきだが、何故か男を恨むよりは相手の女に怒りの矛先が向くことが多い。

鎌倉時代辺りの日本では正妻が浮気相手の住まいを打ち壊して制裁を加えることは正当な権利として認められていたことすらある。

実際に北条政子が源頼朝の妾の家を家人に命じて襲撃させた記録も残っているくらいだ。ましてやそれが自分の身内同然の女であれば怒りや不快感も倍加する。

元来、女は女に厳しい。


一方でミサトにはシンジとアスカの「母」になろうという思いが「家族ごっこ」と揶揄される共同生活を通して芽生えつつあった。

しかし…結婚も出産も経験していないミサトの中で女と母の境界は曖昧だった。シミュレーションルームでリツコに言われた一言がミサトには深く堪えていた。

このままだとあの子を見殺しにした人間の一人は間違いなくあなたになるわよ…

あの一言でミサトの中にこみ上げてくる想いが急に芽生えた。それが何なのかは自分でもよく分からなかった。

母親になるというのはどういう事なのか…そんなの分かる訳ないじゃないの!今まで…専心に…ひたすら使徒を倒す事だけを考えてきたあたしなのに…

ただ…

このままだと…絶対後悔する…そんな気がする…もうあんな思いはしたくない…

ミサトの脳裏には南極での父親との最期の別れが蘇っていた。お互いに何も言う事が出来なかった苦い経験…未だにミサトの深奥で燻ぶっていた。

「どう?家族ごっこの感想は?」

皮肉を込めてリツコに言われたことも一度や二度ではない。

本当の家族…理想の家族ってやつは分からない…でも…絆がある限り…それでいい…理屈はいらないわ…

ようやく今…吹っ切れた。そんな気持ちだった。


そしてもう一つ。公人としてのミサトの立場から見たアスカとの関係は現在の主要な時間の大半を占めていた。

ミサトは特務機関ネルフの正規職員だったが同時に使徒戦という有事に備えて国連軍の軍人としての顔も持つ事になった経緯があった。これはミサト自身が欲した事ではなく(人類補完)委員会の裁定だった。

しかし、国防省を辞してネルフに着任したミサトはあることにすぐ気が付いた。

ネルフは対使徒戦に備える軍事組織の筈だったが、実際は学者の集団がそのまま武装した世間と隔絶した組織、だった。

この空気が唯一の軍事専門家であるミサトを一匹狼に自然に仕立て上げていた。それだけに弐号機の実戦配備、いや自分の分身とも言うべきアスカの赴任が決まった時はミサトにとって言葉に尽くせない喜びがあった。

それだけにミサトはアスカについて知らない事はない、という自負があった。それがアスカの告白で脆くも崩れ去った。

信頼を裏切られた、いや、飼い犬に手を噛まれた、そんな感情があったのも事実だった。

あんたはあたしの唯一の戦友…それを忘れないで…

適当な事を言って…結局、自分の都合をあんたに押し付けていた…あんたを裏切っていたのはアタシの方だったってことか…テメーのことを棚に上げてアスカの気持ちも聞かないで一方的に…

あたしってやつは…失って…いや…まだ失った訳じゃないけど…ただ、今は…あんたを抱き締めたい…何だろう…すっごい嫌な予感がする…アスカ…

「ばか!何処行ったのよ!ここ(セントラルドグマ)がどんだけ広いか知ってんの?探す方の身にもなれっつーのよ!無意味にでけーもん作りやがって!あのヒゲおやじ(ゲンドウ)!」




20;40

ミサトはアスカの立ち寄りそうな場所をあらかた確認したがついに見つけることが出来なかった。走り尽くめのミサトはさすがに足を止めた。

「はあ…はあ…はあ…こんなんで…息が切れるとは…歳かな…」

30km走行なんて日常茶飯だったのに…行軍が命の陸軍なのに…

ミサトは一通りの無い通路に思わずしゃがみ込む。

もうマンションに帰ったのかしら…いや…セキュリティーカードを残した状態でジオフロント線を利用できる訳ない…エリアアクセスの履歴を調べれてみようか…何か分かるかも…

ミサトが自分の居室に戻ろうとしたその時、ふと自分が滅多にやって来ないターミナルドグマへのアクセス通路近くにいることに気が付いた。

「くそ…めちゃくちゃ遠いじゃんか…」

こんなとこまで来たのか…この辺…気味が悪いのよね…

ミサトが立ち上がるとふっと人の気配を感じて思わずその方向を見る。ターミナルドグマに向かう通路に一人の人影があった。

ターミナルドグマに入ることが出来るのはネルフ内でもごく小数に限られた。ミサトですらターミナルドグマへのアクセス権を持たない。未知の場所だった。一般の職員がこの辺を訳も無くふらつく事は考えられなかった。

ちょっと…誰よ…こんなところで…

ミサトに思わず緊張が走る。反射的に物陰に隠れて様子を伺う。途端にミサトの目が大きく見開かれた。

影の正体は加持だった。

か、加持!こんなところであんた一体…

ミサトはまさに今日の定例部長会議において情報諜報部長の志摩とその部下の加持が二人揃ってネルフから職員倫理規定違反で除籍処分にあったという内報に触れていたのだ。

規定違反の詳細はその場では明らかにされず、ネルフ本部でもセキュリティーレベルがGrade A以上の者にだけ別途でその情報がもたらされていた。

志摩はID情報を何者かに奪われただけではなく、その情報を元にMAGIへの進入を許した痕跡が確認されたため責任を取らされていた。

そして加持には「日本政府内務省公安調査局のスパイ容疑」がかけられていた。まだ容疑の段階ではあったが職員守秘義務違反として志摩と同じく除籍処分になっていた。

追捕の手が伸びている加持がまだセントラルドグマ内を闊歩できると言うこと自体が異常だった。

少なくとも加持のセキュリティーカードは既に機能を失っておりターミナルドグマどころかセントラルドグマ内の自動販売機すら利用出来ない筈だった。

何を考えてるの!見つかったら殺されるわよ!

加持の処分と追捕の動き…これも多分にミサトを動揺させる材料になっていた。

死んでも死なない様なヤツに見えるけどさ…基本…あたしだって…女…感情ってものがあるのよ…すぐに切り替えられないわよ…そんなに頭よくないんだからさ…

ミサトは咄嗟にピストルのホルスターに手を掛けていた。





Ep#06_(7) 完 / つづく
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