新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第20部 鉄の雨、赤い涙 (Part-5)
多くの血が流れた第二実験場に刻一刻と終わりの時が迫っていた。ミサトが近づいている事も地上の状態も把握できないリツコは自失状態でダミープラグによる起死回生を図る。しかし、参号機の起動と共にすぐに異変に気が付く。
「な、何…このプログラム…ま、まさか…作られた使徒…」
参号機は執拗に弐号機に襲い掛かっていた。死闘を繰り広げるアスカ…そして救出を焦るミサト…
Summer(3 of 3), Four Season / A. Vivaldi
F306強制発議による第二実験場爆破まであと49分12秒…
周防たちは更に地下におりる階段を駆け下りていた。階段は地下3階で終わっているのが見えた。
「ちくしょう…いよいよ切羽詰ったって感じだな…」
自分達の足音以外の足音が頭上で響いている。
ズガガガガ!
「ひええ!!」
長良のすぐ近くで火花が散る。
「先生!騒がずにどんどん走れ!足を止めるな!的になっちまうぞ!」
階段を下りきって出口に出る。まるで造船場の様な大きな空間が目の前に広がる。
「な、何なんだ…ここは…」
周防が呆然と呟く。
「ここは…Evaのケージよ…参号機をここに入れる予定だった…」
「そうか…ここが…まるでドック(Dock)見てえだな…今までモニター越しにしか見たことなかったからな…こんなにバカでけえとは正直思わなかったぜ…」
目の前には1メートル程度の幅の長い渡り廊下が続いていた。100メートル先に重厚な金属扉があるのが見える。
吊り橋の様な一本道だった。
「先生よ…この橋以外に向こうに行く方法はあるのか?」
「無いわ…Level4以降のアクセスは厳重に制限されている筈よ…」
「そうかい…そいつは上等だ…」
どうやら…ここいらが潮時らしい…
4人は橋を渡り切る。リツコがIDカードを通してキーコードを入力すると大きな音を立てて扉が開いた。
「さあ、行くわよ」
トウジと長良が中に飛び込んだのを見届けてリツコも扉をくぐる。最後尾にいた周防はその場に立ったままリツコに背中を向けた。その様子を見たリツコは驚いて金切り声に近い声で叫ぶ。
「周防さん!何やってるの!ドアを閉めるわよ!早く!」
「先生よ…後は頼んだぜ…」
周防は振り返ることなく答える。
「な、何バカな事言ってるの!この扉はちょっとやそっとでは壊れないように出来てるわ!早くいらっしゃい!」
「残念だがこの世に無敵の扉なんざ存在しないんでね。こいつも他よりちょっとましというだけで結局、15分が30分に伸びるくらいの事だ。ここに工兵を近づかせたらその時点で俺たちの負けだ」
「な、何ですって?あなた、何言ってるの!?この扉は本部と同じ…」
「分かってねえなあ!Evaの装甲とは違うんだろ?だったら工兵に壊せないものは無えんだよ!その過信はいつか身を滅ぼすぜ!」
「何を…何を考えてるの…」
「丁度、ここは一本道なんでね…コイツで橋を吹き飛ばせば時間を稼ぐ事が出来る…」
周防は自決用手榴弾を取り出した。それを見たリツコは思わず周防の太い腕を掴む。
「ま、まさか…あなた…」
「あいにく…投げて吹き飛ばすやつは品切れでよ…こんな殺生なものしか残ってねえんだ…俺も死にたかないが…誰かがここに残らないとみんな死んじまうってわけよ…」
「周防さん…」
「トリアージって知ってるかい?野戦病院では常識なんだけどよ。同じけが人でも助かる見込みのあるヤツから救助する…残酷なようだが…1人を生かそうとして10人が手遅れになるってのもおかしな話だろ…?」
「ば、バカなことを言わないで!そんなの関係ないわ!ここにとりあえず籠りましょう!そうすれば…」
「先生よ!!グダグダと温い事をいうんじゃねえ!みんなで仲良く助かりましょうってのは映画の中だけだぜ!」
周防は大声を張り上げてリツコを制した。
「俺は人を傷つける事しか能がねえ!だが!あのガキにはまだ未来がある!長良先生もこれからもっとスゲエもんを発明するだろうし、赤木先生!あんたもだ!あんたはきっとこの地獄を終わらせてくれるって俺は信じてるんだ!な?これでわかったろ?」
リツコは言葉を失っていた。
「俺にはできねえ事ばかりなんだよ…だから…俺が残るべきなんだ…」
周防はため息をつくとリツコの方を向く。
顔中すすだらけにした50過ぎの禿げ上がった頭。少々厳つい雰囲気と迷彩服を着ているということを割り引けば何処にでもいそうな普通の中年オヤジだった。
国防省の一兵卒として軍歴をスタートさせた周防進は一貫して前線を渡り歩いてきた。周防の転機は休暇中に酔っ払った若いサラリーマンにからまれていたOLを庇って相手を病院送りにする傷害事件を起こした事だった。
周防自身も酒を飲んでいたということもあったが世論が周防に対して厳しかった。結局、戦略自衛隊の設立等で過敏になっていた国防省の上層部は周防を懲戒免職処分にした。
職にあぶれた周防は自暴自棄の生活の果てにネルフの作戦部員に志願し、ミサトの知遇を得て作戦部の要として活躍する様になっていた。
酒飲みでギャンブル癖のある周防をリツコはこれまで嫌悪していたが、周防のこの献身に思わず涙を流していた。
「こいつを渡しとくぜ、先生よ。少なくとも先生のLadysmithよりかはマシだぜ。それから余計なお世話だがよ…Ladysmithの由来を…先生は知ってるかい…?」
「え…?ゆ、由来…?」
周防は自動小銃をリツコの足元に放り投げるとぎこちなくリツコに笑いかけた。
「S&W M36のバリエーションで女性の護身用として軽量化(短銃化)とグリップを握りやすく改良したのがM3613。通称Lady Smith、つってよ…先生の持ってる銃がそうだよ。アメリカは銃社会だろ?自分の身は自分で守るのが(西部)開拓時代からの伝統だとかって偉そうな事いいやがるがよ、その実、アメリカ庶民の大半は銃規制が必要だと思ってんだよ。可笑しいだろ?アメリカ経済を支える軍需産業の票が欲しくてワシントンが犯罪の温床になると分かっていながら銃規制できねえっつうのがアメリカの憂鬱なんだ。分かっちゃいるけど止められない…偉そうな事ばかり言って結局誰のためにもならねえことを延々と繰り返すだらしねえ男社会…その犠牲になるのはいつも女や子供なんだよ…」
「…」
「女が持つLady Smithにはよ…大切なものを護り育み一人だけになったとしても力強く生きろ…という願いが込められてんだよ…またの名を…罪滅ぼし…贖罪の銃…というんだ」
「贖罪の…銃…」
「わからねえかい?男には外の世界、建前と面子があるから例え歯車が狂っても振り上げた拳を下ろせねえ時がある。だが…女は違う…簡単に生き方を変えることが出来んだよ…今まで拘ってたものをあっさり捨て去ってな…バカにして言ってるんじゃねえぜ?羨ましい…そう言ってんだよ、俺は…多分だけどよ…それが命をずっと受け継いでいく女っていうどえらい(崇高な)生き方なんだろうなあ…だから女は何があっても生きなきゃいけねんだよ」
「生きなきゃ…」
「そうさ…こんなとこで死んじゃいけねえぜ…難しい事はわからねえ俺だけどよ…先生の銃を見たときに…そいつが生きろって言った様な気がしたんだ…」
「周防さん!危ない!後ろ!」
パシン!パシン!パシン!パシン!
周防の背中にいきなり銃弾が浴びせられる。口から血を吐き出すとたまらず周防は金属製の冷たい橋の上に膝をつく。
「ぐはっ!…早く…せ、先生…あの悪がきのことは頼んだぜ…」
「周防さん!しっかり!」
「へへ…喋りすぎたみてえだ…先生…みんなを…世界を…救って…くれ…」
周防はリツコを扉の奥に押し込むと扉を閉めた。
「周防さん!!どうして!どうしてなの!あなたは…どうして…ううう…」
ロックされた扉の向こうでは容赦なく銃声が切れ目無く浴びせられていたが、やがて…
バーン!!
周防の握っていた手榴弾が炸裂する音が聞こえて来た。
静寂が訪れた。
リツコは一人、真っ暗になった通路の中ですすり泣いていた。
F306強制発議による第二実験場爆破まであと45分56秒…
新首都高を北上していたシュワルツェンベックは暗闇の中を煌々と炎を上げて燃えている山々を見ていた。弐号機の姿は確認出来なかったが激しい爆発音と地響きだけは伝わってきていた。
「ふん…まるで地震だな…戦闘はほぼ終了…掃討戦といったところか…」
これで余計な手間は省けたが…それにしても…
「相変わらず容赦が無いな…我らのヴァルキューレは…ふふふ…山一つ吹き飛ばす勢いの砲撃とは恐れ入った…」
ネルフ本部が非常事態宣言を発令している事は既にマクダウェル少将からシュワルツェンベックの耳に届けられていた。
遠目に戦自第二師団の戦車隊が道路を封鎖しているのが見えてきていた。
「あれか…百式と見えるのを楽しみにしておったのに…90ではないか…つまらん…強行突破する気にもならん」
「閣下!前方に90式(日本製第三世代戦車)が12台展開しております!」
「ああ…ここからもよく見えるぞ…」
砲座のハッチから外を眺めていたシュワルツェンベックはヘッドセットのレシーバーで交信する。
ロキめ…小ざかしいマネをしおって…邪魔もするが本気で封鎖するつもりも無いらしい…
「よし!全軍右へ回頭!高速道路を離脱!ガードレールを蹴破って一般道を使ってそのまま松代へ向かえ!」
「了解!」
フェンリルは90式戦車のすぐ手前で突然向きを変えて高速道路と一般道を分けるガードレールを突き破る。そのまま脇目も振らずに次々とレオポルドXXは真夜中の市道を駆け上がっていく。
「な、何だと…お、追え!後を追え!」
不意を突かれた戦自の戦車隊は慌ててその後を追っていく。松代市に入った事を道路標識が告げていた。
F306強制発議による第二実験場爆破まであと44分42秒…
暗がりからのっそりとリツコが姿を現した。
「あ、赤木センセ!大丈夫やったんか?」
「ええ…」
「あ、あの…お、おっさんは?おれへんのか?」
「周防さんは…死んだわ…私たちを護って…」
「ええ!周防さんが!」
リツコの言葉に長良が驚愕する。通路に座り込んでいたトウジがすくっと立ち上がるとリツコの方に駆け寄って来た。
「死んだって…そんな…嘘や!何で…」
「す、鈴原君!ちょっと落ち着いて!ぶ、部長、お怪我は?」
周防の返り血を浴びたリツコの白衣を心配そうに長良は見ていた。
「わたしは大丈夫…」
ガシャッ!
リツコは周防から受け取っていた自動小銃を足元に放り投げると力なく通路に腰を降ろした。
「くっそ!あいつら!」
トウジは自動小銃を手に取ると実験場のケージの方に向かって走り出した。
「ちょっと!!あなた!!そんなものを持って何処に行くつもり!!」
「何処って…おっさんを撃ったやつらをブチ殺したるんや!このままやられたまんまでおれるか!」
「バカ!!子供の癖に!生意気な事を言うんじゃないわよ!」
バシ
リツコはトウジの方にづかづかと歩み寄ると右頬を平手打ちした。怯んだトウジの手から自動小銃を引っ手繰る。
「周防さんが…周防さんが自分の命をかけて護ったのよ!あなたの命を!それを簡単に捨てるつもり?そんなバカなの?あなたは!」
「でも…でも…くっそ…腹立つ…めっちゃ腹立つんや…」
トウジの目には涙が溢れていた。それを全く隠そうともせずトウジはリツコを睨みつけていた。
「部長…これは…わたしが…」
長良がそっとリツコの手から自動小銃を取った。
「生きるのよ…私たちは…何があっても…いい?分かった?鈴原君…」
リツコがトウジの肩にそっと手を置く。それを合図にしたかのようにトウジは泣き始めた。
「くっそ…おっさん…くっ…くっ…こんなの…こんなお別れって殺生やで…」
鈴原兄妹はまだトウジが5歳の時に両親は離婚し、母親が子供を引き取って女手一つで育てた。しかし、元々病弱だった母親はトウジが中学校に入学した年に新型結核にかかり隔離病棟の中で呆気なくこの世を去った。
父親の所在は知れず親戚の家を兄妹で転々とした挙句に財団法人ネルフ青少年育成基金という奨学金に応募して第三東京市に移り住んだという経緯があった。
父親の顔をほとんど覚えていないトウジにとって周防と松代実験場で一緒に過ごした時間は何処か乾いていたトウジの心を潤していた。
おっさん…この鍋…真ん中がへこんどるで…
なんだテメーは…飯ごうもしらねーのか…ったく…近頃のガキは遊びもしらねえとは…俺の年金は本当に大丈夫なんだろうな…
「おっさん…」
おっさん…俺…大人になったら…おっさんみたいになりたいって思うとるんや…
な、なんだそりゃ?
俺もネルフに入って…作戦部でおっさんみたいに…
やめとけ…
え?な、何でや?ネルフの作戦部は人不足やって…いつも葛城さんから聞いとるで!
俺は社会の駄目な見本だ…勉強は小学の3年で諦めた…タバコは小6…競馬もパチンコも改造原付も中坊で覚えた…
まあ…俺も勉強はおっさんと同じレベルやけどな…へへへ…
「おっさん…」
バーカ…勉強しろ…悪い事はいわねえ…しっかり勉強して偉くなれ…所詮は兵士が救えるものは多寡が知れてんだよ…災害が起こって…掘れと言われた所を掘って…どっかでドンパチ起これば行けと言われた所に行く…だが…結局…それで何も世の中はかわらねえし…誰も救えなかった…難しい事は分からねえが…多分…博士や大臣になりゃ…バカな戦争も防げるだろうし…腹空かせたガキに乾パンの一枚でも食わせることが出来んだよ…
おっさん…おっさん…
「おっさん…」
トウジは泣き崩れていた。男泣きというには余りにも幼すぎた…
リツコは涙を血とすすで汚れきった白衣で拭うとポケットから携帯端末を取り出して操作し始めた。
「ぶ、部長…一体何を…」
「この携帯端末でMAGI-00に入る…」
「え?MAGI-00に…か、可能なんですか…」
「地下に来て気が付いたけどここは妨害電波の影響を受けていない。地下内であれば通信可能の筈だわ。ここからリモートアクセスで参号機を起動させる」
「さ、参号機を!じゃ、じゃあダミープラグで…」
「これに賭けるしかないわ…MAGIを爆破して死なば諸共と思っていたけど…」
女は…生きなければいけないのよ…わたしは…もう一度…あの人を信じるわ…
リツコは常人とは思えない速さで次々とプログラムを打って行く。
「す、凄い…」
長良が呆然と呟いていた。
「これでダミープラグの準備は出来たわ…でも…」
リツコは一瞬手を止める。
こちらのダミープラグはレイを基調としている…それを参号機に…アダムより生まれしものに…果たして動くのかしら…まず受け入れるか自体が問題だわ…そして…
リツコは右手で軽く頭を抱えていた。
そして…仮に動いたとして…その後でコントロール出来るか…それが次なる問題…まさに参号機は私たちにとって福音となるか…あるいは災いをなすか…
「どうかしたんですか?」
「いえ…考えている暇は無いわね…Jobを実行するわ…」
携帯端末の小さい画面をリツコ、長良、トウジの三人は覗き込んでいた。起動シーケンスが順調に進んでいくのが見えた。
「So far so good…(今のところ…順調ね…)」
リツコは自分の不安な気持ちを悟られない様にあえて日本語を避けていた。
「や、やったぞ!起動した!助かるぞ!」
起動に成功した瞬間、長良が飛び上がる。それにつられてトウジも安どの表情を浮かべていた。無邪気に喜ぶ二人をよそにリツコは参号機の内部プログラムを確認していた。
参号機の基本データの中に見たことのない不審なファイルフォルダーを発見する。
リツコの表情が曇る。
何…この参号機に組み込まれているプログラムは…出所は…な、何これ!
プログラムファイルのプロパティは「G02_N03_DKOGUG」が作成者であることを示していた。それをみたリツコは驚愕する。
あ、あり得ないわ!なぜ第三支部のMAGIがこの参号機の基礎プログラムに関わっているの!参号機はアメリカで作られたのよ!
リツコは慌ててインストール日時を確認する。インストールの日付は昨日の深夜になっていた。時間的に極秘裏に参号機を新横田から松代まで運搬していた頃だった。
筑摩さんに何があったか確認しなければ…それにしてもこれは何のプログラムなのか…
リツコは参号機に組み込まれているプログラムの中身を確認し始めた。
どういうこと…何故…アスカと弐号機のデータが参照ファイルになっているのかしら…いやそれだけじゃない…このファイル…自己増殖?なにこれ…まるでEvaの素体を利用して自分を作り出すような…
ズズーン!!ズズーン!!ドゴオオオン!!
「な、何だ!ま、まさか扉が破られたのか!」
「いや違うわ!震源は私たちの真上よ!この実験場の上…参号機の起動による音に違いないわ!早く制御しないと!」
リツコが慌てて手に持っていた端末のモニターに視線を走らせる。参号機とのリモートアクセスがDisconnect(接続不能)状態を示していた。
「そんな…どうして!さっきまでCom(Communication)状態だったはずよ!」
何度も何度も参号機と接続を試みるが全く受け付ける様子が無い。こうしている間にも激しい振動と轟音が上から響いてくる。
「ぶ、部長!一体これは…」
長良が呆然と上を見上げていた。
「分からない…少なくとも暴走ではないわ…」
リツコは暫く手を顎に当てて考えていたがハッとした表情をする。
「このパターン…あの時(第11使徒)に似ているわ…まさかこれは…作られた使徒!」
F306強制発議による第二実験場爆破まであと39分43秒…
第二実験場敷地内では弐号機と参号機の死闘が繰り広げられていた。実験場の南側に詰めていたギルバート軍曹の小隊は退却を始める。
舞台は人同士の戦いからEva同士の戦いに移っていた。
ネルフ本部の第一発令所でも早期警戒衛星からの画像を主モニターに投影して戦闘の様子を見ていた。
「旗色が悪いようだな…いつものアスカ君らしくなく…どこか動きが鈍いような…」
冬月が眉間に深い皺を寄せてモニターに見入っていると発令所のPrincipal Operation Floorの双方向通信システムからゲンドウの声が響いてきた。
「初号機のダミープラグのエントリーはどうした?」
ゲンドウの声に青葉が返事に窮して冬月を仰ぎ見る。冬月は荒々しくマイクを取ると語気を強めて言った。
「碇!こんな時に何を言っておるんだ!ダミープラグでエントリーした参号機が暴走しているんだぞ!そんなバカな指示は受け入れられんぞ!」
スピーカの向こうのゲンドウがため息をついているのが分かった。
「冬月…参号機はダミープラグで暴走しているのではない…使徒化したのだ…」
「な、何だと!使徒だと?」
「そうだ…ダミープラグはその覚醒のきっかけになったに過ぎん…直ちに初号機を起動して使徒を殲滅させろ」
冬月はゲンドウの言葉を俄かに信じることが出来なかった。いや、冬月の中では再びゲンドウに対して抱いていたある種の不信感が急激に鎌首をもたげつつある、そう言ってよかった。
そうだ…この男はいつも人を煙に巻くような事を言う…初めて会った時もそうだった…嫌な男だった…
一度は碇ゲンドウという男を告発しようとしていた冬月が碇ユイとの再会によって封印していた想い、ゲヒルンに加わり、ネルフに移行して今日に至るまで目を背けていた事実、それが堰を切った様に噴出し始めていた。
使徒化だと…Evaが…?一体どういうことだ…本部ではなく急に松代で試験をすると言い出す辺り…やはり納得できない事が多い…私に隠し事をする…それ自体は別に構わん…人にはそれぞれ不可侵の部分があってしかるべきだからな…だが…お前は…お前のそれは…少し違うぞ…
冬月はマイクを握る手に力を込める。
お前がヒトとの間に壁を作るのは構わん…だが…その壁が…結局…周りの人間を不幸にし…人を傷つけているんじゃないのか…そうやって…そうやって貴様は!ユイ君をこの世から消し去ったんじゃないのか!!
「バカを言え!!この乱闘が暴走ではなく使徒だという確証が貴様にあるのか!!ダミープラグなど正気の沙汰では…」
「青葉…DNAパターンはどうなっている?」
冬月を遮るようにゲンドウが鋭く言い放った。
「は、はい!パターンは…一応…青!使徒と思われます」
「な、なに?!」
冬月が驚いて隣にいた青葉の顔を見る。青葉は顔にやや困惑した色を浮かべていた。
「使徒のDNAパターンであることには間違いがありませんが…」
「が?何なんだ?それは…」
その時、弐号機を押さえつけていた参号機の口から粘液の様なものが垂れ始めているのが主モニターに映し出される。
「な、なんなんだ…あれは…」
冬月は主モニターを食い入るように見ていた。粘液が弐号機の装甲を施した背中に垂れるとまるでそこから硫酸が落ちたかの様に煙が幾筋も立ち上る。
「弐号機のF(兵装)装甲板が犯されています!この粘液状のものは使徒の一部と思われます!まるで素体を探るかの様に装甲内を侵食中!」
発令所の司令長官の席でゲンドウは独り言の様に呟く。
「侵食タイプか…それも意思を持つかの様に…ある意味、最強の侵食型使徒だな…」
「このままではF兵装の装甲を破られて弐号機本体に達します!」
ゲンドウはちらっと愛用しているローレックスのAir Kingに目を走らせた。
「零号機に使徒の攻撃に向かわせる…ピクシー1にピックアップを指示しろ」
「了解!」
「くそ…折角、通信回線を確保したのに弐号機と交信できんとは…」
冬月は忌々しそうにマイクを青葉のデスクの上に放り投げた。その途端に再びゲンドウの声がスピーカーから響いてくる。
「同じ事を何度も言わせるな!!早く初号機の起動を進めろ!!」
「は、はい!!」
青葉は手元の端末を慌しく叩く。
ふー…司令と副司令が付きっ切りかよ…たまんねーな、こりゃ…俺一人で相手しないといけないのかよ…
Ep#07_(20) 完 / つづく
(改定履歴)
7th June, 2009 / 誤字修正
6th June, 2010 / 表現修正
7th June, 2009 / 誤字修正
6th June, 2010 / 表現修正
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