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新世紀エヴァンゲリオンの二次創作物、小説「Ihr Identität」を掲載するサイトです。初めての方は「このサイトについて」をご参照下さい。小説をご覧になりたい方はカテゴリーからEpisode#を選んで下さい。この物語はフィクションであり登場する人名、地名、団体名等は特に断りが無い限り全て架空のものです。尚、本ホームページに使用した「新世紀エヴァンゲリオン」の画像は(株)ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止されています。
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第九部 虚像

(あらすじ)
突然、ヒカリ達の前に現れたトウジは疎開先に向かうバスに乗り込む。その姿を遠くでジッと観察する諜報二課の姿があった。

一方、霧島マナは戦自の追っ手を振り切って箱根山中にあるネルフのジオフロント通用門に駆け込んで事なきを得る。期せずしてネルフで東雲カズトと再開したマナは東雲がネルフの職員になっていることに驚くのだった。





第二東京市(新品川)-新東京日日新聞社 本社屋-

「常務!たった今、県警本部から情報が横流しされてきたんですが第三東京市近辺で大規模な暴動が起こったらしいですよ!」

「な、なんだと!?暴動だと!!そんな話は全然…」

「もう逮捕者もかなり出てて催涙ガスやら火炎瓶やらが飛び交ってトンでもない状態らしいっすよ!」

「そ、そうか…しかし、よくそんな情報がもらえたな、おまえ」

球磨大輔は役員室に飛び込んできた遊び仲間を兼ねている彼の秘書の顔をマジマジと見詰めていた。

「へへへ…まあ普段から付き合いは絶やしてませんからね」

「ちっ!てめえもあんまオマワリと連(つ)るんで無茶すんじゃねえぞ!親父の目を盗んで営業経費で落とすのも大変なんだからよ!」

「分かってますって。そんなことより常務。これはスクープのチャンスですよ!何てったって第三東京の市長が緊急に非常事態宣言をさっき出したばっかだし、それにネルフと一体になっている自由党系の市長さんでしょ?完全な情報統制がかけられてて内部からの垂れ込みが無い限り他のマスコミは…」

「んなこたぁいちいち言われなくても分かってる!!少し黙ってろ!!」

球磨は秘書というより街のチンピラといった風体をした自分の部下を一喝するとブツブツと独り言を呟きながら落ち着きなく部屋をウロウロし始めた。

小うるさいことを抜かす山口の野郎もこの前いなくなったばっかだし…このネタをうまく使えば…俺の手で…俺の代で…傾きかけてるこの会社を立て直すことだって出来る…俺を馬鹿にしてきた奴らや…兄貴の鼻を明かしてやれるチャンスなんだ…でもどうやる…どうする…どうすれば一番効果的にこのネタを使える…考えろ…考えるんだ…

球磨の頭の中ではあらゆることが駆け巡っていた。

自由党が倒れて国民党政権が出来…使徒被害救済法の施行とこの前の使徒被害でこの国の財政破綻はほぼガチだ…この暴動は単に家に帰りたい奴らの一部がバカした一過性のものだろうが…そんな正論吐いた新聞なんかわざわざ金出して読みたかねえ…もっとセンセーショナルに…映画のように“事実”は盛り上がるべきなんだ…そうか…

一瞬、暗闇に閃光が走る。球磨はふと顔を上げた。

ネルフだ…どうせ嫌われ者の厄介者だ…一つや二つ悪名が加わったところで誰も困らねえ…いやむしろ…国民から恨まれたくねえ国民党や新霞ヶ関(官僚の意)が乗りかかってくるに違いない…そうなれば!!

「こいつはガチで一世一代のチャンスだ…これをモノに出来なきゃ男じゃねえ!!よし!!ヘリ飛ばせ!!打ち落とされても構わねえ!!記者に死人が出てもそれを利用してやる!!若い連中を総動員して現場に突っ込ませろ!!いいか!!何が何でも愚民がネルフに暴行されてる絵を押さえるんだ!!最低でも魔改造出来るくらいの素材を撮って来い!!」

「え?ね、ネルフっすか?そりゃ無茶な話ですよ。だいたい第三東京市は日本政府の発したA-01発令の支配下にあってネルフなんてぶっちゃけこの件に関係ないっすよ」

「おい…何寝ぼけたこと言ってやがる…ゴミクズみたいな愚民共にA-01発令とネルフコードの違いなんてこっちが教えてやんなきゃ分かるわけねえんだよ。こっちが胴元はネルフだって情報発信すれば“事実”はそうなんだよ。要は一番面白そうなシナリオになるように“真実”を如何に利用するか、これが正しいマスコミのあり方だろうが!事実と真実は一致しなくていいんだよ!俺達が言うことが事実になる!それだけだ!言わせんな!恥かしい!」

「ま、まあ…確かにお堅い記事だけじゃ飽きられますしね…で、でも…だからって…現場に記者を突っ込ませると色々ヤバくないっすか?」

「はあ?バッカじゃねえの?絵が押さえられたら社員なんか幾らでも死ねばいいんだよ。事故なんだから百パー会社のせいじゃねえしな」

「で、でも…そんなこと言ってたら幾ら社員がいても足らないっすよ」

「死ねば新しいやつを雇えばいいだけの話だろが。第一、この不況で内定の取れねえ連中はむしろ席が空いて喜ぶんじゃねえの?会社のために死んで、更に“無い内定”のバカ学生のために道を譲る…クズの割に立派な社会貢献するじゃねえかよ…そんなことよりさっきから何ボサッとしてんだよ、てめえはよ!!さっさと兵隊集めろや!!」

「わ、分かりました!」

追い立てられる様にして役員室を出た秘書はペルシア絨毯の上でため息を付いていた。

だ、大ちゃん…何か…人が変わっちまったな…

部屋に一人になった球磨はガラス窓の傍らに立っていつもと変わらない第二東京市の喧騒を見下ろしていた。

「やってやる…俺はやってやるぜ…見てろよ…親父も兄貴も越えてやる…」

球磨の目は血走っていた。懐からタバコの箱と高価なライターを取り出そうとする手が小刻みに震えていた。

「な、何だ…これ…くそっ!ビビッてるのかよ…ビビってるのかよ!俺は!くそが!!」

球磨は床に目掛けてタバコとライターを叩きつけた。カラカラカラと乾いた音が室内に響く。

「クソが…」



バスのタラップに片足を乗せたヒカリは人の気配をふと感じて陽炎が立ち上るアスファルトの向こうに目を向けた。緩やかな坂道を歩いて上ってくる小さな黒い人影が見える。ヒカリの目が大きく見開かれる。距離がありすぎてハッキリとは分からなかったが、そのシルエットはどこか懐かしかった。

ま、まさか…いいえ…そんな筈ないじゃない…だって…あいつは…

「ほら!洞木!早く乗りなさい」

「あ、はい!すみません!」

担任の最上(※ Ep#07_2他参照)に促されたヒカリはハッと我に帰ると慌ててバスに駆け込んだ。

そうよ…きっと気のせいよ…あたしが…寂しいせいだ…

担任の最上がヒカリの後を追うように首に下げている白いタオルで汗を拭きながら車内に入ってきた。最上は20代後半の若い教師で理科を第一中学校の生徒に教えていた。そしてそれは教壇に立つことに憧れながらずっと待機を命じられていた彼が与えられた教職につくチャンスだった。彼もまた希望を胸に抱いて第三東京市にやって来た一人だったのである。

火に炙られた鉄板のように熱気が立ち上る外から冷房の効いた車内に入ると彼の丸レンズの眼鏡はたちまち曇った。眼鏡を外してレンズをおずおずと拭きながら最上は何度もため息を付く。何かを言い淀んでいる様な仕草だった。

言わない訳にも行かないしな…気が重いが…

「ええっと…みんな揃ってるな。みんなも知ってる通り、先週、使徒がまた日本にやって来たせいで、本当にたくさんの方がお亡くなりになってしまった…それから日本を守ってくれていた国連軍も多くの犠牲を出して…今…日本は大変な事になっているのはみんなもなんとなく分かっていると思う…」

生徒指導は熱心な方だった。学校菜園でトマトなどの夏野菜を育てているため真っ黒に日焼けしているが、如何にも理科教師という細面で神経質に髪を半分に分けていた。普段、背は高いがヒョロっとしていてナヨナヨしている目の前の若い理科教師をからかっている生徒達だったが、誰もがいつになく真剣な面持ちで担任の顔を見詰めて一言一言に耳を傾けていた。

「さっき、この街の市長さんが非常事態宣言を出しました」

「非常事態宣言って何ですか?先生」

「えっとだな…政府の偉い人たちがこれ以上ここ(第三東京市)に一般市民がいるのは危険と判断したんだ。僕たち第一中学校を始めとして市内の小中学生は全員疎開することが決定されたんだ」

「そ、疎開!?疎開って何なんですか?」

「先生!!あたし達…どっかに連れて行かれるんですか?」

忽ち車内の雰囲気は騒然とし始める。

「そうなる…もう…みんな…ここにはいられないんだ」

「ど、どうしてですか!?」

「お、おれら…何処に連れて行かれるんですか?」

「市内のそれぞれの学校、また学年やクラスで受け入れ先は異なるんだが…うちの学校は1年から3年までのA組の生徒全員で京都の“財団法人ネルフ青少年育成基金付属の研修センターに向かうことになっているから…」

いきなり最後尾に座っていた男子生徒が立ち上がる。
 
「そんなめちゃくちゃな!!」
 
「これはみんなのためなんだ…これ以上…ここにいたら生徒の誰かに犠牲が出てしまうし…頼む、分かってくれ…」
 
「冗談じゃないよ!!ふざけんなよ!!俺が潰してやるよ!!そんなやつら!!」
 
「酷いよ!先生!そんなの…あんまりだよ…」
 
突然、一人の女子生徒が泣き出し始めた。悲しみの波動は瞬く間にバス全体に伝播していく。最上は俯くしかなかった。
 
くそっ…なんで俺が…なんで俺がこんな…こんな残酷なことをこいつらに言わないといけないんだ…出来ることならもっと…もっとこいつらが喜ぶことを言ってやりたい…
 
各地を転々としてきた彼らはようやくこの第三東京市に自分達の“家”を持つことが出来、そして貴重で多感な少年少女時代をすごし始めたばかりだった。どの学年でもA組の生徒達は地元の子弟で構成される他のクラスとの折り合いは総じて良好とはいえなかったが彼らにとって第三東京市はいつの間にか居場所になっていた。それが今、訳も分からずバスに乗せられてこの街を離れようとしていることに全員が不安を隠しきれなかった。それが痛いほど最上には分かっていた。いや、だからこそ彼はここまで熱心に生徒指導をしてきたのだ。学校菜園もサッカー部の顧問も何の見返りも手当ても付かないのに自ら進んでやってきたのはある意味で全て身寄りの無いA組の生徒のために少しでも役に立ちたいという思いからだ。
 
お願いだ…分かってくれ…お願いだ…
 
そこまでの自覚が最上の中に明確にあった訳では無いが、元々片親で全国各地から集められてきたA組の生徒達にとって最上は頼れる唯一の存在と言ってもよかった。だからこそ、幼い視線は容赦なく最上に突き刺さり、感情的な言葉は彼の胸に叩き込まれていく。教師がある意味で“聖職”と呼ばれているのはまさにある一面で彼らが親代わりをして心と心を営利抜きで通わせる立場にあるからである。それは泰平かつ飽食の時代ではなく、皮肉にもこうした追い詰められた時でしか実感出来ないところが悲しかった。

「静かにしてくれ!!」

いきなり張り上げた最上の声は裏返っていた。しかし、誰も笑うものはいない。車内マイクを握る最上の手はわなわなと震えていた。

「先生は嫌なんだ…みんなの中から犠牲者が出ると考えると…とてもそんなの耐えられない…耐えられないんだ…嫌だ…」

喉がからからに渇き、何度も言葉に詰まりながらも絶え絶えに彼は繰り返した。まるで子供のように彼は同じ言葉を繰り返していた。

「せ、先生…」

冷たい冷房の風が吹き出す音しかしなくなる。打ち沈んだ空気の中に突然、完全武装をしたネルフ保安部の職員が入ってくると今にも倒れそうな雰囲気で立ち尽くしている教師の方を見た。

「先生。これからこのバスで市内に入ります。急いでください。許可された時間は1時間です」

「あ、す、すみません…」

「大変なお役目ですね…お察しします…ですが…申し訳ありませんが我々には時間がありません…緊急に敷いた検問は次々に突破されています。時間が経つほど状況は悪化しますので…」

「は、はい…済みません…すぐに出発しますから…」

「お願いします」

職員が去って行くと痩身の理科教師は再びマイクをおずおずと口に引き寄せた。

「みんな…さっきは…その…大声出してすまなかった…ええっと、これからネルフと国連軍の人たちと一緒に君達の下宿先を一軒一軒回る予定だ。そこで最小限の荷物を纏めて下さい。食べ物とか生き物の持ち込みは禁止です。貴重品と着替えだけをかばんに詰めてバスに必ず帰って来て下さい。いいですか?分からない事は先生か国連軍の方に質問して下さい。いいですね?」

返事はなかった。最上は諦めたような表情でマイクを傍らに置く。

「それじゃ出発します」

「おーい!!ちょっと待ったれや!一人忘れとるで先生!!」

バスの前方にある乗降口からジャージを着た鈴原トウジが突然車内に入ってくる。薄っぺらいボストンバッグを肩に担いだトウジは人が違ったようにどこか精悍な顔つきをしていた。

「お、おまえ…鈴原!!鈴原じゃないか!!」

「す、鈴原!!」

ヒカリは今にも泣き出しそうな顔で反射的に最前列の座席から立ち上がるとトウジに抱きついていた。

「あ、あれ!?い、委員長!?ちょ、ちょっと…な、何なんや?この展開…」

「よかった…鈴原…ホントによかった…生きていたんだね…」

お、俺はいつからラヴ米要員になったんやろか…なんか知らへんけど、ここのおっさん、最近ええことでもあったんやろか…どういう風の吹き回しやろ…

ちょ…お前…余計なことをいちいち言うな…トウジ…いい事など一つも無いわ!!(←天の声)

ヒカリに続いてケンスケもバスの中ほどから立ち上がるとトウジの元に駆け寄って来る。

「トウジ…お前…Evaは…Evaはどうなったんだよ?パイロットになったんじゃなかったのかよ?」

ケンスケの内心は友人に無事に会えたという嬉しさと恨めしさのようなざらついた感情が入り混じっていた。年齢の割に老成したものの考え方をするケンスケにしては珍しく表情が固かった。そんな複雑な友人の心情を他所にトウジは豪快に笑う。

「心配かけてすまん、ケンスケ!それにみんなもな!まあパイロットって言われてもなあ…なんか、ピンと来んというかな。予備役やったしな。俺にもよう分からんが、お前は素行が悪いよってとりまネルフはクビっちゅうてな。さっき本部を追い出されたとこや。ははは!」

「お、追い出されただって!?」

トウジの言葉にケンスケは今にも卒倒しそうなほど驚いていた。

「ば、ば、バカな…折角の…折角のチャンスじゃないか…それが…クビって…こうもあっさり…」

なんなんだよ…一体…こんな…こんなバカな話があるかよ!!なんなんだよ…なんなんだよ!!こんな…こんな理不尽があっていいのかよ!!

「おう!クビや!クビ!さっきごっつい格好した保安部の人らに猫の子みたいに首根っこ掴まれてな…ここに連れて来られたっちゅうわけや…それに、ちょっと暴れたせいでこの1週間、反省室(独房)にずっとぶち込まれとったしな。ま!そういうことやからこれからまた世話になるで!みんな!」

トウジの手を握っていたヒカリはトウジが痛いほど自分の手を握り返してきていることに気が付いていた。

鈴原…辛いことが…何かとっても辛いことがあったんだ…それを必死になって隠している…どうしてあんたはいつもそうやって…人を庇って…そんなに器用でも…強くも無い癖に…やせ我慢ばかりして…

顔はヘラヘラと笑ってはいたがトウジの目が決して笑っていないことにヒカリは目敏く気が付いていた。ただならぬトウジの雰囲気を感じてヒカリは黙って俯くほかなかった。

「そうか、分かった。でも…よかったな…ホントによかった…」

最上は自分の隣に立っているトウジの肩に手を置くと感極まって大粒の涙をこぼし始めた。

ネルフ青少年育成基金の伝手で現在の教諭の立場を得た最上は内心ではEvaのパイロットが自分の学校のA組の生徒から選抜されることに激しい怒りとそれを止める事が出来ない自分の無力さに対して強烈な自己嫌悪を抱えていた。彼は何度と無く退職を考えていたがその度に数学を担当する学年主任の根府川に慰留されていた。若い最上にとってベテランの根府川の存在はかなり大きい位置を占めていたが彼よりも先に諭す側の根府川の方がストレス性の胃炎で入院(
Ep#08_4参照)したのは一種の皮肉だった。

歓声に包まれる車内の中でケンスケはただ一人、疎外感に苛まれていた。

何がいいもんか…ふざけるな…Evaのパイロットをなんだと思ってるんだ…みんな…みんな間違っている!俺たちは…ただ逃げ惑ってるだけじゃないかよ!力が…力がそこにあるなら…俺たちを虐げる奴らをぶっ殺すべきなんだ…

ケンスケはなぜ今、自分の拳が、力いっぱい握り締めた拳がこんなに打ち震えているのか、その理由が分からなかった。そして自分がこの瞬間、頭の中で思い描いている“力”の正体も…それが実像なのか、それとも虚像なのか…

「それよか先生…俺の妹はどこに疎開になるんや?ネルフから聞いたんやけど小学校4年生にならんと本来は疎開出来へんが俺んトコは両親がおらんから特別に疎開措置が取られるって聞いたんやけど?」

「え?お、お前の妹?」

「せや。第一小学校二年A組の出席番号は女子の8番で3班の班長さんや。因みに2学期は図書係をやっとるし、今週は給食当番の筈や」

「給食当番とか…ちょ、ちょっと待て!そりゃ情報過多だぞ、お前!ええっと…お前らは確か兄妹で財団の奨学金(
Ep#08_9他参照)を受けてるんだよな?」

「そうや。オカンが死んでもうてから二種から一種(
身寄りの全くない就学児童のみの世帯を対象に支給される奨学金のこと。二種に比べて月々の支給額が増額される。因みにトウジのクラスメイトの母子家庭であり二種奨学金受給者である)に適応が変わったけどな」

「それなら話は早い。安心しろ。奨学金の受給者は全員同じ行き先の筈だからな」

「ほうか…なら安心やな…なら現地で会えるわけやな…それだけが心配でな」

ちらっとトウジは流し目をバスの外に向ける。ネルフの車と思しき黒塗りの車が遠巻きに一台と待っているのが見えた。炎天下でサングラスと黒いスーツを身にまとった男女の1組が腕を組んでじっとバスを眺めていた。

突然やってきてカヲルのヤツを拉致ったかと思えば…倒れとった俺まで有無を言わせず監禁…結局…葛城さんとも会えずじまいや…あいつら一体何モンなんや…けったいな連中やで…まるで俺が逃げださへん様に監視しとるみたいやな…

痺れを切らしたバスの運転手が催促するように荒々しく扉を閉めると大きな空吹かしの音を立てた。車内が水を打ったように一瞬静かになる。ハッと最上は我に戻る。

「そ、それじゃ出発するぞ!全員席に着きなさい!シートベルトを忘れないようにな!」

立っていた生徒達は渋々といった様子で次々に席に付く。

「ほら…鈴原も相田も洞木も席に着きなさい」

最上に促されてトウジたちは前よりの座席に座る。それを見届けた最上は小さくため息をつくと疲れきった表情を運転手に向けた。

「あの…すみませんでした…それじゃお願いします…」

最上がぺこっとお辞儀をするとそれを合図にするかのようにバスはゆっくりと動き出す。

人心地付いたトウジは空ろな表情で窓の外を眺めていた。バスの前後を物々しい機関砲と射手を備えた国連軍の軍用ジープが挟み込むように随伴している。トウジの隣では蒼白い顔をしたケンスケが座っている。

何の因果か知らんが…また京都か…しかし、まあ…もうEvaには関わらんでよくなったのはラッキーなんかも知れん…すまんな…センセ…惣流…綾波…俺、お前らの役に何にも立てへんかったな…

中央の通路を挟んでヒカリが他の女子生徒と並んで腰掛けていた。

鈴原…

乱闘騒ぎを尻目に生徒達を乗せた大型バスはネルフ保安部と国連軍に護られながら厳戒態勢の検問所に向かって行く。クリーム色の車体の横側には目立たないほど小さいロゴが赤くペイントされていた。

財団法人 ネルフ青少年育成基金

この日…完全に暴徒と化した市民と警官隊との間で激しい衝突が起こり、双方で死者3名、重軽傷者29名、公務執行妨害で拘束された市民の数は実に300名にも及んだが、騒ぎは一向に静まる気配を見せず、太陽が西に傾いても尚、各地で小競り合いが続く有様だった。

ネルフ保安部も設立以来初となる治安維持活動における殉職者2名を出していた。
この報告を聞いた保安部長の由良三佐は思わず頭を抱える。更に彼の頭を悩ませていたのは機動隊が逮捕した者の中に相当数のマスコミ関係者も混ざっていたという事実だった。

しかも乱闘騒ぎに巻き込まれて進退窮まった保安部員1名が鉄パイプなどで一方的に暴行を受けていたところを救出の為に群がる市民を押しのけた別の保安部員が背後からフラッシュのようなものが光ったという報告を上げてきていた。

「厳重に情報統制が敷かれている筈だが…一応…念には念を入れておくべきだろうな…」

由良は疲れきったような表情を浮かべながら手元に電話を手繰り寄せる。

こんな時に葛城一佐が秩父に行っていて不在というのが実に痛いな…実戦不足の我々ではやはり随所に詰めの甘さが出てしまう…



マナ達を乗せたメルセデスは激しい銃撃を浴びてすっかり穴だらけになっていた。箱根山中を走るワインディングロードをリバーマンは巧みに攻めるが、その背後にぴったりと吸い付くように戦自のジープ2台が続いていた。

タイヤの軋む音が辺りに鳴り響き、ゴムの焼ける臭いを撒き散らす。

「Damnit!!しつこい奴らだ!!」

後部座席ではドーソンが大きな体を縮こまらせていた。防弾仕様の車と分かっていても銃撃を浴びて平然としていられるものではない。

ズガガガガガ!!

車のシャーシを伝って不気味な衝撃が小刻みに伝わってくる。後部座席のクッションを通してマナはボンネットからバンパーにかけて集中的に銃撃を受けていることを察知していた。

「軍曹!やつらはカーブに入るタイミングで集中的にタイヤを狙っているわ!」

「そいつは器用なことで!!そのままガードレールを突き破って山の中にダイビングすれば勿怪の幸いってとこですかね!!」

深緑の森が猛スピードで流れていく。

確かこの辺りだった筈だけど…

「少尉殿!もうすぐ分岐路になりますがどっちに行けば!」

「やっぱり…軍曹!左よ!左の道に入って!!」

高速道路の料金所のような検問所と小さなコンクリート製の建物が森の中から見えてくる。ゲートは金属製のバーが下ろされており、小銃を肩にかけた警備員らしき人影が往来していた。

「了解…って…左は検問所のゲートで道が閉鎖されていますよ!!」

「構わないわ!!そのまま突き破りなさい!!」

「今度は突破ですか…しょうがない人だな…分かりましたよ!しっかり捕まってて下さいよ!!」

リバーマンは更にアクセルを踏み込むと躊躇なくゲートに突っ込んでいく。

がしゃ―――――ん!!

激しい衝撃音と共にフロントガラスの一面が真っ白になる。リバーマンは懐から拳銃を取り出すとカートリッジの部分でガラスを何度も力いっぱい殴りつけた。ガラスの破片が辺りに飛び散る。

「しょ、少尉!ここは…まさか…」

後部座席で身を屈めていたドーソンが頭の上に降りかかって来たガラスの破片を手で払いながら辺りを見回す。

「はい。お察しの通りです。ここはジオフロントに向かう車両の通用門に向かう専用道です」

マナたちが突破した検問所からけたたましいサイレンが鳴り響いていた。緊急事態を報せるものだろう。

「どうやら…奴らもここまでは追ってこないみたいみたいですね。やれやれだ…戦自を振り切ったと思ったら今度はネルフですか…」

バックミラーを見ていたリバーマンがため息混じりに言う。片側2車線の舗装道路はむしろ今まで走っていた箱根山中の国道本線よりも立派だった。大型の軍用車両がすれ違い出来るように設計されているだけではなく、ゲートからずっと真っ直ぐに伸びる道は簡易的な滑走路としても十分機能することが一目で分かる。

「そうね。正直、どちらにも厄介になりたくはないけれど、今はネルフの方が遥かにマシね。まあ…問答無用で撃ち殺されることは無いでしょう」

正面にはトンネルが見えていた。

「そう願いたいもんですね…トンネルの入り口までこのまま飛ばしますよ。あいつ等がやって来ないって保障はありませんからね」

そう言うとリバーマンは再びアクセルを踏み込んでいた。


 
ネルフ本部の作戦部居室の一角に東雲カズト二佐の個室があった。東雲は部内では「能面男」と揶揄される三十後半の寡黙な男であり、荒くれが集う作戦部の中にあって工学の修士号を持つ変り種だった。家族がいるという話を誰も聞いた事がなかったため周囲から独身と思われており、本人も周囲の想像に任せきりだった。

また、他人の評判を一切気に留めない淡々とした態度は情熱家の多い作戦部ではひときわ異彩を放っており、極端に味方は少なく、いや、むしろ孤立しているといってもよかった。そんな周囲に交わろうとせず、また人物に難があると思われがちな東雲をミサトが松代騒乱事件で殉職した周防の後任に据える人事を発表した時は少なからず本部内でも話題になった。

東雲は周囲の雑音を全く意に介することなく、事件後の作戦部再編で一尉作戦四課長から三佐部長補佐、そして再編完了と共に間髪いれずに参謀官二佐となり、実質的にミサトに次ぐ作戦部のナンバー2として異例の躍進を遂げていた。

東雲が課長を務めていた作戦四課は人類補完委員会の委託を受けている兵装開発プログラムの実行及び進捗管理が主務であり、現在はそのポストに日向が就任していた。四課長一尉となった日向にとっての初仕事が先日行われたG兵装実験であったが突然の主翼破損によって失敗に終わり(Ep#08_21)、ネルフ、国連軍、日本政府の三者合同の事故調査委員会が新横須賀の艦隊司令部で行われたばかりだった(Ep#08_31)。

東雲は自室に閉じ篭って分厚い事故調査報告書を丹念に捲っていたが報告書のある一節でふとその手を止めた。

主翼破断面より特殊セラミック塗料と高純度ロンズデーライトが微量検出された…当該塗料は超精密切削機などのコーティング剤として用いられているVesper556に特徴が酷似…更にロンズデーライトはValentine条約において管理が義務付けられている不拡散指定物質…

「Vesper556とロンズデーライトが見つかるとは…まずいな…これは…」

東雲は眉間に深い皺を寄せると右手でこめかみの部分を押さえてため息を一つ付く。

もはや…言い逃れは出来まい…

突然、デスクの上の内線電話が鳴る。暫く呼び出し音を無視していた東雲だったがいつまで経っても鳴り止まない電話を忌々しそうに睨みつけると諦めた様に受話器を取った。

「もしもし…私だが…なに?日向君が通用門で?しょうがないな…分かった…これからそちらに向かうから待たせておいてくれ…」

荒々しく受話器を置いた東雲は報告書の冊子を閉じると席を立った。そして几帳面に書類が整理されているキャビネットの奥にそれを仕舞うと外から鍵をかけて部屋を後にした。
 


ジオフロント内に乗り入れるすべての車両はネルフ職員に対しては比較的セキュリティチェックが甘い第一ゲートと呼ばれる外門、そしてジオフロント内に入るトンネルの入り口に設置されている第二ゲート、通称「通用門」、という二段階の検問を通過しなければならなかった。

第三東京市内にあるリニア以外の手段でジオフロントに入る経路は実質的にここしかない。

箱根山中の奥深い場所に設置されているトンネルはかつてジオフロント整備のための工事車両専用道の一部であったが、本部施設完成後は乗り入れ車両用の道として整備されていた(番外編参照)。

トンネルの前では警備を担当している保安員と日向が押し問答を繰り返していた。今日がたまたま非番だった日向は第三東京市内の自宅でくつろいでいたが、突然、第三東京市に非常事態宣言が発令されたため慌てて自家用車に乗ってジオフロントに通じるこの通用門にやって来ていた。

「だから頼むよ!ほんのちょっとでいいんだって!」

「駄目に決まってるじゃないですか、日向課長…自宅にセキュリティーカードを置き忘れたことが明らかなのに仮発行なんて出来るわけないっすよ…」

若い保安部員はため息交じりに答える。

A-01発令下の市街でもネルフ職員と国連軍関係者は「国際公務員特権」によりこの避難命令の制限を受けないため市内に自宅がある職員は帰宅しようと思えば可能だった。大半のネルフ職員は自宅に戻らずにジオフロント内の職員宿舎で寝泊りをしていたが、普段から日向は自分のコレクション(※この物語の日向は超絶漫画ヲタという設定である。Ep#08_3)と生活を共にすることを優先していたため、それが仇となっていた。

「そんなこと言われてもだな…暴動で大変なことになっている市内に今から取りに帰れって言うのかよ。冗談は止めてくれよ。途中で石とか投げ付けられてさあ、必死の思いでここまで来たってのに…今更引き返せないだろ?な!な!この通り!何とか頼むよ」

ここに来る途中に暴徒と化した市民の集団に二度ほど遭遇した日向の車はその度に投石を受けたためあちこちが凹んで見るも無残な姿になっていた。

「ご苦労は拝察致しますし、お気持ちも分かるつもりですが規則は規則ですし…いくら頼まれてもこればっかりは…」

「ああ、もう頼まねえよ!そうかい!そうかい!じゃあお望み通り死んでやるよ!ったく」

業を煮やした日向が捨て台詞の様に叫んで車のドアに手をかけた時だった。遠くの方からエンジン音が聞こえてくる。

「ん?な、何だ?」

日向の目に猛烈なスピードで自分目掛けて突っ込んでくる黒塗りのメルセデスの姿が飛び込んでくる。

「う、うそだろ・・・うぎゃあああああああ!!!!」

キキキキキキイ!!

一面が弾痕で蜂の巣のようになっているメルセデスは腰が抜けてアスファルトの上にへたり込んでいる日向の手前1メートルでギリギリ停車する。

「ば、ば、ば、バカヤロー!ほ、本当に死んだらどうする!!!」

日向に構うことなく完全武装をした保安部員達がメルセデスを取り囲むと一斉に銃を向ける。周囲の物々しい雰囲気に日向は辺りをキョロキョロと見回していた。

「第一検問所を突破した不審車が最終ゲートの手前で停止した!!総員戦闘配置に付け!!」

後部座席のドアがゆっくりと開くのを見て途端に緊張が走る。車の中からショートヘアの若い女性士官と長身の高級士官が相次いで現れた。マナとドーソンだった。二人は肩の高さまで両手を上げていた。

「日向課長!何をしておられるんです!そこにいては危険です!早くこちらへ!」

「ふっ!何をそんなに慌ててる!少しは落ち着くんだ!俺は今、腰が抜けて立てない!そっちに行くのはマジ無理だ!」

だ、ダメだ…この人…早く何とかしなければ…

周囲を取り囲む保安部員達は日向の言葉に一瞬呆気に取られる。マナは車の前に座り込んでいる日向の姿を認めると銃を構えている保安部員達を刺激しない様にゆっくりとにじり寄るようにして日向に近づいていく。

「大変失礼しました。あの、お怪我はありませんか?」

日本語で声をかけられた日向はキョトンとしてマナの顔を思わず見上げる。

か、かわいいな…じゃ、じゃなくて…

「え、ええ…まあ…なんとか…その制服は…もしかして国連軍の方ですか?」

「はっ!申し遅れました!国連軍第七艦隊進横須賀艦隊総司令部付き情報戦略課所属の霧島マナ海軍少尉です!失礼ですがそちらは?」

マナが背筋を伸ばして敬礼する姿を見た日向はアスファルトの上に尻餅をついたまま上半身だけで凛々しく敬礼を返す。

「小官は特務機関ネルフ本部作戦部戦術兵装研究第4課所属の日向マコト特務一尉です!腰が抜けて立てない非礼はご容赦願います!」

「腰が抜けて…そうでしたか…ふふふ。それはとんだご無礼を…日向一尉」

マナは僅かに微笑むと続いてドーソンとリバーマンを紹介する。マナ達が国連軍の関係者ということが分かると保安部員達は囲みを解いてしこたま銃弾を浴びた車を検分し始めた。

「何というか…見たところ…少尉は暴動に遭遇したというより…もっと凄い目に遭ったようですね…」

日向はリバーマンに抱えられるようにして引き起こされながらチラッと悲惨な状態のメルセデスに目を走らせていた。

「ええ。まるで安っぽいギャング映画みたいでした」

「なるほど…どうやらやんごとなき事情があるようですね…で?犯人に目星は付いているんですか?」

「ええ。勿論。戦自の方々です、日向一尉」

「戦自?戦自がどうして国連軍のマナさんを…」

「その点については後ほどゆっくりとご説明します。あの、ぶしつけなお願いで恐縮なのですが私達をここに匿っては頂けないでしょうか?」

思いも寄らないマナの言葉に日向は驚愕の表情を浮かべる。

「か、匿う?そ、それは…さすがに…ちょっと無理があるというか…」

相手に否定的な発言をさせないために間髪いれずにマナは日向を遮る。

「私共はネルフにとっても重要な情報を持っております。これは悪い取引では無いかと思いますが?」

「じゅ、重要な情報ですか…その辺りにマナさん達が戦自に襲われた理由があると?」

「ええ…まあそんなところですね…」

マナはにっこりと微笑む。

「日向君。こんなところにいたのか。ん?そちらの方々は?」

後ろから声をかけられた日向が振り向くとそこには保安部員達から日向のことで呼び出しを受けた東雲が立っていた。才気溢れるマナではあったが突然姿を現した東雲の顔を見て思わず驚きの表情を浮かべていた。

ま、まさか…そんな…

「あ?東雲さん!こちらは国連軍の…」

東雲…カズト…日本重化学工業の元主任研究員…いや…悲劇のRockwell部隊(戦略自衛隊第一師団特殊技術工兵部隊)の生き残りとでもいうべきかしら…

ドーソン一行を紹介する日向の声を遠くに聞きながらマナは凍り付く様な視線を自分に送ってくる東雲の姿を見詰めていた。

東雲さん…何故…貴方がこんなところに…



翌日…

新東京日日新聞社の政治部長である利根啓二はいつも通り出社し、彼の机の上に置かれている全国紙6社の刷り上ったばかりの新聞を眺めていた。記者クラブという独特の制度が崩壊した日本では昔の様な横並び記事が著しく減少したものの未だに旧弊が随所に残っていた。特に政財界とマスコミの癒着構造は「世論の恣意的操作」という形で発揮されていた。

利根が一番上に置かれていた他社の朝刊を何気なく手に取る。
 
 
“極東経済会議交渉難航。異例の議長調停か“


やはりどこも昨日の経済会議の迷走が一面か…まあ、うちもそうだが…

「おはようございます、利根部長」

ふと顔を上げると若い女性記者がコーヒーを飾り気のないお盆の上に乗せて運んで来ていた。マグカップから仄かに立ち上る湯気が朝日を吸ってオレンジ色に光る。

「ああ、おはよう…えっと…ヨシコさんだったっけ?」

「えー!あたしのこと覚えてないんですか?違いますよ。モモカです。部長はブラックでしたよね?」

利根は一瞬、しまったという顔を浮かべると、頭をかきながら無理やり笑顔を作る。

「あ…ご、ごめん…う、うん、悪いな…そこに置いておいてくれる?」

「分かりました。じゃあこちらにおいておきますね」

「ありがと、モモカちゃん。ちゃんと覚えておくよ」

女性記者は僅かに顔をほころばせると踵を返してオフィスの喧騒の中に戻って行く。その後姿を眺めながら利根はコーヒーを啜る。いつもと変わらない朝が始まると思った矢先だった。利根が革張りの重厚な椅子に腰を下ろすとすぐにデスクの上の電話が鳴る。

「もしもし?日日新聞の利根ですが?」

「おお、利根君か!僕だ。旗風だけど」

電話の声は内務省公安調査局長からこのほど内務事務次官に異例の昇進を遂げた旗風(Ep#04_8)本人からだった。

「じ、事務次官!?こ、これはどうも!!大変ご無沙汰をしておりまして!!この度のご昇進誠におめでとうございます!!」

利根は思わず席から立ち上がると誰もいない宙に向かって反射的にお辞儀をしていた。

「たまたま時流に乗っただけで運がよかっただけだよ。ははは。まあ、その件はまた改めて一席設けようじゃないか」

「は、はい!是非、近々セッティングさせて頂きますので!」

受話器を頭と肩で挟むと利根は記者時代から愛用している革張りのシステム手帳を取り出すとさっそくスケジュールに目を走らせる。

「うん、よろしく頼むよ。実はね、今日はむしろ私の方が君のトコに是非とも一言お礼を言おうと思ってねえ」

「え?お、お礼ですか?」

びっしりと予定で埋め尽くされたカレンダーを捲っていた利根の手が止まる。

お礼…はて…一体何のことを旗風さんは仰っておられるのか…

 

Ep#09_(9) 完 / つづく 

(改定履歴)
16th June, 2010 / 誤字及び表現の修正
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